だってきれいなんだもん

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月10日〜09月15日

リプレイ公開日:2009年09月18日

●オープニング

「あやめ、それってきっと蛍だよ」
「そんなことないもん。蛍よりおっきな明かりだったもん」
 ある集落で、そんな口論をする男の子と女の子がいた。男の子は鷹丸といい、女の子があやめ。ご近所同士で、兄妹のように育った。口論は、あやめが夕暮れ時、集落はずれの森の中で光がふよふよと漂っていたのを見たというものだ。
「蛍じゃなかったら、何だよ」
「きっと、森の妖精さんだと思う。だからね、見せてあげるから一緒に来て」
「待った」
 二人の会話に、大人が割り込んだ。
「暗くなる頃に、子どもだけで森に行ってはならん。この、どこで戦になるか分からん時につまらん考えは起すな」
 厳しい口調だ。
「‥‥それならなおさら調べた方がいいんじゃないの。なんなら、僕だけでも調べてくるよ」
「馬鹿言うな!」
 むっとした鷹丸の言葉に、大人の方も語気を荒げる。
 が、しかし。
(待てよ)
 大人は、考えた。
 集落の若い者は、ほとんど戦に出ている。その分租税が免じられるが、無事に帰ってくる保証はない。どちらにしても集落は早急に次の世代の『一人前の男』を欲している。
 鷹丸は、その筆頭だ。
 成人前の子どもとはいえ、剣を学び才気にあふれている。その素質は集落の皆が認めているところだ。
――将来は、地域を支える大黒柱になって欲しい。
 そう、望んでいる。
 そこへ、今回の異変。
「‥‥おい、あやめ。その光は、たいまつみたいじゃったか?」
「ううん。火じゃなくて、どっちかといえば蛍みたい。でも、蛍よりおっきかったし」
(燐光、かのぉ)
 聞いた大人は、過去の記憶を手繰り納得した。
「よし。それじゃあ、冒険者を雇ってやる。あやめが見たのはきっと燐光じゃ。よく分からん奴らで、近付くと攻撃してくる。放っておくと誰かが怪我するんで、退治しかない。鷹丸は一緒に行って戦いぶりを勉強して来い。冒険者さまの邪魔はするなよ」
「ええ〜。私はぁ? 私も行きたい〜」
「駄目駄目。危険じゃ」
 とにかく、冒険者に燐光退治を頼む事となった。

●今回の参加者

 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5766 キーラ・クラスニコフ(32歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec6513 タチアナ・ルイシコフ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ 八代 樹(eb2174

●リプレイ本文


「あのね。‥‥あやめ、最近つまんないの」
 夕暮れ迫る村外れ。空は紅く染まり、斜陽に伸びる山や木々の影も幾分赤みを帯びているような。
 小川の土手に座り沈み行く太陽を眺めていたあやめは、独り言のように呟いていた。
「お父さんも隣のおじさんもみんないなくなって。‥‥いつも笑ってたりお酒飲んだりして、楽しかったのに」
「アヤメ‥‥」
 隣には、タチアナ・ルイシコフ(ec6513)が一人座っていた。
 村に到着した時、あやめの姿が見えなかったので皆で手分けして探し、彼女が最初に見付けたところだった。
 フランク王国出身のタチアナ。ジャパン語は理解できないが固有名詞は分かる。そして何より、あやめが寂しがっているのは痛いほど分かった。ゲルマン語で話しても通じないので、名前を繰り返し口にして話に肯きながら慰める。
「みんな遠くに――戦に出掛けて‥‥。それでもさみしくなかったんだよ。鷹丸お兄ちゃんがいたから」
 あやめは、立ち上がってタチアナの方に向いた。大きな瞳がうるうるしている。
「でも、最近鷹丸お兄ちゃんまで遠くに行ったみたいなの」
 タチアナに、言葉は通じない。それでも、分かる。痛いほど分かる。
 思わず、タチアナは立ち上がってあやめを抱き締めた。
 さびしがり屋。
 ユキ・ヤツシロ(ea9342)に似ている、と感じた。
 冒険の出発前、斗織と樹に見送ってもらった。ユキは、樹が連れたルーナに慕われ満面の笑顔を浮かべていた。あやめも、そんな笑顔が似合うのではないかと思った。
 あやめは、もうしゃべらない。泣いていたのだ。タチアナはぎゅっと、その小さな体を抱きしめた。


