【菱刈丸】空母VS空母!

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜11月30日

リプレイ公開日:2009年12月06日

●オープニング

 黄泉軍が猛威を振る壊滅状況となった中国地方。どっこい、瀬戸内海では島嶼部の漁師たちがたくましく漁業に励んでいる。不死者の軍勢が基本的に純陸戦部隊であるため、難を逃れているのだ。
 それでも、黄泉軍が船でうろつくことも多いわけで。
「うおっ。何じゃ」
 今日も今日とて漁に励んでいた漁師たちが作業中の船上で色めき立った。島影から突然、大型船――より正確には菱刈丸と同型で、いわば菱刈丸級船――が現われたのだ。短い弓でも届きそうなほど近い距離だ。
「こ、こりゃあもしかして‥‥」
「いつぞやの黄泉船じゃあ!」
 大正解。甲板に弓を手にした骸骨が乗っているので、ひと目でそれと分かる。前回はこの時点で矢が飛んできた。今回もやはり飛んでくる。
「おい、今度は幽霊もおるで!」
 回頭し逃げる中、振り返った一人が悲鳴を上げた。
「来てる来てる来てるッ! もっとはよう漕げ」
 何と、前回はいなかった怨霊が乗り合わせているようで、それらが空を飛んで追い掛けてきていたのだっ! 
 その数、4体。
 ひいぃぃぃぃ〜、と必死に漕ぐ船員たち。
「あ‥‥」
 ふと気付くと、怨霊どもは一定距離以上、追ってくることはなかった。しばらく再突出地点に漂っていたかと思うと、名残惜しそうに黄泉船に戻って行くのだった。
「た、助かった」
「ともかく、また彼らに退治を頼もう」
 そんなこんなで、菱刈丸に黄泉船退治を依頼するのだった。
「‥‥そういや、今回はカサカサ女とは別の女もいたぞ。おそろしいくらいべっぴんじゃったが」
 正体は、漁師達ではよく分からないようだ。

 そして、大坂近くの隠し入り江。
「‥‥拿捕、できんかな」
 菱刈丸の船大工長、八幡島がつぶやく。
「そんなことしてどうするんですか」
「2番艦があれば連続出撃もしやすいし、どこかの港町を占拠しても補給が安定する。‥‥何より、わしらが作った船を沈めるのも忍びない」
 菱刈丸の出資者、葉陰の水森の疑問に八幡島が答えた。
「そりゃま、そうですね。依頼する時に注文を付けておきます」
 黄泉船との決着の機会が、いま持ち込まれた。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec6207 桂木 涼花(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 瀬戸内海を行く菱刈丸の舳先に、純白の白鳥羽織をなびかせる女性が一人。白い鉢巻きより短い黒髪。凛とした姿で立つのは、桂木涼花(ec6207)。
「憂いを取除き、尚且つ船まで手中に‥‥とは」
 今回の拿捕作戦について口にする。
「‥‥好きですよ、そういう貪欲さ」
 くす、と口元を緩ませて振り向く。自身、武芸者として腕を磨いている。方針が自分に合うのだろう。細めた瞳に輝きがある。
「思ったより集まらなかったな」
 船大工長の八幡島が唸る。
「神聖騎士のソペリエと申します。よろしくお願いいたします」
 間髪入れずソペリエ・メハイエ(ec5570)が改めて挨拶し、トンと魔杖「ガンバンテイン」を立てた。
 柔らかい物腰。
 巨人族で警護を生業としているだけにどっしりとした見た目であるが、動きは軽そうだった。言外に「作戦次第」と主張している。
「少ないなら少ないなりに、ですね」
 代わりに月詠葵(ea0020)が言葉にした。兵法にも通じる若者だ。
 とはいえ、本人談によると「海戦は初体験って感じなの」。寒いし海に転落するのだけは避けなきゃ、とかドキドキしてたり。
「あの時、人質を半分解放したのだって、きっと補充出来ると思ってだから‥‥。私、彼奴らの事絶対許せないんだからっ」
 ぷんぷん、と口にしそうなほどいたくご立腹しているのは、ルンルン・フレール(eb5885)。前回交戦したカサカサ女――黄泉人への怒りを相当ため込んでいるようだ。
「つやつや女連れてきたって、絶対負けないもの!」
 続けて胸の前で腕を組んで、ふんっ、と言い放つ。もちろんお肌勝負を挑むつもりではない。
「それや。その、つやつや女」
 横から指摘するのは、ジルベール・ダリエ(ec5609)。世界の伝承集「マッパ・ムンディ」を開いて調べたところ、正体が判明したのだ。「愛し姫」である可能性が高いらしい。
「美女のモンスターは、大概性悪か肉食系女子と相場が決まっとるからなぁ。俺、新婚さんやから、食われるんは堪忍やな」
 誰も食われるのは堪忍やろう、とは突っ込まない。が、「新婚さん」の方に突っ込みが入る。
「ほう、めでたい。たしか幸運の使者さんと良い雰囲気だったな」
「吉報だね。絶対に勝って、お祝いしたいなぁ」
 八幡島と水森ら乗組員の声に、ジルベールは頭を掻きながらごにゃごにゃとごまかす。彼としては、以前威力を発揮したウォールシールドの展開や魔除けの風鐸の設置にと忙しい。面倒見の良い、素敵な旦那さんになりそうな男である。
「ともかく、空中戦勝負に見せかけている間にルンルンさんに甲板に飛び乗ってもらい、人質救出をお願いする形ですね」
 葵が作戦を再確認する。
「では私はルンルンさんの支援に回り人質救出の支援に回りたいと思います」
 磯城弥夢海(ec5166)が挙手する。万が一、ルンルンが敵に気付かれた場合は河童の夢海が海中からさらに隠密侵入する作戦だ。


