流派を求めし者
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月24日〜04月29日
リプレイ公開日:2009年05月07日
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●オープニング
「ち、ちくしょう。覚えてやがれ!」
江戸の往来。
尻もちをついていた男はそれだけ言うと、素早く立ち上がってその場を後にした。
「金子を持ち逃げしようとした相手にいう言葉かの。『自分が働いた罪を忘れるな』と言っておるのと同義であろうに」
その場に残された老人は、目を丸くして呆れていた。
「ちょっと師匠。今、わざとお金を奪われたでしょう。ボクが取り返せるか試すために」
爺さんの横には、頬を膨らせて怒る少女がいた。先ほどの男に奪われた金を師匠と呼んだ老人に返しながら、「勘弁してよね」と不満を漏らしている。
「わざと奪われたも何も、金を払ってでも道案内して欲しかったわけじゃしの」
「だからって、先にお金を差し出すかなぁ?」
「お前がおるから安心じゃろ?」
「‥‥ほうら、ボクを試してる」
むー、と機嫌を傾ける少女。老人の方は、「早速新たな体験ができてよかったじゃろ」と笑っていたりる。
(ふむ)
さて、この場面を目撃した男がいた。名は伏せるが、諸国を渡り冒険に次ぐ冒険に身を投じる異国の戦士である。
(背丈格好からして、コロボックル)
背の低い爺さんと、その老人を師匠と呼ぶ背の低い少女を見て考察する。
(スタンアタック、というよりポイントアタックに近いだろう)
女性が狼藉者の戦意を挫き奪った金を落させた一撃を、そう見る。きびすを返して逃げるところ、逆手を取って止め脇腹にもぐりこんで肘鉄をぶち込んでいた。
低身長ならではの一撃。
(つまり、「トゥミトゥム」)
男は、悩んでいた。
自分にしっくり来る戦闘技術とは何なのかを。あるいは既存の流派を訪ね歩けどたどり着けない答えであるかもしれない。
(最近、流派を変えての武者修行が流行っているようだな)
「私も‥‥」
思わず、口に出た。見上げた空に何を見るか。
鎧に阻まれ止めを刺し損なった場面か、冒険中に出会ったパラたちの戦いぶりか。
「よし、決めた」
男は晴れやかな表情で視線を戻す。
しかし、すでに先の二人はその場を後にしていた。
しばらくのち。
場所は変わって、冒険者ギルド。
「そういうことならちょうどいい。さっき、コロボックルの爺さんとその孫娘が江戸案内をしてくれと言われたんだが。‥‥ほら、あそこにまだいる」
ギルドの受付担当は、先ほど名を伏せた男に言った。見ると、確かにあの二人がいる。老人の名は「マクタ」といい、少女の名前は「コクリ」というらしい。
「トゥミトゥムの使い手に指導を仰ぎたいなら、うってつけだ。その流派の指導者らしかったからな。‥‥『江戸で教える気はない』って言ってた気難しい爺さんだが、町なかを案内してやって説得すれば気が変わるかもしれん」
担当の見立てはともかく、男は早速二人に近付いた。
と、少女の方が男に気付く。
「アンタ、名前は?」
男は微笑んで自己紹介した。
「私は、オルステッド・ブライオン(ea2449)」――
●リプレイ本文
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マクタとコクリが待ち合わせ場所に到着したとき、すでに冒険者たちは全員そろっていた。
「初めまして、自分は和泉みなも(eb3834)と申します。宜しく御願い致しますね」
和泉みなもが率先して声を掛けた。よく気が回る。大人びた、と評される事も多いようだがそのものズバリ大人だったりする。マクタやコクリは自分たちに近い種族、しかも礼儀正しいと良い事尽くめですっかり頬を緩めていた。
「初めまして、エスパニアから来てまだ日が浅いウィザードのディアナと申します。今日は、一緒に観光を楽しみましょう」
ニコニコとディアナ・シーレン(ec6327)も続く。目的は言葉通り、観光オンリー。心行くまで皆と一緒に楽しむつもりだ。
「‥‥早速だが、江戸に来た理由をお聞かせ願えないだろうか。いや、差し支えない範囲でいいのたが」
そしてオルステッド・ブライオン(ea2449)が、江戸は広く目的に応じて必要なところから案内する旨を説明した。
「お主」
