雪崩の村と悪魔の跳梁
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 10 C
参加人数:9人
サポート参加人数:5人
冒険期間:02月20日〜02月26日
リプレイ公開日:2009年02月28日
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●オープニング
村は、予期せぬ不幸に見舞われていた。
そこはちょうど山間でもともと寒いが、今年はなぜか肌寒さがそれほど感じられない割に雪が多かった。積雪も、村としては過去に例がないほど。庭などでは、足首よりも高く積もった。それでも村はまだいい方らしい。山々では、入る者が「とても奥に行けん」とあきれるほどの積もり具合だ。
「山の神様が風邪でも引いとるんじゃねぇか?」
「いやあ、ただの偶然じゃろう」
「何にしても、悪い事が起きねば良いが」
村人たちはそうささやき合った。
後日。
「雪崩じゃあぁぁぁ〜!」
どうも世の中悪い予感は当たるようで、村を雪崩が襲った。
どどど、と自然の猛威が地鳴りとともに押し寄せる。白い大波は怒涛の激しさ。樹木をなぎ倒し家を押しつぶし、人を飲み込んだ。
やがて圧倒的雪量の流入が落ち付いた時、村の約三割強が雪に沈んでいた。居宅が密集していない場所だったので飲まれた民家は村の約二割程度で済んでいる。
が、不幸中の幸いとのんびり構えるわけにはいかない。飲まれた住民がいまだ雪の中にいる。分厚い雪で自力脱出が見込めない状況で、生命の危機に晒されていた。村は急ぎ救助隊を組織した。
いざ仲間を助けんと有志が雪かきに取り掛かる。
その時だった。
「おわっ。なんじゃ」
雪の中から、何かが飛び出した。
「シシシシシシシシシ‥‥」
毛むくじゃらの化け物どもだ。大きな犬のような姿で、十匹程度が不気味な笑い声とともに散って行った。
「ゲッゲッゲッゲッ‥‥」
村人が腰を抜かしたところ、さらに笑い声がした。今度は、がっしりした体つきの褐色の肌をした大男三人が雪の中から現れ同じく走り去って行った。
「ホホホホホ‥‥」
さらに女性が雪の中から出てきた。すぐに大きなカラスの姿に変身すると、翼を広げて飛び去った。
どかん、とさらに雪の中から飛び出すものが。
「だ、だ、大蛇じゃぁ〜!」
悲鳴を上げる村人をよそに、現れた巨大な蛇はずざざざざざ、と先の化け物どもを追って行く。やたら長い。表面は雪にまみれているが、岩で被われているようだった。
「ひいいいいぃぃぃぃ〜! 雪だるまが襲ってきおる」
今度は、雪の中から雪だるまが現れた。ぴょんぴょん跳ねて村人に迫る。こちらはあきらかに村人を狙っていた。数が多く、たちまち混乱に陥る村人たち。ぶちかましを食らって負傷する者がいれば、足を滑らせ危うく難を逃れる者もいる。
「い、いったん逃げろ」
運良く救助隊は、雪かきをするための道具を持っている。この長物を突き出し距離を保つ事で無事に撤退に成功したのだった。
「‥‥と、いうわけで村は無茶苦茶じゃ。事を収めるのに協力してもらえんじゃろうか」
京都。冒険者ギルド。
雪崩と化け物被害に遭った村人がギルドの担当者に懇願している。
「事を収める、とはつまり」
被害状況を哀れみながら、担当者は指折り数えた。
「雪崩の雪を根城にして近付く者を攻撃する雪だるまどもを追い払い、雪の中から出てきて村で悪さをする化け物を退治し、雪崩被害者の遺体を回収するための雪かきをする、ですか?」
「左様ですじゃ。‥‥あ、いや。雪かきは村のもんがするがの」
肯き、若干の訂正をする村人。
「あれから、村ではおかしなことばかり起こっておる。突然民家が燃えたり、しゃべる大きな犬がうろついていたり。岩の大蛇が背中に羽のある大きな化け者と戦っとるのを見た者がおれば、突然吹雪が吹き荒れたりしおる。美しい女性が雪崩の雪の上に立っとるのを見たいうもんも、おる。お願いじゃ。村を、元の平和な村を取り戻すのに手を貸してくれんか」
(悪魔と精霊の戦いに巻き込まれた、か。なんとまあ運のない)
どんどん話が大きくなるのを聞くにつけ、同情の念を噛み締めるギルド担当者。
「分かりました。すぐに募集の手配しましょう」
