【妖精王国】妖精王女と聖夜祭

■ショートシナリオ


担当:大林さゆる

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2006年01月02日

●オープニング

 妖精王国も、今や冬を迎えていた。
「ね、ね、お父様。人間たちは12月25日に『聖夜祭』というものをやるらしいのよ」
 妖精王女は目を輝かせながら、妖精王の手を握り締めた。
「私、とっても興味があるの。『聖夜祭』というのがどんなものなのか知りたいし‥‥それでね、パーティーがしてみたいなって思ったの」
 その言葉に、妖精王は溜め息をつき、微笑みながらこう告げた。
「やれやれ‥‥そういうと思った。そうじゃの、王女自ら『聖夜祭』の行事について、いろいろと聞いてみるのも良いか‥‥面白い話が聞けたら、儂にも教えておくれ」
「うん。どんなお祭りなのか、聞いてみるね。確か、誰かの誕生日だっていうのは聞いたことがあるけど、誰かしら? 大きな木に飾り付けもするとか、噂で聞いたことがあるけど、どんな風にするのかな?」
 妖精王女は首を傾げて、自分なりに『大きな木』を想像していた。
「ケンブリッジのギルド宛に、儂の方から手紙を書いておくよ」
 妖精王がそう言うと、妖精王女は満悦の笑みを浮かべた。
「今度のパーティーをきっかけに、さらに人間たちと交流を深めることができれば私もうれしいな。どうせやるなら、楽しいパーティーにしたいな」

 こうして、妖精王国でも『聖夜祭』のパーティーが開かれることになった。
「どんなパーティーになるのかな? お菓子はどんなかな?」
 早く25日になれば良いなと、妖精王女は心待ちにしていた。

●今回の参加者

 ea9454 鴻 刀渉(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb1978 ガルネ・バットゥーラ(32歳・♀・バード・ジャイアント・イスパニア王国)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●サポート参加者

エリオス・ラインフィルド(eb2439

●リプレイ本文

●聖夜祭の準備
 妖精王国にて、聖夜祭のパーティーが開かれるのは今回が初めてなのか‥‥それとも、古い過去において、人間たちと妖精たちは互いに協力し合い、聖夜祭を祝っていたのか‥‥今となってはそれを知る者はほとんどいなかった。
 12月25日の午前中は、聖夜祭に纏わる話を交えながら準備をすることになった。
「これが、聖夜祭用のレシピよ」
 サラン・ヘリオドール(eb2357)は、友人から貰ったレシピのメモをディナ・シーの料理人に手渡した。
「承知致しました。精一杯、心を込めて作りますね」
 ディナ・シーの料理人は軽く会釈すると、レシピを参考にして料理を作り始めた。
「次は飾り付けだね」
 ガルネ・バットゥーラ(eb1978)は、自分と同じくらいの大きさもある柊の木の前に立ち、鴻刀渉(ea9454)が用意した毛糸玉やリボンを飾りつけた。聖夜祭では主に『もみの木』を使用することが多いが、サランの意見により、『柊(ヒイラギ)の木』も使うことになった。寒い季節でも、柊は青々とした葉をつけ、凛とした気を放つとも言われている。
「詳しいことは分からないけれど、柊の木は、ジーザス様との由縁が深いそうよ」
「ジーザス様?」
 妖精王女は、サランと一緒になって柊の葉でリースを作っていた。王女の問いに答えたのは、刀渉であった。
「ここに来る前に、市場や酒場で『聖夜祭』について聞いてみた。ジーザスというのは人間の聖人様で、12月25日はその人が生まれた日らしい。実際の祭りの期間は、12月24日から1月6日までで、各都市でも盛大に行われているそうだ」
 刀渉が、もみの木に飾り付けしながらそう言った後、まるごとクマさんを着込んだエンデール・ハディハディ(eb0207)は妖精王女の横に並び、こう告げた。
「せいやさいの日には、赤い服を着たおじいさんが来るデスよ。それで『借金返せ〜』とか、言ってくるデスぅ。詩人のガルネさんに聞いたデスよ」
 その話を聞いて、妖精王女は少し驚いた顔をしていた。
「え、え? ‥‥赤い服のおじいさんは、借金取りなの? ‥‥私、お金なんか持ってないし、使い方もよく分からないよ」
「ああ、それは単なる『小話』だよ。聖夜祭くらい有名な祭りになると、いろんな話が出来上がるのさ。今の話も、一種のジョークだね」
 ガルネは楽しそうに笑いながら、そう告げた。
「ジョーク? ‥‥エンデは今の今まで、本気にしたデスよ‥‥」
「さて、飾り付けも後一つだな」
 刀渉はそう言って、妖精王女に星型の飾りを手渡した。
「これを、木の天辺に付けるのさ」
 ガルネが柊の木に星型の飾りを付けたのを見て、妖精王女はもみの木の天辺まで飛び上がり、真似して最後の飾り付けをした。
「ヒイラギと、もみの木が並んでると、姉妹みたいデスぅ」
 エンデールがそう言うと、妖精王女は同意するように微笑んでいた。

