抜ケ穴

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月28日〜09月02日

リプレイ公開日:2009年09月07日

●オープニング

「‥‥今ハ一人シカ運ベナイ」
「何だと。こっちに来るときは九人運んだじゃないか」
「さては貴様、やはり魔物で俺たちを食おうと言う魂胆か」
 薄暗い鍾乳洞の奥で、九人の男と空間に開いた穴のような闇が話し合っていた。
「我ハ、『抜ケ穴』。契約二ヨリ九人ヲ運ブダケ」
「じゃあなして、帰りは一人なんじゃ」
 なおも魔物に食いつく仲間を、待て、と別の一人が止めた。
「おそらく、地蔵の数じゃろう」
 指差す先には、地蔵が一つだけあった。
「なるほど。あの山の室(むろ)にあった白骨は九人分だった」
「こっちは地蔵が白骨の代わりと言う事か」
 得体の知れない存在、縦長の楕円形の闇といった外観の『抜ケ穴』は何も言わないが、おそらくそれだと九人は納得した。
「仕方ない。世話になったばかりだが、麓の集落に聞いて地蔵をあと八体集めよう」
 九人は最近、中国地方のある地域から京都外れのこの場所まで瞬時に移動していた。『抜ケ穴』と呼ばれる存在は、そういう能力を持っているらしい。しばらく麓の集落に滞在し、ここが京都の外れである事などを知った。

「そういえば、集落近くには八つの地蔵があるか」
 集落の民長は、取って返した九人の話に心当たりがあったようだ。
 早速、分かれ道や集落の外れなどに散在する地蔵をひとまず鍾乳洞内に移動させる事になった。そうしないと、九人はやって来た葦嶽山に帰ることができない。
 ところが。
「うわあっ!」
「まさかこんなものを封印しとったとは」
 八つの地蔵のうち、集落から外れた場所にあった六体は、どうやらやっかいなモノを封印していたらしい。地蔵をどけた地中から、人ほどの大きさのある甲虫が這い出てきたのだ。中には、うねるような二本の顎を持つ個体もいる。
 奴らは、特に人を襲うなどはせず一目散に鍾乳洞方面の森へと飛んで逃げて行ったという。
 以前、鍾乳洞に救う悪魔退治を冒険者に頼んだ民長は、被害が出る前にと、またもギルドに使いを出すのだった。

●今回の参加者

 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0038 イリーナ・ベーラヤ(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec2108 春咲 花音(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 冒険者が集落に到着した次の日、早速彼らは動き出した。
「あの地蔵、ただの地蔵やないんやね」
 集落の外れで、しみじみと九烏飛鳥(ec3984)が呟いていた。足元には、かつて地蔵があった場所で、大甲虫が這い出た地面がある。
「あの時、悪魔たちが封印解いてたら、面倒なことになってたわねぇ」
 セピア・オーレリィ(eb3797)が、ぶるっと身を震わせた。
「それより、『抜ケ穴』。何か月道みたいな妖怪ですね」
「月道とはちゃうんかいな?」
 セシリア・ティレット(eb4721)が優雅に首を傾げたところに、飛鳥の突っ込みが入る。
「喋るし契約うんぬんってとこからしてちゃうか」
「ちゃいますねぇ」
 うーん、と自分一人で納得する飛鳥に、口調を真似て納得するセシリア。他意はなく純粋に伝染したようだ。
「まあ、依頼をこなしてから聞けばいいわね」
 セピアは笑いをかみ殺していた。
「そやな。陰陽寮で調べてもさっぱりやったし」
「今作っているおびき寄せの餌と天気に期待ですね」
 実は、最近このあたりは宵と明けに天気が崩れていた。大甲虫の被害がまだない理由だと目されている。今晩は、天気は崩れそうにない。決戦の予感を胸に、三人は準備をしている仲間の元へと帰っていった。

