狼頭の剣客
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月12日〜03月18日
リプレイ公開日:2009年03月20日
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●オープニング
大きな橋だ。
「物盗り騒ぎが収まったと思うたら、今度はもののけ騒ぎかい」
「剣呑、剣呑」
町民らはそうささやき合って、見ない振りをして通り過ぎる。
だれもその大きな橋を渡ろうとはしない。上流・下流に回りこめば小さな橋があるが、どちらもかなり距離は離れている。この橋が使えないのは町にとって大きな損失だった。
「しかし、あのもののけは何をしに来ておるのだろう?」
町民はそう首を捻る。
反りと欄干が見事な大橋に陣取るもののけは、白狼の頭を持っていた。巨人族ほどの身長で、法衣を着込んでいる。橋の中ごろで欄干に腰掛けては両のたもとに目を光らせている。まれに、武芸者の風体をしている者が付近を通れば、頬深く伸びる口を引き上げ牙を見せる。威嚇ととるか笑みととるかは、目撃した町民によって異なる。
もののけの腰には、見るも立派な刀。
「業物、だな」
目の肥えた商人は遠目に見ては、感心する。もののけは、三日や四日を開けて、決まって夕刻に現れる。
「事が起きる前に何とかしないと」
当然、不安の声は広がる。
「あ? ええよ、ええよ。もののけと言っても、襲ってくるわけではないしなぁ。魔除けの代わりに、おいておきゃあいいよ」
この町のぐうたら役人は、動く風も無い。
町の不安に立ちあがったのは、札付きの悪党だった。
「天下の橋を盗んみやがるたぁ、許せねぇ。この俺様が横取り‥‥もとい、取り戻してやらぁ」
噂を聞いて、強盗団がこの町に訪ねてきた。
「天下の往来は俺等の仕事場だ。そこに橋がありゃあ、通行料を取る。それを荒らす奴は、何人たりとも許さん!」
街道を荒らす者らの言い分はともかく、彼ら四人は橋の両たもとからもののけに突っ込んだ。
瞬間。
もののけが空を飛ぶように跳ねた! 天狗のような跳躍だ。右のたもとから来た二人を斬る。
そして、またふわりと軽やかな跳躍。今度は反対の二人。
カキィン、ガキィン、と剣戟の音が響く。
業物を目の前、横一文字に構え膝をつく狼頭の天狗。やがて、すっと身を起こした。その背後で二人が倒れる。
狼頭の天狗は、はんっ、と頬深い口の端で笑う。そしてひらりと空に舞い上がり、いつものように山の奥の奥へと去って行くのだった。
「ほうら、見ろ。手柄が転がりこんできた」
ほくほくと役人は苦痛にうずくまる強盗たちを捕らえ事後処理に当たった。
その翌日。またも町人の騒ぎ声が響く。
「うわあ、また来おったで!」
にたりと、狼頭の天狗。もちろん、腰掛けるのはいつもの欄干だ。腰には変らず、業物のひと振り。
「こりゃあ、剣で負けるまで来おるんじゃねぇか」
商人の連中は、また手柄が転がりこんでこないかなぁなどと内心思っている役人に見切りをつけ、金を出し合い冒険者ギルドに頼む事にしたのだった。
●リプレイ本文
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「そして今日も日が沈む‥‥っと来たもんだ♪」
河童の黄桜喜八(eb5347)は、仰向けになって暮れゆく空を見上げていた。行動開始から三日目、依頼のあった町の川での事だ。
「器用に泳ぐもんだな」
件の橋のたもとの岸から彼を見下ろし、カノン・リュフトヒェン(ea9689)がつぶやく。
「ふみゅー。さすがですね。『河童泳ぎ』でしょうか?」
その横で、アミ・ウォルタルティア(eb0503)が手を両の腰でぱたぱたさせながら目を輝かせている。
「‥‥さあな。『川流れ』でないことは確かだ」
「好きにさせとくさ。それより、例の剣客はやはり今日あたりに来そうだぞ」
カノンが冷たく言ったところに、円巴(ea3738)がやって来て言う。飛脚などから聞き込んだ手応えを話す。
「白狼天狗なんは分かったけど‥‥。空振りやったなぁ」
頭を掻きながら九烏飛鳥(ec3984)もやって来る。
「天狗さんにやられた人たちに会ってきたけど、『弱い、つまらん』って言われたみたいね」
そして最後に集合場所にやって来た、アレーナ・オレアリス(eb3532)が告げる。一同、「やっぱりか」という風情で空を見上げた。
と、そこに空を駆ける影が見えた。法衣を来た白狼天狗である。ととん、と橋の上に降り立つ。
そして冒険者五人を見るかと思えば、そうでもなく。橋の下に視線をやっては眉間に皺を寄せる。向きが徐々に五人に近付くと、ざばーっと喜八が姿を現した。
「な、なんでい。‥‥こちとら遊んでいたわけじゃねぇぞ」
一同、泳ぎたかったんだな、と理解した。
●
「こんにちはですよー。私はアミといいますですー、ちょっとお話してもいいですかー?」
