抜ケ穴〜凹の悲劇
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:9人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月17日〜10月23日
リプレイ公開日:2009年10月29日
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●オープニング
「ついに来た、ということですね」
冒険者ギルドの受け付け担当者が相槌をうった。
「はい、ついに来ました。‥‥先日は、手前の村にいた不死者軍団を冒険者のおかげで撃退できたのですが、また新たな軍団が現われ駐屯しているのです。まだ、人口の半分の奴隷をよこすよう言って来てはないのですが」
依頼者はそう、窮状を訴える。
彼の名は、八田。
中国地方の比婆には、葦嶽山というエジプトのピラミッドに似た形をした山がある。彼はその麓の住民だ。京都までは、葦嶽山中と京都某山中の鐘乳洞などを往来する「抜ケ穴」という魔物に運ばれてやって来た。
「今度は、いつも村を訪れて人質や奴隷を要求していた黄泉人もいます。‥‥でも、なぜかまだ我らの村には来ないのです」
通常考えれば、まっすぐ村に来て人質を連れ去っていくだろう。彼らの目的はその一点だったはずだからだ。
「もしかしたら、村にまだ先の駐屯軍を倒した者がいると思っているのかもしれません。だから、我らが何とか時間を稼ぐ間にぜひまた助けて欲しいのですが」
「分かりました。募集を掛けてみます。‥‥ほかに変わった事は?」
「近くまでの偵察は危険ですので出していません。遠くから観察して黄泉軍の到着といつもの黄泉人が指揮をしていたところまでは最初に見たのですが、その日以降はさらに遠くからの観察しかしてないので‥‥」
危険ですし日に油を注ぐわけにもいきませんし、と続ける八田。
「現地の地形を改めて聞きます」
「村周辺は、上から見るとちょうど凹凸の凹の字のようになっていて‥‥」
彼が書いた図によると、凹のくぼんだ部分に葦嶽山があり、両方の出っ張りにも山があるという状態。村は一番へこんだどん詰まりにあり、黄泉軍団が駐屯する村は両の出っ張りに挟まれた辺り。つまり、交通は一本道のみなので逃げ場がない。運良く、伝説になるほど昔、葦嶽山以外にいた大鬼を退治するため九人の猛者を呼んだという「抜ケ穴」があったため、こうして京都に助けを求める事ができている。
「確認しますが、依頼は黄泉軍の撃退ですね」
念を押す担当者。
「はい。我らの村が戦場になろうと、何人死ぬ事になろうと構いません。‥‥ただ、村人を差し出したくなく、やつらに殺されて利用されることにならなければ、それで幸せです」
「いや。まあ、敵はまだあなた方の村には来てないのですから」
ひとまずたしなめるが不審な点は多い。何となく、村は時間稼ぎをする必要もなく冒険者の救援が間に合うのではないかと踏む。
「まあ、考えるのは参加者か」
こうして再び、中国地方遠征の依頼が掲示された。
●リプレイ本文
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比婆連峰の葦嶽山にある、石室。
九体の白骨が残された暗い空間に、音もなく丸い闇が現れた。
やがて闇の中から、明かりが差す。
「これはまた素晴らしい。歌にして語り広めたいですね」
出てきたのは、細身長身のアシュレイ・クルースニク(eb5288)。左手には、ライト・リングで作り出した光の玉があり、暗闇を照らしている。彼が出てきた闇――抜ケ穴と呼ばれる魔物だけは、光が当たっても闇のままであるが。
「わぁ、やっぱり何回通っても、不思議しぎ摩訶不思議で感動しちゃいます」
すでに来たことのあるルンルン・フレール(eb5885)は、独特の言い回しで両の拳を口元に当てる。
「日本のピラミッド・葦嶽山には移動妖怪さんがいたのですね〜」
「いかにもお宝がありそうよねぇ。比婆山といえば、イザナミの墓があるとかないとか。‥‥ぞくぞくしちゃう」
しみじみ言うのは、シーナ・オレアリス(eb7143)。続いて、優雅に左手で扇を波打たせるヴェニー・ブリッド(eb5868)が出てきた。
「出雲にも比婆山があって、お墓はそっちっていう話もありますけど。‥‥興味津々です」
