葉陰〜アースダイバー

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 63 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月05日〜08月11日

リプレイ公開日:2009年08月15日

●オープニング

 大きな声では言えないが、隠れ里というものがある。
 葉陰と呼ばれる集落もその一つで、お家断絶や社会的に存在を否定された者達がひっそりと寄り添い、貧しいながらもつつましく生活している。
 いや、必死に生き残っているという方が正しいかもしれない。
 昨年、たちの悪い流行り病が蔓延し、住民が一時的に里を捨てた。その間に豚鬼の戦闘集団に占拠されていたのを冒険者の協力で奪還したまでは良かったが、一年誰も生活していなかったのは大きく影を落していた。
 農地が荒れ、不作なのだ。
「水森、生きてたのか?」
 そんな葉陰に、ひょっこりと一人の男がやって来た。名を水森(みずもり)と言い、流行り病で一時解散したとき、最後まで里に残っていた男だった。
「おお、風柳。久し振りだな。‥‥それより見てくれ」
 水森は声を掛けた若者に言って、包みを取り出した。中身は、金塊だった。
「一体どうしたんだ、これ?」
「へへっ、ちょっとな。‥‥おっと、まずは飯だ。飯を食わせてくれ。その間に顔役を集めてほしい。重要な話がある」

「病で亡くなった長老たちの遺言だ」
 水森の話は、こうだ。
 葉陰の里の起源は京都より古く、ジャパンが倭と呼ばれていた頃まで遡る。眉唾な話ではあるが、葉陰の言い伝えによれば、国が大きく乱れた時に、当時の武将が落ち延びてきたのが始りだという。
 武将はかなりの軍資金を運んでいたようで、これを隠すため里の奥にある山中に隠した。里はその時、隠し場所探しの拠点として居宅を設営したことで誕生した。最初の住民は、里の途中にある村から案内役などとして連れて来た者たちだった。
「つまり、これはその武将が隠した軍資金の一部、か」
「じいさんたちが言うには、そういうことだ。あそこにはまだあったからな」
 風柳のつぶやきに、水森は力強く肯く。
「おい。こりゃ行くしかないだろう」
「倭ってなんだ?」
「やった。これで里は救われる」
 集まった者は口々に喜びを表す。
「待て、問題がある」
 水森曰く、軍資金は地底の空洞にあり、そこには妖怪『泣き赤子』で順番に一人ずつしか入れないらしい。
「洞窟はびっくりするくらい広くて、地面は砂。端には大きな川が流れていて、出口はない。‥‥妖怪を抱いたまま上から落ちるんだが、泣き赤子は一匹。暗闇の中、一人が入って明かりを付け、全員が入りきる前に二人がやられた。結局、俺だけがかろうじて逃げ帰れたんだよ‥‥」
 つまり、五人で行って四人が死んだということだ。
「何にやられたんだ?」
「出口はなかったんじゃないか?」
「出口は、川だ」
 朽ちてばらばらになった筏があり、その木切れにつまかって流れに身を任せた。死を覚悟した選択は正解だったようで、無事に里近くを流れる川に出たそうだ。外の川とは地中から川底に湧く形で合流するため、本当に死にかけたと笑う。
「里に戻るまでいろいろ情報を集めたが、だれが軍資金を隠したのか分からない。それにお前ら、冒険者ギルドを使ったことがあるだろう? もうここは隠れ里でもなんでもないぞ。税逃れをしていた罪もある。早めに解散したほうがいい」
 水森の論は一理あり、噂を聞いた者たちがずいぶんと頼ってきている状態だ。長年ここを匿い、いわば里の隠田の恩恵を受けていたふもとの村も不安がっていた。
「どっちにしても、今の里には金がいる。軍資金を回収に行こう」
 若い風柳たちは立ちあがる。おお、と同調する一同。
「で、一体何にやられたんだ」
「‥‥怨霊と、どでかい砂虫だよ」
 つぶやくように漏らし、水森は青ざめるのだった。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

