聞けよ、村民!〜河童相撲年末場所

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月18日〜12月23日

リプレイ公開日:2008年12月27日

●オープニング

「嘆かわしい!」
 とある神社の境内の隅を、河童の軍団が占拠していた。彼らの前には、土俵。
「もうこの村にはまともに相撲を取れる者もいないのか」
 握り拳を固め、声も高らかに怒りをぶちまける。
「かつてこの村は相撲が盛んで、われら河童と好勝負を繰り広げていた。『名勝負数え歌』と呼ばれた、誉れ高き歴史だ」
 参詣に来る人が「一体何事?」と興味の視線を送る。が、横目で見ては素通りするだけだ。
「それがどうだ! 今では相撲を取ろうという気概のある者すら、おらん」
 声を張り上げているのは、特に背の高いのっぽの河童だ。周りには、太ったのからやせたのまでいろいろいる。「そうだ!」など時折相槌をいれ、のっぽを盛りたてている。
 のっぽの後ろには、縦にも横にも大きな河童がどっしりとあぐらをかいてにらみをきかせている。どうやら指導的立場にあるようで、師匠といったところか。立派な杖を手にしている。
 ちらと、のっぽはその師匠河童を振り返る。あごをしゃくる師匠。
「聞けよ、村民!」
 くわ、とくちばしに力をいれるのっぽ。声の張りが良く、いんいんと響く。
「かつてこの土地、いや、山の向こう、川の向こう、広く広く伸びる大地は、長く大きな戦乱の中にあった。『大乱』と呼ばれていたものである。そして、小競り合いはあれど長く長く太平の世が続いた。何とも喜ばしい事である」
 ぐっ、と固めた右の拳を目の前で震わせる。何かをかみしめるように、まぶたを閉じ面を伏せる。
「しかし!」
 突然、その拳を広げ右に振り払いくわと面を上げた。声がいちだんと大きい。
「太平だといって鍛錬すらしないのはただの怠慢である! いや、敢えて言おう。堕落であると! 遠く大乱の時代より先祖が鍛えてきた技、心意気、粘り腰。そのいずれもは村を守る力にもなり、愛する人を守る力にもなり、そしてわが身を高みに導いてくれる力でもあるのだ」
 そうだ、と後ろに控える河童たち。
「今一度言う。聞けよ、村民。今、我々は伝統が途絶えるかどうかの土俵際にある。いや、徳俵にかろうじて残っていると言っていい。伝統を絶やすな。気概を捨てるな。前を向け。そこに土俵があるはずだ。塩を手にしろ。高く高く投げ掲げよ。しこを踏め。強く強く踏み締めよ。眼を逸らすな。ぶつかって来い。さすれば来年、いかなる困難も乗り越える事ができ村はさらなる繁栄を見るだろう。それこそ人生の勝利だ。相撲の勝利だ。新たな時代の幕開けだ。相撲万歳。相撲万能万歳。真実に背を向けるな。相撲こそ真実。迷わず踏み込め。踏み込めば分かるさ!」
 右拳を高々と挙げ、演説の余韻に浸るのっぽ河童。取り巻きの河童力士たちが「クワーッ、クワーッ!」と歓声を上げ盛り上げる。
 それはそれとして。
「もうっ。年末が近いのに境内の掃除ができないじゃないのようっ!」
 羽織袴の巫女が、竹ほうきを脇に立ててぷんすか怒っていた。遠くの河童どもはのっぽに向かって「いよっ、名演説」など賛辞を送り、まだ盛り上がっている。
 そこへ、ふらっと神主がやって来た。
「あ。神主さま〜。あれ、何とかしてくださいよぉ」
 泣きつく巫女。が、神主は一言、「許可」。
「河童どもの言い分にも、取るべきところあり。村人に志願者がいなければ、冒険者の腕っこきらを雇うがいい」
 巫女、この神主が相撲好きだったことを思い出す。相撲好きといっても、取る方ではなく観戦する方だが。実は村人も、『名勝負数え歌』によりもっぱら観戦好きになっていたりする。強引に土俵に上げられたくはないので横目で見て素通りするが、内心では「誰か相撲を取ってくれないかなぁ」などと思っていたりする。
「そうじゃの。今年は相撲を見てお祭り騒ぎをしてから、大しめ縄の取り替えをするかの」
 ふらっと氏子の総代もやって来て言う始末だ。

