【菱刈丸】黄泉船との対決

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2009年10月13日

●オープニング

「うおっ。ありゃなんじゃ!」
 波穏やかで多島美の瀬戸内海を行く漁船が、日常とは違う光景を目の当たりにした。
 島影から突然、大型船――といっても、大名の水軍船よりは若干小さい――が現われたのだ。いつもなら、見掛ける事すらない海域である。
「どこぞの水軍か」
「単独なら違おう」
「ならば商船‥‥」
「いや、海賊かもしれんぞ」
「おい! ありゃあ、骸骨じゃねぇか」
「うわっ、かさかさの女も乗っておる」
「よ、黄泉の船じゃあ!」
「ついにこっちの海にまで来るようになったか」
 うわさに聞くイザナミ軍の船と知り、二隻の漁船は急いで回頭すると必死に逃げ始めた。
 この判断は正しかったようで、直後、矢が飛んできた。
「ひいいいい」
 漁師の一人が振り返ると、黄泉船も回頭しているところだった。
 運良くその時は、無風。両舷の櫓が波をかくが、さすがに小回りは小型船にはかなわない。回頭した事で逆に、飛んでくる矢の数が激減した。
「こ、こりゃ例の船に助けてもらうしかないで」
 こうして、菱刈丸に海上治安回復の依頼が持ち込まれる。

 そして、京の冒険者ギルド。
「しかし、お金もなく大きな船を何度も出航させる事ができますね」
 ギルドの担当者は、依頼に来た菱刈丸の船大工長に聞いた。ちなみに名前は八幡島(やはたしま)といい、冒険者と船の名前を決める時、「自分の名前に似ているから」とある案に引いてもらったこともあったり。
「葉陰、とかいう連中が出資してくれてな。やつらも『冒険者ギルドはいい』と太鼓判を押しとった。漕ぎ手もになってくれて、ありがたい限りじゃ」
「では、戦闘力のみの募集で。食糧や矢などの消耗品は必要なし?」
「無論、必要なし」
 葉陰とは、隠れ里で以前ギルドで冒険者を雇っている。以来、羽振りが良いといううわさもある。
 ともかく、こうして海上戦闘の戦力が募集された。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

沖田 光(ea0029)/ ヒースクリフ・ムーア(ea0286)/ 神木 秋緒(ea9150)/ ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)/ ヴィタリー・チャイカ(ec5023

●リプレイ本文


「各地が戦乱にまみれている以上、瀬戸内海の物資の流れを守るのは必須です」
 黄泉船退治に向かう菱刈丸の甲板で、木下茜(eb5817)が凛々しく言い放つ。
「茜さんの言う通りっ。平和な海を荒らす、悪い黄泉船を正義の忍法で退治しちゃいます!」
 ルンルン・フレール(eb5885)も同調する。だって漁師さんが仕事できなかったらお魚の値段も上がっていろいろ大ピンチだと思う、とか続ける。
「‥‥索敵。この一点だろうな」
 デュラン・ハイアット(ea0042)が、腰掛ける段差を人差し指でとんとんと叩き話題を変えた。
「実際、この戦力で負ける可能性は低かろう。問題は、こっちの被害をどれだけ食い止めるか」
 必須、という話ならこれも譲れないとの思いだ。先の先を見るあたり冷徹な野心家らしい。
「ああ、それなら」
 反応したのは、ジルベール・ダリエ(ec5609)だった。
「戦闘時には矢除け用のウォールシールドを展開できるよう、八幡島のおっちゃんに頼んどいた。索敵は、黄泉船の航路が近付いたらグリフォンで上空から船影を探す」
「舳先には俺が立つとすっかな」
 矢除けがあるのはありがたい、とクロウ・ブラックフェザー(ea2562)。弓の撃ち合いで後れを取るつもりはない。
「ならば私は動きながら警戒するか」
 秘策あり、のデュランは不適に笑う。
「『菱刈丸の潜水忍者』さんは、どうする?」
 ジルベールが、処女航海で同船した磯城弥魁厳(eb5249)に聞いた。魁厳は先の戦いぶりから、乗組員に「潜水忍者」の名前で覚えられていたようだ。
「ではワシは水中から皆様の戦闘を支援いたしまする」
「空飛ぶ絨毯使ってここに来たやろう。空から偵察には行かんの?」
「‥‥あまり空は飛ばん方がいいかもしれん」
 念を押すジルベールだったが、八幡島がやってきて忠告した。
「今回は、敵の航路をある程度把握しているからな。ただ、島影からの遭遇になるんで、事前に情報は欲しいし舳先の見張りも必要」
 どうやら瀬戸内での海戦は、ほかの海域での戦闘とは視界の点で異なる場合があるようだ。
 と、そこへラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)がやってきた。
「はい、どうぞ。『腹が減っては戦は出来ぬ』ってジャパンでは言うのでしょう?」
 どうやら家事も得意の様子。温かい料理を運んできた。
「うわー、大助かりだよっ」
 生き返ったように元気になったのは、シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)。いわく、「寒いのは、キライだよ」。着込んだり炎の指輪で防寒しているが、それはそれ。体の芯から温まる喜びに浸る。
「そーいや沖田の光ちゃんに聞いたけど、妖怪かさかさ女じゃないんですね」
「黄泉人? ああはなりたくないよねー」
「おお、凄腕の占い師さん。例のもの、用意できたとよ」
 ルンルンとシャフルナーズのお肌談義に、八幡島が割り込む。
「あ、鉤付きロープ。これで敵船に乗り込めるね」
 にっこり礼を言うシャフルナーズ。ちなみに、彼女は凄腕占い師のあだ名で船員に覚えられたらしい。
「じゃ、作戦としては、遠距離攻撃を仕掛けつつ前衛が乗り移り甲板を制圧。その後乗り込んで船内を掃討、だな」
 膝を叩いて立ち上がりまとめるクロウ。作戦開始だ。


