抜ケ穴〜葦嶽山へ
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 10 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月19日〜09月25日
リプレイ公開日:2009年09月27日
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●オープニング
中国地方の山奥に、四方どこから見てもきれいな三角形をしている山がある。
名は、葦嶽山。
遠い異国、エジプトにあるというピラミッドのように見事な姿だ。しかし、ほかの山々に囲まれているためその全容を眺める事ができる場所は少ない。隠れるようにそびえていることも手伝い、広く知られることはなかった。
その、麓の村。
先日、葦嶽山から京都に行った九人が、大甲虫退治をした冒険者に別れを告げ無事に帰郷していた。八体の地蔵を鐘乳洞内の元の場所に戻すと、抜ケ穴は来たときと同じように全員を運んで葦嶽山の洞窟にある室(むろ)へと戻ったようだ。
彼らは早速、村長宅を訪れ報告している。
「あの山の洞窟から九人の猛者を呼んで村を救ってもらったという伝説は、きっと本当じゃ」
「京都には、えらく強いのがたくさんおる。『ぎるど』に頼めば村の危機を救ってもらえるかもしれん」
興奮して詰め寄りながら口々に話す。
「待て待て。‥‥村長、あれから状況に変化は?」
彼らの内、八田英二郎(はった・えいじろう)と言うリーダー格の男が仲間を諌めて問い直した。
「黄泉人にここの存在がばれてから、変わっとらん」
村長が重々しく言う。
実はこの村。主要な道路から外れ、しかも山間を縫うような細い道の最奥にあるためイザナミ軍の侵攻から逃れていた。戦略的価値がないため捨て置かれたのだろう。それでも、黄泉人が村にやってきてからは定期的に人質を要求されていた。
「知っての通り、最近村の半数を奴隷として差し出すよう言われてからは、手前の村に化け物がうようよしとる。偵察に行った者が食われた事もあった。‥‥このままじゃと、攻めて来られずとも村は成り立たんぞ」
村は、小さい。医者や大工などは他村に頼っている。薬売りや行商なども生活には欠かせない。イザナミ軍の侵攻があった後、流通は完全に断絶状態となっていた。手前の村は、蝶も飛んでいるようで一見のどかだが、騙されてはいけない。かつての住民は死人憑きとなっている。うかつに近付く事はできない。流通なしでやりくりしてきたが、すでに限界は超えていた。
「もう、村人を売るような真似はできん。猛者を呼べるんじゃ。頼んで、やられる前にやつらを追い払おうや」
誰かが言い、火が付いたように皆が同調する。
「村長。どのみち、半数はおろかもう差し出す一人すら選びたくはなかろう。最初の人質を差し出した時は、逆らえんかった。今回は、逆らえる武力を整える。今まで連れて行かれた者には申し訳ないが、状況が違う」
八田は、渋る村長の内心を察して論じた。
「‥‥分かった」
中国地方遠征の話が、こうしてギルドに持ち込まれるのだった。
●リプレイ本文
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京都のある山中の鍾乳洞。
一番奥の間に、冒険者たちが到着した。
「‥‥帰ルノカ? 来タトキヨリ人数ガ少ナイヨウダナ」
縦長の闇という外見の魔物、抜ケ穴が聞いてきた。
「行きと同じ人数しか運べないのか?」
冒険者の案内役、八田がたいまつをかざしながら聞いた。
「別二構ワンガ、移動ハ一日二一度ダケトイウ契約ヲ古二交ワシテイル」
「問題ない。やってくれ」
実は彼ら。京都に九人で来ていた。八田以外は京都で冒険終了まで待機する。
「待テ」
八田の指示に従い、冒険者は洞窟へ踏み込むように抜ケ穴の闇に入る。もちろん胡散臭いし不気味であるため警戒しながらだったが、いきなり止められた。
「馬ハ、駄目ダ。契約シタ生ケ贄二準ジタ者シカ運ベナイ」
「融通が利かんな」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)が短く不平を口にした。仕方なく、愛馬「バラキエル」を見送りに来た者に預けた。
「私のゾフィエルは、いいみたいですね」
リーマ・アベツ(ec4801)のシルフは連れて行ける様子。ただし、一人分扱いのようだ。
