届けるもの、邪魔するもの

■ショートシナリオ


担当:瀬河茅穂

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月05日〜04月08日

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

 居並ぶ冒険者たちを一瞥して、ギルドの職員は視線を書面に戻す。
「依頼の内容は、そう複雑ではありません」
 そう前置きして職員はその内容を話しだす。簡潔に述べれば、荷の護送をお願いしたいのです、と。

 山の麓にある村から、山の中腹にある村への荷運び。半月に一度、それは必ず行われる。
「荷は食料などの生活必需品のようです。自給率の低い中腹の村との取引き――いえ、援助のようなものと聞いています」
 書面から視線を上げた職員は淡々と説明を続ける。
「その荷運びの途中に山賊が出るようになったそうです。過去に二度の襲撃があり、届けるはずの食料を奪われる被害が出ているのだと」
 次の荷運びを控えたこの時期に、二つの村から合同で依頼されてきたものだった。このまま荷を奪われ続ければ、村人の生活に関わるのだと。
「山賊からの荷の護衛。そして、山賊の退治。これが依頼の全てです」
 ただ、と職員は付け加えるように言う。
「山道は獣道とも言える悪路だそうです。急な斜面で荷車も使えないとか。もちろん荷は全て村人が担いで運ぶのだそうです。戦う足場は不十分、護衛をするにも策が必要かもしれません」
 どうか、二つの村に安全と安心を届けて差し上げてください。ギルド職員は最後をそう締めくくった。

●今回の参加者

 ea9634 式倉 浪殊(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0167 パミット・ページ(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0704 イーサ・アルギース(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0931 リュイック・ラーセス(42歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 二つの村をつなぐ道は、辛うじてそうとわかる程度の獣道だった。伸びる枝を打ち落とし、人が相応の頻度で通ることで維持されているにすぎないものだ。頭上を見れば左右から張り出した枝葉が、朝の薄い空を隠している。
「今日はいい天気ですねー」
 その空をゆったりと眺めてパミット・ページ(eb0167)は誰へともなく呟いた。道を行く者の中で唯一ライディングホースに跨っている彼女は、時折サンワードのスクロールを広げている。しかし枝葉が影をなす山中のこと、いまだ良い成果を得られてはいなかった。
 前回山賊に襲われたという場所は、既に通り過ぎている。木々が一際密集して身を隠すのに最適な――襲う側にすれば最適な場所だった。
 彼らも場所を選んでいる、と一行の殿を勤めるリュイック・ラーセス(eb0931)は警戒を強めた。襲撃は必ず左からと聞いていたが、道を歩いていればそれにも納得させられる。道の右手は常に急勾配で、襲うに不向きで逃げるに不向き。崖でないだけましという程度だ。徐々に険しさを増す山道は、じきに岩の転がる難所に差し掛かる。最初の襲撃はそれを抜けた直後だったと、居合わせたという若い村人が悔しそうに言っていた。
「あそこで馬は使えませんぜ」
 荷を背負って歩く村人の一人が、パミットを振り返って告げる。それは麓の村を出る前にも聞いていたことで、激しい段差に馬は人も荷も運べないとのことだった。だから邪魔になると判っている不用な荷は、麓の村に全て預けてきている。
「そうでしたね。手前で降りることにします」
 それでも彼女が騎乗してきたのは、自身の体力に多少の不安があったからだ。慣れない山道に疲れて護衛できなくては、何の為に依頼を請けたのかわからない。村人を困らせるなんて許せませんもの、と何度目かにスクロールを広げた。
 そんなやり取りを後ろに聞き流しながらイーサ・アルギース(eb0704)が頭上を振り仰ぐ。太く伸びる枝の上を伝い渡る式倉浪殊(ea9634)との、意思疎通のためだ。僅かでも視界を広げて山賊の奇襲を防ぐのだと、労力を惜しまない浪殊に、いかがですかと意図を込めた視線を送る。それに浪殊は首を横に振って答えかけ――。
「――近い、です」
 パミットが小さく言うのと、浪殊の意識が木々の方へ向けられるのは、殆ど同時だった。
 一行の左手、やや後ろ。そんな位置を山賊の一人がゆっくりと距離を詰めてくる。こちらがその存在に気付いたことに、山賊の方は気付いていないのだろう。短剣が鞘に収められて、腰に帯びられたままだ。
 視界の端でそれを確認して、リュイックは何気ない動作で左手を剣の柄にかけた。あからさまな戦闘態勢をとって、わざわざ敵に警戒心を持たせることもない。平静を装って進むようにと村人にも小声で伝言する。
 それに、まだいるはずの仲間も見当たらない。短剣の一つを抜き放ちながらも、浪殊は挟み撃ちの可能性を考えて木の上に留まった。見つけた一人に集中して、別方向から襲われてはたまらない。残りの山賊を捜すことを優先する。
 仕掛けるには早い、しかし。この先の岩場での戦闘は避けたいところ。イーサは矢を弓に番えながらタイミングを計る。パミットもまた他愛ないことを話しながら、スクロールを取り替えていた。
 道を遮って、子供の背丈ほどもある岩がごろりと転がっている。その手前でイーサが歩みを止め――それが、戦闘開始の合図となった。