 そんなわけで後日、河童と相撲を取ってくれる冒険者の募集がギルドに張り出されるのだった。

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5305 ムウ(21歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec4259 ダリウス・クレメント(33歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec5903 睦樹 水瀬(26歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)

●サポート参加者

イリア・アドミナル(ea2564

●リプレイ本文


 神社の広い境内は盛況だった。
 土俵では、河童力士たちが稽古に励んでいる。
 村人たちは、始まりをいまかいまかと待ち構えている。
 冒険者たちはと言うと――。
「さて、今年もいろいろ有ったが四股を踏んで邪気、病魔を退散させようかね」
 ド派手な傾き陣羽織が似合う鷲尾天斗(ea2445)が、最後の幟を立て終えてぱんぱんと手を払う。掲げた文字は、『天下泰平』『子孫繁栄』『五穀豊穣』。人の背丈以上ある大筆で昨日書き上げ、奉納した物だ。雄大な書風で書いた単語も受けが良く、村人たちは幟を指差しては笑みを浮かべている。
 一方では――。
「もしよろしければ『相撲』とはいかなるものか、ご教授頂ければありがたく存じます」
「相撲、ジャパンで良く知られる国民的競技か、面白い」
「投げ技の勝負と言う事ならぁ、私もグラップラーの端くれとして黙ってる訳にはいきません」
 乱雪華(eb5818)、ダリウス・クレメント(ec4259)、マルキア・セラン(ec5127)が順に村人に挨拶している。まずは相撲を詳しく教わろうとしているのだ。
 最後の一人、ムウ(eb5305)は、村の子どもたちを前に笛を吹いていた。
 もともとお祭り騒ぎが好きで、音楽を奏でるのも好き。対戦まで間があるからと笛を取り出して楽しませていたのだ。
「きゃーっ、かわいい!」
 しばらくすると、雪華もやってきた。一斉に巻き起こった黄色い悲鳴は、彼女の格好による。
「さあさみなさん手拍子手拍子。くるくるかわいいりすのお出ましぃ〜」
 きたりすのきぐるみに身を包んだ彼女は側転で登場すると、膝をちょこんと折って明るく自己紹介。自ら手をたたいて会場からの手拍子を誘うと、道化棒を使ってバトンアクション。たまにお尻を突き出し大きなしっぽを揺らしてウインクしてみせたりも。大きな喝采を浴びた。ムウの方も手慣れたもので、すぐに呼吸を合わせた。
「きゃあ、かわいい!」
 別の場所でも、黄色い悲鳴。
 こちらは天斗の飼い犬・太郎君。子どもたちとはしゃいでいる。
 ところで、その飼い主は?
「神に仕える身とは言え、君みたいな可憐な娘が恋も知らずに生きるのはまさしく不幸というべき事だよ」
 巫女を、口説いていた。
「ちょっ‥‥、困ります。相撲取るんでしょう。勝利の女神に逃げられても知りませんよぅ」
「おお。もう始まるか? じゃあ、勝利の栄光を君に」
 ウインクして見栄を切ると、天斗は土俵に向かうのだった。


