狙われた少女たち

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月02日

リプレイ公開日:2008年12月06日

●オープニング

 名もなき冒険者三人組がその村に立ち寄ったとき、妙な歓迎を受けた。
「頼む。村の子どもが何者かにさらわれておるんじゃ。何とかしてくれんか」
 茶屋で、ちょうど良かったと村の顔役から助けを求められたのだ。
 聞けば、ここしばらくで三人の子どもがいなくなっているのだという。
 一人は、村のそばを流れる川沿いで友だちと遊んでいて、全身黒鱗に被われた猿のような化け物に襲われて川の中に連れ去られたという。被害に遭ったのは七つの祝いをしたばかりの女の子で、その後彼女の姿を見た者はない。
 一人は、その川とは離れた山で連れ去られた。十歳の女の子が被害者で、一緒に遊んでいた友だちの証言によると、汚れた服装の怪しい男一人が突然襲ってきて、女の子を攻撃してから担いで山の方に逃げたそうだ。
 この二件の事件があってから、それより以前に一人の女の子がいなくなっていたことが発覚した。目撃者はなく、こちらは場所が特定できない。
 三人ともその後見つかったという報告はない。
「一週間ぐらいの間隔で三件続いた事で、村の者は同じ事件じゃないかと思っとる。調べて化け物の仕業なら、退治してくれんか」
「そりゃあ、無理だ」
 無骨な男がいましがた食べた吊るし柿で汚れた指をなめた後、茶を飲みながら言った。
「な、なぜ?」
「ウチら、別の依頼で奥の村に行く途中やからな」
 丸顔で背の低い娘が吊るし柿をほおばる手を休めて説明した。
「困ってる人を見過ごすのは本意ではありませんが、ほかの困っている人を助けると約束したばかりなのですよ。すみません」
 やさ男が謝ってその場をとりなす。
「ま、冒険者ギルドを通して別の冒険者を頼るこっちゃな。ごっそさん」
 相談に乗ったんやしお代は当然ただやろね、と堂々言い放って丸顔女は卓を立った。

 とはいえ、本質は困った人を見過ごす事のできない三人組。村を去るときそれとなく子どもたちの様子を注意していたのだが、これが見事に的中した。
「きゃあああ!」
 村の外れで、母親と歩く少女が汚れた服装の男に襲われていた。少女をさらって、逃げる。
「大丈夫ですか?」
「野郎!」
 まずは母親が襲われたようで、やさ男はすぐさま彼女の元に掛けつけた。ほかの二人は子どもをさらった男を追う。
「足はのろいようやね」
 丸顔女が男に並ぶ。逃げられないと知ったか立ち止まる男。
「おぅりゃ!」
 そこへ、駆けつけた無骨一辺倒の男が重い一撃を見舞う!
「グオッ!」
「おい、何で追わんのや」
 少女を放り投げて逃げる男。少女を受けとめ尻持ちをついた丸顔女は、敵を見送った仲間を非難した。
「‥‥俺らじゃ手に負えんぜ、アイツ。俺の武器が効かなかった。おそらく人に化けた妖怪か何かじゃねぇか?」
「だからウチが前からいっとるんや。金は飲み代にせんと魔法の武器をはよ買えって」
 魔法の武器が飲み代で買えるかどうかは、ともかく。
「ちょっと戻って、われわれより強い冒険者を雇うよう言っておきましょう。旅程は急げば何とかなりますし」
 やさ男も、母親をかばいながら寄ってきた。母は、わが身の負傷も省みず、涙を流しながら「なな子、なな子」と名を呼び娘に抱きついて無事を喜ぶのだった。
「中途半端はいややけど、ほかの冒険者に頼るしかないな」
 三人組は、村が雇い新たに来るであろう冒険者に望みを託した。