「まあ、説明は不要と思うが」
 民長宅の台所で、メグレズ・ファウンテン(eb5451)が微妙な顔つきで保存食二食を出した。片方は強烈な匂いがする魚の干物で、もう一つは例えて青春時代を思わせるような甘酸っぱい匂い。合わせてくらくらするような香りになっている。
「こ、これで大甲虫をおびき寄せることができそうだわね」
 イリーナ・ベーラヤ(ec0038)は持参した発泡酒と合わせて煮詰め、蜜に類するものを作ろうとしていた。胸元や背中がざっくりと開いたセクシーな服装で調理する姿は、結構怪しい雰囲気だったり。
「あ、お酒なら一本強いのがあります。名酒『うわばみ殺し』。使ってください☆」
 追加というか、止めとばかりに春咲花音(ec2108)がどすんと一本、いかにも利きそうなのを出した。
「‥‥そのまま殺せそうですよね?」
 李雷龍(ea2756)は、あまりに強烈で癖の強い食材を前に、素朴な疑問を口にした。実は巡回調査に出た仲間と一緒に行きたかったのだが、お茶をおいしく頂いている間に置いてけぼりを食らっていたりする。
「この間のうる艶ハチミツがあれば、ですねぇ」
 ルンルン・フレール(eb5885)が残念がる。そのハチミツは肌に塗ったのだから、もうない。ついでに胸とか太股とかに塗って、しかも舐めっこをしたのでまったく残ってない。残っているのは耳をくすぐった甘い声の余韻と甘酸っぱい思い出だけだ。
「それにしても、悪魔の次はおっきな虫なんて。ひょっとしたら村長さん、厄年?」
 ルンルンの呟きに、屋敷のどこかでくしゃみの声が響くのだった。


 その日の晩。
「付き合ってもらって、悪かったかしら」
「性分だ。気にするな」
 イリーナとメグレズが、生活の灯火で明るい集落を後にして洞窟へと至る森に向かっていた。
 最初の打ち合わせでは、未明からの行動だった。
「虫なら夜明けが一番活発なので見つけやすいんじゃないかなー」
 という花音の説を筆頭に、甲虫類の特徴を鑑みた結果、勝負は明け方に絞っていた。日中、メンバーに多い隠密たちで話し合ったポイントに誘き寄せの蜜を塗り迎撃する算段だ。不測の事態を避けるため、あくまで塗るのは未明。
 しかし。
「種類はバラバラっぽい。でかい顎が2本てのは、クワガタやんね」
「よく考えたら、大人しく蜂蜜とか樹液舐めてる虫さんだったら、封印なんてされてなかったんじゃ?」
 飛鳥とルンルンの言葉に、一抹の不安が走った。
 結果、徹夜に強い二人が自主的に寝ず見張り役に立つことになった。
「封印されてたそうだし、アンデッドの可能性もあるよね」
 決断した理由の一つである。
 月明かりが清かな晩であった。虫の音も、大きい。
 その時。
「あっ!」
 二人の頭上を、大きな影が過ぎて行った。大甲虫だ。
「飛刃、散華!」
 メグレズの反応は早かった。剣の重さを乗せたソニックブームを頭上に放つ。
「くそっ。遠かったか」
 方向は良かったが、飛距離が届かなかった。そのまま敵は集落方面に飛んで行く。
――ガシッ!
 傍らで、すごい音がした。
 イリーナが低空で突っ込んできた別の大甲虫を盾で受けた音だ。反撃で羽を狙うが、敵は素早い。攻撃が空を切る。
「どうしたものかしら」
「一匹はここで止める」
 幸い、先の一匹は着地していた。途端に機動力が落ちるが、二人に狙いを定めまた飛び立とうとしている。
「イリーナ殿、任せた」
 先に盾となったもらった借りは返すとばかりに、メグレズが盾を掲げ前に出た。角などない大甲虫の突貫をがっちり止める。
「いっただきぃ」
 高く子供っぽい声を出しながら、敵の機動力を奪うべく羽根を狙った。根元に食い込んだ一撃で、びらっとたたんでいた羽が不自然に開く。
「牙刃、剽狼!」
 動きが止まったところで、メグレズのダウンスイング。仮に敵が鎧の兵なら、防具が破壊されていたろう。この一撃で勝負あり。敵にアンデッド化の様子はなかった。

