【妖精王国】妖精王女の勉強会
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■ショートシナリオ
担当:大林さゆる
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月18日〜11月23日
リプレイ公開日:2005年11月28日
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●オープニング
「やれやれ、仕方がない‥‥」
初めは「だめじゃ」の一点張りだった妖精王も、妖精王女の『お願い』攻撃に、仕方が無いというように溜め息をついた。だが、どことなく王はうれしそうな瞳をしていた。
先日、ディナ・シーの少女たちが『秘密の場所』で『お茶会』を開き、娘の妖精王女が積極的に参加していたという話は侍女から聞いていた。
そのことは妖精王も喜んでいたが、娘の身を案じるあまり、未だに外出させることに不安を感じていた。だが、妖精王女が人間たちに興味を示し、自分から進んで勉強会を開きたいと言い出したことは、やはり親として心底うれしかった。
「勉強会を開くならば、『秘密の場所』でじゃ。護衛に騎士たちも数名付けるか‥‥そうじゃの‥‥騎士のリュートも入れておくか」
妖精王の言葉に、妖精王女は目を輝かせていた。
「お父様、ありがとう〜。これからは勉強大嫌いなんて、言わないから安心してね。人間たちと仲良くなるために、王国の歴史も学ぶようにするし、どうすればもっと仲良くなれるのか、考えるようにもするし‥‥」
「あまり良い例ではないが、ファー・ダリッグたちの行動を反面教師として捕えて、考えてみるのも一つの手段じゃ。二度と妖精同士で争いが起きないようにするためにも‥‥」
ファー・ダリッグと聞いて、妖精王女は少し震えていた。
「本来は同じ種族だったはずなのに、どうしてあんな風になってしまったのかな? どうしてお父様を恨んでいたのかな? 悪いことをしたら、叱られるのは当然だし、お父様は間違ったことはしていないのに、どうして争いが起こるのかしら?」
幼い王女には、ファー・ダリッグたちの行いが理解できなかった。
すると、王は妖精王女の頭を優しく撫でながら告げた。
「まずは、そこから考えてみるのが良いな。『勉強会』の内容は、ファー・ダリッグの行いについてにしようか」
そう言った後、妖精王は自ら筆を取り、生徒会宛に手紙を送った。
生徒会側は、冒険者ギルドを通して、生徒や冒険者たちを派遣するように動き始めた。
●リプレイ本文
●勉強会の前に
ディナ・シーの騎士たちに導かれ、辿り着いた場所は、妖精たちの『秘密の隠れ家』だった。なんとも不思議な空間であった。冒険者たちと妖精たちが互いに挨拶した後、妖精王女は甘い香りが気になっいたのか、少しそわそわしていた。
「差し入れに、お菓子を持ってきました」
マクシミリアン・リーマス(eb0311)が、蔓で編んだ手提げ籠をテーブルの上に置くと、妖精の王女は好奇心に駆られてひらりと飛んできた。
「リンゴの甘い香りがするね! 勉強会を始める前に、お茶会にしましょう!」
王女の心はすでに『お菓子』で一杯であった。こうなっては落ち着いて勉強もできないと悟ったディナ・シーの侍女たちが、せっせとお茶の準備をしていた。
「ね、ね、早く開けてみて!」
王女が催促すると、マクシミリアンは微笑みながら手提げ籠のふたを開けた。
「友人に作ってもらったお菓子です。皆さんも、どうぞ召し上がって下さい」
「マクシミリアン様と御友人様のお気遣いに感謝致します」
そう告げたのは、御門魔諭羅(eb1915)であった。魔諭羅は先日の『お茶会』にも出席していたが、その際、ルーウィン・ルクレール(ea1364)たちが渡したティーセットのことを思い出した。
「ティーセットがあると良いですね」
魔諭羅の言葉を聞いて、ルーウィンはディナ・シーの侍女にティーセットがあるかどうか尋ねた。すると、妖精の侍女は小さく頷いた。
「先日は、本当にありがとうございました。こちらとしても、勉強会の前に皆様にカモミールティーをお出ししようと思っておりましたので、いただいたティーセットも用意致しました」
「そうですか。こちらとしても、差し上げたティーセットを使っていただけるのは光栄に思います」
ルーウィンはうれしそうに告げた。魔諭羅、マクシミリアン、ルーウィンが次々と席につくが、陸琢磨(eb3117)は少し戸惑っていた。
「‥‥まさかお茶会になるとは思わなかったな」
戦いの場には慣れていたが、こういう時、どう対応すれば良いのか、少し迷っていた。
「まずは、ゆっくりしてね。それから、いろいろと教えてね」
妖精王女は満悦の笑みを浮かべて、琢磨にそう言った。
「‥‥ゆっくりか‥‥そうだな」
琢磨はそう言った後、着席した。テーブルには林檎パイ、林檎チップス、胡桃の焼き菓子が並んでいた。妖精の王女は、特に林檎パイが気になっていたのか、お茶を飲む前にパイを食べていた。
