【菱刈丸】強襲揚陸作戦!

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月30日〜11月04日

リプレイ公開日:2009年11月10日

●オープニング

「まだ、生存者がいるかもしれないんだ」
 先の海戦で助けた、黄泉軍の菱刈丸級船に奴隷として乗船していた若い男はそう懇願する。
「落ち着け。もうちょっと詳しく話せ」
 菱刈丸の船大工長、八幡島は重々しく言う。
 どうやら、ある漁師町の者らしい。かなり前に黄泉軍に敗北し、住民は殺されるか奴隷として連れて行かれた。いま、町は無人で死人憑きのるつぼと化しているらしい。
 町の名前は、草乃津(くさのつ)。
 若干盛り上がる岩の小山に簡易砦があり、小規模な城下町となっている。狭い土地に長屋などが密集し、道幅が狭い。両の岬に隠れるようになっており、昔は海賊の拠点だったと言われている。町並みも戦を想定した形になっているようだ。
 現在、簡易砦は焼けてなくなっている。黄泉軍との戦いで防衛側が自決した結果だ。
「砦がなくなった時点で、あの町はもう軍事的な価値がない。死者の軍勢も落した後はあっという間に去った。‥‥しかし、実は女子どもを蔵の地下室に隠したんだ。まだ、生きているかもしれん」
 若者の名は、藪木(やぶき)といった。
 彼の主張は分かるが、町が落ちたのは何ヵ月も前のこと。黄泉軍の前に破れた他の町などは、軍が去った後も死人憑きや餓鬼などが居着いているという。女子どもばかりで、残り生き残っている可能性はほぼないだろう。
「隠した子どもたちと約束したんだ。『必ず助けに来る』って。もしかしたら、もう生きてないかもしれん。それでも、行かなくちゃならないんだ!」
 八幡島の同情の視線に、藪木は本音をまくしたてる。
「‥‥どうするよ」
 八幡島は、背後を振り返った。
 そこには、菱刈丸の出資者、隠れ里・葉陰の水森と風柳がいた。
「俺たちの目的は、自分たちが隠れて住む必要のない、新たな安住の地を得ること。後から里の住民を受け入れてもらえるなら、喜んで助けに行きたい。たとえ、いま町を取り返せなくても」
「水森に同じ」
 二人は力強く言うのだった。
「よぉし。出資者の許可も出たし、取り合えず救出に向かうか」
 晴れ晴れと八幡島は言うのだが、作戦は強襲揚陸。一夜島の時と同じように、上陸後の戦力が必要とされる。
「じゃ、まずは冒険者だね」
 風柳は早速、冒険者ギルドに向かうのだった。

●今回の参加者

 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec5118 織姫 皐月(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec6207 桂木 涼花(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

緋村 櫻(ec4935

●リプレイ本文


「これでバッチリです」
 朝日の眩しい岩山の裾で、ジャン・シュヴァリエ(eb8302)が満面の笑顔で汗を拭う。
「延焼の心配もないでしょうし、完璧です」
 桂木涼花(ec6207)が肯いた。
 ジャンと涼花は、別働隊として草乃津の町にグリフォン・バルバラで夜中に先行上陸していた。
 二人の目の前には、毛布36枚と枯れ葉などを敷き詰めた大きな罠が広がっている。たっぷり用意した油をまんべんなく撒いた炎の罠だ。
「敵の様子はどうですか?」
「いるはずですが、ほとんど見えませんね。長屋とか民家が密集して、通りが見えないんですよ。道も相当狭いようです」
「ダンジョンの中、みたいなものか」
 不安にため息を吐くジャン。
「皆さんはすでに浜に着いてますね。船の中に伏せて隠れています」
「よし、じゃあ行きましょう!」
 ジャンと涼花がバルバラに跨る。作戦開始だ!

「お、来た。行くぜ!」
 先行工作組の飛翔に、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)が潜伏していた上陸船から飛び出した。
「いきますよぉ〜」
「薮木様、うちの後ろから離れない様に」
 マルキア・セラン(ec5127)が続いて飛び出し、織姫皐月(ec5118)も依頼者の薮木を引き連れ砂浜に降り立つ。
「ん、しょっ、と」
 ぴょん、と降りたのはラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)。白いエンジェルドレスがひらめく。
「‥‥ジルベール様、どうしました?」
「あ、いや。今行く」
 きょろきょろ周囲を警戒しながら、最後にジルベール・ダリエ(ec5609)が出てきた。俊敏な男だが、今回は殿を務める覚悟。撤収時の不確定要素がないか目配りしている。
(さすがにここは突っ切るしかなさそやね)
 遮蔽物はない。それだけ敵から感知されやすい。先行したクロウとマルキアが早速やって来た餓鬼一匹と戦っている。あっという間に敵は戦闘不能。ラヴィとジルベールも遅れを取り戻し、民家の密集する草乃津の町に突入した。


