せめて心は義賊たらん
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:3人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月21日〜11月26日
リプレイ公開日:2008年11月30日
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●オープニング
村外れの山で遊んでいた子ども二人が、短刀を腰にさした風体の悪い男に出会った。村の子どもかと聞かれてそうだと答えると、ちょっと話をしようや、何もせんから怖がるななど言われ、一緒に倒木に腰掛けた。
「俺ぁ、盗賊だ」
ひょうひょうと話す男に二人の子ども、彦と忠は驚いて顔見合わせた。特に襲い掛かってくるような様子もなかったので立ち去らず、続きを聞いた。
「俺のいる盗賊団は、そりゃあいろんな所であくどいことをしてきたんだがな」
女をさらっては狼藉を働く、民家を襲っては火を放ち金目のものをいただいた、などとぼんやり話す。
「もちろん、人殺しもやったな」
寂しそうに続ける。
「最初は、悪い奴から奪い貧しいもんらに与える義賊になるため、みんな集まったんだがなぁ」
子どもたちはもらった干しスルメをかじりながら、大人しく聞いた。男の視線は遠い。
「いつの間にやらお頭が変わって、悪いやつどころか貧しく小さな村を襲うみじめな盗賊団に成り下がっちまったよ」
男も、干しスルメをかじる。
「お前ら、夢はあるか?」
一転、彦と忠を見詰めて言った。
「村の田んぼをしっかり守って、村をもっと豊かにしてみんなを幸せにしたい」
「森をしっかり手入れして、食い物がたくさんとれるようにしてみんなを楽にしたい」
「えらいなぁ、お前ら」
男はじんわり破顔した。噛めばうまみがにじむ干しスルメのようだった。
「よし、決めた。お前たちに村を守る使命を託すぞ」
そういって、二人に皮袋を渡した。ずしりとした手応えで、中身はお金だった。
「一週間くらいしたら、俺たちの盗賊団がこの村近くに根城を構えて村を襲うようになる。そうなる前に、この金で冒険者を雇って俺たちの根城を攻めさせろ。何も悪くない人たちを殺して来たような盗賊団だ。皆殺ししても仏さんも哀れまんだろう。遠慮なく、殺してやってくれ。三人残った最初の仲間はもう、今の盗賊団に嫌気がさして死に場所を探している。‥‥いいか。村に帰って大人たちに伝えて、冒険者を沢山雇えよ。そして平静を保つように伝えろ。慌てて騒ぐと、盗賊団が警戒するぞ」
真剣な眼差しに変わった男の様子に、彦は面を引き締めうなずいた。
「ちょっと待って。おっちゃん、盗賊団やろ。今の話、信用できんわ」
忠は、警戒した。口を尖らせ言う。
「今は盗賊団だが、昔はこの村の住人だったんだよ」
男は、懐かしそうに説明した。証拠にと言って、村に伝わる話や隠れた名所など、地元住民でしか知らないような話をした。
「時に、瑞江という俺と同じくらいの歳の女性は、元気か?」
「‥‥俺の母ちゃんのことか?」
彦が自分の顔を指差した。
「そうか。お前、彦とか名乗ってたな」
「おっちゃんの名前は?」
「まあ、そういうことだから信じてくれ。盗賊団は十人程度だが、貧しい村を選んで襲うくらいだ。強いわけじゃねぇ。村の命運はお前らに掛かってんだ。しっかりやれよ」
男は彦の問いを無視して、願いを託した。
二人が村に帰って父親、そして村長らに話したところ、早急に冒険者を手配することになった。加えて、男の名前も明らかになった。八坂彦一(やさか・ひこいち)というらしい。
●リプレイ本文
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冒険者一行が、村に到着した。
「‥‥これだけ、ですか」
「私は、忍びの彩月しずく。よろしくね」
村人たちの不満そうな声にも動じず、彩月しずく(ec2048)はきびきびと言い放った。
「ほかに人はいないのですか」
「あら。何か問題あるかしら?」
しつこく聞いてくるが、彼女はさらりと言ってのけた。気まずい雰囲気が流れる。
「す、すいません。あなた方の腕を疑ったわけではないのですが、八人を希望したところ三人しか来てもらえなかったことで不安を感じたのです。わたしらが見捨てられたのかと思って」
これはまずいと、必死に村長がとりなす。何せ、盗賊どもは十人程度と聞いている。まずは数か欲しかった、というのが本音だ。
「人数が少ないように見えるなら、むしろ思惑通りというところです」
闇黒寺慧慶(eb0032)が、気にする風もなく言う。秘策あり、の雰囲気が響きに力強さを添える。お世辞にも姿勢がいいとはいえない、猫背で抜け目なさそうな男の言葉。村人たちは喉に渇きを覚え、ごくりとつばを飲むのだった。
そして、彼らは最後の一人に注目する。
若い女性剣士である。立派な武者鎧と両の腰に収めた小太刀が目を引く。小奇麗ないでたちで変わったところはないのだが、どことなく異国情緒を感じさせた。