大きく息を吸い込んで力強く言い放ち、村人を元気付けるのだった。
●リプレイ本文
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「ほんま、肩透かしやわ」
九烏飛鳥(ec3984)が頭を掻く。その隣では空漸司影華(ea4183)が陣羽織のたもとに両手を突っ込んで難しい顔をし、さらにその横でルンルン・フレール(eb5885)がため息をついている。
「どういうことだ?」
備前響耶(eb3824)が、悪魔退治のため先に村に到着していた三人に聞いた。村に冒険者の本隊が到着した、二日目の深夜のことである。
「悪魔は派手に暴れているものとばかり思ってたけど‥‥」
「姿が見えないんです」
影華が顔を上げて言い、ルンルンが言葉を継いだ。
「精霊さんたちは、どう?」
気になるのだろう、ステラ・デュナミス(eb2099)が熱心に聞く。
「西も雪小僧がたたずんでいるだけで静かそのもの」
「雪達磨さん達は、きっと何か事情があるはずです」
肩をすくめる影華に、「だって親切な達磨さん達に会ったことあるもの」と続けるルンルン。飛鳥も「村人はん、松明か何かで雪の精を刺激したんと違うか?」と推論を巡らせる。
「ともかく、俺は情報収集をするぜ」
悩んでもしょうがないじゃんと、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)。ついでに悪魔がいろんな場所で悪さをしていることも伝えるつもりだ。
「では、俺は空から広範囲を見張る」
アンドリー・フィルス(ec0129)は、ペットのグリフォンに騎乗する。
「僕は、最初の計画通りステラさん達と精霊の方に。カンタローも連れて行きますよ」
今度は、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)。ふわりとした衣装と七色のリボンが可愛いらしい。
「あ‥‥。カンタータ様、メメくんも‥‥同行させてほしいです」
慌てて口を挟んだのは、水葉さくら(ea5480)。
「水の精霊同士、仲良くなってもらって‥‥」
「ともかく、雪の下の村人は絶望的だが、生存の可能性は零ではない。早々に決着をつけるぞ」
さくらの言葉の途中だったが、響耶はすぱっと話をまとめるのだった。
●
翌朝。
冒険者たちは大きく四つに分かれた。西の精霊たちの説得にはステラ、カンタータ、飛鳥が当たり、東の悪魔索敵には影華、さくら、ルンルン、響耶が向かった。グリフォンに乗ったアンドリーが空から広範囲に見張り、クロウが聞き込みという布陣。
さて、精霊の説得組。
「ん?」
最初に気付いたのは、飛鳥だった。殺気に対しては敏感だ。続けて、指輪を確認する。
石の中の蝶。
そう呼ばれる指輪だ。悪魔が近付くと内部に彫られた蝶が羽ばたく。
しかし、周囲に悪魔らしき姿はない。飛鳥は降魔刀をすらりと抜いて警戒する。
ここで、ぱららんとリュートが響いた。
『さぁさぁ遠くは寄りて来い、近らば並び目にも見よ』
カンタータの演奏だ。メロディの魔法を澄んだ歌声に乗せる。何とも心引かれる曲で、できるだけ近くで耳をそばだてじっくり聴きたくなる繊細な音だった。
『水使い、稀代の魔女のお出ましだ 汝ら目掛け吹雪が〜見舞う〜』
「出てきたで!」
木々の間から、わらわらと黒い犬が姿を現した。叫び声とともに敵影を目算する飛鳥。その数、六体。犬の姿をした悪魔、邪魅だ。
「分かってる。一気に蹴散らすわよ!」
瞬間、ステラのアイスブリザードが猛威を振るった。間髪入れず殺到する飛鳥。手数重視でデビルスレイヤーの刀を振るう。敵は吹雪をもろに受けて半死半生。止めを刺して回る形だ。カンタータも影爆破の魔法で援護する。
(これで、私たちは味方だって分かってもらえるといいけど)
そんなことを思いながら、ステラは雪小僧がたたずむ雪崩跡を見るのだった。
●
一方、村の東の外れ。
「む」
響耶が立ち止まった。指にはめた石の中の蝶に反応があったのだ。
「こっちだ」
仲間の先頭に立ち、じりじりと林の方に近付いていく。石の蝶の反応は増すばかり。響耶は、悪魔がその方向にいると確信し、警戒を強めた。
――ざっ!