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文


 冒険者たちは、窮地に立たされていた。
 依頼のあった村についたはいいが、周期的に現れるはずの人さらいがいっこうに姿を見せないのだ。すでにギルド出発から三日目の晩。実動の猶予は一日しか残されていなかった。寝泊まりしている村長宅で明日の予定を打ち合わせつつ、今までの情報を整理していた。
 彼らの村への到着は、早かった。
 リアナ・レジーネス(eb1421)は「ヘリコン」と名付けた駿馬に、乱雪華(eb5818)は同じく「ホーロン」に、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は同じく「スピットフレア」に騎乗するなど、冒険者六人はいずれも「到着前に子どもたちが襲われてはならない」の思いを胸に村へと急行した。結果、村の子どもに新たな被害者はない。被害を食い止めたという点では評価されるべきであるが、人さらいが出てこないので退治にまではいたっていないという現状にある。
「ふむ。目立ちすぎたのだろうな」
 琥龍蒼羅(ea1442)が冷静に言い放つ。
 たとえば、河童の磯城弥夢海(ec5166)。ペゾムと呼ばれる魔法のほうきで、文字通り飛んで来た。水、陸ならまだしも、空飛ぶ河童がいると誰が思おう。ここにいると言えばここにいるが、少々気を付けたところで目立ってしまう。
 たとえば、アンドリー・フィルス(ec0129)。グリフォン「ガルーダ」に乗りこれも文字通り飛んで急行している。巨人族で派手な顔立ちもあり、やはり目立ってしまっていた。
 もっとも、蒼羅自身も天馬「白耀」にまたがり颯爽と到着している。が、悪びれる様子も誰かを非難する風もない。彼はあくまで状況を的確に分析しているだけなので、当然である。感情を差し挟む道理は、ない。加えて、「到着前に新たな犠牲者が出る」という最悪事態をまずは回避したということで、これはむしろ誇るべきと考えている。
 が、退治できないのは困りもの。距離を保ちつつ子どもたちを護衛しては人さらいの来襲を待ったが、今まで現れることはなかった。
「戦い方を変えるべきだろう。我々は迎撃だけを考えていた」
 アンドリーは目を通していた書物を脇にやり、言った。読んでいたのは、持参した「孫子の書」。兵法に関する本だ。
 怪物知識が豊富なリアナの見立てによると、敵の正体は獣人界の河童・水虎。蒼羅の「陸上での活動は不得手のはず」という類推にも沿う。
「でも、敵が定期的に襲ってくるのは、定期的に子どもが必要だからよね?」
 クァイが念を押す。
 実は冒険者たち六人は、事件には黒幕がいると判断している。具体的には悪魔の存在を想定しており、イギリス出身の戦士・クァイは対悪魔戦で効果を発揮する剣を用意している。レミエラで悪魔感知の能力を付加しているこだわりぶりで、武器屋の美学というところか。
「おそらく。それでいて襲ってこないのは、我々の警備状況を偵察しているからだろう。そして、襲いたくても襲えない。つまり、敵は我々より弱い。この戦いは、正面からぶつかり合う戦ではなく、諜報戦だな。子どもたちに襲い掛かる怪しい者ではなく、村全体の様子を探っている怪しい者を探すべきだろう」
 応じるアンドリー。しかし、二日間の活動で冒険者らは当然怪しい人物にも注意をしている。さらに、リアナが村人から過去の攻撃ルートを聞くなどもしている。蒼羅は事件のあった山を調べている。それでも、敵を捕捉できないでいる。アンドリーの論が正しければ、敵はずいぶん動きまわっているか、見晴らしの良い場所にいるはずだ。
「いや。敵城内への潜入工作を例に取れば、むしろ『いてもおかしくない者』に化けるのが定石だな‥‥」
「遅くまでご苦労様ですのう」
 彼が言い換えたところへ、村長がやって来た。
「冒険者というのは義理堅いですな。前の冒険者三人組の一人が数日前からこの村に来てるそうで。ありがたい限りです。‥‥どこに寝泊まりしとるか知りませんが、まだウチに余裕があるんで遠慮なくここに泊まるよう言ってくだせえ」
「‥‥それだ」
 アンドリーは静かに断言した。


 村滞在最終日。
 冒険者たちは子どもに張り付く警備から、子どもたちを注意しつつ以前に村を訪れた冒険者らしき人物を探し出す行動に切り替えた。六人はそれぞれ、村内に分散している。
「待ちなさい」
 鋭い声で言い放ったのは、雪華だ。木立を影に移動する、がっしりとした男を呼び止めたのだ。明らかに戦士の体つきだった。
「あなた、村人ではありませんね」
 普段は道化師として明るく振る舞うが、ギルドの仕事となれば人が変わる。どっしりと構えを取る姿は勇気にあふれ凛々しい。金の長髪が風に揺らぐ。
 ばっ、と男は逃げ出した。
「笑止!」
 素早さに勝る雪華は見事な反応を見せる。踏み込んでからの正拳突き。魔法効果のある銀色のナックルが敵の背中に入る。
 が。
(くっ、弱すぎたか)
 事前の打ち合わせで、わざと逃がしさらわれた子どもたちの居場所を突き止めることになっている。得意の十二形意拳・鳥爪撃を出さなかったのはそのためだ。しかし、結構敵もやるようで、逃走を続ける姿にダメージは見られなかった。
「ワイソン!」
 彼女は愛犬を呼んだ。隠れて伏せていたボーダーコリーが寄ってくる。
「急いでリアナの元に行ってちょうだい」
 忠実に駆け出すワイソン。雪華は川へと逃げる男を追った。
 この時、川の下流にいた夢海が異変に気付いた。目を凝らせば、男が川に飛び込み、それを雪華が追っているではないか。
「忍法・微塵隠れ」
 爆発をその場に残し、一気に雪華の傍へと寄った。
「ここからは私が追います」
 それだけ言い残すと、川へと飛び込んだ。
 その頃、リアナ。
「雪華さんが見つけたようですね」
 駆け寄ってきたワイソンで状況を把握。腹話術の魔法で遠くの丘の上にいるアンドリーに状況を伝えた。すぐさま、丘からグリフォンに騎乗し飛び立つ。別の方向では、それに気付いた天馬も飛び立った。蒼羅である。
「ふうん。こっちね」
 空の二騎を見上げ、クァイも走り出した。新たに、リアナの乗る空飛ぶほうきも上昇するのだった。


