葉陰〜槍の宝蔵院

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月14日

リプレイ公開日:2009年11月20日

●オープニング

「ほかに、ないのか?」
 京の冒険者ギルド。
 ぎぬろ、とギルドの係員にねめつけたのは、大きな僧兵風の男だった。顔に刻まれた皺から相当高齢であることが連想されるが、今の目つきや立ち居振舞いからは到底そうは思えない。
「あ、いや‥‥」
 口篭る係員。さすがにあっさり「それだけです」と言えない雰囲気だ。
 と、そこへギルドに一人の若い男が入ってきた。
「‥‥あ。おおぉい、風柳どの。きょうはどうした」
 渡りに船とばかりに係員は声を掛ける。今、彼はとても忙しく働きたい気分だ。
「あ。いつもどうも。人集めをお願いしようと思って」
「ほう、どんな依頼だ」
 葉陰の里の風柳の言葉に、先の僧兵風の男が食いついた。
「ええっと‥‥」
「おお、すまん。我は宝蔵院胤栄。黄泉人との戦いを求めてここに来た」
「ああ、それなら!」
 歓喜の声を上げたのは、ギルドの係員だった。
「ちょうど風柳どのたちは、菱刈丸で黄泉軍と戦っているよな。またその依頼だろう?」
「いえ、今回は別です。里の若者を鍛えてもらえる人を募ってもらおうと思って」
「じゃあちょうどいい。宝蔵院どのに教えてもらえれば」
 係員が声を高める。宝蔵院といえば、槍術で有名である。指導した弟子が宝蔵院流として流派を確立しているようだが、本人は寺に篭り長年表舞台から姿を消していた。
「宝蔵院流は、封印だ」
 係員のとりなしをきっぱり断る宝蔵院。
「人を殺生する技を伝えても、仏様はお喜びにならん」
 というのが理由らしい。
「そうですか‥‥。それはそれとして風柳どの。どうして若者を鍛える必要があるんです? 菱刈丸の戦力なら、冒険者で十分でしょう」
「冒険者だと、黄泉軍を追い払った後の町を占拠防衛はできないですよね」
「待て」
 ぎぬろ、と宝蔵院がまた首を突っ込んできた。
「不死者の軍勢と、戦うためか?」
「え、ええ」
「分かった。そういうことなら、宝蔵院流とは関係のない基本的なところを鍛えてやろう」
 だだし、と宝蔵院。
「急ぐのだろう。手っ取り早いのは、実戦だ。熊でもならず者でもなんでもいい、手ごろな実戦の場を探せ」
「それなら、葉陰の里は最近盗賊団に狙われてる節があって‥‥」
 実は、葉陰の里には大金が眠っているという情報が出回っている。隠れ里だったため、これまでは直接被害がなかったがさすがにごろつきどもに場所などを感付かれはじめていた。里の周囲の森で不審な人影を複数、見かけるようになっている。
「ふむ。捕らえて仏の道を説き、仲間にするのが手っ取り早かろう。不死者の軍を追い払って占拠するなら、手駒は多い方がいい」
 無茶を言う男である。
「ごろつきがそうそう言う事を聞きますかね」
「仏の道を説くのだ。聞き分けるだろう。‥‥実際、ここ数年で何人もの元悪人を導いてきた。おお、占領する暁には彼らも連れてこよう。寺の孤児たちもだ」
 まあ、葉陰の里の住民にも元悪人がいる。人間、性根は腐っても新たなことに打ち込むことで立ち直れるものだ。
「念のため、経験者も募っておいた方が良いな。ふむ、五・六人雇えばいいだろう。若者をある程度指導して鍛えた後、盗賊捕縛に同行させる。うむ。これで行こう」
 無茶を言う男であるが、聞く風柳に代案はない。
 戦闘技術指導兼、捕縛要員を募るという話に落ち着いた。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec6567 賀茂 慈海(36歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec6780 鬼原 英善都(38歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文