「来たぞっ!」
痺れを切らしたように悪魔の影が現れる。犬のような悪魔、邪魅が林から出てくる。数は三体。すかさず詰め寄る冒険者達。ルンルンはその場で忍法。大ガマを呼び出す。「パックンちゃんGO!」の掛け声は勇ましいが、役目は射撃の盾だったりする。
と、ここで邪魅どもの体が一瞬だけ黒い霧のようなもので包まれた。
「ぐっ」
詰めていた三人は突然、軽い怪我の痛みを感じた。生命力奪取の魔法である。さらに、後方のルンルンには魔法の黒い炎が命中し軽いダメージを負った。もう一匹隠れているのだ。
「ひっどいです!」
ルンルンが怒りの一撃。魔弓から放たれた弓が邪魅一体に命中する。一撃で敵の動きが鈍る。さらにもう一射。確実に当てて敵の足を止める。
「閃空斬!」
前線では、影華の振り下ろした刀が襲いかかる。
「そんな悪魔な魔法使っちゃ駄目です」
神聖騎士・さくらの佐々木流の一撃が下から襲う。
(簡単に言うと雑魚だったな。ステラ殿の情報では)
響耶は韋駄天の草履で一気に距離を稼ぎ、隠れた邪魅を屠っていた。デビルスレイヤーは効果覿面で、一刀の下に斬り殺している。
(しかし、鳥女がいないな)
彼が思う間に、最後の一匹もほかの三人が仕留めていた。
●
そのころ、村の上空。
(‥‥いない)
アンドリーは苛立っていた。
岩の大蛇も鳥女もいないのである。
(まさか)
そして彼と同じく、まさかと思っている者がいる。
「どうやら、雪崩直後はデマが飛び交ったっぽいな」
クロウである。村の聞き込みでの手応えをひとりごちては、しきりと考えている。
彼の聞き込みではほかに、人間型の悪魔の目撃件数が低いことが浮かび上がっていた。もっとも、悪魔になじみの薄い村での事。どれが悪魔であるか村人に見当はつかないだろうが、不審な人物や化け物がいれば話題に上る。犬型の悪魔が「不気味な犬」として目撃多数となっている事が良い例だ。
「背中に羽のある大きな化け物、の裏が取れん。デマじゃねぇか」
ここで、彼の指輪に反応があった。石の中の蝶である。
「まさか、な」
場所は不審火で家を焼失した夫婦が身を寄せているという民家だ。
「だが、ここの住民はほとんど顔を見せなくなっているらしぃからな」
すっと、壁に身を寄せる。指輪は、この中に悪魔がいると言っているに等しい。
中の様子を探ろうと窓の跳ね板をちょっと上げたが、これが裏目に出た。
彼は隠密行動に長けている。自信もある。
「誰だっ!」
だが、ばれた。
(飛んで火に入る夏の虫、だったか)
冒険者が到着したのが分かっていれば、待ち受ける事ができる。技術的な失敗ではなく、前提の失敗だったかと思ったところで玄関が開く音。黒い炎が飛んできて命中した。
運が良かった事に、この場面を目撃していた者がいる。
上空のアンドリーだ。
「悪魔め、火を放つか!」
彼が見たのは、玄関からの魔法がクロウに命中する場面。そして玄関から逃げる男三人に女二人の姿。どうやら変身していたようで、男は筋骨隆々とした体つきになった。住民に成りすまして潜伏していたものと見られる。そして怒りの声を上げたのは、逃走間際に油をまいての放火した事。
許さん、と急降下するアンドリー。すでに自身や魔剣テンペストにはオーラやパラディンの魔法で強化している。男――正体は、羅刹――は、突然の空からの来襲に身を構えるが、あえなく一撃の下に斬り殺される。それでも、残る四体は逃げる足を緩めない。
「おい、西に行く気じゃねぇのか」
追ってきたクロウが手にしたデビルスレイヤー・破魔弓で一射してから言う。しかし、これは外れ。
「外れて良かったかも知れないわ。さっき奴等、魔法を使ったようだったから」
騒ぎに気付き、戦闘後の影華がやって来て遠目で見た情報を伝える。ちなみに、デスハートンで奪われた生命力はすでに取り返している。影華・ルンルン・さくらも到着した。
「防御力進化の魔法を使ったのかも知れんな」
「一撃で倒せば良いだろう。とにかく行くぞ」
響耶が思案し、アンドリーが仲間を急かした。
●
その時、西では。
「ふう。何とか理解してくれたようね」
「カンタータはんの説得メロディが良かったんやろな」
「いえ。カンタローやメメくん、そしてリリーがいてくれたからですよ」
冒険者達が連れてきたペットと遊ぶ雪小僧とそれを見守る雪大王を見ながら、ステラ・飛鳥・カンタータはほっとしていた。とりあえず、これで精霊たちと戦わなくてもすみそうだった。
が、しかし。
「おおい、行ったぞ」
背後からの声。
そして、精霊達が陣取る雪の上に突然雪女が現れた。
――ゴウッ!
いきなり炸裂する雪女のアイスブリザード。狙いは、三人とペット達の後方に迫っていた悪魔。西組、東組問わずほとんどの冒険者とペットがこれに巻き込まれる。
そこへ、岩の大蛇が地面の下から突如出現。グラビティーキャノンが迸る!
「ひどい‥‥。でも、負けません」
さくらは尻餅をついたが、すぐに気を取り直し薬で回復。戦いを続ける。
「すまねぇ、響耶さん」
クロウは響耶から手渡された薬を飲むと、再び弓を放つ。とっておきのホーリーアローだ。ルンルンの射撃と合わせ、精霊の攻撃に巻き込まず・巻き込まれずの戦闘では、ことのほか効果を上げていた。
「必ず、村に平穏を取り戻してみせる‥‥空漸司流暗殺剣奥義、神虚滅破斬!」
手負いの影華が、チャージ&スマッシュ。
「悪は断つべし」
アンドリーのパラスプリントからの斬撃。
ほかの冒険者も回復できる者は傷を癒し、悪魔と大蛇の動きを読んで打撃を与える。
結局、妖精と冒険者の微妙な共闘関係の下、悪魔たちの全滅に成功。妖精たちは山へと帰っていった。火災は、ステラの魔法で鎮火した。
結局、雪崩の雪かきが完了するのに十日以上掛かったが、冒険者達は傷付きながらも村に平和を取り戻してくれたと大層感謝されたという。