見て、伝説が始まる

■ショートシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月25日

リプレイ公開日:2010年02月02日

●オープニング

 いろいろ、あった。
 風柳と名乗る男は、瀬戸内に面する漁師町・草乃津の町並みをふらりと歩きながら人生越し方を振り返っていた。
 ある地方の名士の血筋に生まれたはいいが、お家は没落。流れ流れて行きついた場所は、葉陰という隠れ里。貧しいながらもつつましく日々を何とか食いつないでいたが、流行り病に里全体が襲われるという不幸に見舞われた。住民の大多数が一年里を離れ、戻ってみれば豚鬼に占領されていた。のち、冒険者を雇って2度にわたる攻撃でこれを撃破。が、冒険者を雇ったことで隠れ里ではなくなったこと、一年の間に田畑は荒れて不作となったことで立ち行かなくなった。
 転機は、葉陰がいにしえの軍資金を隠すために作られた里だと分かったこと。
 里の老人たちの遺言に従い、冒険者を雇って地底戦闘の結果、これを回収。無属籍艦の「菱刈丸」に出資する事により黄泉軍に占領された草乃津を奪還。残った住民と一緒に、町を立て直していた。
「よ。遅かったな」
 行きついた民家で、風柳は葉陰の水森に迎えられた。「もう、会議は始まってるぞ」と急かされる。
「再興は、資本投入に頼ってはならない。人力投入によって成されるべきだ!」
「だったら、人をたくさん呼んでくればいいじゃねぇか。‥‥金を使ってよう」
「駄目だ駄目だ。金があると思えばよからぬ者が集まってくる。争いが起きるぞ」
「しかし、この苦しい時に余りある金を活用しない奴がいるか?」
 どうやら、身に余る大金がトラブルの種になり始めているようだった。
「苦しいとは言うが、葉陰の時から考えると裕福なもんだ。‥‥それに、中国地方は黄泉軍に滅ぼされ海産物は手つかずの宝箱と化している。菱刈丸を海運に当て東で売り捌く商法が軌道に乗り始めてる。苦しいという奴は、よほど裕福な暮らしがしたいらしいな」
「何だとぅ!」
「いやっ。もうやめてっ!」
 復興のため一つにしたはずの心は、すでにボロボロのようだった。
「‥‥二つに一つだと思う」
 ここで、風柳が首を突っ込んだ。
「原因は、復興の目処が付いたからじゃないかな。‥‥まだこの程度だけど、葉陰の里の最後の頃よりずっとマシなのは、葉陰組は知ってるよね」
 だれも否定しない。これ自体は良いことである。
「問題は、お金。そうだよね。‥‥今のままが不満なら、商人に預かってもらっていた軍資金を全員で頭割りするのがいいと思うけど」
 だれも、肯定しない。個人的に金が欲しいわけではないからだ。
 はやく町や周りを復興させたい――。
 願いはこれに尽きる。
 しかし、当たり前ではあるが住民の数はほとんど増えていない。
 焦りは、ここにあった。
 金に頼ろうという論が出た次第である。
「‥‥もしかしたら、葉陰を作って軍資金を隠した武将ってのも同じ問題を抱えていたのかもな」
 水森のつぶやきに、皆押し黙る。
「そうだよ。この大金は元々、葉陰の隠し財産じゃないか。‥‥葉陰も、隠れ里でなくなって土地を捨てる羽目になった。軍資金も、隠したままの方がいいよ」
 風柳が、声を弾ませた。
「そうさ。隠れ何とかって名前のものは、隠れてなくちゃならないんだよ。表に出ていても、ろくな事がない」
 言葉を絞り出す風柳。顔が青ざめているのは、自身が隠し子で、明るみになったことで名家没落となった過去があるためだ。
「そう、だな」
「ああ。あの大金には世話になった。そろそろ休ませてやってもいいかもな」
「まあ、漁がうまく行ってるし」
 葉陰の連中は、いずれも脛に傷があったり叩けば埃が出てきそうな者ばかりだ。風柳の言うことに、何となく同情する。
 こうして、宝探しで見つけた大金を宝隠しするという異例の依頼が冒険者ギルドに持ち込まれる事になる。
 大金の金額は伏せるが、草乃津の近くなら陸でも海でもよく、二つまでなら分散して別々に隠してもよいそうだ。
 秘宝伝説の誕生でもある。

●今回の参加者

 ec3793 オグマ・リゴネメティス(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec6567 賀茂 慈海(36歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec6780 鬼原 英善都(38歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文