雀尾 嵐淡(ec0843)/ ハロルド・ブックマン(ec3272

●リプレイ本文


 森の奥はえらくやかましかった。
「おおい、赤子が急かしちょるがのう」
 妖怪泣き赤子の泣き声が響く中、磯城弥魁厳(eb5249)が皆を振り返る。
「はい、完了。待たせたわね」
 セピア・オーレリィ(eb3797)がOKの合図を出す。先発のルンルン・フレール(eb5885)に怨霊防御魔法を掛けていたのだ。
「ルンルンはん、コイツの明かりは長く持つでぇ」
 九烏飛鳥(ec3984)は、準備が整った彼女に輝きの石を渡す。「念のために」とジークリンデ・ケリン(eb3225)も巻き物を取り出した。二次、三次突入隊にライトの魔法を掛けておくつもりだ。
「妖怪の力を借りて移動なんて、まさにジャパンの神秘です」
 ルンルンは念入りに自分に魔法を掛け、ソルフの実を食べてから泣き赤子に近付いた。
「きゃ〜、かわい‥‥」
 言い切らない内に、どぷんと地中に沈んだ。
「中々厄介な所に有る様だね」
 沈んだ位置を覗き込んで、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)が涼しげに言う。
「こういうものも良いかも知れませんね。さ、二陣目でしょう。いきますよ」
 彼についてきたジークリンデがアースダイブの巻き物を広げる。
「私も二陣だ。リアナ殿、頼む」
「ええ。ルンルンさんを守ってあげてください」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)の前に立ち、同じく巻き物を広げるリアナ・レジーネス(eb1421)。
「以前の豚鬼退治とは違い、今回は自分たちから困難へ足を突っ込んでいる感が無いではないが‥‥」
「眉唾だけど、まあ村1つが生き残るかどうかの境目だしね」
 やれやれと瞳を陰らせたカノン・リュフトヒェン(ea9689)を、怨霊防御魔法を掛けたセピアがなだめた。
「租税どーのを穏便に済ますんなら、金が一番無難やしね。‥‥っと、カノンはん、妖怪が戻ってきたで」
 飛鳥に促され、二陣のカノンも泣き赤子を抱いた。
 三陣は、磯城弥、飛鳥、カノン。最後はアースダイブ術者の2人と案内役の水森が突入した。


 さて、ルンルン。
 お尻から落ちたが、下は砂で痛みはない。平面の広さからすれば天井がえらく低い。
(あっちみたいです)
 普段は明るい性格だが、さすがくのいち。気配を消し振動探知魔法で大砂虫の位置を感じると巻き物を取り出した。
「ルンルン忍法分身の術!」
 瞬間、灰から生まれた分身がいつもの彼女のように明るく元気いっぱいに走り出す。
――ズズズズ、ザッパァン!
 大砂虫がミミズのようなその姿を現した。でかい。見事分身に釣られ、ルンルンからかなり離れた位置で食い付く。分身、一撃で灰に戻る。
――ドサッ!
 そこへ、メグレズが落ちてきた。
「あれか。うまくやったようだな」
 場の確保は任せろと戦闘姿勢に入った。
「お次はパックンちゃん!」
 ルンルン、別の巻き物を取り出して人より大きな大ガマを呼び出す。左手に大ガマを進ませ、自分は右に走る。
 そして今度は、カノンが落ちてきた。
「怨霊はまだだな。一気に叩く」
 決断が早い。大ガマに続いた。
「メグレズさん、行きましたよ!」
 振り返るルンルン。大砂虫は振動の元を選んだようだ。「望むところ」とメグレズ。
 人は時に、彼女を「ザ・鉄壁」と呼ぶ。
 メグレズの今までの戦いぶりや戦果・戦功など逸話には事欠かない。
「くっ!」
 その彼女が、前面にまるく口を開けた大砂虫の突進に対し横に逃げた。避けきれなかったが、戦闘に支障はない程度の痛みだ。
「飲み込まれるよりマシだ」
 実際、飲み込まれるのだけは気合いで回避した。
 大砂虫、砂から体がまだ出ている。ルンルンが狙い見事ダメージを与える。
「うおっ、危ないのう」
 ちょうど大砂虫が通り過ぎたところに、磯城弥が落ちてきた。飛鳥も落ちてくる。
「すまん。さすがに厄介でな」
「ほら、怨霊も来てるわよ」
 メグレズが謝ったかと思うと、空からセピアの声。フライの魔法で飛ぶヒースクリフにお姫様抱っこされゆっくり降下している。同伴するライトが神々しい。今、無事に着地。
「セピアはん。そっち、任せたわ」
 飛鳥は大砂虫退治へ。手にした日本刀「膝丸」は対虫の一振り。
「ま、これがあるからいいけどね」
 セピアはハーミットスタッフを握り直す。魔力はあと二回補充できるはず、と怨霊が接近している方を向く。
「わしは一旦離れるとするかの」
 磯城弥は遊軍に。
 そしてしばらく後、洞窟内天井付近。
「やあ、リアナ君」
「戦況は?」
 洞窟の天井から落ちたリアナはヒースクリフにキャッチされお姫様抱っこの状態で聞く。
「対大砂虫は様子見。っと、ジークリンデ君が今落ちたね。これでルンルン君も戦いに専念できるし後方から指示が出る。怨霊は人手不足。‥‥そっちに行くつもりだよね?」
「ええ」
 こうして、対大砂虫五人、対怨霊三人、潜伏一人の戦いとなった。


