悪魔が甘酒飲んで何が悪いのよ!
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 19 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2009年01月11日
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●オープニング
「田舎なんでのう、わがとこの村は」
村では、緊急の寄り合いが開かれていた。
「しかし、今年の三が日の最終日に山鬼がおったんは神社の裏に広がる森の中でのこと。寄ってきて暴れるとかじゃないんで大丈夫じゃねぇか」
「いやあ、前回は前回。今回は境内まできおるかもしれん」
「前回は前回っちゅうんなら、今年は森にすら姿を見せん可能性もあるぞ」
何やら揉めているのは、村で一番大きく初詣客が多く訪れる神社のことだ。前回の一月三日に、その神社の裏の森で山鬼を見掛けたという情報があったのだ。
「いや、きおるで。今回も」
ある村人の断言に、ほかの者が「なぜじゃ」と問い詰める。
「その山鬼、何かを飲んどったという話も聞いた」
おう、あったあったと別の者。
「ありゃあ、もしかしたら神社で振舞っとった甘酒じゃねぇか?」
そんな馬鹿な、と一笑に付す一同。
が。
「‥‥あるかも知んねぇよ」
賛同者が、いた。若衆の一人である。
「そこまできたら甘酒飲みてえじゃねぇか。俺なら、飲みたい。だって、うまいんじゃから。鬼が飲みたがって何の不思議があろう」
「この若造が。無茶苦茶言うな」
「まあ待て。百歩譲って鬼が飲んでたとしよう。じゃが、どうやって甘酒を手にいれたんじゃ? 森から出て姿をあらわそうなら、大騒動じゃ」
反論が怒涛のように返ってくる。しかし、「あっ!」と思わず声を上げる者もいた。
「村の者じゃない、べっぴんな娘さんがおったらしい。それが、甘酒二つを持って森に入っていったらしいぞ」
「ええっ! わしが聞いた話じゃ、妙齢でえらい色気のある女性が甘酒二つ持って森に入っていったって‥‥」
「どっちにしても、誰かが鬼の分の甘酒を持って行っとる、ちゅうこっちゃな」
「というか、これって秋の例大祭の神楽ん時と同じじゃねぇか?」
実はこの村。神楽を見に来る妖怪やら鬼やらの警備を冒険者達に頼んだ事がある。
「神社にゃあ三が日中、近隣の村からも多くの参詣者が集まる。何とか穏便に収めんとおおごとになる。今回も、冒険者に頼もう」
「そうじゃ。今回も、あくまで退治じゃなく警備で。下手に山鬼やらを退治して逆恨みでもされたら、今までのように互いに付かず離れず平和に暮らすこともかなわんなるやもしれん。参詣者にけが人やらが出んようにしてもらおう」
「そうじゃそうじゃ。大晦日から二日に見掛けたっちゅう話は聞かん。最終日だけじゃ。鬼やら妖怪どもも気を使ってくれとるに違いない。こっちも気を使ってやらんとな」
こうして、村の総意は『今回も頼む』に落ちついた。
が。
「前回の報告では、確か夜叉もいたはずですね」
「いや、いたはずって言われてもよう。こっちゃ、冒険者様に任せっきりじゃったし」
冒険者ギルドを訪ねて仕事を依頼した村人は、受付係の確認に鼻白んだ。
「それはそうですな。失礼しました」
係は素直に謝る。現在、悪魔の集団が突然現れて猛威を振るっているなど騒ぎが続いている。自然、悪魔が関係する事件に敏感になっている。
「取りあえず、依頼は承りました。一月三日に甘酒を振舞う午前中の警備を中心とした、参詣客の安全確保の内容でよいですな」
村からの使いは、「間違いないです」と肯くのだった。
●リプレイ本文
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依頼のあった村は、三が日最後の賑わいを見せていた。村内外の人で往来はにぎやか。神社の境内も、今年の無病息災を祈る人や無事にお参りを済ませた人がゆるゆると行き来していた。拝殿の大しめ縄は新たに掛けかえられたのか、三の鳥居などの大しめ縄と比べ青々としている。たっぷりと中心部に太さがある、立派なものだ。父親に肩車をされた子どもが、楽しそうにその大しめ縄から垂れる房飾りに触る姿もある。
時は、朝。
神社で甘酒を振る舞う時間には早いが、冒険者三人組は現地を歩いていた。
「前の神楽の時は、山鬼たちの纏め役は夜叉のヨモさんだったわよね」
紅一点のセピア・オーレリィ(eb3797)が、ゆったり波打つ真珠色の髪をなでながら言った。
