エプンキネ、誕生!

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:15人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2009年10月05日

●オープニング

「師匠〜」
 背の低い女の子が、河原を走る。
 低いといっても子どもではない。おもざしは少女というより、大人の階段を上り始めた娘といったところだ。
「どうした、コクリ」
 返事をした老人も、背が低い。どちらもパラで、独特の民族衣装から蝦夷に住むコロボックルだと分かる。老人の名はマクタ。近寄ってきた娘はコクリという。マクタの孫娘である。
「師匠、仕事が入りましたよ」
「仕事?」
「剣術指導の出稽古に決まってるじゃないですか」
 やだなーもーとコクリ。
「こっちでトゥミトゥムは教えないことはお前も知っておろう」
 実はコクリ、コロボックルが使うトゥミトゥムという流派の指導者をしていた。江戸に出てきて冒険者から指導を請われたこともあるが、「江戸には江戸のカムイがあろう」と断ってしまった頑固者だ。
「ボクが言ってるのは、もちろんエプンキネのことだよぅ」
 トゥミトゥムの指導を断ったがしかし、冒険者の熱意に押され「江戸版トゥミトゥム」とも言うべき新流派を立ち上げることになっていた。冒険者にも相談に乗ってもらい、名前はエプンキネと決まり技術体系も固まっていたのだが、いまだ始動していなかった。
「気分が乗らん」
 というのがマクタの言い訳である。
 どうやら、
「子どもも指導したい」
 というのが本音らしい。実際、蝦夷では主に子どもの時から手厚く指導し大人の戦士に育てていた。剣術だけではない。巫女チュプオンカミクルを守るカムイラメトクとしての心得から教えていたのだ。正に心技体を鍛えるものだ。仮に、冒険者相手であれば技術のみの指導となるだろう。それはそれで良いのだが、彼の体に長年染みついた指導方法からすれば、ちょっと物足りない。
「‥‥最近、戦から避難している人が、腕っ節が強くなくても自分の身や大切な人を守れる程度の剣術を教えてもらいたがってるんだって。そこで定期的に教えてもらいたいって話。子どもたちも習いたがってるらしいよ」
「でかした、コクリ!」
 ぐぁば、と立ちあがるマクタ。しおしおと元気のなかった老体に生気がみなぎる。
「で、何人くらいが指導を希望しておる?」
「たくさん」
 にこっと、コクリ。
「よくやった。でかしたぞ! しかし、そうであればわしらだけでは足らんな。子どもは遊んでやったりもせねばならんからな。‥‥冒険者に早速入門してもらって、その集落へ行くぞ」
 ことさら、「遊んでやったりも」に力が入っているような。
「でも、今までエプンキネの立ち上げ引っ張っといてそれはないんじゃない?」
 一抹の不安を口にするコクリ。
「し、仕方なかろう」
 マクタは真っ赤になって反論した。
「き、きっかけがなかったんじゃから。‥‥立ち上げました、でも内実何もしてません、じゃ格好がつかんわい。言っとくが、決して乗馬にてこずったからではないぞ」
「はいはい」
「それに、冒険者なら即戦力じゃ。最初から流派の詳しい部分を教える必要はないでな。エプンキネの主だった技を演舞できればいい。あとは稽古したり遊んでやったり。‥‥楽しいぞ、コクリ」
 うきうきとマクタはまくしたてるのだった。
 そんなわけで、一緒に出稽古に出てくれる人と入門者を募るのだった。

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8619 零式 改(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1065 橘 一刀(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3241 火射 半十郎(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5094 コンルレラ(24歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5757 エセ・アンリィ(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

