【妖精王国】妖精王の心
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■ショートシナリオ
担当:大林さゆる
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月21日〜11月26日
リプレイ公開日:2005年12月02日
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●オープニング
『過去』において、人と妖精は手を取り合っていた。
その絆はやがて途切れ、人は妖精の存在を次第に忘れていった。
ついには、御伽話だと『過去』のこととなった。
だが、皮肉なことに、『争い』によって人と妖精は再び手を取り合った。
二度と、同じことを繰り返さないように‥‥願いながら。
妖精王国の復興は順調に進んでいたが、争いによって失ったものも数多くあった。
それと同時に、得るものも多かった。
だが、妖精王が味わった『焦燥感』はそう簡単に消えるものではなかった。
人と妖精の子らに笑顔が戻りつつあることは喜ばしいことであったが、心の片隅では何かが残っていた。それは人も妖精も変わらなかった。
妖精王は『王』としての務め故に、普段は冷静さを保っていたが、自室で休む際には自然と溜め息が零れ落ちた。
「‥‥戦いは終わった‥‥だが、何かが欠けているような気がする‥‥」
一人になると、ふとそんなことを考えてしまう自分に気が付いた。
そんな妖精王の想いに気がついた者は、どれほどいるのだろうか‥‥。
王が明るく振る舞えば、民は安心して自分の仕事に専念できる。だからと言って、無理に明るく振る舞っている訳ではない。
妖精王国の『王』という以前に、妖精王は願っていたのだ。
民たちが安心して暮らしていくにはどうしたら良いのか?
人と妖精の絆を繋げていくにはどうしたら良いのか?
平和になればこそ、気が緩む面も否めない。だからと言って、それを否定している訳でもない。
「‥‥ふむ‥‥単純なことだが、『交流会』を開くか‥‥人が今、何を考えているのか‥‥妖精が何を考えているのか‥‥それを伝えていくのが『始まり』だしな」
いろいろと考えてみても、結局はその結論に辿り着いた。
妖精王は、自ら人と話すことを願って、生徒会宛に再度手紙を送った。そして、ケンブリッジのギルド・クエストリガーが再び動き始めた。
『妖精の巨木の片隅』において、人と妖精の『交流会』が開かれることになった。
先日、ハロウィンに招かれた御礼として、生徒や冒険者たちを招待したいと手紙には書かれていた。
『今』‥‥この時において、平和を取り戻した『今』だからこそ、忘れてはならないもの‥‥そのことについて人がどう考えているのか、妖精王は知りたかったのだ。
●リプレイ本文
『妖精の巨木の片隅』にて、妖精王との『交流会』が行われることになった。
冒険者たちを歓迎するため、ディナ・シーの少年少女たちがそれぞれ得意の楽器で音楽を奏でていた。妖精王は、その様子を見て温かい眼差しをしていた。王の周囲には、ディナ・シーの騎士たちもいたが、彼らは落ち着いた面持ちで冒険者たちを見ていた。
「今回はお招きいただき、誠にありがとうございます」
ライノセラス・バートン(ea0582)が礼儀正しく一礼すると、大宗院透(ea0050)が静々と会釈をした。透はこの日のためにパーティー用のドレスを着ていたが、どう見ても少女にしか見えなかった。ライノセラスは美人だと思ったのか、透に少し見惚れているようだった。
「妖精王、お久し振り」
ミカエル・クライム(ea4675)が妖精王と会うのは救出に向かった時以来であった。
「初めまして、妖精王。おいらはデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)って言うんだ。どうぞよろしく」
デメトリオスがペコリと御辞儀をした。ミカエルは一礼した後、こう告げた。
「お話を始める前に、魔法演舞を披露しようと思うのだけど、良いかしら?」
すると、妖精王はうれしそうに頷いていた。
「御礼のつもりで招待したのだが、芸を披露してくれるとは光栄じゃよ」
「それじゃ、いくね〜!」
ミカエルはそう言いながら、ひらりと両手をあげた。全身が赤く淡い光に包まれたかと思うと、火の鳥のごとく空へと舞い上がった。ディナ・シーたちが奏でる曲に合わせて、ミカエルは颯爽と天空を舞っていた。それを見たデメトリオスは、目を輝かせていた。
「なるほど、ファイヤーバードの魔法か。それじゃ、おいらも」
デメトリオスはリトルフライを唱えて、空へと飛び上がった。あっちへと行ったかと思えば、こっちへと、ふらふらとデメトリオスは空中浮遊していた。
ミカエルとデメトリオスの飛行速度はかなり違っていたが、魔法演舞と言うに相応しい調子で互いに交差したり、離れたりを繰り返していた。
「魔法には、こんな使い方もあるのか」
ライノセラスが感心したように呟いた。
「なかなかの見物ですね‥‥」
表情を変えずに、透がそう言った。芸が終わり、ミカエルとデメトリオスが舞い降りると、拍手喝采となった。