マクタはオルステッドには答えず、冒険者の一人で同族・コロボックルのコンルレラ(eb5094)に向き直った。
「里を出て、どうじゃ。充分戦えとるか?」
「そりゃあ、もちろんだよ。‥‥あ、もちろんですよ」
コンルレラはいつものように朗らかに答えたが、ちょっと口調が失礼かもしれないと改めた。慣れないのだろう、舌の回りが若干悪い。「慣れない言い方はせずとも良いぞ」と、マクタ。
「充分戦えるような戦い方をすればいいだけだし」
気分を取り直すコンルレラ。相手の間合いに入って両手での攻撃を仕掛ける素振りをして、けろりと言い放つ。マクタの方は満足そうに何度も肯いている。一方、「ほう」とテラー・アスモレス(eb3668)。自他を問わない鍛練好きの血がうずくようだ。
「まあ、これでひとまず安心じゃ」
オルステッドに向き直って、マクタは破顔した。
「故郷からこっちへ出てきた者が少なからずいる。場所が変わればカムイも変わろう。里で教えたトゥミトゥムで不自由なくやっとるか心配で出てきたわけじゃな」
カムイってのは神のことだよ、とコンルレラがマクタの言葉の解説をした。
「じゃ、早速出発出発〜」
「あ、アンタは?」
「小さいけどパラじゃないです花音ですー」
しりあすに傾いた流れを叩き壊すべく、春咲花音(ec2108)がコクリの腕に抱きついて連行、じゃなかった連れて行こうとした。
「僕はジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)。ジェシュでいいよ」
気の利くジェシュが空気を読んでエスコートに入る。手には、江戸の裏地図。さすが読書家、良いものを持っている。ちょっと待って、とディアナも続く。
「あ、拙者たちも追わねば。散り散りになるでござるぞ」
慌てるテラー。それをみなもが「大丈夫」と諭す。
「ジェシュ殿たちがどこに向かったかは、おおよそ判断がつきます」
落ち着いて言う彼女の手には、江戸の裏地図。ジェシュと一緒のものだ。さすが蔵書家と言うほかない。
●
「此処は江戸の中でも賑やかな処だよ。色んなお店があるからお金さえあれば大概は揃えられるって話」
繁華街で、コンルレラが両手を広げた。コロボックルにはない習慣で彼自身が出てきたばかりのころ珍しがったところだ。
「蝦夷の服も素敵ですけど、こんな服を着てもご立派ですよ」
呉服店でみなもがにっこり。
「あれはねー、お城。‥‥簡単に言えば、村長さんちです。これだけ大きいのですから影響力もあり、よい君主さんであることを民は願っています」
願っています、頼みますよ、と繰り返し念を押す花音。と、すぐさま「あっちは、エチゴヤー」。全貌はナゾでねー、世界に姉妹店があってねーと説明し、「その正体を暴こうとした者は‥‥」とためてからくわっと両手を挙げ襲い掛かる振り。きゃーとディアナ。コクリは彼女に腕をがっしり掴まれているので同じく脅えて逃げる感じ。その様子に笑顔を向ける男性陣。
と、蚊帳の外の男が一人。
オルステッドだ。
(‥‥トゥミトゥムを伝授する気はない、か)
面が思案に煙る。
(‥‥東洋の武術家とは生活こそが鍛錬と聞く)
じっと、マクタの一挙手一投足に注意する。叶わぬなら自力で、との思いだ。
と、二つの視線を感じた。
一つは、マクタ。これはすぐに知らん振りされた。
そしてもう一つは、テラー。目が合うと、「まかせておくでござる」とばかりに立てた親指で自らの胸を指した。
そうこうするうち、一行は西の外れに。目当ては、茶屋。
「お団子って知ってますか? 白くプニプニした塊を数個、先端の鋭い棒で刺し連ねて、餡子という物が塗られてるんですが、凄く美味しいですよ」
両手を胸の前で組んで、ディアナ・うっとり。
「そうそう。プニプニ」
「ち、ちょっとォ。ボクはあんまりプニプニじゃ‥‥」
花音にほっぺたをつつかれ、コクリ・真っ赤っか。みなもはその様子を見てはくすくすと笑っている。
一方、マクタ。
「真冬にうっかり野宿しても凍死しないからね。この辺はいい処だよ〜」
「この辺りの森にはよく猟に来るけど、腰を落ち着けるなら近くの河原がお勧め」
寒冷地出身のジェシュや行動範囲の広いコンルレラと住みつく場所を話し合っていた。
「ところで」
一通り茶屋を楽しみ腹ごしらえしたのを見計らって、テラーが切り出した。
「せっかくだから武闘大会の会場にも行ってみたいのでござるが」