 一方、集落。
「あちゃー。そういや、光がある方に飛ぶんやったなぁ」
 巨大なカナブンが民家にごつごつ当たる音を聞き外に出た飛鳥が頭を掻いた。化け物知識を総動員してほかに気付いてない特徴がなかったか思い出そうとしている。
「わぁ、やっぱり思った通り、肉食みたいかもです」
「とにかく、住民が外に出ないようにします」
 ルンルンが駆け出し、花音が足元の月影に潜った。住民を守りつつ、迎撃するつもりだ。
「うちも行くで」
「ここを安全地帯にするわね」
 飛鳥も散り、セピアがホーリーフィールドを強化版で展開する。
『大甲虫が壁にぶつかった』
『大甲虫の羽ばたき』
「‥‥一匹だけです。アンデッド化はしてないようですね」
 サウンドワードの巻き物と不死者探知で索敵をしていたセシリアが安全地帯の中で報告する。
「明かりを借りてきました」
 と、そこへ雷龍が民家から出てきた。たいまつを手にしている。
「飛鳥さんも言ってましたが、光のある方に飛ぶ傾向にあるはずでしたね」
 戦闘は、ぶんぶんと迷走しながら飛ぶ敵を追いまわす展開。
 追跡は、あでやかな花忍、神出鬼没の暗殺者、剣戟自在の陸奥流剣士。自然と、ルンルンが疾走の術で追い回し、花音がムーンシャドウで先回りし、飛鳥ができる限り回り込むという形となった。大甲虫は止まれば危険と感じているのか、ほぼ飛びっぱなしだ。
(飛鳥さんがポイントかしら)
 戦況を見守っていたセピアは、そっと七なる誓いの短剣を握り直した。瞬間、白く淡い光に包まれる。視認できる飛鳥にポウの魔法を掛けたのだ。
 その祈りが通じたか、飛鳥の動きが冴えた。いや、ルンルンが敵の行動パターンに慣れ、月影を渡る花音が先読みしやすくなり、さらに飛鳥が読みやすくなったのも影響している。
「これでドカンや」
 回り込んでいた位置がいい。花音の忍者刀「風魔」の一撃を回避した影響で低空飛行する敵に、仕込下駄の蹴りが襲う。上に逃げるのは想定済みで、狙い済ました斬撃が入った。
「とどめ」
 ここで、ついに雷龍が動いた。安全地帯が最前線にならなかったうっぷんをはらすかのように、下から龍叱爪でえぐり上げる。龍飛翔。十二形意拳・辰の奥義だ。伸身したままの長い滞空時間と、放物線を描いて落ちる敵の姿が芸術的な美しさを見せる――。


 その未明。
 すっかり計画は狂ったが、残る四匹を仕留めなければならない。
(来ました)
 茂みに隠れブレスセンサーで索敵していたセシリアが手を挙げた。同じく振動索敵していたルンルンも手を挙げる。周りに隠れている仲間も手を挙げ、情報を共有した。
 やがて、人の大きさはあろうかという大甲虫ががさがさと歩いてきた。
 問題は、どちらに行くか。
 大甲虫が取り付くことができるくらい太い木に、甘さと腐臭が混じる「蜜」を塗っておいた。花音の読みでは、うまく行けば場所取りで同士討ちを繰り広げるはず。
 もう一方は、肉食と読んだルンルンが「蜜」を作った残りの肉と鳥の血をかけた「肉」。
(あっ!)
 なんと、肉に行った。
 しかし、冒険者は動かない。
 次の振動を察知したのだ。
 今度は、二本の顎がある巨大クワガタ。こちらは、木に取り付いた。
 だが、まだ動けない。
 あと二匹いるはずだし、確実に仕留めるには同士討ちや落ちてひっくり返ったのを狙いたい。
 ‥‥来ない。
 「肉」に行った巨大カナブンは、すでに食事を終えようとしている。焦る冒険者。
(来たッ!)
 もう待てないと、セシリアが立ち上がり巻き物を広げた。選んだ魔法は、スノーウィ。来たばかりの敵も含め、味方を巻き込まずに三匹全てに攻撃できる。
 瞬間、森に何かが降ってきた。木の葉や草に触れると、雪になった。一面に、雪景色が広がった。大甲虫はいずれも、ぐぐっと苦しそうな様子を見せる。
「今だっ!」
 誰が言うわけでもなく、冒険者は敵に殺到した。
「あっ、来ちゃ駄目です!」
 振動探知のルンルンが、ぐりんと振り返った。
 そこには、中国地方から来た九人の男たちが近付いていた。運の悪いことに、大甲虫の最後の一匹が襲い掛かっているではないか!

「すまない。遅かったので様子を見に行ったんだ」
 後に、九人の男たちはそう謝った。一人が重症を負ったが、メグレズのギブライフで応急手当し、ルンルンのブラインド+ポイントアタックEX「忍法・くりてぃかるひっと」などで応戦。事無きを得た。ほかの三匹も、全員で倒した。
「あんたらの戦い振りを見たくもあった」
 聞けば、中国地方の山里で戦ってもらえる強い者を探しに来たのだという。
「ひとまず戻って往復できることが分かれば、助けを呼びに来る。ぜひ、里を救ってもらいたい。頼む。もうあんな生活は耐えられない――」