視線を一身に浴びた彼女、フェイ・フォン(ec5604)はぺこりと会釈する。
ただ、それだけ。
特に何か言うでもない。
村人たちは改めて、一癖も二癖もありそうな猛者が来たことを実感するのだった。
「一応、まだ盗賊たちは村の中にまでは現れておりません。情報をもたらした八坂彦一が、彦らにわざわざ村の面白い場所なぞを言ったということは、やつらの根城はその内のどれかではないかと考えとります。そこを、叩いて下せえ」
「信用できるの?」
しずくは打てば響くように返した。
「彦一なら、信用できます」
毅然と言い放つ女性がいた。彦の母親、瑞江である。
「そもそも彦一が村を出て盗賊になったのは、村を守るためです」
詳しく聞くと、彦一が村を出た年は記録的な不作だったという。食べる物に困っていたある日の朝、村すべての家の前にわずかながらの金が配られていたそうだ。少ないながらも、村の飢えを救った。何より、心を温めた。
「ありゃあ今まで皆『奇跡』だと思うとった。ただ一人、『彦一が助けてくれた』と瑞江が主張しとった。そんなこと、誰も信じんかったが‥‥」
「今は、違う。こうしてまた、村を救うべく金を寄越してきた。彦一は村の英雄じゃ。とにかく北の森にある木こりの空き家を調べてもらったら分かる。わしらが盗賊で根城にようとしたら、間違いなくあそこにする」
「ま、調べてみるわ」
しずくはおとなしくそれだけ言う。
さっそく調べてみると、それは真実だった。
●
翌日、冒険者三人は盗賊の根城攻略に乗り出した。
北の森の中に、確かに小さな民家がたたずんでいた。木々に囲まれた庭は広く、平屋の家屋は横に長い。
「見張りを立てているわけではなし。よくこの盗賊団、今まで無事だったわね」
潜入撹乱を買って出たしずくは、あきれながら勝手口に回り込んだ。見張りがいないが気は抜かない。す、す、さっと物音も立てずに影から影へ移動する。小柄で軽業が得意。見事な隠密行動だ。やがて、裏口から侵入する。
と、屋内からわあっと盛り上がる声がした。丁半賭博をしているらしい。
「熱くなってるようねぇ」
こっそりつぶやいて、土間続きの台所で持参した油を取り出した。目当ての糧食を発見したのだ。極力家屋に延焼しないよう、土間の真ん中に固めて油をかける。すると、ば・ば・ばっと両手で印を切った。忍術である。
「火遁の術」
囁き声を上げると、かざした手の平から扇状の炎が噴き出した。一瞬だったが、油をかけただけあって米袋などに火が付き、一気に燃え上がった。
「‥‥おい、なんか物音がせんかったか?」
「ちょっと焦げ臭いで」
どうやら室内でも異変に気付いたようだ。ちょっと見てこい、わかりやした、など声がすると、台所への扉が開かれた。
「ぐっ!」
しずくは、現れた太っちょのちんぴらの鳩尾を狙った。固めたひじでえぐるように突き上げる。ちんぴら、気絶。
「ああん?」
「うおっ、誰じゃ!」
ほかの盗賊たちが気付いてやって来る。
「なんじゃあ、こりゃあ」
「飯が燃えとる」
「おんどりゃあ」
「わりゃ、何しょんじゃ!」
「いてもうたる」
口汚い怒号が続く。目を吊り上げたのやら眉を剃ったのやら、いずれも人相が悪く目つきも悪い。
「品がないわね」
あきれながら、しずくは勝手口から逃げた。一人で九人の相手をする気はない。
●
わが方に分ありと踏むちんぴらどもは勇ましい。われさきにとしずくを追う。
が、外に出たところで息を呑んだ。
「ゲロッ」
何と、外には人の腰丈以上ある大ガマが待ち受けていたのだ。横には慧慶が忍者刀を左手に構え立っている。大ガマは彼の忍術で作り出した物で、とっておきの秘策だった。
「ゲコッ」
「うわあっ!」
大ガマの横殴りをちんぴら一人がもろに食らった。倒れた後、ひいいと尻をついたまま後退りし許しを請う。
慧慶の方は、別のちんぴらの懐に潜り込んでいた。逆手に握った忍者刀、瞬間の半円を描く。ぐっ、とちんぴら。くの字に身を折り得物の短刀を取り落とし、崩れる。
「いつ仕事の邪魔をされるか分からんのでね」
踏み切りから伸ばした体で太刀筋の手応えを確かめた後、誰にも聞こえないようこぼす。本職は大きな声では言えないが、闇に生き、闇に死す覚悟のある男だ。当然、いざとなれば人を闇に葬ることもいとわないのだが‥‥。
一方、しずくを追った盗賊たち。
「待てや、わりゃあ!」
勢いに乗って口もよく回っていたが、一瞬で青ざめた。
武者鎧に身を包む娘がしずくの影から近寄っていたのだ。
「はっ!」
フェイである。両手に構えた小太刀を振るう。威圧感ある攻撃。ペンドラゴン流らしい攻め込みだ。
ただし、敵の戦意は落ちていない。
(敵の装備は狙って壊すほどのものではないですね。しかし‥‥)
穏便に済ませたいと思っている。殺して欲しいという話も聞いていたが、本意ではない。子どもが少なからず関わっているため気遣っているのだ。話せば分かる、とも考えている。一瞬口の端が緩んだのは、甘いかもしれないという自嘲からだ。
「くっ!」
ちんぴらも、やる。反撃の一太刀を受けたのだ。ただし、装備に救われかすり傷で済む。
(どうだっ!)