「ま、久し振りにアレをやってみれば分かるかも」
会話を続けるシーナとヴェニー。
それはそれとして、シーナは移動妖怪・抜ケ穴を調べヴィニーは石室をざっと検分している。好奇心旺盛というか、抜け目がないというか。「月道絡みは間違いないけど、精霊とは質が違いますね。何だろ」などとつぶやくシーナ。
「奴等が動かぬのは様子見、というよりも罠か。少なくとも、この村に何か秘密があるということは確信を持っているだろうな」
次に出てきたアヴァロン・アダマンタイト(eb8221)が、周囲を警戒しながら言った。奴等とは、当然目下の敵、八田たちの村を威嚇しているイザナミ軍のことだ。
「まー、普通の反応やね。殲滅の原因もわからん内に迂闊は出来んわ」
言ったのは、九烏飛鳥(ec3984)。「戦力規模からして、もう一押しか二押しでいけるかもしらんな」と、付け加える。敵と同じくこちらまで消極的になるわけにはいかない。
「黄泉人の搾取を受ける村か。何とか解放してやりたい所だな」
クロウ・ブラックフェザー(ea2562)も、同意するところだ。
●
「‥‥次はその右手の家、柿がたくさん実ってる方。そう。家の中に3人いるけど、呼吸はどうです?」
「大丈夫ですよ。振動と一緒で3人」
依頼のあった八田らの村が一望できる位置で、超越振動探査魔法のリーマ・アベツ(ec4801)と超越呼吸探査魔法のリアナ・レジーネス(eb1421)が見事なコンビネーションを見せている。
「前回、痛い目に遭いましたからね」
学者のリーマ。調べると言ったらしらみつぶしだ。リアナも超越クラスはお手のもの。特に敵の斥候や隠密が忍んでいる気配はない。
「さっき落とした鳥、特に問題はないようだ」
クロウを始め、周囲の偵察に出ていた仲間が次々と戻って来る。
「罠や何かしらの準備が考えられるが、どうだろう」
本隊護衛に残っていたアヴァロンが聞くが、特にこの界隈にはなかった様子。
「こっちの準備は着実に進んでいるけどね」
ふふふっ、と扇で口元を隠すヴェニー。空は曇りだったはずだが、いつの間にか雨雲が多くなってきている。超越天候操作魔法の効果だ。
「そういえば」
ふと、口にしたのはシーナ。
「予感がしたので八田さんに聞いておいたのですが、比婆連峰には『ヒバゴン』がいるそうです」
ヒバゴンの正体は一般で言うところの鬼ではある。
「手にした武器でその辺の木を叩く癖があって、出現する前はゴンゴンって音がするとか言ってました」
つまり、比婆連峰に響く音から名を取って、「ヒバゴン」だとか。
「もっとも、ここは比婆連峰の端らしくて生息場所からは遠いようですけど」
抜ケ穴が長らく言い伝えのみの存在になっていた証である。
「ま、出現前に音がするってんなら余裕で対応できるぜ」
クロウの言う通りである。
●
翌日、冒険者たちは包囲状態から廃村を攻めていた。
「我が名はアヴァロン・アダマンタイト。これ以上、お前たちの好きにはさせぬ。この身は決して破れぬ盾と知れ!」
一番槍となるべく徒歩にて単騎駆けしたのは、アヴァロン。炎の槍を手に、気合いが迸る。素早く詰めてくる死食鬼を容赦なくぐっさり一突きする。
これが、開戦の合図となった。
今回、アヴァロンの言う通り大型魔法の使い手が主戦の編成となっている。
リアナが、超越のライトニングサンダーボルト。加えて、広域腹話術による伝令役も担っている。すでに左右に潜伏展開する仲間に突撃タイミングを知らせるなど活躍している。
ヴェニーは、同じく超越ライトニングサンダーボルトを広角で狙う算段。奥の手もあり。
シーナは、アイスブリザードを超越級か達人級で。煙幕などの戦闘補佐もする気構え。
リーマは、達人グラビティーキャノンで応戦予定。
攻撃力だけ考えると、うまくやればこの4人で大局が決まるほど。
が、心配もある。
「ひょっとしたら奴隷にした人達を人質に、降伏を迫る作戦かもしれない。卑怯な手を使ったって、お見通しなんだから!」
とは、ルンルンの怒りの呟き。
そのルンルン。飛鳥と一緒にアヴァロンに続いている。
しかし、彼を手伝うことはせず追い抜く。村内で戦闘をしつつ黄泉人を探すつもりだ。
「角度を変えてはみたものの、新たな発見はなしか」
一方、主力部隊の右前方。