「また大ガマ方面です! ‥‥きゃっ」
 ジークリンデが声を張る。悲鳴を上げたのは、怨霊から攻撃を受けたから。セピアから怨霊防御の魔法を受けてなければ戦闘に支障が出るところだ。
「結局、混戦ってわけね」
 浄化魔法を高速詠唱で放つセピアが護衛に付いているが、接触攻撃型は止めることができないので質が悪い。次の詠唱でようやく止めを刺した。
「わしの『椿』もちょっと通用せんようぢゃ」
 磯城弥が突然現れて言う。微塵隠れで強引に超近接状態に持ち込み一方的に攻撃する技のようだが、接触攻撃の怨霊に接近戦は打ち合いなるだけ。もっとも、微塵隠れで追加のダメージを与えながら逃げてきたようで、これは効果的だった。
「黄泉へと帰れ!」
 宙を飛ぶヒースクリフがシャクティで止めを刺す。怨霊はこれでほぼ消滅。
 そして大砂虫。こちらは地中にいる時間が長いため退治に苦戦している。
「ああっ。パックンちゃん」
 援護の矢を射るルンルン。しかし、「2大怪獣地下大洞窟の決闘」(ルンルン談)は、明らかに大ガマが苦戦していた。図体が大きいので飲み込まれないが、逆に狙われているとも言う。すでに瀕死の状態だ。
「くそっ、ようやく当たったか」
 カノンは渾身の一撃の手応えを感じながら自嘲気味に言った。大ガマが狙われるところへ突撃を試みていたが、当てる隙がなかった。大砂虫は最初にルンルンから攻撃を受けて以来、地上にあまり身体をさらさない攻撃を繰り返していたからだ。攻撃できる時間が極端に減っていた。冒険者側も下手をすると飲み込まれると分かったため、若干消極的。ルンルンの矢は命中すれども、メグレズの剣の重さを乗せたソニックブーム「飛刃・散華」は届かない。リアナも扇状に放つ雷撃の機会をうかがっていたのだが、さすがに味方を巻き込まないで放つことができる好機はなかった。同じくジークリンデも最終手段として地中も狙えるマグナブローを考えていたが、やはり巻き込み問題が付きまとい我慢をしている。
「次。あなた、狙われてます」
「私か?」
 ジークリンデに指差されたのは、メグレズだった。カウンターは先に飲み込まれてしまうのでできない。通常攻撃も反撃に遭うと同じ運命をたどる可能性が高い。
「ならば」
 走った。
「貴殿が適任だろう」
「う、うちかい!」
 目指すは、飛鳥。さすがに何を意図しているか分かったようで、飛鳥は覚悟を決めメグレズに走り寄る。
 大砂虫が姿を現し鎌首をもたげたところで、二人は交代した。
「いつもと一緒や!」
 器用に回避して、斬撃を見舞う。ルンルンの矢も立つ。
「飛刃、散華!」
 メグレズも剣を振るう。瀕死なのだろう、潜りもせず苦しがるところへヒースクリフが飛んできて一撃、さらに長駆詰めたカノンの突撃で止めを刺した。もう、固まっていても一度に攻撃を受けることはない。
「たまには壁になってもらうのも悪くない」
「よう言うわ」
 メグレズと飛鳥は腰を落として呼吸を整えながら、笑った。


「隠し部屋みたいな場所は、なさそうですね」
「そうぢゃのう」
 魔法探査をするリアナと、忍びとしての目で調べる磯城弥。ともに異常なしを報告する。
「まさかこんなに出てくるとは」
 洞窟内に散乱した金塊はかなりの量で、一度ここに来ているはずの水森も目を見張った。
「‥‥うっ、持ち上がりません」
「ルンルンさん、それは欲張りすぎでしょう」
 ジークリンデも魔法探査をしていたが芳しくなく、ルンルンの袋詰めの様子を見て笑う。
「魔法がうまく組み合わさればひとっ飛びなんだけどねえ」
 ヒースクリフが未練がましく天井を見上げる。地中は水中を泳ぐがごとし。フライで飛ぶほど意のままにはならない。
「川の中では誘導、救出、運搬の心配は無用」
 洞窟の出口は本当に川しかなく、河童の磯城弥はここぞとばかりに胸を叩く。
 実際、言うだけはある。
 水森から様子を聞くと、ほぼ川の状態を把握。水面から顔が出せる場所まで下って持参したロープを固定。川底に吸い込まれるところはできるだけ流れに身を任すよう助言する。
「息を止める時間は、泣き赤子の時と同じくらいだったような気がする」
 二度目の水森は、今だから気付いたことを話し安心させた。
「最後まで、フルコースだな」
 やれやれとこぼすカノン。縄を腰にくくり付ける。
 金塊は、里から持ってきた樽とジークリンデの相棒・妖精ジニールの香炉に入れて無事に運搬完了。
 さて、外の川から全員無事に上がって。
「私は無事じゃなかったわよ」
 口を尖らせているのは、セピア。豊かな胸を押さえている。
「まあ、事故といえば事故なんでしょうけど」
 ぶつぶつ言いながら納得しようとしている。お宝(?)を掴んだ人の名前は、内緒。
「ええか、水森。あんま暗い道行くんだけは、やめときや」
 飛鳥は面倒見がいい。今後の里の行く末を心配して声を荒げていた。
「まあまあ、考えがあるから」
 水森はそう言うが、どうなるか。

 冒険者たちは、「記念と友情、そして感謝の印に」と金塊一つずつを半ば強引に押し付けられて里を後にした。