はじめてのお使い

■ショートシナリオ&プロモート


担当:櫻正宗

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月03日〜07月06日

リプレイ公開日:2006年07月12日

●オープニング

 ギルドに訪れたのは男性と女性のカップルだった。
 ふたりもこういう場所にはすこし不慣れなのか、すこし緊張した面持ちでギルドの職員へと近づいて行く。
「あの、すみません」
 ギルドの職員を見つけて声を掛けたのは男性のほうだった。
 職員は笑顔で対応して行く。
「こういう依頼はきいてもらえないものでしょうか?」
 続けられた男の話はこうだった。

 5歳になったばかりの娘をひとりでお使いにやりたいのだけれども、ひとりで行かせるには少々不安で。
 できれば娘にわからないように冒険者たちに付いて行ってもらいたい。

 と、いうことだった。
 それに職員は笑顔で大丈夫ですよと。答えれば依頼を頼みに来た男性も女性も胸をなでおろしたようであった。

 女性のほうがどこまで何をしに行くのか
 説明をしだした。

 おばあちゃんのおうちまで、娘がやいたクッキーを届けるだけ。
 そうしてまた、おばあちゃんのおうちから自分の家まで帰ってくる往復をお願いしたい。
 行きなれた道で、間違えることもない。
 荷物も小さなバスケットにクッキーと花束を入れただけなのでさほど重くない。

 らしいのだが、一人娘のうえ、初めてでの一人きりの外出ということで両親は心配でしょうがないらしい。
 途中で寄り道してしまったら。
 途中で誰かに誘われたりしたら。
 そんなことを考えると、不安で不安で仕方ないらしい。

 親ばかというかなんというか。
 と、思ったのはギルドの職員だったとか。
 けれども職員は笑顔でもう一度、大丈夫ですよ、任せておいてください。
 と、言った。
 その言葉に両親は顔を見合わせて胸をなでおろし、職員に深く頭を下げた。

●今回の参加者

 ea6796 ユウナ・レフォード(30歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb0771 タウルス・ライノセラス(35歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2086 ジェイド・グロッシュラー(32歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5501 コウキ・グレイソン(27歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5505 サクヤ・クロウリー(20歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「パパー。ママー。行ってきまーす」
 バターンと景気のいい音がして扉が開かれたと同時に、少女が駆け出してでてくる。
「いーい? おばあちゃんのおうちまで寄り道したり、しないでね?」
 母親は身をかがめると心配そうに少女の顔を覗き込んで注意事項を少女に告げる。少女は聞いているのかいないのか、にこにこと笑顔のまま頷いている。
「はあい」
 無邪気に片手を空の方向へと突きつけて、返事だけは元気に帰して、気分はもうはじめての冒険へと向いているのかそわそわしながら。
「それじゃあ、行ってきまーす」
 小さなバスケットを抱えて、少女はまた駆け出す。
 何度も振り返り両親に手を振りながら初めてのお使いへとでかけた。
 両親もまたその姿が見えなくなっても玄関口から少女を見送っていた。


●目指すは薔薇のお屋敷
 グループ分けをして、少女に見つからないように護衛につくことにした冒険者達。
 行きと帰り共に3地区ごと、合計6地区にわけ各地区に一人ずつつく個人行動にすることにした。
 その一番手を担うのはユウナ・レフォード(ea6796)
 ユウナは担当するところの場所の下見を行った時、外見的に特徴のあるバラの蔦が絡む屋敷の主に事情を説明して、協力してほしいと頼んだ。屋敷の主はそういうことならと快諾した。
 当日、ユウナは荷物を抱え歩き出した少女の後ろをついてく、頃合を見計らってユウナは少女に声をかけた。
「ここら辺に薔薇の蔦が絡んでいる大きなお屋敷があるって聞いたのだけれども、知ってる? 知ってるなら、教えて欲しいのだけれども」
「知ってるよ。丁度ね、バラのおうちの前を通ってお花畑をとおって、おばーちゃんのおうちまで行くところだから。おねーちゃん一緒に行こう?」
 ユウナの言葉に少女はうん?と、軽く首を傾げながらその話を聞いて、自分の知っていることが話題に上れば嬉しそうな笑顔をユウナに向ける。
「じゃぁ、お願いするね」
 ユウナも楽しそうな笑顔を向けて一緒に歩き出す。
「あー。そこだよ。おねーちゃん」
 少女は見えてきた建物を指差すと、ユウナの手を握り締めて走り出す。
「ここ、ここー」
 大きなお屋敷の門の前まで来れば少女は、ユウナの手から自分の手を離し得意気にお屋敷を指差す。
「ありがとう。お嬢さんのおかげで無事にお届け物ができるわ」
 少女は少し恥ずかしそうな笑みをユウナに向ける。
「お嬢さんもおばあさんのおうちまで、がんばってね?」
「うん、ありがとー。でも、おねーさんももう迷子になっちゃだめだよー」
 バイバーイ。と少女はユウナに向かって手を振ってから歩き出す。
 励ましの言葉をかけたユウナに返ってきたのは逆に励まされるような言葉。
 最近の子は妙にしっかりしてるのね。
 なんて思いながらも、ユウナも少女へと手を振り見送った。


