堕落の果てに

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月31日〜11月05日

リプレイ公開日:2006年11月11日

●オープニング

 冒険者をはじめとして武芸や魔法を修得した者は仕官先を探すことがある。
 有力者や貴族などにパトロンに雇ってもらい自らの腕を振るうのだ。
 しかし、仕官を目指す人間が全て立派な人間かというと‥‥そうとは限らないのだ。

「このキエフに出世を目指してやってきたのでしょうが、身を持ち崩す輩も少なくはありません」
 ギルドの受付はそう言って眉をしかめる。
「夢破れて故郷に帰る、ならばまだいいのですが、罪を犯すようなものは冒険者全体の名誉を損なう存在です」
 そういってギルドの受付が示したのは数枚の布切れに描かれた似顔絵だ。
「今回、討伐してもらいたい者は懸賞金がかけられています」
 示された似顔絵は4つ。
「しかし懸賞金がついているということは、それほど4人は腕が立つということですから」
 そして冒険者たちに依頼が与えられた。
 内容は4名の討伐。生死は問わない。
 昔は自分たちと同じように目標に燃えていたかもしれない冒険者たち。
 しかし、彼らは引き返せない場所まで行ってしまったのだ。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7443 永連 零(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6842 ルル・ルフェ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7143 シーナ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ガラハド・ルフェ(eb6954

●リプレイ本文

●それぞれの想い
 力なき正義は無力。しかし正義なき力はただの暴力だ。
 力があるが故に歪みを抱えて締まった同胞たちを討たねばいけないという依頼。
 やはり冒険者たちはそれぞれに思惑を抱えているようであった。
 しかし依頼は依頼。冒険者たちはまず情報収集に取り掛かる
「‥‥いろいろとありそうだけれど、もう戻れないのよね」
 呟くシーナ・オレアリス(eb7143)。彼女は賞金首たちの住処の周辺にやってきていた。
 炭焼き小屋は郊外に建てられており、その近くに点在する丸太作りの民家での聞き込みが目的である。
「では、犬を見かけたことがあると‥‥ご協力有り難うございました」
 深々と礼をして家から立ち去るシーナ。
 その家の人間はなるべく係わり合いになりたくないとばかりに急いで扉を閉める。
 そのことからもどれだけ、元冒険者たちが恐れられているかがわかるのであった。
「ペットがいるとは厄介ですね‥‥さて、他の人たちのところに戻りましょうか」

 その頃、他の冒険者はそれぞれの方法で情報を集めていた。
「ウィザードは火と風のウィザードで間違いない? ‥‥強敵だね」
 エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)がそういえば。
「両方とも火力が高いらしいですし、私のホーリーフィールドだけじゃ心もとないですね‥‥」
 こちらはルル・ルフェ(eb6842)。どうしたものかしら、と頬に手を当て思案顔。
 そして彼らが向かう先は、今回の冒険者たちが拠点としているとある小さな酒場兼宿屋。
 すでにそこには一部の冒険者がつめており、情報交換を行っているはずなのだが‥‥。
「まぁ、こういうのは面倒だからやりたくないんだけどねぇ‥‥というわけであたしは酒飲んでるから零にすべて任せたっ」
 リスティ・ニシムラ(eb0908)がそういって隣の永連零(ea7443)に矛先を向ければ、零は苦笑を浮かべて。
 そこに戻ってくるほかの面々。先のシーナやエリヴィラ、ルルに続いて。
「ただいま戻りました。一応ウィザードの魔法について調べがついたのですが‥‥」
 シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)は過去、賞金首たちを知る古株の冒険者に話を聞きに行ったとか。
「いいことが分かったわよ。普段から出入りが激しいみたいで、罠はそれほど多くなさそうよ」
 アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)は、周辺の地理をしる猟人や、炭焼き小屋の本来の持ち主から話を集め。
「それなら、正面から仕掛ければ怖いのはペットだけ‥‥というところかしら」
 答えたのはリディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)だ。
 こうして一行8名が揃った。
 調べる限りの情報を調べ、あとは目標たちへと挑む時期を待つだけであった。
 飄々と刹那を生きる冒険者たち。もしかするとこれが彼らの最後の食事になるかもしれないのだが、彼らは平静だ。
「なんといか‥‥女ばっかりとはまた‥‥百合の世界っぽくていいねぇ」
 8名全員が女という珍しい状況を見て暢気にリスティが言えば、隣に座っていた零は。
「百合の世界かどうかは知らないけれど、たしかに珍しいね」
 話に寄れば、相手は全員男とか。ともかく、次の日を決戦の日として、一行はゆっくりと英気を養うのだった。