「じゃ、おいらから。かかってこいってんだ!」
 まず、ムウが土俵入りした。河童力士も上がる。若干、河童の方が背が高い。
「ちいせぇからって馬鹿にすんなよ〜。おいらだって冒険者なんだからな」
 ムウ、気合十分。
「はっけよい、ノコッタ」
 村人が務める行事の合図で、立った。
 が、勝負は一瞬でついた。着衣の旅装束の腰あたりを掴まれ、投げられたのだ。
「もう一番!」
 ごろごろっと転がったムウだが、すぐに立ち上がって再戦を申し込む。
「今一度。はっけよい」
 ムウは前回より鋭い当たりを見せる。が、やはり投げられた。踏ん張ったのだが耐え切るには力が足りなかった。
「もう一番!」
 しかし、ムウの闘志に陰りはない。さらに立ち合いを申し込む。
 対戦した河童は、困った。
 力量差は歴然。とはいえ、客人扱いで、しかも相撲を取ってくれるありがたい相手に三番全て土を付けるのは失礼だろう。ここはわざと負けて華を持たせるのが礼儀だが、明らかにムウは純粋な勝負を望んでいた。瞳には、結果を省みず全力を尽くす者のみに宿る輝きがあった。
 河童はうろたえ、親方河童を見た。親方はあごをしゃくるのみ。河童、腹を括る。
「三番なのでこれが最後とする。はっけよい」
 ムウの当たりに、河童は下がった。下がりながら、迷う。俵に足が、掛かった。
「ちいせぇからって馬鹿にすんな〜」
 結局ムウのこの一言で、投げた。
「くそっ。つええなぁ」
 悔しさと清々しさが混じる声とともに起き上がったムウだが、ここで我が目を疑った。なんと、対戦した河童が土下座していたのである。
「参りました。私は相撲に勝ちましたが、あなたの気概にはまったく敵いません。あなたの心意気を見習い、今後も稽古に励みます」
 殊勝にそれだけ言った。観客から、爽やかな勝負に大きな歓声と拍手が贈られた。

 次に土俵に上がったのは、天斗。
「さぁ! かかってきなさい!」
 ばさーっ、と傾き陣羽織を派手に脱ぎ捨てる。うおおおおっ、と観客はその格好良さに盛り上がった。鍛え抜かれた褐色の体と赤い日輪の褌姿も、また見事。
「はっけよい」
 取り組みは、河童力士とがっぷり四つ。天斗は敵の投げを意地と経験で耐え抜く。やがて攻め手が止まったところ、相手まわしを一気に引きつけ寄り切った。
「相手が不足だったようだな。今度は俺だ」
 そこへ、別の河童が上がってきた。横綱だ。
「おおっ?」
 格段に増す圧力に下がる天斗。結局、横綱には一度投げられ、一度寄り切られた。小細工・戦法なしの真っ向勝負の末の、納得の黒星だった。

 次は、雪華。
「頑張ってぇ〜!」
 ちびっ子から黄色い声援が飛ぶ。
 対するは、女性河童力士。双方、白い道着に黒い帯といういでたち。
「はっけよい」
 雪華は武道家であるが、得意は密着戦闘ではなく打撃戦。
「きゃっ!」
 組んでしまっては分が悪いようで、あっさりと投げられてしまった。
 再戦を取ったのは、突き・押しに徹したため。打撃戦で後れは取らない。見事に相手の体勢を崩し土俵から出した。
 運命の三戦目。
 雪華は組みに行った。投げを狙ったのだ。
「くっ」
 ただし、敵は耐えて残すと逆に投げを打った。土俵に沈む雪華。
「なぜ、突き押しで来なかった」
 手を差し伸べて、河童力士が尋ねた。
「私は相撲を取りに来たのですから。いい経験をさせていただきましてありがとうございます」
「あんたにゃ負けたよ」
 にっこりと言い放ち頭を下げる雪華に、女性力士は降参したように言った。大きな拍手が会場を包んだ。