●お花畑は誘惑がいっぱい
 二番手に少女の護衛につくのはタウルス・ライノセラス(eb0771)
 花畑が広がるのどかな道だった。
 これなら人攫いをあまり気にすることはないだろうと、馬にまたがってさりげなく後ろからついていく。
「あー。お花かわいいー。こっちの色もかわいいねぇ」
 少女は花畑の花に夢中になりだした。
 タウルスは少女に声を掛け、目的を思い出させようと思った。が、こういうときになんと言葉をかけたらいいのかわからない。
「おじちゃん、こんにちわ」
 くるりと少女が振り返りタウルスの姿を見つけた。
「ぁ、あぁ。こんにちわ。‥‥お嬢ちゃん。見たところひとりだけれども、お父さんやお母さんは一緒じゃないのかね?」
「んとねー。あたし、ひとりでおばーちゃんのところへお使いに行くの」
 タウルスは切欠を見つければ言葉をさりげなく続けてく。少女はタウルスの言葉に、少女は笑いながら立ち上がり、得意気に持っているバスケットを見せた。
「お嬢ちゃん。そのおばあさんのおうちはどこなのだろうか?」
「うん? おばーちゃんのおうちはね、この道を真っ直ぐにいってー」
 少女もまた聞かれたことが嬉しいのか、これから歩いていかなければならない方向を指差す。
「あ。おばーちゃんのおうちにいそいがないとー」
 そろそろ西の空が茜色に染まり行く時間が迫ってきていることにも気がついたらしく、ちょっと困ったような泣きそうな顔で慌てておばあさんの家へと歩き出す。
「お嬢ちゃん。おじちゃんも途中まで一緒に行っていいかな?」
「おじちゃんもこっちの方にごようじなの?」
「あぁ、そうなんだ」
 ウルウルと今にも泣き出しそうな表情でタウルスを見上げながら尋ねる。が、タウルスの言葉で少女の顔に笑顔にもどる。
「おじちゃーん、バイバイー。ひとりでも泣いちゃダメだよー」
 別れ際、少女はタウルスに大きく手を振って、そこらに響くほどの大きな声で別れを告げる。
 おじちゃんなのか、と、少々複雑な心境のまま次の担当に護衛を引き継いだ。


●あと、もう少し
 行きの最後を担当することになったのは、イェール・キャスター(eb0815)
 この依頼を受けたときに、幸せそうな家族の願いを叶えたく思った。
「大丈夫。任せておいて? お嬢さんを無事に届けるから」 
 ギルドでの不安そうな両親に声を掛け両親に声をかけたからには、お嬢さんをしかりと送り届けなければと思っていた。
 少女は歩きながら鼻をすすり、片腕で目元を拭いながらでも必死に歩いていた。
 少し離れた場所にいたイェールは異変に気がつき、少女のほうへと駆け出し、さりげなく声をかける。
「お嬢さん。どうしたんだい?」
「おねーちゃん。誰?」
「あたい? あたいはハーブをこれから採りに行こうとおもったんだけれどもね、お嬢さんが泣いてるからどうしたのかなと、思ったのさ」
「あのね。おばあちゃんのおうちに行かないといけないの。でも、もう少しでお日様がいなくなっちゃうの」
 ウルウルとしたした目からは涙を溢れ出しながら、イェールの方を見上げた。
 その様子にイェールは優しく少女の頭を撫で、労わるように言葉を続けて行く。
「それじゃぁ、あたいも同じ方向だし。お嬢さんと途中まで一緒に行っていいかな?」
 少女は言葉をなくして、しゃくりあげながら頷いた。
 イェールはバスケットを持っていない方の少女の手を握り一緒に歩き出す。
「あー。おばあちゃんのおうちあそこー」
 一軒の小さな家が見えてくれば、それまで泣きじゃくっていた少女が声を上げる。目標の場所が見えてきて安心したのか泣きながら笑ってイェールの方に顔を向ける。
「そう、良かった。ならもうひとりで大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう。おねーちゃん」
 少女はそういうと繋いでいたイェールの手を離し、ぺこん。と、かわいらしく頭を下げればおばあさんの家に向かって駆け出した。
「おばーちゃーん」
 少女は戸口を大きく叩けば、中から待ちわびていたおばあさんがでてきて、少女を抱きとめる。
 イェールはその光景を眺め、少女とおばあさんが家に入るところまでを見て自分の役目を終えた。