●堕落の果てに待つものは
 炭焼き小屋が遠くに見える街道を静かに歩きながら冒険者たちはそれぞれ覚悟を決めていく。
「元冒険者、か‥‥こんな形とはいえ、やっぱりちょっと悲しいよね。だからって‥‥同情も何もないけど」
 手甲に包まれた手で鯉口を切り、名刀の刃をすらりと抜くのはエリヴィラ。
「冒険者‥‥ってさ、そういう風に力を振るうものじゃなかったはずだよ。絶対間違ってる」
 燐光を放つロングクラブを手に、静かに呟くのは零。
「優れた力を持ちながら、犯罪者に身を落す‥‥全く以って無様なものね。罪は然るべき罰によって裁かれないといけないものよ‥‥」
 愛馬であるユニコーンのローラントは戦闘に連れて行くには少々心配だったため置いてきたアーデルハイト。
 そして、十字を切って呟くのはルル。
「かつては私達と同じ冒険者であった方達と戦わなければいけない‥‥とても悲しい事です。しかし彼らは人を殺めるという、決して許されない罪を重ねてきました。私達が依頼を果たさなければ更に罪なき命が奪われることでしょう」

 作戦はこうだ。
 罠の数は少ないだろうが、秘密裏に接近できる可能性はペットの存在があるため難しいと判断された。
 よって、隙を突いてこちらが先制攻撃、速やかに無力化を図るというものだ。
 賞金首たちの飼う犬にこちらが補足される前の魔法の一撃を放つ。
 そしていよいよ作戦を実行するときがやってきたのだった。

「‥‥レギーナ、ブレスセンサーを使いなさい」
 静かにエレメンタルフェアリーに語りかけるのはリディア。
 いわれたとおりに魔法を唱えたフェアリーは、小屋の近くになにかいるか、とのリディアの問いにかっくり頷く。
 そしてリディアはシシルフィアリスと視線をあわせ。
「シシルさん、行きますよ!! ‥‥ファイヤーボム!!」
「はいっ!! ‥‥アイスブリザード!!」
 詠唱の声の後、放たれた火球は小屋の外壁に直撃! 轟音を上げて小屋が揺るぎ壁が燃え始める。
 同時に、その音で目を覚ました犬たち、その数3匹。1匹がファイヤーボムの焔にまかれるも2匹が突進するのだが。
 そこに吹き付けたのは強烈な吹雪。雪と氷は礫と化し犬たちを打ち据える。
 そして、冒険者たちは一気に距離を詰める!
 同時に燃え始めた小屋の戸が開くと飛び出してくる4人。
 常に命を狙われる賞金首という覚悟があったのか、装備も万端で飛び出してきた4名。
 この4名と冒険者たちが真っ向からぶつかるのだった。