「どちらかといえばヨモさん達を普通の参拝客から守るという形になるんですかね」
左様、と前置きしてから話を継いだのは、宿奈芳純(eb5475)。赤い八卦衣が目に鮮やか。巨人族で背が高いが、柔らかい物腰からか威圧感は比較的薄い。
「このご時世にそんな妖怪達がいるんですね。いや、冒険者やっててよかったです」
くすっ、と涼やかに微笑するのは、雀尾嵐淡(ec0843)。セピアの言う「前の神楽の時」にはいなかったが、通常では珍しい鬼や妖怪たちとの酒宴の話は聞き及んでいる。それにしても、芳純の表現が気に入ったようで「やっててよかった」のところで思いがじんわり顔ににじむ。
「でも、今は地獄での騒乱の真っ最中。どうも欧州のデビルが中心みたいだからこの国のデビルには関係が薄いかもしれないけど、さすがにそっちに出張ってるかもしれないわよ」
世相を交えて類推するセピア。一理ある。
芳純は、「ふむ」と一言。まずは彼女とがっちり連携して比較的人の真似をしたがるこの界隈の山鬼たちを大人しくさせることが第一と考えていた。仮にヨモがいなければ、目論見の前提が崩壊する形となる。ちなみに嵐淡も懐柔策が一番と考えており、大人しくしてもらうための手土産を用意していたりする。
ところで。
三人の立場を改めて見てみる。
セピアは、神聖騎士。
芳純は、陰陽師。
そして嵐淡は、僧兵で神主。
神事に感心の高そうなメンバーがそろっているといえるが、しかし。
(聖職者が鬼やデビルとの再会を楽しみにしてるというのも問題だとは思うけど)
苦笑するセピアの内心。
(まあせっかくの機会だから楽しませてもらうつもりで)
そう。彼らは同時に冒険者であるのだ。
(‥‥大分、この国に染まっちゃったかしらねぇ)
続けてセピアは苦笑するのだった。
●
ともかく、境内では甘酒の準備が始まろうとしていた。不思議な草履や俊馬で旅程を縮めていた冒険者たちはすでに前日までに十分な情報収集と打ち合わせをしている。予定通り、三人は配置につき警備に当たった。
セピアは、事前情報に従い裏の森に。
嵐淡は、生体反応探査魔法で境内を注意。
そして、芳純。
おもむろに巻き物を広げると、熱源探査視覚の魔法を自らに掛けた。これを軸に警戒するつもりだ。望遠視力の魔法も併用したところで、早速森の奥に山鬼らしき熱源を発見した。
『里神楽の際にお世話になりました陰陽師の宿奈芳純と申します。恐れ入りますが夜叉のヨモ様はおられますでしょうか』
鬼の方に近寄ってから、テレパシーの魔法で意識を送る。赤い山鬼は「ええっと」と頭をかく。
「はっ!」
瞬間、芳純は振り返った。
「ちぇっ。面白くない」
そこには、色香漂う妙齢の女性が立っていた。夜叉のヨモである。またも芳純の頭を叩こうとしていたらしい。
「これはこれは。先日の里神楽では妖怪達を取りまとめて頂きありがとうございました」
「何を堅っ苦しいこと言ってんのよ。あんたらがいるってことは、またアタシたちを見張ろうってわけね」
芳純にとっては、話が早い。参拝客とはつかず離れずの状態でいいのでなるべく人目につかない形で新年の参拝を見守ってほしいとお願いし、彼女に土産として甘酒二つと越後屋印の吉備団子を進呈した。
「それはともかく、ちょうどいいわ。山鬼三匹にアタシ、そんでさっちゃんに‥‥あんたたち何人? そう、それじゃ八人分甘酒をもらわなくちゃならないんだから手伝ってよ」
「さっちゃんとは?」
「前に精吸いがいたでしょう? あの娘」
「なぜに『さっちゃん』?」
「いつも小さく吸うから。おかしいね」
おかしいかどうかはともかく、ヨモと芳純は出て行くわけにはいかない山鬼の代わりに、村の甘酒をもらいに行くのだった。
●
そのころ、嵐淡。
「恐れ入りますが、それ以上近づきますと参拝の方々に気づかれ、いらぬ騒動が起こるかもしれませんので」
参詣客中に、生命反応のない人物を発見していた。すっと近付き、こっそり告げる。
相手は、べっぴんな娘だった。さすが僧侶というべきか、アンデッドの妖怪、精吸いであることを理解している。「さっちゃん」という名前まではさすがに看破はできないが。
が。
「へええええ、いい男」
くねりと秋波を送り、甘えてきた。「私、ちょっと『欲しい』のよね」とも。
「私のでよろしければご遠慮なくどうぞ。ああ、ただし私が妖怪にならない程度でお願いします」
ふう、とため息を吐いて紳士的に言う嵐淡。当然、精吸いが求めているのは血だ。