「おおい」
 しばらくして、ほかの冒険者仲間と鷹丸がやって来た。あやめは、ぱっとタチアナから離れ涙を拭く。もちろん、恥ずかしそうにそっぽを向いてから。
「ターシャ姉様。私より先にあやめ様を見付けたんですね」
 ユキがタチアナに近寄り、つま先立ちしながらゲルマン語で話した。後、今まで調査したことを伝える。
「あやめちゃん。ちょっと協力してな」
 ヨーコ・オールビー(ec4989)は、笑顔であやめの方に。早速、燐光について詳しく聞いた。
「ほな、ちょいと偵察しとこか。さくっと様子見るだけや。心配いらん」
 ヨーコが軽やかにきびすを返す。
「あ、待って。僕も連れて行ってください」
 鷹丸が止める。
「遊びやないで」
「様子見るだけで危ないことはしないんですよね?」
「口が達者やな。ちゅうても、十分気ぃつけとかんと怪我すんで。冒険に油断は禁物や!」
 ヨーコ、言葉はきついが目は輝いていた。「ほー、なかなか立派なお子さんやん」というのが本音。背中越しに人差し指をちょいと曲げてみせ、ついて来いと指示を出した。
 その道中。
「あやめちゃん、ついてきてへんな?」
「う、うん」
 振り返って確認する鷹丸。
「明日、退治する予定やけど、あやめちゃんがついてこんよう説得せなあかん。‥‥もちろん、鷹丸はんの仕事やで」
「う、うん」
「負けたらあかんで。男の子やろ!」
 ヨーコは笑って励ました。


 一方、あやめ。
 鷹丸に泣き顔は見られたくなかったが、いなくなると寂しい。首を伸ばし行った方を見ている。
 その様子に、頭を掻く人物が一人。
 キーラ・クラスニコフ(ec5766)だ。
「この国は、ここまで切迫してるんだねぇ」
 そう、村への道中でぼやいた。黒髪の頭を掻きながら。「お上にゃ理由があるんだろうけど、子供が子供らしく居られるような世になってほしいもんだよ」と、続けていた。
「いいかい、お嬢ちゃん」
 切迫していたのは、この国だけではなく冒険者もだった。
「ついてきちゃ、駄目だよ。見ての通りこっちは四人。お嬢ちゃんが襲われたら、護衛できなくなって鷹丸が大怪我しちまうかもしれない」
 この一言は利いた。目を見開くあやめ。
「鷹丸だって、お嬢ちゃんのことが心配なんだってさ」
 にやりと、殺し文句。頬を染めるあやめ。仮に彼女に愛を語らせたら、女性がころりと惚れてしまいそうだ。


 翌日夕暮れ。
 四人は、鷹丸を連れて燐光が出没する森にいた。ユキが連れて来て村外に隠れさせていたフロストウルフ、スノードロップも合流している。
「賢いでしょう? 刺激しなければ温和しい子だから」
 ユキは鷹丸に、自慢の友達を紹介するように説明していた。
「それともう一つ。僭越ながら、私の魔法にてお守りいたしますので、出来るだけ私から離れないようにしてくださいませね」
 続けて言う。ちなみに、鷹丸はキーラから泰山府君の呪符を借り受けている。
「ところで、昨日はこのへんにおったんやけどなぁ」
 ヨーコがきょろきょろしながら呟いた。ちなみに、ペガサスのソラオーを念のために連れてきている。
 彼女らの隊列は、菱形陣形。先頭はソードofマスターを手にした神聖騎士キーラ。両翼にペットを連れたヨーコとユキが続き、殿をタチアナが務めていた。鷹丸は、真ん中。ヨーコのペット犬、テオが護衛についている。
「ん!」
 先頭のキーラが止まった。
 視線の先に、桃の実程度の発光体がすーい、すーい、と漂っていた。燐光である。
「あとみっつおるはずや」
「ゴメンね、メイフェ」
 ヨーコの視線が左右に走り、タチアナのグラビティキャノンが迸る。
 タチアナが謝ったのは、彼女の信条。精霊信仰で育ち、精霊の友を目指すものとして今回の依頼は乗り気ではないどころか、嫌でもあった。しかし、冒険者として参加した。難しいことを考えることは苦手。明確に意識はしていないが、これ以上悲しむ人を増やしたくないという思いが働いたのかもしれない。
 薄暗闇に浮かぶ燐光の軌道は、一瞬がくんとお辞儀した。魔法が命中したのだ。ふらふらと元の高さに戻る。
「近くにいるかも!」
 高い声を出したのは、ユキ。専門級のホーリーフィールドが張れなかったのだ。
「うわっ!」
 キーラがよろめいた。不可視の体当たりだったが、カスリ傷で済んでいる。
「今消えて攻撃した奴!」
 ヨーコのムーンシャドーが弧を描き飛ぶ。
「そこかっ」
 微かな光を放つ矢をしっかり目で追っていたキーラ。着弾点付近に横なぎ一閃。見事捕らえたようで、剣を握る手に重傷クラスを与えた手応えが伝わった。
「下や。落ちたで」
 直感力がものを言ったか、ヨーコが看破した。アドバイスでユキも看破。ニュートラルマジックでインビジブルを解除する。キーラが止めの剣をぶち込んだ。
「こっちもお願い」
 タチアナが繰り返しグラビティーキャノンを食らわせていた燐光も、接近していた。返す刀でキーラが切り伏せる。
「あっ!」
「駄目っ!」
 ここで、鷹丸の声とユキの悲鳴が交錯したッ!


