美肌仲間募る!〜うる艶ハチミツ美容
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月20日〜06月25日
リプレイ公開日:2009年06月28日
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●オープニング
「え、大きな蜂が出るの?」
京から1日程度離れた片田舎の村で、一人の女性冒険者が目を輝かせていた。
「ああ。最近、村の近くに飛んでくるようになってな。みんなもう、気が気じゃなくて」
問いただされた村の男性は、女性冒険者――名前は、菜々花(ななか)という――に返しながら両手を広げて大きさを示す。誇張でなければ、本当にでかい。「もしあれに刺されたら、年寄り子どもは死んでしまうんじゃなかろうか」と、不安をあらわにする。
「本当におっきい‥‥」
菜々花は、瞳をうるうるさせ期待の眼差しで村人の男を見た。
「ま、まあ何だ。おそらく村の近くに巣があるんじゃないかとか皆話しとる。‥‥とにかくあのおっきいのがおっては安心して野良仕事もできやしない」
「うんうん、巣もちゃんとあるのね。きっとおっきな巣に違いないでしょうね。そしてそこにはきっときっと、おっきなハチミツも‥‥」
こくこくと肯く菜々花。色っぽく頬を染める。期待感は絶頂だ。
「そんなわけであんた、何とかしちゃくれまいか。こういうことには慣れてるだろう」
「もっちろん!」
ばちりと音が響きそうなほどのウインクで菜々花は了解するのだった。
が、しかし。
「えええええええ。ハチミツは取れないのォ?」
失望のあまりあんぐりと口を開ける菜々花。話をよく聞くと、どうやら飛んでくるのは大きなミツバチではなく、大きなスズメバチだったようだ。
「それじゃ、取れたてでおっきなハチミツをお肌に塗ってつやつやうるうるになれないじゃない」
男は菜々花の剣幕に言葉もない。というか、仮に大きな蜂がミツバチだとしてもハチミツは大きくないだろうとか、ハチミツを塗ったらつやつやうるうるの肌に絶対なるのかとか、取れたてだと効果が増すとかではないだろうとか、そもそも村人が困っているのに助けようとした目的はそれかいとか、突っ込み所は多いので絶句するのも肯ける。
それはともかく、ハチミツに本当に美肌効果があるのだろうか?
「え? どこかの国の美人の姫様がやってた美肌法のはずよ」
どこで仕入れた知識かは知らないが、ハチミツを肌に塗る効果を菜々花はそう理解しているらしい。野々原菜々花ン十歳手前、お肌の曲がり角。目的が取れたてのハチミツで何が悪いとでも言いそうな勢いだ。
「ハ、ハチミツなら最近、村の誰かが集めたとか言ってた。報酬にそれも付けるから、ぜひやってくれんか」
このままでは見捨てられると焦った男は、慌てて交渉する。
「ん、まあ、仕方ないか。‥‥仲間を集めるから、ちょっと待ってね」
菜々花は、礼金はいくら出せるか、ハチミツは何人分あるかなど聞いて、代理として冒険者ギルドに依頼申請するのだった。
それはそれとして、見出しの「美肌仲間募る」ってえのは、いかがなものか。
●リプレイ本文
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「蜂を剣で落とす。至難の業だが腕が鳴るな‥‥」
梅雨の晴れ間の日差しがエメラルド・シルフィユ(eb7983)の長い金髪に跳ねてきらめく。
「でも、大蜂だよ。聞いた話だと、このくらいだよね」
艶やかな褐色の肌としなやかな腰つきのシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が胸の前で両手を広げて見せた。
「それは狙いやすいが‥‥逆に危険だな。刺されたら一発で死ねそうだ」
「的が大きいっちゅう考え方やね。普通の蜂の大群に襲われるよりはマシかもしらんわ。‥‥あれはあれで死ねるで」
肩をすくめるエメラルドに、いつも生き生き明るい九烏飛鳥(ec3984)が続く。
「どっちも死ねるわけね」
つぶやいたのは、瀬崎鐶(ec0097)。憂いを帯びたような佇まいだが、どうやら受けたらしい。
「それにしても、蜂蜜。‥‥肌に塗ったらべたべたして美容どころじゃない気がするけれど」
「えー。興味ない? 私たち、仲間じゃないの?」
人差し指を唇に乗せて首を捻るセピア・オーレリィ(eb3797)に、野々原菜々花がつまんないとばかりに口を尖らす。
「はーい、美肌仲間になりに来ました!」
歯切れよく入ってきたのは、いつも元気で華やかなルンルン・フレール(eb5885)。
「とにかく、おっきなスズメ蜂を退治して、うる艶ハチミツ美容法にチャレンジです!」
と続けて士気を上げまくる。
「肌、なぁ。そりゃまー気にならんって言うたら嘘やんな」
「私は興味アリアリだよ」
そんな菜々花たちとは別の輪で、そーいやうち何歳やったかな、と飛鳥が頭をかいている。シャフルナーズは、「見られるのが仕事の踊り子としては当然だよね!」とノリノリだ。エメラルドは何だか努めて無言だったり。
「まあ、試してみない事には嘘とも言い切れない?」
セピアは何だかノリが悪い。実はおちゃらけているようで根はまじめだったりする。しかしこの時、後にあのような事態になろうと誰が予測できただろうかッ!
