【九州決戦】厳島の戦い

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月30日

リプレイ公開日:2010年01月03日

●オープニング

「なにっ! 芸州海域がお留守だって」
 菱刈丸の船大工長、八幡島が語気を荒げた。
「へえっ。芸州島嶼部に残る漁村の連中からの話ですんで確度が高いです」
 情報をもたらした男が肯く。瀬戸の島々には少ないながら漁村が残っているようだ。戦略的価値が低いようなところばかりだが。
「こっちにも攻め込んでもらって、何とかあのいまいましい不死者どもを追い返してほしい、と」
 情報屋はそう続けた。
「それが本当なら、まずは厳島だろぉが」
 八幡島、鬼の形相で返す。
――芸州、厳島。
 安芸国の海岸線近くにある島で、瀬戸内海の交易・商業の要衝だ。
 その中心的存在は、厳島神社。古くから芸州を代表する神社として三本指に入り、特に海上安全・豊漁祈願で広くから参詣者が集まる。瀬戸内屈指の交易・商業集積地に成長した所以である。
 島内には、多くの神社・寺院が集まり、門前町としての性格もある。
 特筆すべきは、その港湾能力。
 本土側海岸の一部に広大な雁木が施設されるなど、多くの船を停泊させる事ができる。厳島神社の例祭時などで見られるもやい詰めの光景は壮観というほかない。
 その厳島も、イザナミ軍の圧倒的物量により攻め滅ぼされて久しい。
 占領したイザナミ軍も当然、厳島を海上戦略の拠点の一つと位置付け活用している状況だ。
「まず、厳島」
 八幡島はもとより、瀬戸内で生活、いや、瀬戸内海の恩恵を受けている者はみなそう言うだろう。
――神の島。
 時に人は、畏敬の念を込めて言う。瀬戸内海の象徴の一つに違いなく、ここを汚されることは瀬戸内海全体を汚されているに等しいと感じる者は少なくない。理屈ではない。信念の問題だ。
「おやっさん。そういや冒険者が『関門海峡で大きな戦がある』と言ってましたぜ」
「それだ!」
 部下の報告にくわっといきり立つ八幡島。
「確かに。厳島にはいつもたくさんの船がいるが、今は少なくなっているって話だ」
「絶好じゃないかっ!」
 情報屋の話に、さらに瞳を燃え上がらせる。
「関門海峡の戦況がどうだか知らんが、夜襲で留守の船を沈めときゃ冒険者たちも喜ぼう。あっちのためにこっちを手薄にしたツケを払わせてやる」
 ただし、現在菱刈丸は別作戦の実働中にある。
「なに。こっちは拠点攻略・占領戦だ。戦力を戦線投入してしまえばお役御免。出番があるとすりゃ負けたときだが、万が一そうなっても弐番艦一隻で十分だ」
 逆に、厳島へは占領維持部隊は連れて行けない。
「一回びびらせてやればそれでいい。接舷はできんが、沖に停泊して冒険者が突貫してひと暴れ。その後可及的速やかに撤退してもらってとんずらよ」
 つまり、敵後方兵坦地への奇襲攻撃。
「あっちの戦は関門海峡だけで終わるはずはねぇ。目には見えんが、後からじわじわきいてくるはずだ。ひと博打張る価値は、あるぜ」
 ニヤリとする、八幡島だった。

●今回の参加者

 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文


 月明りが、さやかだった。
 波音と揺れる世界。菱刈丸は息を潜め航行していた。
「よっし。ここらでいいだろう」
 厳島と本土の間の狭い海域に到着したところで、船大工長・八幡島が停船を指示した。
「空が白みだすと本土側から増援が来るかも知れねぇ。それまでが勝負だ。町に火をつけてもこの際、誰も文句は言わんだろう。奪還すりゃ、宮大工でも何でも呼んでやる。できるだけ暴れてきてくれ」
 星明りの中振り返る八幡島。
「今回は強襲ですね。作戦了解しました」
 終わったばかりの上陸掃討作戦から引き続き乗船したコルリス・フェネストラ(eb9459)が連戦の疲れも見せずに頷く。連れて来たグリフォン「ティシュトリヤ」も同じく連戦だ。
「下を、任せていただけないかしら?」
 そのコルリスに近寄った者がいる。
「ファイターのクァイ・エーフォメンス(eb7692)と申します。よろしくお願いします」
「分かりました行きましょう」
 こうして、冒険者二人が空へと飛び立っていった。
「じゃっ、私はこれで。世の為、人の為、カサカサ女達の野望を打ち砕いちゃうんだからっ!」
 今こそルンルン忍法の見せ所と続けて、金髪の忍者・ルンルン・フレール(eb5885)がばさっ、ばさっ、と二つの巻物を広げた。
「では一つ、寒中水泳といきますか」
 海といえばこの忍びも。河童の磯城弥夢海(ec5166)が立ち上がる。「潮の流れは速そうですね」と地形から読み取り心に留めると、綺麗に飛び込んだ。
「ルンルン忍法疾風水走り&穏身の術」
 術をかけ終わったルンルンも、足を伸ばしひょいっと海へと飛び降りていくのだった。
 空、海上、海中。
 今まで菱刈丸が戦いに勝利してきた、冒険者による得意の立体展開だ。
 不敗を誇る戦法で、厳島強襲作戦が今、始まる。