「ええっ?」
 次に土俵に立ったのは、マルキア。会場から疑問の声が上がる。
 なんと彼女、ミニスカートのメイドドレス姿で相撲を取ろうというのだ。
「えっ。何か問題でもぉ?」
 首を傾げながら塩を撒くマルキア。やはりそのまま取る気だ。
「ふざげてるっ!」
 応じるは、着衣の女性河童力士。実は女横綱だ。
「はっけよい」
 立ち合い。河童力士は容赦なく顔面への張り手を狙ってきた。これをかいくぐるマルキア。回避し腰を取った時点で、勝負あった。あとは豪快に投げ捨てた。
「うおおっ!」
 客席からは一段と大きな歓声。投げの軌道の美しさと、中まで見えそうで見えないスカートの裾に対する賛辞だ。
「これは男が行くしかないでしょう」
 投げの美しさから素人ではないと見たようで、男の河童力士が立ち上がった。少し、キザっぽい。
「このエロ河童ぁ」
「なんだとう。父上、ようございますね」
 キザ河童はどうやら親方の息子のようで、観客の野次を無視して強引に取り組みを決めた。
「はっけよい」
 身の危険を察知するマルキア。立ち合いが鈍い。がっちりと洋服の腰部分を掴まれた。敵は胸を合わせようとぐいぐい腕を引き絞る。
「いやぁぁ」
「おっ!」
 マルキアは、合わせるのは肩までとばかりに腰を落として押した。相手は押されまいと力を入れる。その力に負けたように右上手を切った。ただし、胸は合わせたくないので半身に。敵は好機とばかりにさらに押す。
 その瞬間だった。
「きゃあぁぁ!」
「謀ったなぁ!」
「ッシャア!」
 マルキアの悲鳴のような気合、キザ河童の慌てた声、そして観客の会心の掛け声が連続した。余談だがその時、奥の座にあぐらをかいていた親方河童は手にした杖を思わず取り落としていた。
 決まり手は、見事な首投げ。彼女が身を崩したのはすべて伏線だったのだ。

 最後は、ダリウス。
 相手の河童は、演説をしていたのっぽ河童だ。
「はっけよい」
 実はダリウス。取り組み後の女性陣に温かい茶を出すなど細やかな面を見せている。決して豪快だけが取り柄ではない。
「二倍弱の背丈と力だけで押しとるように見えるが」
「おお。相手の出る動きに合わせた突っ張りがいい」
 客席の神主と氏子の総代がにこにこしながら観戦している。指摘は、カウンターアタック。土俵では結局、組んだ後長い取り組みになったが立ち合いの一撃でのダメージの深さで、河童が先に音を上げた形となった。決まり手は、寄り切り。
「もちろん、河童の方もやりおる」
「巻き変えてみたり、小手ひねりで揺さぶりをかけたり」
 ただし、ダリウスの格闘術の技量は高い。その場その場で必要な対処を取る。結局、二本目は上手投げで取った。河童の横綱は諦め、取り組みは終了した。
「ちっこいのが敢闘賞、最後の大きいのは技能賞といったところか?」
「あの姉さんの投げの技量は、女横綱で十分通用するな」
 二人はそう、今場所をまとめるのだった。


「さぁさぁ、ここに集まった力士と一つ相撲を取っては見ないか? 老若男女、子供でもだいじょーぶ! 見事投げたら2Cだ!」
 取り組みが終わってもお祭り騒ぎは終わらない。天斗の威勢のいい声が響き渡る。適度に負けて相撲の楽しさを伝える企画だ。この次には、賞金付きのトーナメント「ダリウス杯」も二回企画されている。
「さあっ、おいらに挑戦する子どもはいないか」
 ムゥの声は生き生きしている。
「えええっ! 相手がたくさんすぎますぅ」
 マルキアと対戦希望をする、というより彼女に投げられたいという男性はえらく多い。
「どうぞ、おひとつ」
 雪華は、持参したどぶろくを河童力士や村の老人に振る舞って交流している。
「こりゃあ、ええ場所になったのう」
「もう。大しめ縄の取り替え、どうするのよぅ!」
 満足そうな神主に、心配性の巫女。
 もちろんこの後、冒険者に手伝ってもらい大しめ縄も無事に取り替えられたという。