 後ろを付いてきた山賊が短剣を抜き放ち、一気に間合いを詰めてくる。同時に真横の低木の陰から、ナイフを握った二人が飛び出した。
 ナイフの突きをリュイックは右手の盾で受け流し、抜刀と同時に振るったロングソードで短剣を振り上げた山賊を牽制する。その一瞬動きの止まったところへ、馬から降りたパミットのムーンアローの光が飛来する。
 ナイフを持ったもう一人がパミットを狙って踏み込んだ足元へ、イーサの弓が突き立った。とっさに避けようとしてかバランスを崩して、山賊はあらぬ場所でナイフを振るう。
「お気をつけください」
 言った彼の後ろ、岩の上から山賊の一人が躍り出る。三本の矢を手に用意しながら振り返るイーサの視界を、ふわりと深紅が過ぎた。
「左手前方のもう一人をお願いします」
 樹上から降りて割って入った浪殊の長い襟巻が、彼の動きを追ってなびく。スタッキングで相手の懐に飛び込んだ浪殊は、山賊の振り下ろす短剣に逆手で持った自らの短剣を合わせて受けて、もう一方の短剣を繰り出した。
 手にした矢のうちの一本だけを番えて、イーサは木陰から出てきた山賊の足元を狙い放つ。タイミングを外しておいて、すぐさま残りの二本を矢に番えて備える。
 短刀の一薙ぎを一歩引いてかわして、リュイックのロングソードはナイフを持った山賊の手を狙う。しかし山賊もそれを飛び退って避け、代わって隣をもう一人がナイフを振るって向かってくる。それにはパミットが唱えていたウインドスラッシュで迎えて。二人が不可視の刃に怯んだところへ、イーサの矢が追い討ちをかける。
 間合いを外されていた山賊が再びイーサへ向かったのを、浪殊が持ち前の身軽さで対応する。
 マークの外れた岩場の山賊へは、矢を番えながらイーサが照準を合わせた。弓を引くより早く、山賊が叫ぶ。
「退くぞっ」
 各々に走り去る山賊を深追いするつもりはない。それはあらかじめ決めていたことだ。しかし、
「全員を帰すわけにはいかない」
 一人は捕らえて彼らの拠点を聞き出したい。リュイックはウインドスラッシュで怪我を負っていた山賊を追う。捕縛の助けになれば、とパミットはイリュージョンのスクロールを広げた。
 逃げる山賊は、狙われた仲間を振り返りもしない。孤立した手負いの山賊を捕らえるのに、そう時間はかからなかった。
「薄情なものですね」
 ロープを巻いて拘束した山賊に、傷の応急手当てを施しながら溜息混じりにイーサが呟く。それにはパミットが答えた。
「だから村の食料も奪えるのですよ」
 ロープの一端をライディングホースに繋ぎながら、ごめんなさいね、と付け加えた。

 中腹の村に到着したのは予定より遅く昼下がり。荷が全て到着したことに村人は歓声を上げ、四人に感謝の言葉を浴びせた。お口に合いますかどうか、と言って出された昼食も夕食も、十分な内容で美味しいものだった。
 保存食もありますからと遠慮すると、二人の村長は逆に申し訳なさそうに頭を下げた。
「大した額も出せませんでしたからな。せめてこのぐらいはさせて下さい」
「食糧の備蓄がなくなるのは村の危機ですからね。できることがあるならば、何なりとお手伝い致します」
 イーサがそう返し、報酬のためではないですしと、持ち前の正義感から請け負ったパミットが同意する。ややおいて、麓の村長は快活に笑った。
「では明日の夜はウチの女房の手料理を食べてやってください」
 また女房自慢か、と村人の間から笑いが漏れる。確かにお上手ですけどとは女たちの言葉だ。自慢話に付き合ってやってくださいな、と笑い混じりに誰かが言った。
 そんな談笑が一区切りした頃。村の入り口でリュイックは山賊と向き合った。太い木の幹に巻きつけた山賊から、彼らの拠点を聞きだすためだ。フイとそっぽを向く山賊に、リュイックは声のトーンを落として言う。
「俺たちの契約期間は三日だ。その間責められるのと‥‥、話して楽になる。どちらを選ぶ」
 変わらず視線を外したままの山賊に、そろそろお腹もすいたでしょう、とイーサが諭す。山賊は彼が用意した保存食の昼食を拒否していたし、夕食分はまだこれからだった。もっとも、とリュイックは続ける。
「山賊一人死んだところで、誰も咎めはしない」
 どうする、と再度詰められて、山賊はあっさり音をあげた。拠点の位置や奪ったもののこと。全てを答えて最後に俺を見捨てやがって、と毒を吐いた。
 差し出された保存食に、哀れみのつもりかよと食って掛かる。用意したイーサは、戦闘後に回収していた矢を点検しながら、淡々と冷静に答えた。
「いくら悪党とはいえ、余裕のある時に非人道的なことはしたくありませんので」
「拷問するかと思えば、今度は非人道的とはね」
 滅茶苦茶だぜと続ける山賊に、本当にするはずないだろうとリュイックは憮然とする。

「では、こちらから仕掛けてやりましょう」
 見張りを夜明け前にイーサと交代してもらっていた浪殊が、気を引き締めるように襟巻を結ぶ。
 早朝のやや冷たい風に、長い黒髪を流してパミットも準備を整えた。
「もうひと頑張りですね」
 捕らえた山賊の言葉通りに、彼らの拠点は小さな洞窟をそのまま使ったものだった。多少の分かれ道はあれど、奥行きのあるものではない。おそらく奪った荷のものだろう、木箱や布で一応の棲家らしく整えてあるだけだ。
 四人の襲撃に山賊たちは慌てふためくだけ。半ば自棄になった彼らを取り押さえるのに、思ったほどの労力は必要ではなかった。
 どちらかといえば、ロープで巻かれてつながれてなお抵抗を見せる彼らを、村まで引き連れる方が骨だった。奪われていた物品を同時には運べず、もう一往復する羽目になる。
 その日の夕刻に山賊全員を同行して山を降りた冒険者たちを、村長ご自慢の奥さんの手料理が出迎えたのは言うまでもない。