 草乃津の町に、槍を持った集団がやって来た。
 いや、戻ってきたのだ。
 彼らは、周囲の不死者掃討に出向いていた宝蔵院胤瞬率いる槍術隊だった。宝蔵院、結局草乃津の町にいついている。
「おお。来ておったのか、久しいな」
 巌のような顔面をしわくちゃにして宝蔵院があいさつした先に、大柄な三十路の男が座っていた。
 鬼原英善都(ec6780)である。
「その様子だと存分に暴れてきた様子だな」
 鬼原も、笑顔で出迎えた。
「無論。‥‥しかし、こんなところにいていいのか。今日は会議だと聞いていた。簡単に終わるような話ではなかったろう」
「‥‥俺は考えるのは苦手だからな」
 目を伏せ、握っていた炎の槍を支えに立ち上がった。
「願わくばそちらに同行したかったものだ」
「そうだな。お主がいれば帰りはもうちょっと早かったろう。‥‥しかし、この町の男どもは育ったぞ。お主の教えた技もだんだん様になってきておる。今日は川の上流の不死者を追い払ってきた。これで川の水も安心して使えるだろう」
「そうか。役に立ってるか」
 鬼原。かつて槍術を教えた者の活躍を聞いてさらに破顔した。
「そっちは、どうだ。活躍してるか?」
「ふ。まあ、ぼちぼちとな」
 多くは、語らない。東国の方で暴れたようだが、詳細を語るような男ではない。宝蔵院も特に追求はしない。宝蔵院自身、僧兵として暴れ仏に仕えながら多くの者を殺めたが、これを良しとしていない。男――特に、武に生きる者――には、人に語りたくないことがあることぐらい、分かっている。
「そうか。‥‥ここは、居心地がいいぞ」
 なぜなら、ここにいる住民のほとんどは、人に知られたくないような過去を持つ者ばかりだ。訳ありの者には、理解がある。
「わしは、蘇らされている死者に再び安らかな眠りを与えるため、再び槍を持った。が、同時に死に場所も探しておった。戦いに生きた男の死に場所は、戦い以外にない。‥‥しかし、この町を見て生きねばと思った。死ぬなら、この町のために死にたい」
「そうか‥‥」
 ふ、と笑みを浮かべ、鬼原は空を見上げた。胸中に何が去来しただろうか――。


 そのころ、町一番の料亭にて。
「ギルドの報告書で葉陰の里の話を確認しましたが、あれは見習うべきではないです」
 軍資金をどこに隠すかの会議の中で、賀茂慈海(ec6567)が主張していた。
 隠そうとしている軍資金――金額は、伏せる――は、もともと葉陰の里の近くに隠してあったのだが、これがあまりにもまねできるものではなかった。
「でも、だからこそ長い間無事だった。簡単に第三者に奪われないような工夫は絶対に必要だと思う」
 風柳が熱を込めて主張する。
「しかし、そう都合のいい場所はないぞ。草乃津近くの陸に洞窟や滝壷はあるが長く隠せるものではないと薮木殿が言うし、海はわしの知る限りおあつらえ向きの場所はいずれも海賊どもの庭になっとった」
 菱刈丸を預かる船大工長、八幡島はそう言って肩を竦めた。
 実は、会議は延々この繰り返しだった。
 決定的な隠し場所はなく、それらでもいいのではないか、いやそれでは安心できん――。
「どちらにしても、前のようにいつも泣き赤子がいるとは限りませんし、後世の人が川の中を自由に動けるとも限りません。何か工夫さえあれば、ちょっとしたところでもいいと思うのです」
 諦観の空気が流れるところを、必死に考えてもらおうとする賀茂であった。
「後に口伝の情報がある場合にのみ発見・回収できるような隠し方が理想、でしたね」
 ここで、赤毛の女性が話を切り出した。レンジャーのオグマ・リゴネメティス(ec3793)である。
「でしたら、一年か数年のうち、特定の時期に大潮など潮が大きく引いた時姿を見せる洞窟のある島はどこかにありますか?」
 島といえば、八幡島らの担当範囲になろうか。皆が一斉に八幡島を見た。
「いくつか引き潮に現れる洞窟はあるが、一年か数年なんて都合のいい島なんざねぇよ」
 八幡島、苦笑した。
「それに、一年か数年なんて頻度だといま隠せねぇじゃねぇか」
「いや、引き潮に現れる洞窟でいいんです」
 オグマの話を、賀茂が引き取った。
「どういうこった?」
 賀茂とオグマの二人がかりの説明に、八幡島はもとよりその場にいた者はすべて納得するのであった。