「月道でもないのにひとっ飛びなんて、濡れ赤子ちゃんといい、やっぱりジャパンは神秘の国です!」
好奇心に胸を膨らませるルンルン・フレール(eb5885)が続いて入る。泣き赤子で地底に行き地下水道で脱出するなど、最近は冒険詰めだ。
「腕が立つのを探してるみたいだったから何事かと思えば、国中騒がせてる黄泉女神の軍。これはまた大物が出たわね」
そして、セピア・オーレリィ(eb3797)。いつもより余裕のない表情。漏らす色っぽくもあるような。
ともかく彼女。どうやら別の冒険の直後で、傷も癒えない内に参加している。律義で面倒見が良いお姉さんである。
「いや〜、奇抜な経験が増えてくなぁ」
最後に、九烏飛鳥(ec3984)が入った。
すると、入り口が消えて四方が闇に閉じられた。いや、正確には闇とは違う。八田の持つたいまつの明かりによらず、ここにいる全員を視認できるのだから。
が、それも一瞬。
すぐに出口が現れた。
「なんや、一瞬やんか」
「到着したようですね。どうやっているのかは分かりませんが、正に抜ケ穴は我々を『運ぶ』ようです」
「濡れ赤子ちゃんみたいです」
「さあ、とにかく行きましょう」
八田に続いて抜ケ穴の闇から出ると、そこは石室だった。九体の人骨が横たわっている。古に抜ケ穴と契約した生け贄らしい。通路を抜け外に出ると、中国山地の山々が連なる壮大な風景が広がっていた。
●
早速、麓の村に到着すると冒険者は動き出した。
「へーえ、比婆っていうんやね、このへん」
飛鳥は伝説について聞いて回った。比婆の山々には大きな鬼が住んでいるらしく、村は幾度となく襲われたらしい。不思議と大鬼は葦嶽山にはいなかったため神の住む山と崇められていたところ、経緯不明ながら葦嶽山から九人の勇者が来て周囲の大鬼を退治したのだという。
「経緯不明ってのが、抜ケ穴ちゅうわけか」
「抜ケ穴や、奴が言う契約についてはまったくの謎です」
八田はそう、話を締めた。
一方、ルンルンたち。
「え? 黄泉人さん、遅刻魔なんですか」
「遅刻魔というか、いつも日にちを指定せず気まぐれにやって来おるのよ」
彼女の元気に押されながら、村長が説明した。
「もう、村人は疲れ果てとる。いつ来るかいつ来るかで‥‥」
「なるほど。ギルドを通して依頼しても間に合うわけだな」
「一晩ゆっくりしても大丈夫かもですね。セピアさんが万全になれば討ち漏らしの心配が減ります」
同席したメグレズとリーマが視線を合わせ、肯いた。
「わざと、だわね」
仲間からの情報を床で聞き、床にいるセピアが断じた。
「不死者の軍勢に、いつ来るか分からない状況。‥‥人の心の弱みばかり突いて」
「そうだな」
セピアは神聖騎士。そういうやり方にはうるさい。同じく神聖騎士のメグレズも怒りを覚えている。ところで、セピアははだけ気味の襦袢姿で豊満な身体を横たえている。男性がいないので問題はないが。
●
そして翌日。作戦決行。
「バラキエルがいれば」
森の中で、ぼそりとメグレズが呟いた。彼女の弱音も珍しい。
今回、数的に不利な状況で彼女らがとった作戦は、奇襲による錯乱からの大将――黄泉人の撃破。三方向から突入して暴れまくる。メグレズは伏兵として単独先行し、戦場となる廃村に一番近い林に潜伏することになっていた。神聖騎士としては、騎乗してこそ最大限に働ける。無念の思いはこのあたりだ。
そして、本隊。
戦場となる廃村からは遠いが、目視されない場所で一旦止まっていた。
「ルンルン忍法穏身の術‥‥ニンニンです」
斥候となるべくルンルンが動いた。姿を消し、走力を高め、振動探知の魔法を掛けている。ルンルン忍法全開だ。
「じゃあ私はできるだけ近寄りますね」
テレパシーリングで思念会話の魔法を掛け、振動探知も付加したリーマも続いた。ペットのゾフィエルも一緒で、こちらは呼吸探知をする。
残ったのは、飛鳥とセピア。
「ん、ようやく成功したかな。‥‥それにしても、多いわねぇ」
セピアは、達人級の不死者探知魔法に拘っていた。何度か失敗もしたが、何とか成功。これで広範囲が丸裸同然である。
「黄泉人は、どない?」
飛鳥が聞く。ここにいるかいないかがポイントだと思っている。
それは他の仲間も同様で、例えばリーマはできるだけ奥の手を残しつつ制圧したいと考えている。
「駄目。デティクトアンデッドだけじゃ無理だわ」
例えば、他のアンデッドと動きが違う者がいたりすればね、とセピア。引き続き集中する。
ここで、冒険者たちは想定外の事態に見舞われることとなる――。
●
(きゃあ!)