●聖なる祈りの集い
「それからね、聖夜祭ではプレゼント交換をするのよ」
 サランにそう言われて、妖精王女はどうしようかと迷っていた。
「そうなの? 知らなかったな‥‥えーっと、それじゃ、妖精王国特性の甘い蜜で作った、日持ちする食べ物を皆さんにあげるね。すぐに用意できるものって、それくらいしかないな」
「気にしなくても良いよ。私たちがそうしようって、決めただけだからね」
 ガルネは妖精王女を安心させるように、そう告げた。刀渉は、銀のネックレスを刺繍入りのハンカチーフで包み、王女に手渡した。エンデールは聖者の護り、ガルネは香り袋、サランは銀のネックレスを渡すことにした。 
「甘い甘いお菓子が食べれて、エンデは幸せデスぅ」
 食卓に、たくさんのお菓子や料理が並び、サランが用意したロイヤル・ヌーヴォーが置かれると、皆で食べ始めた。
「そうそう、イギリスの地方にもよるけど、ケルト人には『聖夜の宿り木の下にいる時は、女性はキスを断れない』という習慣もあるそうよ」
 サランの言葉に、妖精王女は思わず食事の手が止まった。
「じゃ、じゃあ、宿り木の下へ行く時は気をつけないとね。好きな相手なら良いけど、好きじゃない相手だったら困るしなぁ〜」
「確かにそうだね。相手は、きちんと選ばないとね」
 ガルネがそう言うと、刀渉は納得したかのように頷いていた。
「その由来は僕にはよく分からないが、聖夜祭では家族や友人や恋人‥‥愛しいと思う人たちと一緒に過ごすことに意義があるのだろうな」
「恋人たちは『愛』を、家族は『絆』を確かめ合う‥‥どんな形であれ、この世の全ての幸せを願う日に変わりはないさ。『出会いに感謝する』‥‥そうした気持ちが大切なんだよ」
 ガルネが明るい笑みを見せると、妖精王女はうれしそうに笑っていた。
「そうだね。私‥‥みんなと出会えて良かったなと思ったよ。それを祝う日なんだね」
「それじゃ、エンデが『幸せ』の舞いをするデスぅ。見てて、欲しいデスぅ」
 エンデールはひらりと飛び上がると、まるごとクマさんを着たまま、くるくると回り出した。
 すると、ディナ・シーたちがそれに合わせて歌を歌い始めた。
 エンデールは歌のリズムに合わせて踊り、途中で柊の木に隠れると、素早く踊り子の衣装に着替え、再び前へと踊り出た。クルクル・ダンスは、なかなか好評であった。
「はい、終わりデスぅ。なんか、久々に踊った気がするデスよ」
 拍手喝采の中、エンデールは御辞儀をした。
「次は、私たちの出番だね」
 いつのまにか、ガルネは赤の上品なドレスを、サランは白のドレスとベールを纏い、皆の前へと現れた。場が静かになると、ガルネはテーブルの上に置いてあるキャンドルに火を灯した。サランは鈴の付いた柊の枝を掲げた。そして、ガルネは敢えてリュートは使わず、自らの歌を熱唱した。

舞えや舞え 聖夜の踊り子 夜空の星と 遊び戯れ 白い粉雪 ヴェールに纏って
歌えや歌え 聖夜の唄人 月の光の 弦を爪弾き この佳き夜の 幸を讃えて
灯せよ灯せ 聖夜の灯火 新たに生まれた 絆を讃え 今宵貴方と 共に灯して

 サランはガルネの歌に合わせ、雪が舞い降りるがごとく、舞っていた。
 聖なる喜びと願いを込めて、歌と踊りが融合していた。

祈れや祈れ 無垢な心で 今宵夜空に その手を伸ばし 鈴の音色に 祈りを捧げて
願えや願え 瞳を閉じて 今宵新たに 願う思いは‥‥

 そこまで歌うと、ガルネは妖精王女にリースの冠を被せ、「今の気持ちを、歌に‥‥」と最後の一行を王女に託した。不思議と、迷うことなく、妖精王女はこう告げた。

『皆が‥‥幸せでありますように‥‥』

 サランが、優雅な足取りで妖精王女の前で跪き、柊の枝を捧げた。
 妖精王女は、少し躊躇いつつも、サランから枝を受け取った。すると、サランは優しく微笑んでいた。いつのまにか、ガルネとサランの『音楽の世界』に入っていたことに気付き、妖精王女は感動のあまり、小さく奮えていた。

『皆が‥‥幸せでありますように‥‥』
 その想いは、どこの国でも変わらない願いでもあった。