 さて、上空の陽動隊。
「さあ、どんどん来てくださいよ」
 バルバラの手綱は、涼花。装備した銅鏡のレミエラは、なぜか敵に目の敵にされるというもの。引き付けるだけ敵を引き付ける覚悟だ。低空飛行で町を飛ぼうとしたが、路地には入れない。大通りを往復しながら、同乗するジャンがライトニングサンダーボルトを見舞う。
「ははあ。これが『遠見遮断』ですか」
 ジャンが納得する
 この町は大通りだろうと路地だろうと、真っ直ぐな場所がない。民家の並びが出たり入ったりとでこぼこして遠くまで見通せなくなっている。索敵は自由にならず、電撃魔法の効率も悪い。
「敵の数が少ないのか、目立ち方が足りないのか判断がつきませんね」
「いや、来た来た。‥‥うわっ、餓鬼が速い。涼花さん。もう戻った方がいいかも」
 騎乗に自信のある涼花でも神経が磨り減るほど、難度の高い低空飛行。ジャンは総合的に見て、頃良しと判断した。涼花は屋根より高く飛ぶと、罠を仕掛けた地点へと転進した。主に餓鬼がこれを追い、死人憑きがその後にのたのたと続く。
 そして、敵の移動を別の場所で見ている者がいる。
「‥‥よし、行ったな」
 路地の影から、クロウが確認して合図を出す。
「あ、だめ。左から来てます。‥‥速い!」
 後ろで不死者探知の魔法で索敵していたラヴィが慌てて止めた。
「うちに任せて!」
 反応したのは、皐月。ヘビーシールドを構え出る。餓鬼の爪をがっちり防いでから、太刀「文寿」で反撃。前からマルキアが対不死者仕様の降魔刀による斬撃で援護する。
「おっと、こっちもや」
 後ろでは、ジルベールが死人憑きを発見。二本射ちで対応し、最接近するまでに息の根を止める。
「こそこそ行くにはいいですが、迅速というわけにはいきませんね」
「ダンジョンを進んでいるのと大差ないわけだしな。っと、今度は多いぜ。こいつはやり過ごしたいな」
 皐月が溜め息を吐き、クロウがまたも隊列を止めた。
「あ。ここを突っ切りましょう。土間から抜けて一本逸れましょう」
 薮木が敵をやり過ごす新たな発案をした。民家を抜ける気だ。
「どう?」
「大丈夫です」
 ジルベールがラヴィに聞くと、太鼓判を押された。
「これはいいですねぇ。次もこの手でいきましょう」
 無事に、時間を潰すことなく敵をやり過ごすことができた。首尾の良さにマルキアが明るく言う。無論、メンバーもそのつもりだ。
「ウォールホールを使えばさらにうまくいきそうや」
 得心したジルベールはウォールホールの巻き物を用意している。
 しかし。
 のち、この選択により厄介な事態に遭遇することとなる。


 その頃。
「よし、もっと来い」
 上空の二人は後退戦を戦っていた。
「舞い上がれっ!」
 ジャンがトルネードの魔法で餓鬼を高々と巻き上げていた。かなりのダメージを与えている。
 しかし、止めは刺さない。
 あちこちからやってくる敵の足並みをそろえるため、時間稼ぎとして使っている。突出する者がいれば、魔法で巻き上げ時間を潰す。そうすることで、敵が罠に到達するタイミングが同じになる。
「そろそろ限界。戻ります」
 涼花が見極めた。罠への着火は火打ち石となる。もたもたするわけにはいかない。
 毛布などを敷き詰めた場所を越え、着地。涼花はすぐジャンに借りた火打ち石を用意する。ジャンの方は、寄ってくる餓鬼のうち、突出するグループに電撃魔法を放ちタイミングをそろえる。もう、敵は罠の範囲に入りそうだ――いや、入った!
「薙ぎ払えッ!」
――ボッ。
 涼花の気合いとともに、罠に火がついた。一気に炎が走る。
 ぐっ、がっ、と餓鬼ども。
 ただし。
 炎の罠は、あくまで陽動。餓鬼どもは蜘蛛の子を散らすように罠から離脱する。
「ご苦労様です」
 罠を突っ切った敵には、涼花の夢想流が鞘走る。不死者仕様の「姫切」による、居合い。累積ダメージから一撃で無力化する。続けて、ブラインドから掠め斬り。
「次っ」
 凛とした声。短くそろえた黒髪がなびく。敵は好んで寄って来る。後は斬って斬って斬りまくるだけだ。
「いけっ!」
 ジャンの方は、炎越しに電撃魔法をレミエラによる拡散放出。こちらはできるだけ敵を巻き込めるよう位置をずらしながら戦っている。
 やがて死人憑きもやって来た。これも一方的に攻撃する。
 結局、二人で結構な数の敵を引き受けることとなった。