彼は自らの腕を傷付けて精吸いに血を提供しようと、マグナソードを抜いた。
その時だった。
「野、暮」
ふっと、精吸いが剣を掴んだ腕を押さえ、身を寄せてつぶやいてきた。うふふ、とにんまり笑む。
「妖怪にならない程度って、愉快な方ね」
甘い声。
ぐっと、だましの雰囲気を盛り上げる精吸い。嵐淡の右腕を持ち上げ吐息を吹き掛けたり頬擦りすりような仕種を見せては、見上げて視線を合わせる。まつげが淡く震えている。
ぞっ、と嵐淡は背筋に寒気――いや、快感か――を感じた。あるいは、危険な恋の駆け引き、戦場での緊迫感。
――かぷり。
精吸いが、腕に噛み付く。ちくりとした痛みに、吸われている未知の感覚。どくん、と心臓が高鳴る。軽傷相当のダメージに、わずかにくらりとする。
(これが、精吸いか)
彼は、しみじみと思い知った。
「って、吸い過ぎでしょう!」
「うふふ。ごめんなさぁい」
けぷっ、と口を軽く押さえ満足そうな精吸い。嵐淡は、やれやれとポーションを飲んで回復しておくのだった。
そして、森の中。
けぷっ、と満足そうにする女性が一人。
「悪魔が甘酒飲んで何が悪いってのよ!」
ヨモである。車座に腰を落ち着ける山鬼どもも、「オオッ!」と同調する。さしずめ、「オークが甘酒飲んで何が悪いんだよ!」というところか。
一緒に車座になっている芳純とセピアは、杯を弄びながら嫌な予感に襲われるのだった。
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そもそも発端はセピアがヨモに、それとなく「ここでこうしてていいのか」と聞いたことである。甘酒で楽しく乾杯した後のことである。ヨモ、「そうなのよ、ちょっと聞いてよ」と酒を取り出したのだ。ここから、アルコールが入りはじめる。
「何とかなさいよ、あんたたち」
きゅっと飲み干し、彼女は言う。
「何とかって、何でしょうか?」
明確な単語は出てきていない。すっとぼけた振りをして芳純が尋ねる。
「悪魔が徒党を組んでいきなりやって来たり、犬っころが地獄の門の前で気炎を吐いてたりするこの状況に決まってんじゃない」
あんたたち冒険者でしょう、とヨモ。また、杯を傾ける。
「同族のことを悪く言っていいのですか。悪魔ってのはすべからく地獄耳でしょう」
真相はともかく、今日の芳純はうまいことを言う。
「知らないわよ。‥‥そもそもねぇ、アタシらは先に来てやってるのに、何も知らないのよ。まずはちゃんと連絡くれるってのが筋じゃない?」
またも杯を干す。どうも今日のヨモさん、荒れ模様。山鬼どもは芳純からもらった甘酒や団子を手に、うんうんと肯く。
「先に来た悪魔の援軍とか?」
セピアが酌をしながら聞く。
「アタシらの働きが悪いからって? ふん。アタシはねえ、この村を後からおいしくいただこうと今まで大切に大切に育ててきたのよ。それを、後からほいほいやって来ておいしいところだけとられちゃかなわないのよね。‥‥っと、その時は容赦なくかかってきていいわよ」
「こんな地方の村にも来たの?」
驚いたふりをしながら情報収集に励むセピア。ヨモは、首を振る。
「まだだけど、来られちゃ困るからイライラしてンのよ。‥‥あ。酒、なくなっちゃった」
そこへ、精吸いと一緒に嵐淡が現れた。すかさず嵐淡は、用意していた酒やつまみを差し出した。
「へえ、端麗辛口。‥‥結局、あれよ。どの世界でも身分が上の奴ってのは好き勝手してさ。馬鹿を見るのはいつだって末端。あんたらもそう思わない?」
ヨモは、魔酒「呑大蛇」が気に入った様子。山鬼どもは、目を輝かせながら「幸せに香る桜餅」を食べている。
「ところで、ケルベロスに弱点などは?」
交渉に立つことが多い芳純は、うんうんとヨモの主張に肯いてから話を逸らした。
「言えるわけないでしょ! ただあの犬、口が三つもあるせいか余計なこともしゃべるようね」
「というと?」
「さあ。ま、想ってみることも少しは効果があるってことじゃない? ‥‥っていうか、村人が近寄ってんじゃない。なんとかなさいよ」
遠くの木の影を指差すヨモ。慌ててセピアが注意に立った。
この後、嵐淡が見事な飲みっぷりを見せ、山鬼とヨモ、さっちゃんらと盛り上がったという。
●
結局、三が日最終日も無事に終わった。
「まあ、正月じゃから。大入りじゃったし」
冒険者三人は村から感謝の言葉と金一封をもらい、翌日京都へと戻っていった。
「世の中が万事こんな村みたいでしたらどんなに良かった事か」
嵐淡は振り返るとそう言葉を残し、仲間を追うのだった。