「敵艦、発見!」
「艦砲射撃、来ます!」
 乗組員たちの言葉が響く。島影の影響で、敵船と中遠距離で遭遇したのだ。
 艦砲射撃とは、敵黄泉人が放ったライトニングサンダーボルト。命中して菱刈丸は揺れる。
「ほんじゃ、作戦開始やっ」
 ジルベールの掛け声で、一斉に皆が動いた。グリフォン二騎と天馬一騎が飛び立つ。目立たないが、ルンルンと夢海も出動。二人とも透明化魔法で気配を消している。
 敵甲板に展開する怪骨たち弓兵は、空を狙った。見事陽動作戦が図に当たった。
「ミネルヴァ、乗ってるのはジルベールお兄ちゃんじゃないけど、頼むね」
「派手に引き付けましょう」
 ジルベールから借りたグリフォンに乗るのは、葵と涼花。二人乗りなのは、陽動の要であるため。敵弾幕を引き出しつつ、横へと回り込む。その間に、天馬「ネージュ」に乗ったジルベールが狙撃の弓を引いていた。
「ち、賢いやね」
「どうしました?」
 彼の近くにいたソペリエが聞く。騎乗は、グリフォン「スカイア」。
「魔法を使った黄泉人、こっちが飛び立ったんでいったん隠れたようや」
 仕方ないと、二本速射で怪骨を狙う。ソウルクラッシュボウの対不死者効果は抜群で、当たれば大ダメージを与えている。
「ん?」
 ここで涼花が声を上げた。
 敵船から怨霊が飛び立ったのだ。
 いや、それだけではない。
 敵船が、速度を増してひたすら前進を続けていたのだ!
「まさか、体当たり?」
「涼花お姉ちゃん、どうしよう」
 手綱を引く葵が迷う。
「とにかく、黄泉の眷属は黄泉へと帰して差し上げなければ。お天道様の下は、私達の領分ですゆえ」
「分かった。怨霊だね」
 くす、という声を背中で聞いて、葵は涼花の覚悟を悟った。
 囮役を演じきる。
 これが、二人の仕事である。
「おお、っと。二人乗りは難しいねぇ」
 口調を変えて葵がおどけた顔をする。ちょっと騎乗は不得手ですよ、といった慌てぶり。ぐらりと体勢を崩してみたりもする。
 途端に、矢が飛んでくる。先程より若干減ったのは、味方が倒したから。
「怨霊も来たようです。さ、参りましょう『姫切』」
 涼花が抜刀すると、葵は体勢を崩した方にミネルヴァを操る。殺到した怨霊どもの体当たりを交わした形だ。擦れ違いざま、涼花の夢想流の見えにくい太刀筋が敵を掠める。敵が敵だけに手応えはないが、見た目深手を負わせている。アンデッドスレイヤー付きは伊達ではない。
 一方、ジルベール。こちらも怨霊に狙われていた。
「お目こぼしはなし、か。ま、派手に飛んでるし」
「弓はあなただけ。気にせず撃ってください」
 動いたのは、彼の盾役に徹する覚悟のソペリエ。普段なら体を張るが、今回の敵は透過してくる。待ち受ける事はせず、積極的に前に出た。
 いや、これはただの移動ではない!
「ラプタス!」
 技は、剣の重みを乗せた突撃。敵の体当たりを食らわない直線上を一気に詰めたあたりに技の心が光る。手応えはないが、一撃瀕死の威力は伝わる。
「もう一匹や」
 ジルベールの言葉にはっと警戒するソベリエ。右から別の怨霊が迫っていた。もう、逃げる余裕はない。
「トゥシェ!」
 ギリギリのカウンターから攻撃を繰り出す。自身の傷は浅い。ジルベールがソウルクラッシュボウで援護し、ほぼ止めを刺す。
 一方、葵と涼花は苦戦していた。敵艦からの矢を極力避けながらの怨霊の戦闘。しかも再び出てきた黄泉人からの魔法を食らったりも。
「ミネルヴァ、まだ行ける?」
 回復薬を飲む葵がグリフォンを思いやる。