「盗賊のやつら、戸惑ってるようだぜ」
「見掛け、大金があるとは思わないからな」
「ま、昔の俺でもこんなみすぼらしい村に盗みに入ろうとはせんよ」
 葉陰の里の空き家に、風柳らの留守を守っていた住民が車座になり現状を話している。不謹慎にも笑い声交じりだ。
「ほう、余裕があるようで何よりだな」
 まずは静かに聞いていた冒険者たちだが、宝蔵院胤栄が不快感を露にした。途端に住民たちはにやけた顔をあらため下を向く。大金が無いと判断すれば当然盗賊団は撤収するはず。それをしていないということは依然、危機に晒されているということだ。
「‥‥周りの盗賊どもは、少しずつ人数を増やしている」
「蛇の道は蛇。元盗賊や罪状持ちの俺たちが牽制しているからだが」
「逆に、来る時は一気に来るだろう」
「ま、昔の俺でも話し合いをすっとばして攻め込むな」
 さすがに大金があるという噂を嗅ぎつけて来たのだからいきなり火を放つなどはないだろう、と元同業者たちは言う。
「そういうことなら時間はありませんね。一人で何人も相手ができる戦士を育てることはできませんが、一度に何人も相手ができる集団戦術を指導しましょう」
 ルーラス・エルミナス(ea0282)が話の流れをひったくった。彼らの話を聞いていて、腰が重いことを察したようだ。内心、「攻め込まれる可能性がある」まで話して、なぜ対策の話にならないのか疑問でならない。
「当然、一人で何人も相手ができる戦士も育てるぞ」
 浪人の鬼原英善都(ec6780)が話を取り上げ、容赦なく言い切る。
「できるのですか?」
「やる。戦法次第だ」
 思わず聞いたルーラスに、鬼原はぶっきらぼうに答える。
「賀茂慈海(ec6567)と申します」
 二人を放っておいて、賀茂が住民たちに挨拶した。
「私は戦いには向いてませんが、自分にできる事で皆様を支援します。よろしくお願いいたします」
 物腰の柔らかい男である。猛々しい宝蔵院や鬼原と対照的で、住民の不安を払拭する。
「ともかく、わしは黄泉の軍勢と早く戦いたい。とっとと住民を鍛えて、盗賊どもを捕まえんとな」
 宝蔵院はそう言って立ち上がるのだった。


 葉陰の里は、周りが田んぼとなっている。流行り病で一年里を無人にしたため荒れ果て今年はまったく収穫できなかった。冒険者の力を借りて宝を手に入れたため食うには困らないが、大金があるのではという噂は広まってしまっている。すでに隠れ里ではなくなっており、別の地に移動する案が検討されている。
「まあつまり、田んぼはもう無用の物です。柵を立てても堀を作ろうとも、平気です」
「分かりました。では、非戦闘員を動員して櫓や柵を用意しておいてください。部品を作っておいて、機を見て一気に作り上げていきます」
 風柳の説明を聞き、ルーラスが心置きなく指示を出す。
「戦闘員のうち、非力な者には弓を指導します。こちらへ」
 続けて言うと、自ら純白の「ウルの弓」を取り出し的などを用意しはじめるのだった。
「槍は近距離武器と心得るべし!」
 別の場所で声を張るのは、鬼原。
「先だけで突きに行くな。がっちり手元から突きに行け」
 深紅の「炎の槍」を両手でしごき馴染ませていたかと思うと、体全体で素早い突きを繰り出す。
「一撃必殺。‥‥しかし、当然敵は藁人形ではない。先を弾きに来る。いなしに来る。そうすれば、迷わず前に出ろ!」
 ずずい、と前進する鬼原。
「槍は攻防一体。敵の攻撃を防ぎつつ、一気に押し倒してやれ」
 どどん、と槍の柄を突き出す。誰も前にいないが、これで仮想敵は倒れて尻餅をついた算段だ。
「そして上から武器の重さや体重を乗せた一撃でとどめ。これに尽きる」
 何とも荒っぽい戦法だ。
「いいか。大切なのは、この覚悟だ。槍は長いからといってへっぴり腰で突くだけだと痛い目を見るぞ」
 荒っぽい戦法だが、真意はここにあった。
「気に入った! 若いの、ひとつやってみんか」
「鬼原だ。よろしく頼む」
 話を聞いていた宝蔵院が、にやりと立ち上がった。よほど鬼原の話が気に入ったようで、手合わせを申し出た。鬼原の方は当然来る者拒まずの構えだ。
「いくぞ」
「おらっ」
 呼吸を合わせると、たちまち槍の先の弾き合いが始まった。
 やがて、二つの槍が×印に合わさる。
 迷わず前に出る。
 鬼原は有言実行、宝蔵院も同じであるようだ。
 しかし、両者とも倒れない。身長も若さも鬼原が有利。年老いた宝蔵院が老獪な位置取りなどで対抗し凌いでいるといったところだ。
 やがて、両者ともいなす形で交差し距離を取り合った。
「まあ、こんな感じだ」
 今の立ち合いでひとまず満足した二人。鬼原は指導する住民たちに向き直り、胸を張ってみせた。
「すいません。自分は非力であります。鬼原先生のようにする自信がありません」
 住民の中に一人、意見する者がいた。
「だったら敵の攻撃をかわしながら攻撃しろ。おぬしは器用そうだからそっちがいいだろう。逆に、力があって派手好きなら、敵の装備を壊してやれ」
「すいません、防御の技術は?」
「とにかく、前に出ろ!」
 吠える鬼原。まったく取り合わない。内緒であるが、実はあまり防御技術は磨いてなかったりする。性格だろう。攻撃的防御で十分、というのが本音かもしれない。
 ところで、賀茂慈海は?
「施設防衛は、女性のあななたちも日常が戦いとなります」
 里の女性などを集め、整理整頓や衣類の補修など後方任務の重要性を説いていた。
「身をていして里を、皆さんを守るために戦う男たちに存分に働いてもらうためには、施設や身だしなみの清潔さは大切なものとなります。鎧紐が緩んで気が散って命を落とした、なんてことにでもなれば責任重大です」
 男たちが厳しい訓練を積んでいる今なら厳しい言い方をしても大丈夫と踏んだ賀茂は、柄にもなく厳しい口調で雰囲気を盛り上げる。異性と間違われるような顔つきで、しかも童顔で若く見られがち。女性受けは良く、すんなり訓練できる。このあたり、得な男である。