 冒険者たちは4名が距離を置いて、残り4名が飛び出す。
 風のウィザードと思われる男が高速詠唱、放つのはライトニングサンダーボルト!!
 直撃したのは2人、エリヴィラとリスティなのだが、2人とも抵抗し装甲の厚さも相まってほとんどダメージを受けずにさらに突っ切る。
 そしてそのままリスティとエリヴィラがジャイアントへと接敵、ジャイアントの斧の一撃をリスティが盾で受ける!
 その後ろを駆け抜けるアーデルハイト。飛び掛ってきた犬をすぃとかわしそのまま向かうのは魔法使いだ。
 同時に零はレンジャー目掛けて一直線に駆け抜ける。
 しかし間に合わずレンジャーが放った矢が後衛に当るかと思われたのだが。
「ホーリーフィールド!」
 ルルが張った防壁が矢を受け止め砕け割れる。まだ脆い防壁故に、一撃で崩れ落ちてしまうが矢の一本を止めるには十分。
 しかし矢を防いで安心と思った束の間、アーデルハイトが避けた犬がそのまま真っ直ぐにホーリーフィールドを張ったルルへ向かう。
 そこにすいと手を向けたのはシーナ。
「アイスコフィン!」
 高速詠唱によって、二連続で放たれた魔法。犬は問答無用で氷に閉じ込められる。
「ファイヤーウォール!」
 リディアが牽制で放った焔の壁が前衛と後衛を分断し、そこにつっこんでしまい怯んだ犬へとホーリーとアイスコフィンが。

 同時に前衛でも動きが。
 ジャイアントの猛攻をなんとか防ぐリスティとエリヴィラ。
 しかし、勝機は隙を突いた冒険者たちに。
 盾でジャイアントの一撃を受けたリスティ、そこからカウンターの一閃!
 深々と胸板を切り裂く剣の一撃、そして。
「アイスコフィン!」
 シシルフィアリスが放った魔法の一撃は、怪我に気を取られたジャイアントを封じるのだった。
「はん、前の依頼ではデビルの奴を足蹴に出来なかったからねぇ。足蹴にしてやるよ!」
 狂化したリスティはげしげし氷に包まれたジャイアントを蹴っ飛ばしたり。
 同時に、エリヴィラはウィザードを狙ってすぐさま走り出していた。
 一方レンジャーに接近した零はロングクラブで相手の弓をはたき落とす。
 しかしレンジャーは諦めずナイフをぬいて応戦。しかし零はナイフを受けて反撃で顎へと跳ね上げの一撃!
 これでレンジャーは撃沈。しかしなんとレンジャーは自分の胸を自らナイフで突き刺す!

 そして風のウィザードの方はというと、魔法を唱えられる前に攻撃しようと接近するアーデルハイトに対し。
「くそっ!! これでもくらえっ!」
 全身から雷光を放って逆に体当たりを仕掛けてくるウィザード。起死回生の一撃だったのだが。
「無駄よ」
 すいっと体をずらすだけで、体当たりをかわすアーデルハイト。
 そして返す一撃でウィザードに一撃、これで風のウィザードは昏倒。
 そして最後にのこった火のウィザード、逃げようと高速詠唱で放ったのはファイヤーウォールだ。
 そこに躊躇せずにつっこむエリヴィラ。
 手甲に光る赤い宝玉の助けも借りて魔法をレジスト。そしてあっさりと追いついてしまった。
「覚悟しなさい」
 刀を向けるエリヴィラ。ウィザードの後ろには燃え上がり始めた炭焼き小屋が。
 そこでなんとウィザードは自らその身を火の中に躍らせた! そして火はあっという間にウィザードを覆い尽くしていく。
 こうして長いようで一瞬の攻防が幕を下ろすのだった。

 捕えられたのは二人、ジャイアントと風のウィザードのみ。レンジャーは自刃し、火のウィザードは自ら火に飲まれた。
 ともかくこうして4名の元冒険者の賞金首は無事倒された。
 生き残った2人もおそらくは死罪が待っているのであろう。彼らはそれだけの事をしてきたのだから。
 そして、無事依頼は完遂、しかしここでひとつだけ問題があった。
 炭焼き小屋が焼け落ちてしまったのである。幸い森に延焼しなかったため大事には至らなかったが、多少報酬は減額。
 そんなミスもあったものの、最も大事なもの、命を守りきることができた冒険者たちはどこか誇らしげであった。