 川を泳ぐ敵の水虎は、すでに黒い鱗の大柄なサルという本来の姿に戻っていた。支流で山側に進路を取り森深く入り込んだ後、逃走を止めた。ちょうど七尋程度の淵だった。大きな岩がえぐれて洞窟のようになっている場所があり、水虎はそこへ入っていった。
 直接追尾していた夢海は、とりあえず洞窟入り口を見張る場所にある岩陰に待機する。やがて仲間が寄ってきた。
「どう?」
 最後にクァイが到着した時、ちょうどリアナが呼吸探知で様子を探っているところだった。
「‥‥おかしいです。子どもたちらしき反応がありません」
 彼女は息を飲んで仲間を見返した。
「これでチクチク刺して聞いてみるかしらね」
 悪魔殺しのエペを抜き、クァイが無邪気に微笑む。
「とりあえず、鶴翼で寄せて敵を捕らえよう」
 今回は兵法の流儀で行くことを心に誓ったアンドリーが、各種魔法を自身に掛け終えてから言う。手には、魔剣デュランダル。
「今度こそ」
 同じく各種魔法で準備した雪華が立ち上がる。蒼羅は魔法で雷光の剣を生み出し、夢海は無我の杖を構える。
「うっ! これは」
 淵を回り込んで水虎のいる洞窟に到着した冒険者たちは、目を吊り上げた。
 背を向け屈み込んでいた水虎が何をしていたかは、伏せる。が、周りに散乱している白骨――明らかに、子どものものだ――を見れば、何をしているか、何をしてきたかは一目瞭然だった。
「‥‥死になさい」
 突然、ハーフエルフの雪華が無感情に言い放った。氷のように冷たい怒り。そして瞳が真っ赤に燃え上がる。狂化現象だった。
 刹那、間合いを詰める。
 跳躍からの鳥爪撃。
 水虎の反撃はきっちりと回避する。
 そして雪華の影から、蒼羅の斬撃。さらにクァイのスマッシュが炸裂。いずれも怒りの一撃だ。
「あ、待って」
 高速詠唱による雷撃魔法を準備していたリアナももちろん義憤に燃えていたが、すんでのところで思いとどまった。記憶読み魔法の巻き物を用意しつつ、殺してしまわないよう注意する。
「いくぞ!」
 が、振り上げた怒りは急に止めることはできない。アンドリーが気合いを込めた一撃を食らわせる。冷静だった先ほどまでは会話して怪物の事情を聞くつもりだったが、すでに問答無用の状況だった。
 結局、この一撃が止めとなった。二週間前に手に入れ保存しておいた最後の肉を食らっていた水虎は、こうして退治された。まだ狂化中の雪華が、もうぴくりとも動かない水虎の屍に対しさらに蹴りを食らわせている。


「ま、あの状況じゃ単独犯で黒幕はいないわね」
「確かに。水虎の好物はキュウリだけでなく、子どもの血肉もでした」
 村に帰って事後報告する冒険者。クァイが当初見込みから違っていた点を挙げ、リアナがそれとなくさらわれた少女たちの運命を説明した。この水虎、おそらく子どもの血肉でも、女の子を特に好んでいたようだ。
「何をあんたらがしょげとるか。敵を倒して、もう子どもたちも安心じゃ。確かに食われた子どもたちは可哀想じゃが、こうなってしまったのじゃからいまさら後悔しても仕方ない」
 暗い雰囲気が流れる中、これはいかんと村長が声を張った。
「なあ、おっちゃんと姉ちゃん。もっと冒険の話を教えてよ」
「おいおい。俺はおっちゃんかい」
 外では、アンドリーと夢海が子どもと遊んでいた。二人とも、さらわれた子どもに優しくしてやるつもりだったのだ。一抹の寂しさを、村の子どもたちと過ごすことで紛らせている。ちなみに、夢海はここでも若く見られているようだ。
「あなた方には本当に感謝しております。だから、胸を張って。これからも困っている力のない人を助け支える力になってくださいまし」
 遊ぶ姿を見ていた村長が視線を戻して微笑む。そして、たくさん持ってこさせた吊るし柿を食べるよう勧めるのだった。