木の影に、クロウとアシュレイが隠れていた。クロウは村で聞いた廃村の略地図を手に、望遠魔法の巻き物を使って敵の配置状況を確認した直後だ。
「攻撃、始まりましたよ。私たちも行きますか?」
「俺はここからで充分」
そう言ってクロウは破魔矢で死喰鬼を狙い始めた。アシュレイは、念の為にクロウの護衛として残ることにした。
さらに、主力部隊の左前方。
「この数に一斉に来られたらたまりませんからね」
シーナが、いた。人面蝶の群棲地を先に叩くつもりだ。味方の編成上、主力に群れを成して襲い掛かってきて欲しくない。固まっているのを幸いに、達人級のアイスブリザード。一網打尽にした。
そして、主力部隊。
リアナが一直線に重なる角度に移動し、超越ライトニングサンダーボルトで狙う。
「‥‥アンデッドは往生際が悪いのでしょうかね」
大打撃を与えたはずだが、一撃で止めを刺すことができなかった。死食鬼、耐久力があるようだ。
「助かる」
迫る死食鬼と餓鬼に対し孤軍奮闘するアヴァロンが叫ぶ。リーマの放ったグラビティーキャノンによる転倒効果でずいぶん楽になっているのだ。
しかし、ここで予期せぬ事態が発生する。
●
「‥‥あ。これってもしかして」
最初に異変に気付いたのは、攻撃に参加していないアシュレイだった。
森の中からゴンゴンと音が鳴っているのだ。
しかし、彼は本隊から離れている。
森から現れたヒバゴンこと大鬼、いや、人喰鬼率いる鬼の集団に襲われたのは本隊の方だった。敵総数は人喰鬼一匹に小鬼戦士四匹。
すでに戦闘状態だった本隊は、後背からの接近に対応できなかった。探知魔法の範囲ではあったが、前方攻撃に集中した状況では警戒しきれない。
割を食ったのは、ヴェニーだった。移動して扇状の超越ライトニングサンダーボルトを放ち死食鬼複数、餓鬼複数に止めを刺したのはいいが、人喰鬼隊から一番近くなってしまった。
「きゃっ! 何?」
彼女は、魔法使いにしては堅牢か。それでも人喰鬼のスマッシュは痛い。時を同じくして、彼女と同方向に展開していたリアナも小鬼戦士から攻撃を食らう。軽傷。
「おのれ!」
ヴェニーの一撃で相対していたアンデッドがほぼいなくなったのは大きい。アヴァロンが二人を守るべく人喰鬼に当たる。
「リアナさん、ヴェニーさん!」
その隙に、補佐に徹する覚悟だったリーマがリカバーポーションを手にリアナとヴェニーに近寄る。
しかし、小鬼戦士はフリーだ。弱った敵を見逃すはずはない。
棍棒を振り上げ、迫る小鬼戦士。
が、その動きが止まった。
「させねぇよ」
クロウの援護射撃だ。
「よくもやってくれたわね!」
後、回復したヴェニーの「かみなり」というか、怒りの一撃が炸裂。雨雲からの超越ヘブンリィライトニング。ヒバゴンこと人喰鬼は一瞬で消し炭となった。
そして、廃村の中。
「くーっ。狙うんはうちかい」
姫斬にオーラパワーで、対アンデッドには滅法強くなっている飛鳥。餓鬼には一撃瀕死で死食鬼にも大打撃を与える活躍を見せていたが、隠れていた黄泉人からライトニングサンダーボルトを食らった。死食鬼からのダメージもあり、さすがに動きが鈍る。
「大丈夫ですか?」
ここは、クロウと分かれ対不死者戦闘に加わっていたアシュレイがリカバーで助けに入った。
「ルンルンさん、これで狙ってください」
前線に移動していたシーナがミストフィールドで煙幕を張った。これで敵魔法は抑えられる。
「捕まってる人がいないんなら!」
黄泉人が煙幕から出たところを、ルンルンが狙った。素早く斬りつけ逃げられないよう回り込む。
止めは、煙幕から出てきた復活の飛鳥とアシュレイ。
「前が見えんでも‥‥」
「音は聞こえるということです」
こうして、八田たちの村を狙っていたイザナミ軍は全滅した。
「京都に来た方がいいんじゃね?」
クロウは村人に言うが、「ここを捨てたら土地まで死ぬ」と首を振る。すでに廃村では田んぼが荒れ果てている。生産力を取り戻すのに何年かかるやら。
「じゃ、せめてこれ置いてくで」
飛鳥は不死者探知ができる惑いのしゃれこうべを渡した。村にとってありがたい贈り物である。
それはそれとして。
「『突撃隣の黄泉人さん』の名が泣くわね」
ヴェニーが残念がっていた。何かができなかったようだ。
ちなみに、葦嶽山の石室に隠し扉などはなかった様子だ。
「だったら何のための物よッ!」
謎である。