●行きはよいよい、帰りは怖い
 おばあさんの家で一泊し、楽しい時間を過ごした少女に帰る時間がやってきた。
 おばあさんの家を飛び出した少女。手には昨日と同じようにバスケットを抱えていた。
「それじゃぁ、おばーちゃん。バイバイ。また、きてあげるからー」
 おばあさんにそういうと手を振って歩き出した。 
 帰りの一番手はジェイド・グロッシュラー(eb2086)
 彼女も自分の担当する場所を下調べをしておき、少女よりも少し先を行くことにした。
 すると下見の時にはいなかった野犬がウロウロしている。
 野犬はジェイドを見つけた、と、同時に勢い良く飛び掛った。
 ジェイドは咄嗟のことだったが、握り締めた拳を飛び掛ってきた野犬の腹めがけて撃ちこむ。
 拳は無防備に腹を見せて飛び掛った野犬の腹に見事にヒットし、すかさずジェイドは蹴りを入れた。
 噛み付こうと思っていた野犬の戦闘意思はそがれてしまい、まさしく負け犬の遠吠えの如くキャンキャン鳴きながら、走り去って行く。
 野犬をとりあえず追い払ったことで一息ついていれば、なにやら楽しげな歌声が聞えてきた。
 振り返ればそこには少女が歩いてきていた。
 慌ててわき道へと入り、まずはばれないように少女を護衛することにした。
 何も知らない少女はそこに危険などあったことを知らないから、意気揚々と軽い鼻歌歌いながら、ジェイドの前を通り過ぎて行く。
 その様子を確認すれば、少女からは見えないように一定のスピードで歩いて行く。
 その様子をジェイドは微笑ましげに眺める。
 何かあればいつでも少女のもとに駆け寄れるようにはしておいて、何も変わるところがなければこのまま終わろうと思っていから。
 そのまま何事もなく、ジェイドは担当地域の護衛を終わることができた。
 少女の背中を見繰りながらそっと、頑張ってと呟いた。

●仔犬の活躍
 帰りの2番手はコウキ・グレイソン(eb5501)
 彼は馬と仔犬をひきつれて、買い物帰りの青年を演じることにした。
 少女になにか異変がないか見守りながら、彼もつかず離れず少女についていく。
 すると少女に近づく一人の中年男性。
 何やら少女と話していると、少女の手を掴んで歩き出そうとした。
 それを見ていたコウキは、自分が出て声を掛けようとしたのだが自分の方が不審人物になりえないと思い、持っている食べ物のカケラを手に取り、少女の足元に放り投げた。
 それを見ていた仔犬のカールは食べ物めがけてまっしぐら。
「カール。だめですよー」
 仔犬と小芝居をうったコウキは仔犬の名前を呼びながら、少女のほうへと駆け出す。
 それに気がついた中年男性は、少女から手を離しすごすごと去って行くしかなかった。
「かわいいー。おにーちゃんの犬ー?」
 足元にまとわりつく、子犬にくすぐったそうな笑い声を上げる少女。
 コウキの存在に気がつけば無邪気に尋ねる。
「えぇ、そうです。俺の犬ですよ。お嬢さんお一人なのですか?」
「うん、これからおうちに帰るところなの」
 コウキはさりげなく少女に言葉をかけて、少女の足元の仔犬をたしなめながらしばらく少女と会話をする。
「それじゃぁ、行く方向が同じなので一緒に途中までいいですか?」
「うん、いいよー」
 そうしてコウキと少女はならんで歩き出す。
「それじゃぁ、寄り道などせずに頑張ってくださいね」
「うん、おにーちゃん。ありがとう」
 別れ際にそっとエールを送るコウキ。少女は無邪気に笑って手を振って別れた。


●ただいま。 
 最後の担当はサクヤ・クロウリー(eb5505)
 家の近くになるに連れて、次第ににぎわってくる。
 彼女は馬を引き仔猫を抱え、いかにも散歩しています風を装った。
 少女は特別不審がるわけでもなく、サクヤの横を通り過ぎて行く。
 サクヤも少女が通り過ぎたのを確認すれば、少女の後ろをついて歩きだす。
 人通りが増えてきた街中、なにかあっては遅いと思いサクヤは少女に声を掛けた。
「こんにちわ。お嬢さんお一人のようですけど、お母さんやお父さんと一緒じゃないんですか?」
「違うもん。あたしひとりでお使いに行った、かえりだもん」
 迷子に間違われたことが気に食わなかったのか、少女は少しむっとした表情でサクヤを見て反論した。
「それはすみません。おうちはこちらなのですか?」
「うんそうだよ」
「それなら私も帰る方向が一緒だから、しばらく一緒にお話しながら帰りましょう?」
 サクヤは申し訳なさそうに誤れば少女の機嫌も直り、少女に同行することができた。
 何気ない会話に花を咲かせて歩けば、すぐに別れる場所となる。
「ここでサヨナラですね。後は寄り道とかせずに真っ直ぐ帰って下さいね」
「うん、おねーちゃんも迷子になっちゃだめだよ」
 こんな風に別れ際に交わした言葉でサクヤは少女とサヨウナラをしたが、それでも少女がしっかりと家に着くまでは遠目に見守っていた。
「パパー、ママー」
 少女はサクヤと別れてから自分の家まで走り出す。
 大きな声で両親を呼び、その声に家の中から両親が出てくる。
 駆けたまま少女は両親へと抱きついた。
 少女にしてみれば長かったお使いがようやくおわりを告げた。
 無事に成功したのも冒険者あってのこと、かわいい娘を抱きとめながら両親は深く頭を下げた。