気を取り直して、予定通りアミが話し掛けた。手ぱたぱた。
「みゅー、あなたのお名前を教えてくださいですよー。この橋で何か待ってたりするのですかー?」
アミ、橋には足を踏み入れていない。武器の長弓「鳴弦の弓」は仲間に預けて敵意のない事を示している。
「ああー。言葉、しゃべれないですかー? ヒンズー語の方がいいですかー」
白狼天狗は、明らかに呆れていた。無言のままぽりぽりと指先で頬をかいている。それでもアミの方は、元気に自己紹介したり町の人が困っている事などを一方的にしゃべる。
話の途中、突然白狼天狗の表情が変わった。ふんふんと黒い鼻先を利かせる。
「酒‥‥飲む?」
喜八が持参した珍酒「犬饗宴」を取り出したのだ。
「その酒、気に入った。力ずくで奪いに行くので守れよ。‥‥主らも橋を返して欲しければ、力ずくでくればいい」
にやり、と白狼天狗。喜八の方は、そんなつもりではなかったのだが。
「ここは私が。納得して退去していただこうかな」
優雅な仕種でアレーナが前に出た。帯びた魔剣・デュランダルを抜いて橋に足を踏み入れる。
「私はレオン流のアレーナ。いざ!」
全身を躍動させるような動きで詰める。技と自在の流派らしい入り方だ。
「あっ!」
「ほう」
ここで、見守っていた飛鳥と巴が目を光らせた。
●
何と、白狼天狗が抜いたのは片刃反身の飛鳥剣だった。飛鳥と巴の持つ剣と同じである。
ここで、戦局が動いた。白狼天狗が一気に間を詰めたのである。いや、自分を捨ててきたと言うべきか。アレーナの打ち込みに飛び込んだ。
ガシン、と剣同士がぶつかる音が響く。
一撃を封じられたアレーナは、反撃を警戒し盾を掲げながら横に逃げる。天狗は死中に活を得たにもかかわらず、反対横へと引いた。
にやり、と天狗。が、立ち合い一つにもかかわらず肩で息をしていた。
一方のアレーナは、そこまで乱れていない。
そして、また間合いが詰まる。今度は白狼天狗が先を取った。薄刃による軽やかな斬撃。虚をつかれたが、かろうじて盾で受けるアレーナ。何とか間に合ったという体だ。
しかし、がっちり受けた事で立場が逆転した。彼女は、引く天狗にきっちり詰め、横なぎの一閃を見舞う。伸ばした右腕に確かな手応えが伝わった。
がくりと天狗は片膝をつく。待ったの手を伸ばすとリカバーポーションを取り出し一気に飲み干した。
「ワハハハ、負けた負けた。実に愉快。これがレオン流か。‥‥次は誰だ?」
「敗者に鞭打つ気はないが、同じ剣なら話は別」
天狗の挑発に、巴が乗った。
「夢想流、円巴。‥‥挨拶代わりだ」
華やかな鎧姿の巴が、橋の外に向けひゅおっと遠当てを放った。ソニックブームが飛んでいく。
「ふん、林崎重信が流派か。面白い」
いざ、飛鳥対飛鳥。
巴の初太刀必殺を天狗が受けきれば、天狗のシュライクを巴が見事にかわす。
攻防一体の数瞬ののち、遠い間合いで落ち着く。
ここで、巴が腰を落として下段に構えた。剣に何やら語り掛ける。
「‥‥高鳴れ、『飛鳥』!」
改めて、彼女の黒い長髪が踊った! 腰を落としての斬撃。無論、距離がある。遠当てだ。足音がキュッ♪と鳴ったのはレミエラの副作用。
「一度見た技は二度と通用せん!」
ソニックブームを刀受けする天狗。が、ここで彼の瞳は驚きで見開かれる。何と、まるで飛び道具を刀受けする時のような難しさで、受けきれなかったのだ。
「よしッ!」
策が当たって会心の笑みを浮かべる巴。しかし、これがあだとなった。
次の瞬間、文字通り一直線に飛んできた天狗から柄尻の一撃を食らった。後方に吹っ飛ぶ。
「抜合の技も新しくなったな。が、油断は大敵」
またも薬を取り出しあおる天狗。
「弱ったなぁ。うち、無用に人を斬らん粋なやっちゃと殺し合いするんはめちゃ抵抗あるで」
困った困ったと言うわりに満面の笑顔を浮かべる飛鳥が出てきた。履いていた下駄を脱ぐ。
「あ。これ、暗器や。無粋なもんはいらんやろ。‥‥九烏飛鳥、陸奥流や」
「ほう、聞かん流派だな」
またも、飛鳥対飛鳥。極限まで薄く鍛えられた刃を持つ剣同士が風を切り、ぶつかり合う。踏み込んだ飛鳥を白狼天狗が止めた形だ。飛鳥の方は、天狗の反撃を左手のラムナックルで受け流す。
「腕試しならやり口が回りくどいんやない?」
飛鳥。普段なら蹴りが飛ぶところ、口が出る。表情に余裕はないが、口だけは回る。
「訳ありだ。‥‥それより、そろそろ乱戦もやりたいぞ」
それだけ言うと天狗はさらに一撃を繰り出して大きく飛鳥を回避させた後、飛ぶような跳躍を見せた。
狙うは、アミ。慌てて長弓「鳴弦の弓」を構えている。
「おっと」
喜八が精霊の扇で割って入った。振り下ろしを受け流す。
「橋に居座るもただ誇示するだけの武も迷惑はなはだしい」
座視していたカノンが、ついに動いた。クルセイダーソードの一撃も辛辣な言葉も切れ味鋭い。
「知らぬ流派だな。‥‥では、何のための武」
かろうじて受けた天狗の言葉が響いたところで、予期せぬ事態が発生した!