小さく悲鳴を上げたのは、リーマだった。
うまいこと廃村の端にある民家の物陰に潜むことができたのだが、まさかそこが地獄になるとは思ってもみなかった。
なんと、人面蝶が寄ってきたのだ。しかも、数匹。
(そういえば、蝶が舞うのどかな雰囲気でしたっけ)
事前情報では、そうだ。
(うわっ、最悪〜)
幸い、攻撃されても防具のお陰で痛みはない。危機感を抱いているのは、魔力を吸い取ってしまうことを知っているから。すでに数回やられている。
(来るなっ!)
法王の杖を振りダメージを与えるが、何分潜伏中。壁に立て掛けてあった鍬に当たり、大きな音がした。
(しまった)
後悔しても遅い。田んぼで雑草を食んでいた餓鬼が気付いたようで、やって来ていた。
すぐさまグラビティキャノンで応戦。
しかし、別の餓鬼が来ている。
リーマ、孤立の最悪事態となる。
「っと。おまっとさん」
刹那、不死者殺しの姫切が一閃。飛鳥が救援に駆けつけていた。
「どうして?」
「思念魔法でまる聞こえや。ま、よかったけどな」
オーラパワー+スマッシュで瞬殺しながら、飛鳥。とりあえず危機は回避した。
そして、別の場所。
「さー、こっちからも来てますよ!」
ルンルンが、手当たり次第に武器を振り音を立てまくっていた。
「来ましたね〜。パックンちゃんGO!」
のたのた寄ってきた死人憑きに、得意の忍法で呼び寄せた大ガマをけしかけた。大ガマの張り手が死人憑きを圧倒する。
「さらに、七誓抜剣忍斬りですっ!」
陽動作戦が奏功し、死食鬼が近寄っていた。当然、早めに排除したい敵。首の切り落としを狙い見事に入ったのだが、跳ね飛ばすまでにはいかない。手数で止めを刺す。
さらに、別の場所。
「うおおおっ」
林の影から、メグレズが豪快に戦線に突入していた。雄たけびは効果的で、近くにいたアンデッドを一手に引き受ける。対不死者防御魔法を掛け、万全の態勢。
「飛刃、散華!」
ソニックブームで遠距離から削る。
「妙刃、破軍!」
敵が集まりはじめたら、両翼45度以内を一掃するカウンターのソードボンバー。
いずれも瞬殺級の破壊力だ。
と、横合いから死食鬼が出てきた。
「撃刃、落岩!」
容赦ない。大きく振りかぶっての一撃。まさに岩が落ちるような衝撃に、いかに死食鬼といえど一撃瀕死は免れない。
やがて、リーネも偵察モードから本気モードに切り替える。空飛ぶ絨毯に乗ってグラビティーキャノンを放つ。努めて安静にする必要があるので自由自在とまではいかないが、静動折り目のある攻撃を展開し、戦線をかき乱す。
「数が数や。ザクザクいくで!」
飛鳥も全開。死人憑きには大きく振りかぶって一撃必殺。死食鬼は見くびらず手堅く攻める。とはいえ、対不死者に特化した「死人に効果抜群な破魔刀」(飛鳥談)の威力は目を見張る。
そして、セピア。
「おかしい」
寄ってくる敵を浄化魔法で倒し、元村民だった可能性が高い死人憑きには「神の御許に」と祈りも込めて葬り去っていたのだが。
「黄泉人は、いない?」
不死者探知はかなりの範囲を網羅している。もともと黄泉人以外の不死者は複雑な動きはしないと見る。知恵のある行動や逃避の兆候があれば、たちどころに分かる。
しかし、それがない。
「セピアさん、人面蝶も含めほとんどやっちゃいましたよ」
ルンルンが寄ってきた。
「肩透かしだったな」
黄泉人用にレジストマジックを用意していたメグレズは敵中枢をやることができなかったことを残念がる。
「大物の代わりに意外な小物がおった、ってこっちゃ」
まさか蝶退治が加わると思わなかったと、飛鳥。
「あなたが正しかったわね」
「いえ。本命がいないのなら全力でも良かったです」
セピアとリーマが顔を見合わせる。
何となくすっきりしない。
冒険者たちの共通した思いだった。
――次がある。
依頼の内容から、そんな気はする。
しかし、今落としたこの村はどうなるのか。占領しなくていいのか。遅れてきた黄泉人はやすやすこの拠点に到達するのか。奥の村は依然丸裸なのか――。
ともかく、今回は引き上げる冒険者たちであった。