【菱刈丸】みんな走れっ!
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■ショートシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月14日〜12月19日
リプレイ公開日:2009年12月24日
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●オープニング
大坂某所の、ある隠れ入り江。
「これで大量輸送ができるな」
隠れ里、葉陰の水森が力を込める。
先の瀬戸内海での戦いで菱刈丸は、黄泉軍船一隻を拿捕していた。航空戦力をオトリにし、海上・海中から小数の忍びが突貫した冒険者の作戦の大成功による成果だ。
「里の若者も鍛えてもらったよ」
同じく、葉陰の風柳が言う。
隠れ里では、槍の宝蔵院こと宝蔵院胤瞬と冒険者3人に弓槍による集団戦法をみっちり鍛えてもらった。しっかりとした防衛設備が整っている町であれば、拠点防衛力として計算できる。その時に里を襲った盗賊もちゃっかり仲間にし、さらに宝蔵院が連れてきた元悪人や寺の孤児なども加わり、数もそろえた。何より、士気が上がっている。
「ちょうど、草乃津っていう漁師町で暴れた後だ。あそこなら、敵も少なくなっている。あんたら、隠れ里を捨てて新たな安住の地を探してたんだよな」
菱刈丸の船大工長、八幡島が菱刈丸の出資者の二人に言う。
「取り返してくれたら、歓迎する。俺たちとあんたらで、新たな草乃津の町を作ろう!」
続けて、黄泉軍に滅ぼされた草乃津の住民、藪木が熱を込める。
「我は、早く黄泉軍と戦いたい。いったん死んだ者が操られ、生きている者を襲うなど言語道断。我が槍も長く封印していたが、不死者に未練なく眠ってもらうためのものと思えば、今こそ存分に振るう時」
宝蔵院が猛る思いを込め、槍を握りなおす。
「わしら船大工も、瀬戸内海で仕事をしたい。大坂にも船大工はおる。縄張りは荒せんからな」
再び、八幡島。
「よし。条件も皆の思いも、すべてそろった。みんなで町を取り戻そう!」
水森が立ち上がり、声を張った。おお、と立ち上がる関係者。
「あとは、冒険者だね。思いを一緒にしてくれる人に頼んでくるよ」
早速、風柳が動く。
「おお。草乃津に潜入した冒険者によると、もう強いのは残ってないらしい。時は今だ!」
八幡島が声を掛ける。
「取り戻した後の防衛施設設営もある。戦闘力はもちろんだが、指導力があるのもいるぞ」
宝蔵院も口を出す。
とにかく、菱刈丸級船舶二隻を使った上陸占領作戦の始まりである。
●リプレイ本文
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瀬戸の波に、菱刈丸がわずかに揺れる。
「いいか!」
甲板で声を張るのは、鬼原英善都(ec6780)。手にした炎の槍は長いが、巨人族の彼の身長はそれに匹敵するほど高い。
「正直に言う。俺は‥‥未熟の身だ」
奪還軍の民兵を前に、最後の槍術指南をしているのだ。が、言葉の中ほどが瀬戸の波音でさらわれる。何を言ったか皆聞き取れなかった。
「だが戦場では熟練も未熟も関係ない!」
どん、と甲板に槍の尻を叩きつける。
「未熟の身で敵に立ち向かう為には ‥‥」
「やってますね。また、ご一緒できてうれしいです」
鬼原の指導を聞いていた宝蔵院の元に、僧侶の賀茂慈海(ec6567)がやって来た。柔らかい物腰の男だ。
「おお、お主か」
宝蔵院の機嫌はすこぶるよい。
「いよいよ不死者と戦うことができる。皆も、町を取り返すんだと盛りあがっとる」
「ダメですよ」
息巻く宝蔵院を、賀茂は柔らかい雰囲気でなだめた。
「町は入り組んでいるのでしょう。あなたや彼はいいですが、率いる皆さんのことも考え抑え気味がよろしいですよ。私は探査に集中しますので‥‥」
「おお、そうだな。彼の気概に飲み込まれてしまったわ」
言わんとすることを察したようで、宝蔵院は表情を引き締めた。目の前では、鬼原が熱く指導していた。それだけ、鬼原の指導が人の心を打っているということだ。
「『弄馬』。これが悩んだ末の結論だ」
どうやら鬼原、信じるべき一つの技を繰り出すよう教えているらしい。