それはそれとして。
「お、おい。いい加減詳しい話をした方がええんじゃなかろうか」
「そ、そうじゃそうじゃ」
個性豊かでとにかくきゃいきゃいきゅんきゅんと眩しい、女性ばかりの冒険者に圧倒されていた村の男たちが正気に戻った。
「とりあえず、西方面から大きな蜂はやって来ているようじゃ。その方向には、今は誰も住んどらん廃屋がある。そこを拠点にするのもいいかも知れん」
それだけ伝え、冒険者一行を送り出すのだった。
●
「うわっ!」
村の近くの森。冒険者たちは驚きの声を上げていた。
村人のアドバイスにしたがって廃屋を目指していたところ、早速うろつく大蜂を発見し、追跡した。
問題は、その大蜂の飛んでいった先。
何と、廃屋。
そればかりではない。蜂は窓の跳ね上げ戸からもぞもぞと入っていったのだ。そして別の蜂が場所から出てくる。
「つまり、ここが巣ってわけね」
いやなものを見た、とばかりに菜々花。ほかは戸締まりしているようで、出入り口は先の跳ね上げ戸のみのようだ。
「いったん引いた方がいいかも」
鐶が、呟いた。
「煙で燻り出すんだよね。今はちょっと風向きが悪いよ」
風読みに自信があるシャフルナーズも同調した。「村の人に外に出ないよう言ってないこともあるし」とも。討ち漏らした場合、大蜂が蜘蛛の子を散らすように逃げ攻撃的なまま行動範囲を広げる可能性もある。
結局、攻撃は翌朝に持ち越した。
「今度はちゃんと村の人に言ったし、風も逆方向になっていい感じだね」
木々の間に潜伏する冒険者たち。シャフルナーズが満足そうに言う。
「残念だけど、煙は普通の煙だから」
草木の比較的少ない、廃屋へと至る道で燻り出しの準備をしながなセピアが説明する。鐶と一緒に京都の図書寮で殺虫成分のある薬草を調べたのだが、結果が芳しくなかったのだ。
「華国から伝来したばかりで入手困難なものや、虫に利くのはいいけど人にも利く可能性があるようなものばかりで」
小枝などを集め火をおこす準備をしながら鐶が調査結果を話した。
「あ、動きだしたわ」
廃屋を見張っていた菜々花が告げる。早朝の肌寒さが和らいできたのだ。
「結界張るから、皆近寄って」
「陽動なら任せて。ルンルン忍法、分身の術!」
十字架「聖女の祈り」を掲げるセピアに、用意した灰を取り出しびらりと巻き物を広げたルンルン。セピアのホーリーフィールドは無事広範囲に展開し、ルンルンのアッシュエージェンシーも成功。
「うわあ‥‥」
そして大蜂の恐ろしさを知ることとなる。
廃屋目掛け一直線に走ったルンルンの分身は、あっという間にちくりとやられ灰に戻った。そればかりか、さらに蜂が群がって地面に散らばった灰に何度も針を立てているのだ。
ここで、煙が目に見えるようになった。鐶の世話でようやく火力が安定したようだ。大蜂どもは異変に気付き慌てて巣から出てきた。何匹も、何匹も‥‥。
「速い!」
大蜂はすぐに押し寄せた。
――カチン、カチン!