 空に月。足元に、波。
 先行するコルリスとクァイは、潮風を切り裂き低空飛行で接近していた。
 潮は満潮。敵船団は雁木の施設された広大な海岸線に十数隻が停泊していた。運良く、固まっている。
 グリフォンがとん、とそのうちの一隻に降り立った。
「あまり無理はしないように」
「作戦自体が無茶なような」
 振り返るコルリスに、飛び降りたクァイが青い目を細めて言った。後ろで束ねた長い銀髪が翻り、グリフォンが再び空へと舞った。
 もう、振り返らない。
 作戦開始である。
「早いわね、気付くの」
 いつもの愛想を捨てたクァイが、鬼気迫る表情で視線を定めた。下層に死人憑きがいたようで、振動に気付いて上がってきていた。すらりと姫切を抜刀するや、長い間合いを駆け抜ける。
「ブラドロア!」
 助走を付け、振りかぶっての一撃。もろに死人憑きに入った。
 これが、この後長く続く乱戦ののろしとなった。
 そして、上空。
 一人騎乗になり動きやすくなったコルリスが、たいまつに火をつけていた。
 もう、闇に紛れた優位性はない。が、これは彼女の望むところ。
(できるだけ目立って、注意を引き付けないと)
 彼女は長めのたいまつを器用に体に縛り付けると、布を縛った矢に火をつける。長弓を引き絞り、船体後方を狙いとにかく打ちまくった。
「あっ!」
 一瞬、コルリスはそれを見た。
 海岸線、松並木の陰から魔法の光が眼に入ったのだ。
 しかし、その時にはすでに遅い。一条の光が伸びてきたかと思うと、電気の衝撃が全身を襲っていた。ライトニングサンダーボルトだ。
 充実した装備で怪我はなかったが、のけぞった。何より、グリフォンの飛行が不安定になった。次を喰らうわけにはいかない。
「ティシュトリヤ、ひとまず船に降りましょう」
 船に隠れることでひとまず難を逃れる。いや、それだけではない。先ほど放った火矢に油をかけた。これで大きな火の手が上がった。
 時を同じくして、別の船でも本格的な炎が舞っていた。
 クァイである。
 寄ってきた敵を粉砕すると、油を撒いてたいまつで火をつけたのだ。
 それだけではない。
 停泊する船が順番に、船体後部から爆発音とともに揺れ始めた。
「はっ!」
 海面に、夢海がいた。微塵隠れによる瞬間移動で連続して敵船後部の舵に被害を与えているのだ。並んだ敵船に次々食らわせる。威力より手数を重視で、攻撃と次の目標への移動が一体となった効率的な早業。敵の混乱はさらに深まった。
(次は、寄ってきた敵をできるだけ海に引きずりこんで‥‥)
 彼女は、海中にも不死者がいると想定して警戒しながらやって来た。若干到着が遅れた原因だが、はたして敵は海中にいなかった。
 夢海にとっては、大チャンスだった。
 海中で、陸上戦闘に長けた敵に遅れを取るつもりはない。運良く今夜は満潮。引きずり込みさえすれば強い敵も邪魔されることなく仕留められる。
 時に戦況は、クァイの働きとコルリスの援護で半数の船が炎に包まれていた。当然、敵も気付いて海岸線に戦力が集中しつつある。
 と、先に叩いておくべき強敵、死食鬼を発見した。
「昼月!」
 微塵隠れの一気の移動から超近接戦闘、弱点への痛打という得意のつなぎ技を仕掛ける。
 が、敵も超近接戦闘は不得手ではない。噛み付いてくる。何とか防いで、もろとも海へと転落するのだった。