「来た。想定ルート通りや。もうすぐあの島影から出てくるで」
「分かった。八幡島のおっさん、手はず通りだ」
 空からの偵察から帰ってきたジルベールの報告を受け、デュランが操船組に指示を出す。
「舳先は私が」
 ラヴィサフィアがホーリーフィールドを展開。敵に晒す左舷側には矢除けを立ち上げる。
 一方、前衛組。
「参る」
 河童の魁厳が飛び込んだ。
「ルンルン忍法、水走り!」
「私も」
 ロープを伝い降りたのは、水上歩行魔法のルンルンと履水珠のシャフルナーズ。水上突貫部隊だ。ジルベールも再び飛び立つ。甲板には、主砲を務めるデュラン、弓のクロウと茜の遠距離攻撃組、各種支援のラヴィサフィアが残った。
 想定では必勝の陣形。冒険者たちは、事前準備で勝負が決まると踏んでいた節があった。実際、空・海・海中、そして近・遠、攻・防いずれの面も考え抜かれた布陣だった。
 しかし、誤算は「菱刈丸と同型艦」であることだった。
 冒険者が誤算に気付くのは、もうしばらく後のことになる――。


「主砲ってぇのは、いの一番にど派手にぶっ放せる砲撃ってこった!」
 無人島の島影から黄泉船が現れると、デュランが達人ライトニングサンダーボルトを放った。クールで上品そうだが、冒険好き。景気付けの一発という意味から、普段表にあまり出ない一面を見せる。
 雷撃が一直線に伸びる。見事、黄泉船の横っ腹に命中した。
「よっし!」
 見守る者全てが熱く拳を固めた。
 そして、一瞬の静寂。
 敵は想定通り一隻。雷撃の影響で激しく揺れている。
「ま、あの程度では沈みはせんが‥‥」
 呟く八幡島。同型艦なので、あれで沈めばこちらも同じ攻撃で沈むという理屈ではある。
 ともかく、一番嫌なのは逃げられること。そうされないため、一瞬の間を置き攻撃を誘っているのだ。
 果たして、敵艦から矢の反撃があった。しかも射程外で届かない。
「よっしィ!」
 一同、熱く熱く拳を固める。
「漕げ漕げ〜! 鼻先抑えっぞ」
「瀬戸内海の航路は、海運・漁猟の要所。黄泉船の跳梁等、許す訳には行きません」
「射手は骸骨どもか」
 船員の声の後、攻撃開始。茜の気合いに、クロウの狙撃。無論、接近しつつある突貫部隊の援護射撃なので派手に弾幕を張る。やがて敵射程に入るも、ウォールシールドと舳先のホーリーフィールドが奏功し被害を防ぐ。特に前者は目に見えるだけに、乗組員全員の安心感につながっている。
「もう一撃ぃ!」
 頃合いを見て再び主砲が火を噴く。
 しかし、同じ魔法で相殺される。威力はデュランの方が大きいため、雷撃は命中した。
「ほう。お出ましってとこだな」
 見れば、敵艦甲板に黄泉人らしき者がいる。クロウと茜が狙うが姿を隠した。この後、敵からのライトニングサンダーボルト。菱刈丸も激しく船体が揺れる。敵の狙いはこれだったようだ。
 だが、デュランが最後の一発を見舞った。
 リトルフライで浮いていたため、揺れの影響を受けなかったのだ。
 これにより、敵艦の弾幕はデュランに集中することになる。彼の狙い通りに――。