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「おらあっ、うちとこが兄弟をかわいがってくれた犬っころは、お前か!」
「わしら街道の盗賊をなめんなよ」
「敵討ちじゃあ!」
風体の悪い三人組が突然、橋になだれ込んできた。どうやら先日、天狗にやられた盗賊の仲間であるようだ。ただ者らしからぬ雰囲気があり、かなりの手練の様子。
「邪魔だ!」
「なんだってんだ、こいつぁよぉ」
カノンの怒りに喜八の不平。喜八は石の中の蝶を確認するが、悪魔の類ではない。白狼天狗はまたもひらりと宙を舞うと、橋の真ん中に戻っている。
「タマぁ、取ったる!」
盗賊の一人が突っ込んだ。
が、相手にならない。あっという間に斬られた。
「まださっきの勝負はついとらんでえ」
その隙に飛鳥が乗じる。今度は逆に大きく白狼天狗が回避した。
一方、残りの盗賊二人。
「よしておきなさいって」
一人は、アレーナのスタンアタックに気を失った。
「おおっ! これを避けるたぁ」
最後の一人は、できるようだ。絡めようと放った喜八の金鞭を回避した。
「いや、ナイスだ」
回避した先に、カノンが詰めている。鋭い一撃を見舞い気を挫く。
そして、白狼天狗。
「む?」
気に障る音を耳にした。
発生源を探すと、どうもアミらしい。手にした長弓の弦を鳴らしたようだった。
「隙あり!」
一瞬の間隙を狙ったのは、巴。そして飛鳥だった。
しかし、二本の飛鳥剣は欄干の擬宝珠を打っただけ。
――ザバァン!
なんと、白狼天狗は川に落ちる事でとっさに回避したのだった。
そしてすぐさま、下流から水の音。
白狼天狗が喜八の下に降り立っていた。
「大変満足した。これは返しておいてくれ。意味が分からないなら調べろ」
「分かった。‥‥おいらのとこに来たのは、これだろ?」
喜八は天狗から飛鳥を受け取り、珍酒「犬饗宴」を差し出した。にかっ、と笑う天狗。
「それと、おぬし。山を探しに来たようだな。もうちっょと西を探せ。‥‥では、さらば。楽しかったぞ」
白狼天狗はカノンを指差してそれだけ言うと、ワハハハと笑い声を響かせつつ、山へと飛んで行った。
空には、一番星が輝いていた。
●
「刀剣商がよう、天狗騒ぎの前にあった物盗り騒ぎで被害に遭ったらしい」
喜八が事前調査で分かった事を話した。結局、天狗の持っていた業物「飛鳥」は盗品だった事が分かった。
「ふみゅー。天狗さん、盗賊だったですか?」
肩を落としながら、アミ。
「いや。もう一度山を調べれば分かるだろう」
同じく、事前調査で天狗がやってくる方向の山を調べていたカノンが言う。
白狼天狗の助言通り、前回より西側を調べると盗賊らしき人物数人の死体と高価な盗品が転がっているのを発見した。
「無礼者を懲らしめたはいいが、その中にあった見事な剣を見て血が騒いでしまったということだ。盗品は町に返してやれ。‥‥楽しかったぞ」
森のどこからか、そんな声が響いてきた。あの白狼天狗の声だった。
町に盗品を持ち帰ると、被害に遭った商人達は大層喜んだという。もちろん、冒険者が倒した盗賊を捕らえ手柄を一人占めしたぐうたら役人もほくほく顔だったという。