森の奥に眠るもの

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月30日〜11月06日

リプレイ公開日:2006年11月10日

●オープニング

 キエフに程近いとある領地。
 秋も深まり寒さも厳しくなってきたロシアの景色の中、どっしりとした威容を見せ付ける古城があった。
 その古城の持ち主は、リボフ公国を一世紀に渡って支配してきたイーゴリ大公。
 そして今、その老獪な大公の別荘である古城に一人の客人が居た。
 名はアラン・スネイブル。イギリスはケンブリッジの魔法学校の教師にして魔法戦闘のエキスパートである。
 そんな彼がここにいる理由、それは‥‥。
「我輩は遺跡の発掘にも携わり、薬草学の研究もしている。その腕を買われて招聘されたのだ」
 つまりイーゴリ大公に魔術師として協力するためである。
 そんなアラン先生、実はイーゴリ大公よりさきに彼の別荘地に来ているのはわけがある。
 ここは、イーゴリ大公の管理する領地であり、普段は代官が赴任しているのだが、そこから気になる報告があったのだ。
 あまり大きくない領地だが、その大半は森林に覆われているその別荘地。
 その一角にて遺跡と思しき墳墓が見つかったのである。
 それを見かけた猟師はすぐさま代官にその様子を報告し、遺跡に関して詳しいアラン先生が派遣されたのであるが‥‥。

 キエフのギルドにて。
「実は、遺跡の発掘に際して冒険者の手を借りたいのだ」
 そう、アラン先生は自分の部下を持っていないし、さらにイーゴリ公の部下を大々的に借り出すわけにも行かない。
 ということで、アラン先生が選んだのは冒険者だった。
「遺跡はここキエフから馬車にて一日ほどのところにある領地の中にある。遺跡は領地からさらに徒歩だ」
 質素な馬車は古城にあったものを借りたとか。質素な荷運び用の馬車のようだ。
「墳墓にはおそらくあまり遺物は残ってないだろうが学術的な目的も兼ねての調査となる」
 そして付け加えるアラン先生。
「ちなみに、発見者の話に寄れば‥‥偶然か、それとも番人なのか分からないが、ガヴィッドウッドが付近で目撃されている」
 さらっと危険なことを言う先生であった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea8367 キラ・リスティス(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

西伊織 晴臣(eb1801)/ エマニュエル・ウォード(eb7887

●リプレイ本文

●森を行く
 キエフといえば森。それほどこの土地は森に覆われていた。
 恵みをもたらすとともに、畏怖の対象でもある森。そう認識されるにはいくつもの理由がある。
 跳梁跋扈するモンスターたちに、いまだに数多く残る謎。遺跡に洞窟、不思議な植物。
 冒険者たちは何のために森に入るのか。それは知的好奇心を満たすため、あるいは浪漫を追い求めて。
 その思惑を知ることは出来ないが、ともかく冒険者たちと一人の魔法使いは遺跡へと向かうのだった。

 依頼主はケンブリッジの魔法学校から招聘されたウィザードのアラン・スネイブルだ。
 学者なのだが意外にも武闘派でもあり、今回は墳墓の調査のために冒険者を招いたとか。
「先生と一緒に遺跡探索なんて久しぶりですね♪ 頑張ります!」
 にこにこと笑みを浮かべてアラン先生の隣を歩いているのはキラ・リスティス(ea8367)だ。
 彼女はアラン先生に師事するケンブリッジ時代から愛弟子にして恋人だとか。
 そんなこともあって、彼女は甲斐甲斐しく世話を焼いていたり。
「あの、実は先生‥‥」
 これから調査に赴く墳墓について相談していた二人だったが、ふとキラはなにか思い出したよう。
「む? この墳墓の時代についてか? それならば、おそらく文字の変形具合から‥‥」
「あ、いいえ。あのその、向こうについてからのテントについてなのですけど‥‥」
 ふとキラが切り出したのは、当地での野営方法。実は今回偶然、アラン先生以外の参加者が女性なのだ。
 キラが持ってきているテントは4人用。すわアラン先生寒空で野宿の危機か、と顔色を失うキラだったが。
「ふむ、そのことについては問題ない。我輩も自分のことぐらい考えてきているのでな」
 そう答えるアラン先生。彼はロバにいろいろと荷物を積んできていて、その中にはテントもあった模様だ。
「まぁ、これまで暫くキラが居なくて偉く面倒だったのだがな‥‥」
 遠くを見つめたまま、ぼそっと言うアラン先生の言葉にキラはぽっと耳まで真っ赤になったとか。