 想定外の事態とは、起こるものらしい。
 冒険者たちが住民に稽古を付けた次の日、盗賊たちが攻めて来た。
「おらあ、何造りよんじゃあ!」
「いらんことすんじゃねぇ」
 田んぼに柵を設置しているところを見て、盗賊たちはたまらず出てきたといった感じだ。
 いや。12人程度という人数規模と準備の良さから、前日冒険者が里に入った時点で危機感に襲われていたのではないかと見られる。短刀を手にしたちんぴらが大多数で、それを指揮する数人の悪漢という顔ぶれだ。
「鬼原隊、いくぞっ」
「宝蔵院隊、遅れるな」
 冒険者にとって、盗賊団の来襲は折り込み済み。すでに各冒険者が住民を配下にして有事には班単位で動くことを決めていた。
 想定外だったのは、こんなに早く動いてきたこと。まだ簡単な訓練しかできていなかった。盗賊団にとっては、悪くないタイミングでの攻撃だったといえる。
 さて、前線の主力組となる両槍術隊。
 実質的に、戦力は鬼原と宝蔵院のみである。
「どりゃあ」
「大人しゅうせい」
 基本的に、捕縛が前提なので殴打が中心となる。訓練の通り、迷わず前に出る。住民たちはほぼ戦力となっていないが、実戦を踏むという貴重な体験を積んでいる。無論、人数差があり見学というわけにはいかない。
「各班、担当各隊へ一斉射!」
 後方からルーラスの声。櫓は間に合わなかったため、地上で前線に近付いてからの援護射撃だ。
「最初に遭遇して怪我した人を助けに行きます。皆さん、援護願います」
 そう言って駆け出したのは、賀茂。住民の槍を手にした数人を引き連れ救護隊を結成している。やがて最前線に到着すると、槍持ちに周囲を警戒してもらいながら怪我人にリカバーを掛ける。
 その間に、槍の両隊は突貫を完了。乱戦の形となっていた。
 鬼原と宝蔵院の槍は敵に格の違いを見せつけ、ルーラスのバーストシューティングが敵の短刀を破壊する。住民の槍隊も、ちんぴら相手には通用する模様。健闘を見せている。もっとも、言われたパワーチャージなどの技は真似できないようで、それでも「前に、前に」という気概で突きを繰り出していた。住民たちの弓隊は、安全に配慮して冒険者と敵が密接に攻撃しているところは狙わなかった。
 そして、戦闘の終了はあっけない形でやってきた。
 賀茂がコアギュレイトで、敵リーダーを捕縛したのだ。


「皆さん、さっきの調子です。もうちょっと頑張って訓練しておきましょう」
 翌日。
 ルーラスは防衛隊のさらなる訓練に余念がない。真の目的が盗賊捕縛だけではない、ということを理解している証拠だ。
「実戦でも自然と出るようにする。それを繰り返す。これが修行だ」
 鬼原も、槍の部隊が「常に前に出る」以外の技術的なことができなかったことを不服として、猛練習に勤しんでいる。
「人というのは業なものでな‥‥」
 宝蔵院は、早速捕らえた盗賊たちに仏の道の何たるかを説いている。緩やかに話していると思えば、「そも、仏教とは!」など時折、熱く声を高くしたり。
 もっとも、捕まった盗賊たちは大人しいものだ。
 理由は簡単で、実は賀茂がクリエイトハンドで何もないところから乾餅を出し彼らに食べさせているから。
「なんじゃ、食いもんが出せるんか!」
 この魔法には、かなり感銘した様子。すっかり賀茂の魔法に参ってしまった。
 が。
 説法をするのは僧侶、賀茂ではなく宝蔵院の方。
 たまに垣間見せる持論の熱さのあまり、長く聞いていると辟易してくるようだ。
「ともかく、お主らにも不死者退治では力になってもらうぞ」
 念を押す宝蔵院。
「どうしてそこまで不死者退治に拘るんですか」
 風柳が聞いてみた。
「成仏させてやらねばなるまいよ」
 正論である。
 が、規模からして遠い道のりである。
「ともかく、連携することを念頭に――」
 ルーラスの声が響く。新たな被害者を出さないことも重要なことだ。