江 月麗(eb6905)/ 賀茂 慈海(ec6567

●リプレイ本文


「マクタさん、エプンキネ立ち上げおめでとう」
 我が慶事のように喜色満面の笑顔を浮かべ、コンルレラ(eb5094)は以前に来たことのあるエプンキネ河原道場にやって来たのだが。
「あ、待って。ちょっと大変なことになってて‥‥」
 すでに到着していた冒険者の内の一人、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)がコンルレラを止めた。
 河原に、風が吹く。
 川上側に立つは、流派師範となるコロボックルの老人、マクタ。
 川下側に構えるは、「鬼神」こと、アンリ・フィルス(eb4667)。
 人間で言うなら、大人と子供の身長差がある。それが、殺気をもって睨み合う。
「お主に教えるものなぞないわ。とっとといねい!」
 怒声一発。マクタの声が響いた。
「学ぶのは、常に備えを怠らず、危地にあって尚、大切な人を生かす術を得るためでござる!」
 アンリも負けてはいない。
「ぬかせ! エプンキネはあくまで腕力に劣る者の技じゃ」
「ならばこそ! 拙者よりも巨大で強力なモンスターなど幾らでもいる」
 両手を広げ主張するアンリ。
「ほざけ!」
 瞬間、マクタが動いた。固めた拳とともに一気に距離を詰める。
「おおっ」
 取り巻く冒険者らの嘆息が響く。アンリは、避けなかった。いや。マクタが使ったのはブレイクアウトだ。
 見切るアンリ。仮に本気であれば手痛い反撃を繰り出しているだろう。
 視線を絡める二人。しばらく間が流れる。
「‥‥好きにせい。入門を許すわい」
 やがてマクタは背を向けた。
「やれやれ。これで我が輩も問題ないであろう」
 ほかの冒険者と一緒に成り行きを見守っていたエセ・アンリィ(eb5757)が、ほっとして腕組みをといた。
「そうか? エセ殿の方が彼より大きいだろう」
 横にいた空間明衣(eb4994)が突っ込む。
「我が輩はガタイはデカイが、技巧派である!」
「はいはい」
 明衣は適当にあしらってマクタを追った。
「マクタ殿。医師の空間だ。‥‥私のような小娘でも習うのは可能なのかな?」
 どうも形式的な術は苦手でね、などと続ける。
「ん?」
 これを耳にし首を捻ったのは、ジェシュファ。見た目若いが小娘ほどではと感じたのだ。もっとも、魔法使いである彼は何となく身の置き場の無さを感じていたこともあり口にすることはなかった。
「どうした。不安があるのなら、ただ愚直に修行に打ち込めばいいのでござる」
 零式改(ea8619)がすっと忍び寄ってきて、ジェシュを励ました。落ち着きを失った仲間に声を掛けるのは自分の役目と任じているようだ。
 そして、再びマクタの周辺。
「マクタ先生、私修行頑張っちゃいますから、宜しくお願いします!」
 ぺこりと挨拶したのは、ルンルン・フレール(eb5885)。初心に立ち返り基本からみっちり鍛え直す意気込みだ。
 と、ここでガラガラと音が。
「河童の磯城弥魁厳(eb5249)と申しまする。よろしくお願いいたしまする」
「そ、それはいいが、これは?」
 マクタは目を丸め魁厳の足元を見る。ロッドが十本、転がっている。
「稽古用に振り回す武器として」
「持ってきた、と。‥‥こりゃありがたい」
「おおい、マクタのお師さん。出稽古は明日だろう。俺は弓を教えるんで、今から手作りしておくよ」
 桃代龍牙(ec5385)もやって来て言う。「チキューで弓道をやってたから」という言葉はともかく、手にした魔弓「夜の夢」を引く姿は猟師然としている。
 ところで、コクリは?
「アンリさん、師匠が失礼をしました」
「力量を見る挑発でござろう。気にしておらんし、マクタ殿も気にはしておるまいよ」
 にかっと笑うアンリに、コクリも安心して笑った。
 そんな二人の様子を、コンルレラが見ていた。
(ふうん、優しいんだ)
 コクリの動きが気になる様子。その視線に、コクリが気付いた。とっさに視線を逸らす。
(‥‥何だろ。胸が詰まるな)
 自分が自分でなくなるような、自然ではないような。正体の知れない鼓動に、何だか調子が狂うなとか思うコンルレラであった。
 そしてさらに、その様子を見ていた者がいた。
 リィム・タイランツ(eb4856)である。
 何を決心したのか、こちらはぱあっと曇り後晴れのような表情だった。


 翌日。
 一行は依頼のあった村に出稽古に来ている。流派の技は昨晩一通りなぞっている。
 まずは、模範試合。
「我こそは磨魅キスリング、悪を断つ義の刃なり!」
 マミ・キスリング(ea7468)が試合に立つ。観戦する老若男女が胸をすく口上に盛り上がる。
「ボクは蝦夷のコクリ。絶対に負けない!」
 相手は、コクリ。
 ともにすらりと真剣を抜く。
「始めっ」
 審判に立ったマクタの声で始まった。にらみ合いから動いたのは、コクリ。フェイントアタックで慎重に攻めるが、マミはオーラシールドなどでしのぐ。
(隙あり!)
 コクリの攻めに工夫がなくなったところを、狙った。昨晩数度だけ試した掠め斬り。シュライクだ。
 事前の申し合わせの通り、標的となるぶかぶかの上着だけを切る。布切れが舞った。
「我が虎徹に、断てぬもの無し!」
 ちゃきりと日本刀「長曽弥虎徹」を構え直すと、マミは勝ちを誇り鞘に収めた。
 しかし。
「双方、決定打はなし。よって、引き分け」
 なんとマクタ、マミの一撃を採らなかった。
「掠め斬りがもう一つ甘い。あれでは採れんよ」
「‥‥精進します」
 拍手に包まれる中、そんな会話をするマクタとマミだった。
「次は私だな」
 ずい、と橘一刀(eb1065)が登場した。
 相手は、マクタだった。
「はじめっ」
 審判、和泉みなも(eb3834)の手が下りる。
「はっ!」
 いきなり下がる一刀。老人とは思えないような速さに警戒したのだ。
 この後、回避に長ける一刀が次々繰り出されるブラインドアタックやディザームをやり過ごす。一刀のシュライクもオフシフトでかわされる。
「おお、双方とも技の越後屋だな」
 冒険者の誰が口走ったか、上手いことを言う。
(それだけに、つらい)
 わずかに眉を顰める一刀。彼自身、この立ち合いを楽しんでいた。エプンキネ披露の意味以上に、心地の良いしのぎ合いだった。
 一刀が残念に思ったのは、マクタの動きがほんの少しだけ鈍ってきたことにある。おそらく疲れだろう。
(終わらせたくないな)
「‥‥あ。勝負あり」
 みなもの声が挙がった。マクタが一刀の懐に入り込み、肘鉄を入れていた。一刀としては、逆に一瞬の隙を突かれた形だ。
「この未熟者め!」
「精進いたします」
 一刀の遠慮に激怒するマクタ。一刀の方は、むしろすっきりしたような笑みをこぼすのだった。