「ありがとう、冒険者たちよ。こうして直接話す機会ができて、本当にうれしく思う」
妖精王がそう告げると、ディナ・シーの少年少女たちがライノセラスたちの周りに集まってきた。
「子供たちが、冒険者たちと話がしたいと言っていたのでな。よければ何か話をしてもらえるとありがたい」
妖精王の言葉に、透たちはしばらくディナ・シーの少年少女たちと雑談することとなった。透はダジャレを交えながらジャパンの風習を、ライノセラスは最近あった出来事を話していたが、ミカエルとデメトリオスは先ほどの魔法演舞が話題となっていた。
透はふと何か閃いたのか、こんなことを言っていた。
「『妖精』王は、平和の意味を知るものを『要請』しました‥‥」
言った後、透は気がついた。今のダジャレは、ジャパン語が分からないと意味が通じないと‥‥。
だが、ディナ・シーの子供たちはうれしそうに笑っていた。
人とパラと妖精たちが互いに話し合う光景を目の辺りにして、妖精王は心底喜んでいた。
皆の様子を見て、妖精王はようやく肩の荷が下りたような気がした。
「‥‥妖精王国は、冒険者たちの協力により救われた‥‥儂を始め、妻や子供たちも救ってくれた‥‥王国に平和が戻ったのは冒険者たちのおかげじゃ。できれば、関わった全ての冒険者たちに心からの礼を伝えたいと思っているのだが、王と言えども力には限度がある‥‥王とて、万能ではない‥‥そのことを思い知らされたが、だからこそ王として皆のために力を尽くしていきたいと思っている。だからこそ、ぜひとも、人間たちの考えを知りたいのじゃ。聞かせてもらえるじゃろうか?」
妖精王がそう言った後、まずはライノセラスが話し始めた。
「妖精王国と人間たちの世界が、信頼関係で結ばれるように、俺もそうした礎となるべき行いをしていきたいと思っています。大切なのは、いろいろなことを受け入れることだと考えています。一つの側面だけで見て、悪いと決め付け、それが全てだと思ってしまうのは悲しいことです。人には様々な面がありますから、全体を見据えていくゆとりも必要だと思います」
同意するようにミカエルは頷き、一息ついた後こう告げた。
「そうだね。『存在』を忘れて『絆』が途切れることがないよう、互いに良い影響を与えて、少しずつ信頼関係を積み重ねていくことも大切だよね。今回みたいな交流会とか、この間のハロウィンとか、行事を通して接していく機会を増やしていくのも良いよね」
次に、透が話す番となった。
「確かに、平和になったと言えばそうですが、『取り戻す』ことよりも『維持していく』ことの方が大変だと思います‥‥。過去を振り返ってみても、戦争の繰り返しですが、たとえ戦いが終わったとしても、平和を維持していく努力をしていかなければ、またいつ戦いが起こるとも限りません」
透のそんな言葉に、ライノセラスはゴグマゴクの丘での戦いを思い出し、二度と同じ事は繰り返さないように努力していこうと心に誓った。そして、透がさらにこう言った。
「今の私に何ができるか分かりませんが、妖精王国や世界のためにも、ご活躍を期待させていただきます‥‥」
透の平和に対する想いを聞いた後、ミカエルはこう告げた。
「平和だからこそ危機感というか‥‥警戒するとかじゃなくて、『心に芯を一本通す』っていう感じかな? 現状をより良くするために『皆で考えていく』‥‥そういうことが大切なんじゃないかな。『今』に満足しないで、今が『良』なら『最良』を、『最良』になったら、さらに次を見据えていく‥‥そうすれば、きっと結果は後からついてくると思うの」
ミカエルの話を聞いた後、デメトリオスが妖精王に自分の意見を述べた。
「妖精王国にも特産物とかあるなら、人間たちと交易して交流を深めるという方法もあるよ。おいらはパラだけどね。交易を通じて、双方の共存共栄ができれば生活も向上できて良いと思うんだけど、どうかな? 交易すればお金も稼げるしね」
妖精王は少し考えた後、優しげな物言いで告げた。
「そう言えば、人間たちは『通貨』なるものを使って、物の交換をしているようじゃが‥‥我が国は自給自足の生活が基本じゃな。今まではそうした生活で、特に不便だとは感じなかったのだが‥‥人間たちは『通貨』を利用して『物の価値観』を計る面もあるのだな‥‥ふむ」
人と妖精との価値観の違いを改めて実感したのか、妖精王は顎をしゃくった。ふと気がつくと、透が気まずそうな顔をしていた。
「どうしたのじゃ?」
妖精王が心配そうに言うと、透が申し訳無さそうに告げた。
「忍者として、王に意見を述べてしまいました‥‥」
その言葉に、妖精王は納得したように微笑んでいた。
「もしかして、身分の違いを気にしておったのか? そうした気遣いもあるとは、うれしい限りじゃ。王に意見をして反省するというのは、裏を返せば自分の立場と相手の立場を考えている証拠じゃな」
「そう言っていただけると、気が楽になります‥‥」
透は無愛想に見えたが、どことなく優しさが出ているようにも感じられた。
それは、デメトリオスたちにも伝わっていたのか、皆が安心したような表情をしていた。