 こうして翌日、菱刈丸は樽詰めにした大金を載せて出航した。
「今から行く島がどう呼ばれているかは、菱刈丸のモンなら知ってる。だからあえていわねぇ」
 甲板で、八幡島が説明した。
「で、その数軒の漁民しか住んでねぇ小さな島なんだが、なぜか死人憑きの島になってる」
 戦略的にまったく価値のない島にも関わらず、黄泉軍に攻められていたのだ。瀬戸内海といえば、慣れていない者にとっては海上迷宮みたいなものだ。海図もなく闇雲に出航した揚句、どこかの大きな島と勘違いして占領したというのが当たらずしも遠からじといったところだろう。
「作業中にちょっかい出されるわけにもいかねぇし、もたもたする暇もねぇ。ここは二隊に分けて同時進行させる」
 そんなこんなで、件の島の沖で停泊する菱刈丸から、小船が出た。
「こっちでよかったのか?」
「詳しい場所を知るつもりはない。秘密を知る者は少ないほうがいいからな」
 宝蔵院が小船から飛び降りながら聞き、鬼原が涼しげに答えた。二人に続いて、槍を持った民兵が続く。
 道中、餓鬼と死人憑きの集団に遭遇する
「おなじみの敵だな」
 にやりと、鬼原。先行しつつまずは一体をなぎ倒す。
 続けて、やって来た死人憑きの爪を槍の柄で受けた。
「飢虎!」
 押し合いを圧倒的な力で制し敵を吹っ飛ばすと、その勢いのまま上から突き下ろす。なんとも豪快な連続技だ。
「結構いるな。宝蔵院隊、段々畑を登るぞ!」
 ぐ、と親指を突き立て宝蔵院は鬼原と分かれた。先日は川の上流を制したと言っていた。似たような戦場を選択したということだろう。その行くてにやはり死人憑きが待っていた。
「よし、民家の中を確認だ」
 鬼原の方は、細かな掃討戦に入っていた。
「おっ、と」
 屋内に入ると突然、暗がりから攻撃を受けた。が、慌てない。防具を信用しがっちり防いでおいてから‥‥。
「細波!」
 カウンターからのスマッシュで死人憑きを屠る。先の飢虎は挙動が大きく派手だったが、こちらは少ない動き。長い槍を器用に操り戦場で技を使い分けている。もしかしたら、彼に続いて戦っている民兵に手本を示しているのかもしれない。


 一方、洞窟へ向かった者たち。
「引き潮になったら、ここに船で来る奴はいねぇよ」
 草乃津の漁師、薮木が櫂を操りながら言う。
「そら。まずはあの岩場に金の延べ棒が入った樽を置いておこう。本格的に潮が引くまでに、往復して全部あそこにまとめるんだ」
 どぅやらそうとう地道な作業になりそうだ。小船も、岩石地帯だけに潮が引けば引くほど航行しにくくなっている。
「‥‥ほら、出てきた。あそこが例の洞窟だ」
 しばらくして、薮木が指差して言った。
「洞窟って」
「大人の背丈くらいの高さしかないじゃないか」
 風柳と水森があきれた。
「ああ。だから、急げ。おっと、中にコウモリがいるから気をつけろよ」
 かくして、小船二隻で突入することになった。積み込め切れない樽は、先行する小船の後部と殿の小船の舳先に渡した縄でつないで、水に沈めたまま一気に全部を運ぶつもりだ。‥‥現状、これしか手段がないとも言うが。
「明かりは私が」
 賀茂がホーリーライトを唱える。
「行って来い。島の名前を知ってる俺は行くことができない。‥‥なぁに、真ん中さえ通れば底を擦ることはない。あとは好きな所に隠しな」
 薮木は、見送った。
 葉陰の里の風柳と水森が櫂を手繰る船は、やがて高さのない水の洞窟へと入っていった。内部の天井はでこぼこしている。ゆえに、満潮になっても水没しないくぼみがあるようだ。コウモリが存在し、侵入してきた彼らに襲い掛かっているのがその証拠である。
「菱刈丸から大量に拝借してきて良かったです」
 オグマが出番だとばかりにソウルクラッシュボウを構えた。――水平に!
「アクロス!」
 射ちまくった。三本掛けで弾幕を張る。
 低身長のオグマは、特に低い天井を気にすることもない。弓は長かったが、水平に構えることで取り回しに困ることはない。狭い洞窟をまったく苦にしない動きだ。
 そして、狭い洞窟はばら撒き射ちの効果を最大限に引き出した。
 キイキイキイキイと悲鳴を上げるコウモリども。やがて、逃げ惑う羽ばたきの音が聞こえなくなった。
「‥‥本当は、ピエタに乗って上空援護するつもりだったのですけどね」
 振り向いたオグマは、うふ、と首を傾け会心の笑みを見せるのだった。


「‥‥すまないが、それ以上聞くつもりはない」
 帰りの船上、鬼原は最後まで初心を貫いた。
「だが、知られている場所というではないか。大丈夫か?」
 宝蔵院が心配そうに確認した。
「口伝の中に『菱刈丸の助力が必要』という項目を乗せられれば、他の者達が横取りする確率は減るかと思いまして菱刈丸の方が知る島の洞窟を指定しました」
 説明するオグマ。つまり、情報が遺される草乃津の者以外は、そこに大金があるとは知らず、ただ干潮時に現れる狭い洞窟があると知るのみ。草津の者はどこかに大金があることを知っているが、詳細は知らないということになる。
「菱刈丸の方々と草乃津の里の方々が将来にわたり友好関係を築いていき、草乃津の口伝、菱刈丸の口伝、両方がそろった時はじめて場所がわかり探し出せるということです」
 にっこりと賀茂が願いを話す。
「以前は、妖怪や怪物、自然の難所と困難のつながりだったけど‥‥」
 風柳が呟く。
 今度は、人と人とがつながる謎となる。

 新たな秘宝物語の序章として、ここに記す。