「いいか、よく見てろ」
鬼原、目標の木材にたっぷり助走して突っ込むと、体重を乗せた一撃を突き下ろす。
「疾走して間合いを詰め、一撃で仕留めきる。二の槍はないぞ」
よし、やってみろと指導を続ける。
と、それを見ていた宝蔵院と賀茂のところへ一人の女性がやって来た。コルリス・フェネストラ(eb9459)だ。銀の髪が沖の日差しに、まぶしい。
「ナイトのコルリスと申します。よろしくお願いいたします」
優雅に礼をしてみせると、手荷物を前に置いた。
「攻撃に関しては彼のやり方で良いでしょう。しかし、民兵はそのまま住民となる身。防御は必要です」
置いた荷物は、ライトシールドだった。
「何人かが盾によるガードで敵の攻撃を食い止めている間に弓槍によって敵を順次倒していく、という手法もあります」
指導は私がと、てきぱき動く。数人抜擢すると、盾を使う効果的な防御戦術を授けた。
「無論刺し違える事もある。だが、撃たれる恐れをねじ伏せ、確実に敵を屠る!」
甲板を踏みしめ渾身の槍を突き出しながら指導する鬼原。上陸してからの戦闘は、負けた場合の被害は甚大なものとなる。攻めきるしか生き延びる道はない。
「弓を使う方。この矢は死人憑きなど不死者と呼ばれる魔物に効果のあるものです」
コルリスは続けて、持参した破魔矢を渡していた。
「大丈夫です。私も救護班として全力を尽くしますから」
賀茂はそう言って行く手を見詰める。
突入する、草乃津の町が見えてきた。
●
二隻の菱刈丸級船が曳航していた小船で、奪還軍は町の砂浜に乗り上げた。町に不死者は少なくなっているのだろう。特に敵が寄ってくることもなかった。
(これは、まずいかもしれません)
しかし賀茂の表情は優れなかった。
事前の打ち合わせでは、できるだけ賀茂が不死者耐性の魔法をかける予定だったが、それがほとんどできなかった。
無理もない。
どこからでも視認される砂浜に、長くいたがる者はいない。突撃が役目であればなおさらだ。
「俺に続けっ!」
鬼原と宝蔵院は、槍術隊を二分してそれぞれ一隊を指揮していた。
緊張感にじっとしていられない隊員を抑え切れないと判断し、突っ込ませている。東側が鬼原隊で、西側が宝蔵院隊だ。
「仕方ないです。我々は最大限、支援しましょう」
コルリスは連れてきたグリフォン「ティシュトリヤ」に乗って飛び立った。
「そうですね。‥‥援護の皆さん、行きましょう」
賀茂も、自分を支援する民兵を率い入り組んだ町へ向かって行くのだった。
「弄馬!」
さて、東側の鬼原隊。
鬼原が早速遭遇した餓鬼相手に教えた技の手本を見せる。その破壊力は凄まじく、餓鬼はきぃきぃと悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
「どうだ!」
一撃瀕死を決め、胸を張る鬼原。部下の士気もがぜん、上がる。
もっとも、この「弄馬」。
巨人族以外では、かなり難易度の高い技となっている。
しかも、戦場が悪い。
草乃津の町は、遠見遮断で区画整備されている。つまり、長屋の並びは一直線ではなくがたがたで、遠くまで見通せない。加えて町の主要道以外は狭くなっている。助走ができる距離での遭遇の可能性はあまり高くない。
「うわっ」
鬼原隊の後方が、横合いから出てきた死人憑き一体に襲われていた。
「こいつ」
「大丈夫か」
周囲の兵が何とか応戦する。しかし、狭い中で長い槍の取り回しに苦労し対応が鈍い。
「くそっ」
苦戦する兵たち。
しかし、目の前の死人憑きは一瞬痙攣したかと思うと、どうと倒れた。
「間に合ってよかった」
長屋の屋根の上から声がした。コルリスである。オーラショットで上から狙ったのだ。
「念のため、皆さんにオーラパワーをかけておきます」
「助かるっ!」
鬼原は振り向くことなく礼を言う。すでに別の死人憑きと戦っているのだ。
あるいは、彼のいるところがもっとも熾烈な戦場となったのは幸運だったのかもしれない。
「俺は、槍の為に槍を振る!」
吠える鬼原。
狭い路地。
敵は、前面のみ。
槍にとっては、絶好の位置取り。
突いて、瞬時に引いて、突く。
「次があるという考えで勝てるほど、俺は強くない」
指導中、彼は言った。
「俺の命の価値は薄紙一枚分」
とも。