「ガヴィッドウッド‥‥確か肉食の大木でトレントに似ているけれど、敵対的なプラント系のモンスターだったかしら」
「ええ、樹齢100年を越える大木でそのうろに獲物を放り込んで捕食するらしいですね」
 イェール・キャスター(eb0815)がそう聞くと、答えたのはメアリ・テューダー(eb2205)。
 イェールは魔法学でケンブリッジの魔法学校を卒業した才媛だが、同時に優れたモンスター知識も有していた。
 専門家として身を立てることが可能なほどの知識量を持つイェール。
 もちろんガヴィッドウッドならばいくつか知っているのは当然であった。 
 しかし‥‥。
「たしか、その高さは6メートルにもおよび、枝などを使って打撃攻撃を仕掛けるらしいですね」
 ぺらぺらと捲るのはマッパ・ムンディ。地理と博物について書かれた書物を見ながらメアリはその記憶を辿る。
 なんと彼女はイェールを凌駕する知識の持ち主。
 メアリはイェールにガヴィッドウッドについて書かれた頁を見せながら言葉を繋ぐ。
「今まで魔法を使ったという報告は無いようですし、おそらく力押しの魔物だと思われます。知力も低いのでしょうね」
「なるほど、それならこちらは魔法で遠くから攻撃すれば問題ないわね。移動したりはしないのかしら?」
「トレントもそうですが、樹木の形のモンスターは移動しないみたいですね?」
「それなら安心ね。その本、すこし借りていいかしら?」
「ええ、どうぞ‥‥そういえば、ふと思ったのですけれど」
 くるりと振り向くメアリ。向いた先はキラとアラン先生たちの方。
「プラントコントロールは植物を操る魔法ですが、抵抗されなければ植物のモンスターを操ることも出来るのでしょうか?」
 同じ地のウィザードとして質問するメアリ。その言葉にアラン先生は首を傾げて。
「ふむ‥‥我輩は試したことが無いが、たしかにその可能性はあるな。ただ、プラント系のモンスターが純粋に植物かどうかが問題だと思うが」
 すると横にいるキラもアラン先生と同じように首を傾げて。
「サイコキネシスという魔法は、確か生物に直接影響を与えることができるそうですけど、どうなのでしょうね?」
「ともかく実践あるのみ、と言いたい所だが‥‥ガヴィッドウッドは植物系モンスターの中でも強敵なので、気は抜かないように」
 一言釘を刺すのを忘れないアラン先生であった。

 一方一行の先頭を行くのはエイリア・ガブリエーレ(eb5616)。
 先陣を切るのは騎士の務めとばかりに、周囲の警戒をしつつ街道を進む。
 そんな彼女の横にはまだ小さいけれども立派に働く軍馬のボイェヴォーイが。
 預かった荷物なんかを積んでもびくともしないのは小さくてもさすが軍馬。
「さてと、特に問題なくこれまで進んでこれたが‥‥正念場はガヴィッドウッド退治だな」
 そういって振り返ると、後ろをのんびりついて来るウィザードたち。
 そう、なんと今回はエイリア以外全員がウィザードという構成なのだ。
「‥‥肉体派は自分だけ、なのだなぁ‥‥うーむ、まあ何とかなるか」
 少し心配そうにそういうエイリアにボイェヴォーイがぐいぐいと頭を押し付けて励ますのだった。