しっかり踏み込んでからの、仕返しの袈裟斬り。手応えあり。
彼女と違い、ちんぴらに立派な防具はない。手痛い一撃にとうとう片膝をついた。
「あっ、汚い!」
その時、しずくが叫んだ。何と、残りの盗賊の一部が逃げようとしているのだ。
何と言う根性なしか。逃げる自分を盗賊に追わせ、森に仕掛けた罠にかけるという当初の作戦が台無しだ。もっとも、この逃げっぷりこそ、彼らの真骨頂だったりする。盗賊家業を続けて生き延びているのは、伊達ではない。
「お前だけは!」
ざざっ、とちんぴら三人が一人の男を取り囲んで逃げ道を塞いだ。
「貴様ら、さては裏切ったか!」
その一人は、どうやら盗賊団の頭らしい。体つきや物腰がほかのちんぴらと違って威風堂々としている。短刀を構えた姿も威圧感が違う、場数を踏んだ悪漢だ。
「どけえ」
たちまち、頭と手下どもの戦闘が繰り広げられた。当然、数はあれども手下どもには分が悪い。次々と手傷を負う。
しかし、結末はあっけなかった。
「はい、おしまい」
頭の背後から忍び寄ったしずくが、首筋への手刀の一撃で気絶させたのだ。
●
結局、冒険者たちは村で借りた縄で盗賊どもを縛り上げた。
「こいつだけは、殺されなくちゃならん」
盗賊を裏切った三人は、気絶している頭を見てはいきり立つ。冒険者たちはそれを止める。ちなみにその三人は、八坂彦一と彼の最初の仲間だった。一応、流れから彼らを縛ることはしていない。
「盗賊にとって一番の屈辱は捕まること。そして裁かれることじゃねぇのか」
慧慶が指摘した。八坂らも、それが正しいことが分かる。おとなしく引き下がった。
「八坂彦一、だっけ。本来ならあなたたちも、お縄についてもらうんだけど」
しずくが困ったように言う。
「待ってください。彦一は、村を救ってくれたんです」
村に帰ると、当然、瑞江をはじめとした村人たちは彦一ら三人を見逃すよう言ってきた。
「このおっちゃんらは、義賊じゃないんか? 悪い盗賊をやっつけた、良い盗賊じゃないんか?」
彦と忠も、口をそろえた。
彦一らは、当初頭を殺して自分たちも死ぬつもりだったらしい。村人に顔を合わせるつもりはなかった。が、おめおめ生き残った。村へ帰る道中、自首するとも言っていた。
しかし、彼らが冒険者に送った目には、迷いの色があった。
果たして、このまま役人に連れられていって、いいのか?
冒険者にしても、「子どもが少なからず関わったのだから」と、捕まえた悪い盗賊を一切殺していない。悪者を捕まえることに協力した『義賊』を、役人に手渡していいものか。
「好きにすればいいんじゃない?」
冒険者らは肩を竦めて、こっそり言った。
「ねえ、彦一。村に帰ってきて、みんなの村を守って。ね」
瑞江は、幼なじみの目を見てそう訴えた。が、彦一の心はこの一言で決した。
「俺たちは、西に行く。戦乱で困っている人が多いって噂だからな。俺たちは、義賊。困っている人を助ける義賊だ」
まっすぐ、力強く言い放つ。沈んだ表情だった彦と忠の表情が、明るくなった。
「義賊退治は頼まれてなかったよな、確か」
慧慶がにやりと言い放つ。
盗賊一人を取り逃がしたことが心残りだったが、依頼は無事に完了。参加者が少ないことでリスクは増えたが、依頼金の浮いた分を謝礼としてもらい、冒険者一行は村を後にするのだった。