 航空部隊による制空権確保の戦いは、派手だった。
「えへっ。潜入大成功です」
 こっそりつぶやいたのは、櫓脚を踏み台にした二段ジャンプで敵艦甲板に飛び乗ったルンルン。甲板の怪骨と黄泉人は空と、眼前に迫る菱刈丸へ攻撃しているためまったく気付かない。
 が、下層に降りる階段のある小さな船室に、愛し姫がいる。
「ん? いつの間に」
 その、愛し姫。黄泉人に背後からルンルンが忍び寄っているのを発見した。すぐさま船室から出て、ディストロイを唱えた。ルンルン、哀れ木っ端微塵。
「いや、これは‥‥」
 体がバラバラになったと思ったら、全てが灰となって消えた。どういうことだと警戒する愛し姫。
「もう遅い、です」
 この隙に見事下層への侵入を果たすルンルンだった。
「な、なんだ?」
 さらに声を張る愛し姫。水面で爆発が起こったのだ。覗いてみるがそこには何もない。
「はっ!」
 ルンルンが階段を降りると、櫓脚の隙間から狙いを定め一気に船内に微塵隠れで移動した夢海がいた。一人だけいた怪骨の見張りを左手の短刀で戦闘不能に追い込んだ後だ。今は、漕ぎ手の足かせの鍵を開けている最中だった。ルンルンも手伝う。二人とも隠密。器用なものだ。
「おい、あいつらこの船を体当たりさせる気だぞ」
「漕ぐのをやめても止まらない。もう駄目だ」
「しっ。静にして」
 夢海が不安がる人質を落ち着かせる。
「これでみんなの安全を確保です。今度は、上で暴れちゃうんだから!」
 きっ、とルンルンは天井を見上げるのだった。
 一方、甲板は航空部隊が満を持して突入していた。亡霊を倒し、櫓脚の動きが鈍ったと見るや電光石火の突入。亡霊を早いうちの倒せたのが動きを軽くしていた。
「ふ‥‥っ。噂に聞く黄泉船、実の所はこの程度でありましたか」
 敵を引き寄せながら涼花が得意の掠め斬りから返す刀で一点集中の剣技で怪骨を倒していく。
「悪いな。空を制するっちゅうのは、こういうことや」
 空に残るジルベールは、黄泉人に向け止めの矢を放つ。魔法で味方を狙われた時から集中的に攻撃していたが、再生など使われてこずっていた。
「後は愛し姫」
 弓から剣に持ち替え迫る怪骨に掠め斬りつつ、葵が首を巡らせる。
 いた。
 怪骨を周囲に集め、体勢を立て直している。
「女子どもに手ぇ上げたくないけど」
 ジルベールが狙った。が、矢は届かず空間の何かを砕いた。どうやら防壁を張っていたようだ。
「うわっ!」
 ここで、世界が揺れた!
 菱刈丸と黄泉船が接触したのだ。乗っている全てのものが、つんのめったりのけぞったりする。
「もらった!」
 ジルベールのダブルシューティング。
 そして‥‥。
「ラプタス!」
 グリフォンに乗ったまま機会をうかがっていたソペリエがここぞとばかりに突っ込んだ。
 ずだん、と吹っ飛び転げる愛し姫。最後に細い腕が長いたもととともに、甲板に落ちる。もう、動かない。
「みなさん、もう大丈夫です」
 下から上がってきたルンルンが生死確認をして、皆に伝えた。もしも生きていれば一撃で首を落とすつもりだったが。
「人質は全員、無事です」
 夢海も甲板に上がってくるのだった。

「ほうら、当たりだったろう」
 菱刈丸では、八幡島が胸を張っていた。黄泉船の体当たりを回避していたのだが、敵の櫓が動かなくなったのを見て回頭。わざと接触させたらしい。
 ともかく、見事に当初計画を完遂。
「これで動きやすくなった」
 次なる作戦が、始動する。