●森は魔物
「どうやらあれのようですね」
 遺跡のすぐそばまでやってきた一行。木々の間をすかしてみればなにやら崖の斜面に作られた洞穴のようなところが。
 その前に大木がずっしりとたっているのだが、そのうろはなにやらどす黒く染まっている。
 イェールとメアリはその木を見て、はっきりとガヴィッドウッドであると断言し。
「さて、それでは諸君の実力を見せたもらおうか‥‥今日の午後からはすぐに発掘にうつりたいので、手間を取らせないように」
 厳しいお言葉に、キラは苦笑を浮かべていたりしたが、ともかくこれが戦闘開始の合図となった。
「ふむ、私が囮になって近づいた隙に一気に魔法の集中攻撃で片をつける。こんな感じだな」
 槍を持ったエイリアがそう言って指揮をとると、残る三人の冒険者も頷きを返しそれぞれ距離をとってガヴィッドウッドを半包囲。
 そして、エイリアが飛び出すとともに、一斉攻撃が始まった。
「まずはスクロールで‥‥」
 キラがアラン先生の見守る中、スクロールを広げるとにわかに空が掻き曇る。
 今にも雨が降ってきそうなほどの重々しい雨雲が現れたのだ。そして同時に。
「プラントコントロール!」「ウィンドスラッシュ!!」
 メアリの言葉と共に、ガヴィッドウッドの周囲の木がガヴィッドウッドに絡みつくように枝を伸ばす。
 そして同時に叩き込まれるイェールの放った風の刃。見事に命中し、ガヴィッドウッドに巻きついたツタを霧飛ばすのだが。
「‥‥効いて無い?」
 ツタは剥がれ落ちるも、その下の樹皮にはかすり傷。
「ガヴィッドウッドの外皮は非常に硬いっていうのは知っていたけど‥‥それなら!」
 メアリは次の魔法の詠唱に入るのだった。
 一方、飛び出したエイリアは、メアリが上手く妨害してくれた隙を縫って、一気に肉薄。
 そして槍を繰り出すのだが、その一撃も硬い外皮に阻まれる。
「思った以上に硬いな‥‥さて、どうするか‥‥とっ!!」
「危ない、エイリアさん!!」
 メアリが操る木々の拘束から抜けたガヴィッドウッドの枝の一撃がエイリアを直撃する。
 鞭のように振りぬかれた枝がまともにエイリアを打ち据えるのだが。
「‥‥ふむ、これぐらいなら問題ないな」
 どさりと落ちたのはエイリアを打った枝の方。
 枝の一撃は鎧を打ち据え脇にそれただけにとどまり、エイリアは打たれたときに枝を逆に槍で打ち払っていたのだ。
 そしてエイリアは、すっと横に避けると。
「ライトニングサンダーボルト!!」
 そこに突き刺さるのはイェールの魔法。先ほどより強烈な雷光の一撃は、外皮を焦がす。しかし‥‥。
「これでもあまり効果が無い見たいね‥‥」
 しかし、さらなる威力を誇る魔法がまだ残っていた。
「ヘブンリィライトニング!!」
 キラの詠唱と共に、空を覆った雨雲から突き刺さる強烈な落雷!
 天から地えと突き刺さった雷の一撃はまとめてガヴィッドウッドの枝葉を吹き飛ばす。
 ぶすぶすとこげて煙を上げるガヴィッドウッド。そこにさらにイェールの魔法が突き刺さり。
 最後のあがきか、至近距離に残っていたエイリアに向かって枝を振るうのだが。
 その枝の一撃は、エイリアに真正面から受け止められると、エイリアはその枝を足場に飛び上がり。
「とどめっ!!」
 重量を乗せた穂先の一撃を、幾多の獲物を飲み込んできたうろへと叩き込む!
 そのまま、槍を突き刺して離れたエイリア。
 その槍へと、落雷と電撃が叩き込まれ、全身から煙を上げてついにガヴィッドウッドは動かなくなるのだった。