魔法の障壁の強度は充分。不可視の壁だが、群がる蜂で形が見える。
「ターゲットロックオン‥‥蝶のように舞い、蜂のようにGOです!」
ルンルンが安全地帯から出て、弓で応戦する。忍法で出した大ガマも後に続く。
「気色悪ぅ〜」
外にいる飛鳥はバーニングソードの巻き物を使い炎を纏った剣を振るう。さすがに忙しいが、煙や障壁を背にしてうまく戦っている。
「うわっ!」
思わず盾を頭上に構えたのは、まだ障壁内部にいたエメラルド。大蜂が針の先から毒液を散布したのだ。もちろん、魔法の壁に阻まれ降り掛かってくることはなかったのだが。
「痛っ!」
シャフルナーズが悲鳴を上げた。出て戦っていたが、死んで地面に落ちていた蜂に足首を刺されたのだ。昆虫は頭を潰しても動きを続けることがある。飛鳥が掛け寄り蜂の死体を蹴り飛ばし、出てきた鐶がすかさず解毒剤で手当てし、同じくエメラルドがリカバーを掛けた。
「どうしましょう」
このままでは危険だと感じ、菜々花はセピアを見る。シャフルナーズが鐶に連れられ撤退してきた。
「安全圏を増やしたかったけど、こう纏取り付かれちゃね」
煙に怒った大蜂は、一気に魔法の壁に取りついていた。前衛四人が出たが、合計約20匹はどちらにも纏いついて攻撃している。敵が障壁周辺を予想できない軌道で飛んでいる状態でホーリーフィールドを掛けても、うまく行く可能性は低い。
と、ここで流れが変わった。
攻撃しても仕方ないと分かったのか、魔法の壁に取り付いていた大蜂が蜘逃げはじめたのだ。
「今の内‥‥」
「負けたくないよ!」
障壁作りの好機とみたセピアはいいが、何と、シャフルナーズが安全圏を飛び出した。
「いけない」
手当てしたが、重体毒を食らった者を出すわけにはいかないと鐶が太刀を携え飛び出した。
大蜂は当然、狙う。踊るように襲い掛かる。
冒険者は、奮戦した。盾でしっかり守っての一撃必中、炎の剣にラムナックルに仕込み下駄と縦横無尽の剣戟、仲間の動きを見ながら隙のある敵を狙う太刀、回避から射撃し撹乱する遊撃手。シャフルナーズの負担をできるだけ少なくするように。
そして、気付く。
シャフルナーズがまるで踊っているかのように戦っていることを。
小太刀の二刀流で、右に左に。右足のみで腰を入れるため、リズムがついている。刺されたのは左足首。移動に左足は添える感じに。一拍子に素早い二拍子を詰め、斬り込み、かわし、移動して――。
●
結局、大蜂約20匹を無事に退治した。巣になっていた廃屋は村人にも手伝ってもらい細心の注意をして焼き払った。内部の様子は、整然と仕切られ並べられた幼虫の白さと大きさが不気味だったらしい。
「蜂蜜はねー、水に溶かして使うのよ」
翌日。
菜々花は民家を一つ借りると、分けてもらった蜂蜜を取り出した。
ねっとりからしっとりに変わった蜂蜜水をすくうと、頬につけて馴染ませた。
「蜂蜜にこんな使い方があるなんて知らなかったよ」
見よう見真似で唇と目の廻りに塗るのは、鐶。隈取の様な塗り方で丹念に塗っている。満足そうな笑顔。
「ねえねえ、綺麗になった?」
シャフルナーズは今日も元気だ。好奇心が満ちているのだろう、瞳が輝いている。
「これで美人度アップです〜」
見せたい人がいるのだろうか、ルンルンは頬を染めている。
「こほん。‥‥べ、別にこれが目的で依頼を受けたわけではないぞ?」
最初は傍観気味だったエメラルドだが、手渡された蜂蜜水入りの皿を受け取りごく当然のように頬に塗りはじめた。はっ、と気付くと、ルンルンらが自分に注目していた。
「あ、いや。菜々花がどうしてもというから仕方なく‥‥聞いているのか!?」
ここから雲行きはおかしくなるが、これはあくまで引き金の一つでしかなかった。
「なんや、いざ塗るってなるとちょいもったなくなってきたわ。これって食べても効果ないんやろかなぁ?」
飛鳥が、しげしげと蜂蜜水の皿を見る。
その隣では、セピアが蜂蜜の入った壷に指を入れ、すくって舐めたではないか!
「だって神職者だし、食べ物を粗末にするのは、ね」
彼女の、後の釈明だ。
「ん。まあ‥‥悪くはないな」
エメラルドはちょうど、ルンルンに塗ってもらった後だった。さらに、すらりと伸ばした足に塗るシャフルナーズを見た菜々花が、悪ふざけでエメラルドの胸元にも塗っていたり。
「ようし、そんならうちも!」
大義名分ができたとばかりに、飛鳥も舐める。「甘〜い」と一言。
ふと、視線を戻す菜々花。
目の前には、蜂蜜水。
ぺろり、と舐めてみた。
「きゃああああ〜!」
エメラルドの悲鳴は戦いのときより色っぽい。
後はどったんばったん。「やったな」、「大人しくしない」と塗って舐めてのきゃいきゃいきゅんきゅん。
「みんな肌が上気して、来たときより数段色っぽくなっとった」
とは、村人の噂。
その村では、蜂蜜は美容にいいとの定説が不動になったとか。