「それはいいですね。‥‥先日、うっかり魔法禁止なの失念して参加したんですが、案の定初戦で負けて‥‥。魔法を使用禁止にされたウィザードなんて、ねぇ。あはは」
テラーの下心はともかく、ディアナは朗らかに笑う。テラー、内心彼女に感謝した。
●
「‥‥あれは、熊などではない」
武闘大会会場を後にしながら、マクタが声を絞り出した。
「いかなカムイラメトクとはいえ、あの対峙は厳しい」
テラーとしては、試合を見ることで一気に皆で鍛練という流れに持って行きたかったのだが。
その時。
「おんどりゃあ。見付けたでぇ、ワレェ」
「こないだはウチのモン、かわいがってくれたそうじゃのう」
一体どこの言葉か、荒くれどもがやって来た。どうやら江戸に来た時、案内料を先に持ち逃げしようとした男の仲間のようである。五人。
「ぐっ!」
マクタが、動いた。敵の懐に潜り込んでからの、ポイントアタック。短剣の柄で痛打し戦意を挫く。
他の四人は、コクリのポイントアタック、みなものファイントEX、コンルレラの峰打ちダブルアタック、花音のスタンアタックで返り討ち。いずれも技量で圧倒し「これは敵わない」と思わせる戦法だ。オルステッドとテラーはここぞとばかりに戦いを凝視した。
「確か、トゥミトゥムを習得したいのだったな」
戦いの後。
マクタはオルステッドに言った。肯く。
「なぜ、異郷の技を欲する? お前さん、そのままで十分強いはずじゃろう」
二人の前では、テラーとコクリが立ち合いをしていた。世界を渡り経験十分なテラーに、コクリはまったく歯が立たない。が、彼は各流派を渡り歩いて得た豊かな技を見せることに徹し、コクリからトゥミトゥムの動きを学ぶことに集中していた。コクリは武器を落とされるなどしたが、決定的に打ち負かされることはない。逆に言えば鍛練地獄であった。やがて、コクリが音を上げた。
「私は世界を巡り、自らの修めるべき技を求めている。‥‥妻と、世界を守る力の一端となれればと願っている」
「拙者は、後悔と挫折からでござるな。かつて拙者は護りたかった者を護りきれなかった。あのような想いを二度としたくはない。‥‥あるいは、単に剣が捨てきれなかっただけやもしれぬでござるが」
オルステッドが言うと、戻ってきたテラーも打ち明ける。
「‥‥教えてもいいが、守る力にはならんよ」
ぼそりと、マクタ。
「なぜなら、トゥミトゥムはチュプ・カムイの巫女・チュプオンカミクルを守る勇者・カムイラメトクのための心得。あんたらが言う剣の流派と若干違う。‥‥型だけを教えるなら『小太刀の逆手持ち』だけでその心はおぼろに分かろう。じゃが、カムイラメトクの心までは、分かるまい」
「では‥‥」
「教えろ、か。カムイラメトクの心は、蝦夷でコロボックルの生活をせねば分からん。蝦夷で生活することになるなら教えるかもしれぬがな。‥‥第一、ほかの指導者はしらぬが、わしは形だけの技術を教える気はない。というか、わし自身の気が乗らんのだから、形を教えたとしてもそれは本当に形だけ」
うつむいて、二人に説明する。
「ただ、‥‥そうじゃ」
不意に、顔を上げるマクタ。その先にコンルレラがいる。
「江戸に出てきた同胞が困らんようにするのも、わしの役目かもしれん。場所が変わればカムイも変わろう。ここに合ったトゥミトゥムが必要じゃ。‥‥江戸のトゥミトゥム。これを確立しよう。わしが知っているのは、蝦夷のトゥミトゥムのみ。体格で劣る者に合った、剣術や戦闘術のみを追求した流派を作ろう」
新たな展開に、二人は目を輝かせた。
「しばらく時間をくれ。落ち着いたら、新流派立ち上げの準備をする。ギルドに連絡をするので、気が変わってなければぜひ体系立てなどを手伝って欲しい。新たに仲間を呼んでもらっても構わん」
結局、江戸案内には満足してもらったものの、トゥミトゥム習得はかなわなかった。
「師匠が感謝の印だって。持って帰って」
冒険者は礼金とはほかに、民族衣装のアットゥシをもらった。
が。
「あ、あれ? 一つ足りない」
コクリは必死に枚数を数える。しかし、一枚足りない。
「コンルレラは同郷じゃ。そんなものいらんじゃろう。キスの一つでもしてやりなさい」
「し、師匠〜」
真っ赤になるコクリ。
「誰の失敗じゃ?」
マクタの言葉に、腹を括ったコクリ。そっと、つま先立ちをする。
――ちゅっ。
「この、果報者め〜」
どっと沸く二人以外。
コクリとコンルレラ、二人そろって真っ赤っか。