 敵船団がすべて焼かれたのは、陸からの対応の遅さが遠因となった。
 なぜか。
「パックンちゃんGO!」
 インビジブルで姿をくらましていたルンルンが、陽動作戦を展開していたからだった。
 今しがた、声を出して大ガマを呼んだため一時避難するルンルン。ぴょんと飛んで戦い始める大ガマを尻目に松並木の陰に隠れると、ポリポリとソルフの実をかじるのであった。もうちょっと欲しいな、とかいう「餓鬼道の花忍」と呼ばれる原因となった食い意地は、あくまで内心のもの。
 いや。
 実際、ルンルンは忍法全開で表立って戦う者を効果的に支援していた。
 灰分身の魔法に、今しがたの大ガマの術。今までに何度唱えたことか。水増し戦闘人員で浜辺の敵を釘付けにし、敵船上での戦いとの分断に大成功していた。
「あとは、砦になりそうなところを燃やしとかなくっちゃ、です」
 ふるふるっ、と肩をすくめたのは、厳島神社が真っ先に浮かんでバチが当たるかもと思ったからか。とにかく、いつかはここを取り返すのだからと言い聞かせる。
「あっ!」
 しかし、その場を後にしようとしたところで全身に不可解な激痛が走った。物理攻撃は受けていない。魔法。おそらく、ロブライフ。周囲に視線を走らせ、敵、発見。
「つやつや女の方ですか〜」
 滅多に逆立つことがないルンルンの眉が怒りを表した。視線の先には、愛し姫の艶やかな姿があった。
「パックンちゃん!」
 腰の七なる誓いの短剣を抜くかどうか迷ったが、高速詠唱の大ガマの術で壁を作り、逃げた。任務遂行には、これがベストと判断した。
 あるいはこれが、戦いの潮の変わり目だったのかもしれない。
 場所は変わって、雁木付近。
「あっ。どうして!」
 船団炎上を遂行した後、クァイを岸に移動させたコルリスが驚きの声を上げていた。
 燃え具合を確認するため振り返ったところ、その沖の菱刈丸が眼に入ったのだ。
 何と、あれだけ控えていたかがり火を焚いてこちらにやってきているではないかっ!
 慌てて取って返すと、不死者の乗る小船一隻に攻撃されていた。具体的には、櫓を折られているようだ。
「これだけはやらせるわけにはいきません」
 鳴弦の弓をかき鳴らし牽制した後、全力のオーラショットを連発する。弓を持つ怪骨を先に倒すという順を踏んだため、反撃をあまり受けずに退けることができた。
「助かった。‥‥厳島が派手に燃えりゃあ対岸の本土側から船は出るし、菱刈丸の姿も良く見えらぁな」
「もし私が誰かを運んで退却の足となる役目がなければ振り返ってませんでした。危ないところでした」
 九死に一生を得たと憔悴する八幡島に、コルリスも安堵の吐息で応える。
「しかし、これが引き際かもしれん。菱刈丸も櫓をやられた。早めにとんずらこいた方がいいだろう」
「分かりました。皆に伝えてきます」
 再びコルリスは厳島に急いで飛び立った。


「ルンルン忍法火遁の術!」
「これでよし、と。後は陸の施設にも火を付ける、でしたね」
 海岸線の広場の次にある町屋では、ルンルンが油を撒いてファイヤーウォール、別の場所で夢海が敵の分布図を巻物の端に書き込んだ後その辺に油を撒いて火を付けると、破壊活動を繰り広げていた。どちらとも、さすがに結構な傷を負っている。夢海は選別攻撃した対死食鬼戦で戦果を挙げたが、ずいぶん敵に噛み付かれていた。ともに忍びで隠密行動はしていたが、これほど明るくなり火の手を避けながらとなると、もう隠れて活動することが難しくなっている。
「退却です。菱刈丸が襲われました!」
 伝令に飛ぶコルリスが二人を早期に発見できたのも、そういう状況があったから。
 さらに、海岸沿いの広場。
「くっ‥‥」
 愛し姫と対峙していたクァイが、やはりロブライフを喰らっている。しかも悪いことに、死人憑きに囲まれていた。コルリスが跳び越したのは、愛し姫がいるとは思わず死人憑きに遅れは取らないだろうと判断したため。
 絶体絶命だったがしかし、状況はクァイに味方した。
「うぐっ」
 愛し姫の懐に、いつの間にか夢海が現れセイクリッド・ダガーを突き立てたのだ。
「さっきはよくも!」
 さらに退却していたルンルンが短剣で切り裂く。
「いいから早く。早く撤収を」
 上空ではコルリスが鳴弦の弓をかき鳴らし敵の動きを鈍らせながら急かす。
 ルンルンが疾走の術で一気に駆け抜け、夢海が微塵隠れで敵視界を遮りながら一気に姿を消し、その隙にコルリスはクァイを回収するのだった。

 冒険者と菱刈丸は傷つきながらも見事奇襲を成功させた。イザナミ軍に少なからず影響を与えることとなる――。