「えっとね、カモミールというのは『大地のリンゴ』って意味もあるみたいだよ。今日はリンゴでいっぱいだね! あ、胡桃もあるけど」
王女の幼い笑顔を見て、マクシミリアンたちもつられて微笑んでいた。
●王女と勉強会
和やかな雰囲気でお茶会が終わった後、勉強会が始まった。
内容は『ファー・ダリッグの行いについて』であった。
『ファー・ダリッグ』はディナ・シーとは同じ種族であったが、互いの仲は悪かったと言う。ファー・ダリッグの悪戯は非情に残忍で陰険なものが多かったとも聞いていた。
琢磨は三度、ファー・ダリッグ戦に参加していたこともあり、やはりどことなく複雑な表情をしていた。幼い王女に、どう伝えるべきか‥‥琢磨は考えた末、こう告げた。
「俺はファー・ダリッグたちと戦った経験があるが、その場合に限って言えば、ファー・ダリッグたちの逆恨みが根本的な原因だったように思える」
「逆恨み?」
王女が首を傾げると、魔諭羅が落ち着いた口調で言った。
「私はファー・ダリッグなるものたちを存じませんので、『裁かれた側が裁いた側を恨む場合』についてお話させていただきますね。何故、恨んでいたのか‥‥それは、『相手の判断が納得できなかった』ということも考えられます。何故、納得できなかったのか‥‥まず考えられるのは『自分は正しい』と思って、相手の判断に納得できなかったということ‥‥ですが、相手がよほど捻くれた性格でもない限り、『諭す』ことはできると思います。裁く方にも『諭す』努力が必要ではないかと‥‥」
すると、妖精王女はきょとんとした顔をしていた。
「自分は正しいから、相手は間違っているってことなの? 『諭す』ことができれば、争いはなくなるの?」
その言葉に、琢磨は何か思うところがあったのか、こう告げた。
「俺が思うに、正しいとか間違ってるとか、まずはそうした考え方を取っ払って、考えた方が良いな。正しいということは『正義』となってしまうが、その反対は『悪』となってしまう。それだと一方的に相手を責めることになってしまって、争いの種になってしまうからな。だからこそ、俺自身は正義と悪という価値観を認めない‥‥価値観というと難しいが、簡単に言うと『考え方』だな。王女には王女の『考え方』があるはずだ。自分の考えを決めるのは自分自身であって、他人ではないのだからな」
「そっか‥‥そうだね。自分のことは、自分で考えてやらなきゃね」
王女は納得したように何度も頷いていた。
「ですが、自分の考えを見定めるためにも、やはり他人の意見も参考にした方が良いと思います」
ルーウィンはそう言った後、さらにこう告げた。
「世の中には、いろいろな人がいます。ですから、自分と考え方が違う人もいるし、似たような考えをしている人もいます。そうした中で、自分の意見と他人の意見を上手く調整して、どう生かしていけるかということも大切ですよね」
「そうね、そうだね。そうしていけたら、とてもステキだね! そうできるように、私も頑張ろう〜っと」
王女はそう言いながら、笑顔を見せた。マクシミリアンはハーフエルフとして『ファー・ダリッグ』の感情に何やら想うところがあったが、そのことには一切触れず、王女の身になって考えていた。
「王女様‥‥僕なりの考えがあるんですが、聞いていただけますか?」
「え? もちろんよ。そのための勉強会ですもの。ぜひ聞かせて!」
王女がそう言うと、マクシミリアンは安心させるように小さく笑みを浮かべた。
「ファー・ダリッグたちは‥‥もしかしたら、自分は幸せじゃないと思っていたのかもしれません。幸せになるにはどうしたら良いか‥‥偉くなれば、幸せになれると思ったのかも。王様は偉いから、王様のように立派になれば、自分は幸せになって、皆も幸せになると考えた‥‥けれど、その考えが間違っていたのかも‥‥王様になったとしても、必ずしも幸せになれるとは限らないから‥‥間違いを誰かに注意されたら、自分は悪かったと認めることも必要だと思うんです。そうすることで、他の人たちとも仲良くなれるきっかけが生まれてくるはずですから」
「そうだね‥‥ファー・ダリッグが王様になっちゃったら、皆が恐がって幸せどころじゃないかもね。王様になるなら、やっぱり皆のことも考えて、どうしたら安全に暮らしていけるか‥‥そういったことも考えなきゃいけないよね」
そう言いながら、妖精の王女は自分の父‥‥妖精王のことをふと想った。
「お父様は、妖精王国に住む民のことも考えているのね‥‥私も、あまり我がまま言うの止めようかな‥‥?」
「妖精王が、王女様の今の言葉を聞いたら、喜ばれるかもしれませんね」
マクシミリアンがそう言うと、王女はうれしそうに照れ笑いを浮かべた。
「そうかな? お父様、喜んでくれるかな?」
「ええ、きっとそんな気がします」
その後は少し雑談となったが、妖精王女の勉強会は無事に終了した。
マクシミリアンは今日の記念にと香り袋を手渡した。そして、帰宅後、バックパックを開けてみると渡したはずの香り袋が入っていた。ディナ・シーお得意の『ちょっとした悪戯』だった。