 一方、本隊。
「きゃあっ!」
 吹っ飛んできた障子戸をもろにくらい、マルキアが悲鳴を上げた。
 またも路地で敵を発見し、民家の土間を抜けようとしていたのだが、ここで思いもしなかった事態に遭遇していた。
「うおっ、こいつぁたまらん」
 続けて、茶碗や湯飲みが飛んできた。先頭のクロウが先へ逃げようとしたが、ぴしゃりと裏に抜ける引き戸が閉まった。手を掛けても開かない。
「誰かいるんですかね」
「ラヴィ、どない?」
 皐月とジルベールの声が交錯する。
「この建物自体、かも」
 自信なさそうにラヴィが答えた。
「ポルターガイストか」
「あ、家鳴り?」
 クロウが洋風に言えば、皐月が和名で言い直す。
「霧が来たら注意や。触られただけで痛い目に遭うで!」
 ジルベールが記憶を手繰り注意点を伝える。
「扉も痛かったですぅ」
 不意をつかれ障子戸を食らったマルキアが不満そうに言う。もっともこちらはカスリ傷程度。霧に接触されたらその程度では済まない。
「とりあえず家自体に攻撃だぜ」
 右手のライトバスターで戸板を攻撃しはじめるクロウ。閉じ込めようとしたと判断し、その意志に反する動きをする。
「あ、来ました」
 盾で薮木を守っていた皐月が近寄ってくる霧を見つけ、身を硬くした。あれが来れば盾ではしのげない。自分はともかく、薮木にも被害が及ぶ。
「ホーリーフィールド張りました。安心してください」
 気付けば、ラヴィが寄ってきていた。
「さっきはよくもやってくれましたねぇ」
 マルキアが立ちはだかる。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ」
「そういうことや」
 左右から、クロウが凶邪を滅する手裏剣「八握剣」を放ち、ジルベールが射る。マルキアは攻撃するも接触攻撃で軽傷を負う。そして、ラヴィのホーリーフィールドで止まったところを皐月の太刀が襲う。
「止め!」
 皐月の攻撃と時を同じくし、戻ってきた手裏剣を再び放つクロウ、そしてジルベールも二本目を射る。
 ふっ、と霧が消えた。
 手応えはないが、家鳴りは消えた。


 そして、本隊は目的の蔵に到着した。
 床板を外し、地下への階段を降りる。
「‥‥くそっ」
 薮木は、力無く腰砕けに地面に崩れ落ちた。
 目の前には、女子どもの死体が散乱していた。
 ただし、外傷はない。餓死である。
(助けるはずの者を死人憑きとして斬らずに済んだ、か)
 クロウは瞳を陰らせながら、そう思う。
(手料理を、食べさせてあげたかったですぅ)
 いつも明るいマルキアも、この時ばかりは沈んでいた。
「‥‥」
 皐月は、目を伏せると無言で手を合わせた。
「恐かったやろ、長いこと」
 何を言っても薮木は動きそうにないと見て、ジルベールが遺品を回収しはじめた。それを見せて、「みんなで一緒に帰る、でええね?」と聞いて始めて、薮木は肯いた。
「せめて」
 ラヴィは遺体の前に持参したあられなどを分けて供えた。
 帰るときには加えて、入り口に祈りの聖矢で十字架のネックレスを固定した。
「これでもう、約束の場所に不死者は入ってこれません。安らかに眠ることができます」
 無念のあまり死人のような目をしていた薮木だったが、ラヴィのこの言葉にようやく、笑顔を見せるのだった。
 撤収時、クロウを筆頭に冒険者たちは出会う不死者を手当たり次第に叩きのめしたという。まるで、やるせない思いの丈をぶちまけるように――。

「本当に、ありがとう」
 薮木の口からこの言葉が出たのは、菱刈丸に戻って遺品をまとめた時だった。いかんともし難い状況はともかく、自失していた中ここまでしてもらったことが嬉しかったのだろう。