 後は、それぞれ住民に稽古をしてやったり遊んでやったりと楽しんだ。
「誰だって努力をすれば、道はなせる。若者よ、後は前にすすむだけである」
 演説っぽいのは、エセ。二刀で次々と技をつなぐ流れるような演舞を見せた直後で、生徒はすっかり心酔し聞き入っていた。
「あなたが先生なら安心して子供を任せられます」
「いや、僕は薬師で」
「またまた。先生も打ち身をしてるじゃないですか」
 薬草で打ち身などの手当てをしていたジェシュファは、えらく頼りにされていた。剣の指導ができて応急手当もできるのが気に入られたようだ。
 ところで、手当てといえば医者の明衣がいない。先程までは技術指導や、「打ち身に血豆に擦り傷と。そうやって身体に技が染み込んでいくものだ」などと看護に勤しんでいたのだが。
「これでよし。まあこの程度ならしばらく安静にすればいいだろう」
 剣術とは関係なしに急患がいたようで、その民家に行ってたり。大いに感謝されエプンキネの名を印象付けたようだ。
 場面は再び、屋外。
「人と馬が協力し合えば此の様な事も出来るのですよ」
 みなもが流鏑馬を披露していた。この時ばかりはマクタも弟子。
「木を隠すなら森の中。しかし隠れようすると返って見つかりやすいところに隠れてしまうものでござるよ」
 子供とかくれんぼで遊ぶのは、改。この子どもたちに未来を見るのか、遊びを通して技術を伝えようとしている。
「うわあっ、美味しい」
 黄色い歓声が上がったのは、魁厳がいるあたり。子どもたちは忍犬と触れ合ったり剣の持ち方を習っていたのだが、手作りケーキは珍しかったようだ。激しく感謝される。彼としては、ちゃんと子どもが「ありがとう」と言ってくれたのを喜んでいる。
「川遊びしたい子、この指と〜まれっ!」
 にこっ、と人差し指を立てるのは、ルンルン。「好きな人のことを守るって思いながら素振りしてね、私も一益さ‥‥むにゃむにゃ」など頑張っていたが、休憩するようだ。すでにガキ大将状態だったり。
「マクタのお師さん、夕げの支度ができたぜ」
 そう親指を立てるのは、龍牙。主に商人関係者を教えたようで、代わりに食材を提供してもらったちゃっかり者。河童の魁厳が一肌脱いで川で魚を捕ってきたりもして、豪華なものとなっている。
「ほらほら、みんなで楽しくやろう」
 門人生徒住民問わず、広く呼び掛ける。
「まさか、避難生活がこんなに楽しくなるとはなぁ」
 食べて話して、皆満足そう。
 一方、しんみりする人たちも。
「‥‥いまだ諦めきれなくてさ。性格がボクとは違うって」
 リィムがコクリに恋愛相談していた。コクリ、真っ赤になってオロオロしている。
「キミは誰か好きな人、いる?」
「む、昔いたけど、ボクなんかより巫女の子の方が‥‥」
 どうも憧れていた人くらいはいたようだ。
 そして、宴はたけなわ。
「おお、コンルレラ殿。何か掴めたのか?」
 一刀とみなもが遅れてやってきた。一刀は、トゥミトゥムとエプンキネの違いを考えてみると聞いていたコンルレラと顔が合ったので声を掛けたのだ。
「うーん。トゥミトゥムも守るためのものなんだけど」
「焦ることはないだろう」
「そうですよ。始まったばかりですから」
 みなもはそう言って、二人の会話をまとめるのだった。