 ユキは、二体の燐光を退治したところで再びホーリーフィールド強化版を張ろうとしていた。
 それが、なぜか失敗する。
 またも不可視状態の燐光に接近されているのかと、キーラは事前に用意していた米糠の袋を周囲にぶちまけた。これで可視状態になるかもと見回す。
 しかし、何も見えない。
 一方、鷹丸は、来た道を振り返っていた。
 そして、ついてきたあやめを発見していた。不味いことに、燐光が傍にいる。
 だっと、鷹丸は走った。
「もしもついてきたら、あんたの仕事はあやめちゃんと自分、両方が怪我一つなく無事帰ることや。無理なことあらへん。気合い入れて頑張りや!」
 昨日、こっそりヨーコから耳打ちされていた。
「本当にいざって時は自分の腕が頼りだからね」
 きょう、道中キーラが剣を指導してくれた時に、そう心構えを教えてくれた。
 耳に繰り返される言葉に肯き、ひたすらあやめに向かって走った。
「メイフェ、手を出しちゃ駄目」
「あいつ、あいつや」
 タチアナとヨーコの魔法があやめ近くの燐光を狙う。命中する間に、鷹丸が到着。彼女を庇うように立ち、腰の剣をすらりと抜いた。
「きゃっ!」
 その時、ユキが悲鳴を上げていた。足元には、ヘビ。噛まれたようだが、場所が良く素肌に牙は立っていなかった。
「なぜ」
 キーラが助けに入り、一刀で切り伏せた。
「これは、スネークチャーム」
 ユキの悲鳴にタチアナが血相を変えてやって来た。精霊知識からこの現象を看破する。
「毒のないヘビだな」
 猟師の心得があるキーラが判断。他にいないか警戒する。その間に、気を取り直したユキが三度呪文に入る。今度は、成功。強固な安全地帯が作られた。
 そして、もう一つの戦い。
「鷹丸、こっちや。走れ!」
 ヨーコは、敵を引き付けるべく走り出していた。鷹丸とあやめも、安全地帯目掛け走っている。
 が、燐光は素早い。
 ムーンアローを連続して食らいヨーコを目の敵にしたはいいが、戦場は混戦となった。燐光は体当たりをするつもりだが‥‥。
――ヒヒィン!
「ソラオー!」
 なんと、ヨーコの連れたペガサス、ソラオーが燐光の体当たりを全身で止めた。移動力の高さと、そして絆を見せ付けた。
 この隙に、鷹丸とあやめは無事に安全圏内に逃げ込んだ。強化した障壁は破られることなく、冒険者たちは不可視状態のもの含め、残り二体のメイフェを撃退したのだった。


「だって、恐かったんだもん。鷹丸お兄ゃんがいなくなるかもって思ったら‥‥」
 村に帰ってから、あやめはそう言い訳した。実は出発前、ユキに「もしも、どうしても行きたい気持ちが抑えられなかったら、必ず私たちのところに来てください」と耳打ちされていた。ユキとしては、「でも、言い付けを守らないと鷹丸様に嫌われてしまうかもしれませんよ」とくぎを刺しておいたのだが。
「いなくならないよ、あやめ。僕は、いつもこの村にいる。強くなって、きっとみんなを守る」
「鷹丸お兄ちゃん、私のこと嫌ってない? 行ったことで嫌いになった?」
「そんなことないよ」
 鷹丸は、泣きじゃくるあやめを優しく抱きしめなだめるのだった――。

 村の大人たちは、剣術指導など鷹丸の成長に気を配ってくれたことを非常に喜んだという。