槍を生かし、己も生きる。「槍のため」とは、そういうことかもしれない。「弄馬」の真髄は、技のみにあらず。
●
一方、西方面。宝蔵院隊。
「うわあっ」
民兵一人が苦戦していた。やはり横からの奇襲を受け、混乱に乗じられた形だ。こちらは二体同時だった分、被害がひどい。
「くそっ。出来の良い町じゃ」
先頭を行く宝蔵院は何とか取って返して槍を振るい、混乱を収める。
「大丈夫ですか」
そこへ、賀茂率いる部隊が追いついてきた。彼の後ろでは、弓兵が横を向き斉射している。そちら方面に敵がいるらしい。
「われわれは蛇と一緒です。先頭が最前線に食いつかないとこうなるようですね」
被害者に薬を飲ませながら言う。
「じゃあ、次はどこへ行けばいい?」
「若干東に進路をとってください。そちらに不死者が多くいます」
宝蔵院の問いに、不死者探知魔法で調べた結果を告げる賀茂。
「分かった」
「待ってください。できるだけ魔法を」
不死者耐性の魔法によってようやく、部隊は落ち着いた。
「そうだな。敵は思ったより組織的な動きをしていない。少々時間が掛かっても包囲される危険は少ないようだ」
宝蔵院の言葉に、賀茂は頷く。探知結果では、敵はあくまで点在するのみで合流する動きなどは見られない。指揮者不在が手に取るように分かる。
「畜生。俺たちの町をこんな化け物の町にしやがって‥‥」
「逸るな。力を合わせてこそ、取り戻すことができるぞ」
元町民の兵が怒りを露にし単独行動に出ようとするが、宝蔵院が抑える。
「では、心配なので鬼原隊の方にも行ってみます」
「おお、頼むぞ」
再び、戦場へ――。
「やはり、指揮者不在が響いてますね」
町の上空。
コルリスがグリフォンにまたがって戦況を分析していた。高機動力を生かし、自ら自軍の手薄なところを援護していた。
――指揮者不在。
敵もそうだが、自軍にも言えた。
地形もあり効率の良い掃討戦を展開するため自軍を分けたが、冒険者のいない隊の動きが危ういのだ。
「周囲に多くいます。気を付けて!」
長弓「鳴弦の弓」をかき鳴らし不死者達の動きを鈍らせ戦闘を支援する。
「さあ、お願いします!」
一方、賀茂。
コアギュレイトで餓鬼を固め、民兵に止めを差してもらっている。自身をつけてもらうため、あえてそうしている節がある。
「お! どうだ、まだいそうか?」
前方から鬼原隊がやって来た。戦況を聞く。
「まだばらばらいます」
「くっ。指揮できる者がもう二・三人いればな」
鬼原がぼやく。実際、自身が引き連れている仲間は多すぎだと思っている。指揮者が少ないのが痛恨だった。
その間にも、賀茂は鬼原隊の負傷者の治療をする。
「言っても仕方ありません。とにかく、しらみ潰しです。‥‥さ、また別れましょう」
部下を率い、二手に分かれる二人だった。
ともかく、時間をかけてじっくりと残兵を掃討していった。
民兵も今回は大いに戦闘参加した。自信をつけたようで、このあたりは大きな収穫である。
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結局、草乃津奪還は成った。
ただし、時間が大いに掛かってしまったため、防衛施設設営まで手が取れなかった。
「我は、ここに残って防衛施設設営を手伝おう」
戦勝の宴会時、宝蔵院が言った。ちなみに、料理は賀茂が腕を振るった。
「ええっ? それじゃあ、弟子入りの件はどうなる」
鬼原が異議を唱えた。己を未熟とし、「ぜひ貴殿の槍と仏の道の教えを乞いたい」 と先ほど詰め寄ったばかりだ。
「もう、弟子は取らない」
宝蔵院流は、主に弟子が伝授している。複雑な思いがあるのかもしれない。
「分かりました。では、できるだけ魔法で保存食を作り出しておきますので」
賀茂が、彼の心中を察して話をまとめた。
「もともとこの町の漁師もいます。食べ物は心配ないでしょう。問題は‥‥」
コルリスは別の心配事を口にした。
「相当不衛生になっています。井戸など飲料水が危ないですね」
毒などに学のあるコルリス。毒とは違うが、生活の根本の危機を指摘する。
防衛施設設営が遅れたこともある。もしかしたら、周辺の不死者も討っておいた方がいいかもしれない。
もっとも今は時間がないし、西国の運命次第ではあるのだが。