●遺跡にて
 こうして無事に障害を排除した一行は、すぐさま調査へとうつっていく。
 それはこんな様子だった。
「この蛍火の耳飾があるからあたいは狂化せずにこの暗いところでも作業ができるのよね」
 イェールはそう説明しながら墳墓の様子を羊皮紙に書き取っていたり。
 その肩にはフェアリーのパルフェが腰掛け、『よねー』とイェールのマネをしながら耳飾に手を伸ばしていたり。
「あの、イェールさん。今手伝うことありますか?」
「んー、メアリにとりあえず手伝ってもらうような事はないかな」
「‥‥それでは、少し失礼して、ガヴィッドウッドを‥‥」
 いそいそと準備するメアリ。どうやらガヴィッドウッドの調査に行きたい様子。
 ところがそこに顔を出したのはアラン先生。
「ふむ‥‥ミス・テューダー。ちょうどいい、手が空いているなら、副葬品の分類を手伝ってくれ」
「‥‥はぃ‥‥」
 いろいろと無念そうなメアリ。そこに声をかけるのはキラだ。
「あの、もう少ししたら休憩だそうなので‥‥そのときにでも調査してみるといいと思いますよ」

 墳墓から持ち出してきたものを広げたテント。
 その中で、いろいろと荷物を積み込んだりしながらエイリアとキラがアラン先生の話を聞いていたり。
「これらの副葬品からどんな人物がこの墓の主か分かるか?」
 副葬品を木箱に詰めながら問うアラン先生。副葬品のぼろぼろの武具などを見ながらエイリアは。
「‥‥戦士、かな?」
「ふむ、正解だ。おそらく戦闘階級に属する者に違いない。では横穴式になっている墳墓の意味は?」
 今度の矛先はキラ。しかしキラはケンブリッジを博物学の学位で卒業したので、これぐらいならさらっと。
「横穴式ということは、追葬可能ということですね。個人の墓というよりは家族の墓であったことが考えられると思います」
「うむ、そう考えて問題ないだろう。良い回答だ」
 と、こんな感じで難しそうな会話がされたり。

 夜、焚き火を囲んで少しのんびりとした時間を過しつつ。
「未盗掘の遺跡に出合えればいいんだけど。そういうのってなかなかないのよね」
「そういうところには未発見のモンスターがいたりするかもしれませんよね」
 腕の中に寝ているパルフェを抱えたイェールがメアリとそんな事を言っていれば。
「ふむ、ロシアには未発見の遺跡が最近の冒険者の増加で見つかっていることも多いらしいから、望みはあるかもしれんな」
 とアラン先生に言われて喜んでみたり。
「キラ殿、この前のお茶会のときに知ったのだが‥‥キラ殿はアラン先生の恋人だそうだな」
 うりうりと肘でエイリアがキラをつっつけば、キラは焚き火の照り返し以上に頬を赤らめて。
「ええ、その。2人でケンブリッジの教会に名前を刻んだり‥‥」
「ほうほう、随分と仲が良いのだな」
「でも、じつはケンブリッジでお留守番しているつもりが、ふらっとこちらに来てしまって申し訳なくて‥‥」
「まぁ、結果的に会えたのだしいいのではないかな? それで、2人の馴れ初めは‥‥」
 云々、恋の話に華が咲いたり。そんな話を聞いて無いように一人お茶を飲むアラン先生。
 どことなく、しかめっ面の頬が引きつっているように見えたり。

 こんな感じで一行は、墳墓の調査を進め。ある程度の資料が集まったのだが。
 一度返って分類をしなければ、というアラン先生の言葉。
 資料からもしかすると新たな遺跡の可能性が、と期待に胸を膨らませつつ。
 一同は、キエフへの帰路に着くのだった。