 突貫部隊は、非常に仕事がやりやすくなっていた。
 シャフルナーズとルンルンの海上疾走組は、上空のジルベールの援護もありやすやすと敵艦に接近していた。
 もっとも、近寄れば飛んでくる矢も多くなる。
「はっ!」
 シャフルナーズは矢を回避していたが、迷っていた。手には、鉤付きのロープ。これで甲板に登れるが、果たして作業する隙があるか。
 迷ってルンルンの方を見ると、「ええっ!」と目を見張った。
 なんと、ルンルンは走る速度を落としてないのだ。
 と、ここで敵艦近くに水柱が立った。魁厳の高速詠唱微塵隠れ「昼月」だ。甲板が混乱し射撃が一瞬、止んだ。
「ええいっ!」
 一気に走るルンルン。
 なんと、敵艦の櫓脚を目掛けて跳躍し、それを足場に二段飛び。甲板まで一気に到達したではないか! えび反りの体に逆光がシャイニングする。そして、見事に着地。
「うわあ、むっちゃするなぁ」
 上空から複数矢を速射するジルベールの感想は、これ。
「パックンちゃんGO!」
 彼女の方はすかさず、大ガマを呼び出す。
「閻魔!」
 先に乗り込んでいた魁厳も、居合いからの急所斬りで怪骨の弓手を落としていく。
 この隙に、シャフルナーズも乗艦に成功していた。
「勝負、あったな」
 ジルベールは敵船上の掃討戦に移ったと判断。同時に、「ジルベールさま、私も連れていってください」というラヴィサフィアの頬を染めた姿が脳裏に蘇った。危なくなれば全力で守る覚悟で、彼女を連れに菱刈丸へと戻った。道中、ペガサスに乗ったクロウと擦れ違うのだった。


 怪骨に矢は相性が悪かったようだが、何体かは倒れている。本数勝負はもちろん、茜とジルベールの対不死者の弓が利いたようだ。
 ワールウィンドに騎乗するクロウが敵艦に接近したとき、甲板で異変が起こっていた。
 なんと、かさかさの黄泉人が人間一人を盾に何かを要求しているではないか。
「どういうこった?」
 首を捻るが状況は一目瞭然。
 冒険者に撤退を迫っているのだ。証拠に、魁厳もルンルンもシャフルナーズも構えに迷いが出ている。
 年長の魁厳が何やら言葉を交わしている。おそらく交渉しているのだろう。
「‥‥どう、すっか」
 自問するクロウ。
 まだ、弓からライトバスターに持ち替えていない。ここから黄泉人を狙撃するか。験を担いで招福のターバンを愛用している。弓の腕にも覚えがある。うまくいく可能性もあるかもしれない。
(冒険者ギルドへの期待を裏切るわけにもいかねぇよな)
 決心、した。
 これが自分の役目だと、心得た。
 しかし、撃たなかった。
 上空のクロウに気付いた魁厳が止めたのだ。


「ま、あれだけ痛めつければしばらく出てこんよ」
 主砲、デュランの三発。八幡島は敵艦の被害をそう見る。悪い結果ではない。
「しかし、敵船の漕ぎ手が人間だったとは」
 魁厳が悔やむ。
 結局黄泉船は、冒険者に引いてもらう代わりに漕ぎ手の奴隷の半数を海に投じた。開放である。魁厳、ルンルン、シャフルナーズ、クロウ、ジルベール、茜が救助に当たり、収容。ひとまず引くのだった。
「こっちと同じで力のある漕ぎ手が必要、か」
 漕いでいた葉陰の風柳も輪に加わって、しみじみと漏らした。
 日は、傾きかけている。
「残念です」
 月に背を向け座るラヴィサフィアが、肩身を小さくした。
「半数助かったんや」
 ジルベールが優しく声を掛ける。
「そう。苦しんでいた人を半数助けたんだぜ。こいつは、でかい」
 クロウはペットのケット・シーに新鮮な魚を振る舞いながら、成果を強調するのだった。