●リプレイ本文
●初動捜査 街にて
「友達を探してくださいか‥‥うんうん、分かるぞペットは大事な友達だよな」
キツネのセレネを従えて、街を闊歩するのはアッシュ・ロシュタイン(eb5690)。
なんと彼はとある飼い主ナンバーワンを決める大会の優勝者だとか。
「つーか、ペットを盗むなんてマジで許せんな、それなりのお仕置きをしてやらんと気が済まん」
ぐっと拳に力がこもる。ペットへの愛情に溢れた彼は燃えているようだ。
ということでやってきたのはキエフの街中。目指すは食料を取り扱う店である。
「‥‥心当たりがある?」
「ええ、最近急にえさ用の安い肉やらを買っていってくださるお客が増えましてね」
あたりをつける情報は、ペットの餌のラインだ。
広い場所や人の出入りの情報に関しては有力な情報は得られなかった。
ところが、この商店で手に入れた情報はというと、
「幾つかあるんだな?」
「ええ、おそらくは新しいペットをお買い求めになったのでしょう。最近のペットの中には大きなものも少なく無いですからね」
「ふむ‥‥なるほどな。ありがとな、オヤジ」
礼をつげて去ろうとするアッシュ。と、そこにやってきたのはオリガ・アルトゥール(eb5706)だ。
「ああ、アッシュ。こちらの方でも幾つか分かりましたか?」
彼女は同じようなものを取り扱っている別の店を調べてきたらしい。
「こちらで調べたところ、最近流行っているのかかなりの数の家がペットの餌を買い込んでいるらしくて絞り込めないのですが‥‥」
「ああ、俺の方でも幾つか候補はあるんだがな。とりあえずしらみつぶしに調べるしかないのかもしれないが‥‥」
そんな事を言いながらお互い調べてきたリストを見比べる二人。すると、
「‥‥あら、この家は両方の店から仕入れていませんか?」
「ふむ、それは少々奇妙だな。一箇所からまとめて買えばいいのに」
「では、他にも幾つか聞いたペットの餌を取り扱うような店を回ってこの家について話を聞いてきましょう。もし他のところでもこの家が買っていたら‥‥」
「それだけ大量の餌を必要としている。さらにそれを隠そうとしている、ってことだな」
「ええ、その通りです。調べてみる価値はあると思いますよ」
こうして行動は決まったようである
「お兄さん、どうやら高級なペットを探しているようですが‥‥」
そう声をかけられたのは壬生桜耶(ea0517)だ。
聞き込みを続ける中でふと立ち寄ったのは、情報通が集まるという酒場。
「‥‥ああ、興味がありましてね。聞かせてもらえないでしょうか?」
銅のジョッキに注がれた酒を手渡しつつ、答える桜耶。
異国風の外見の青年が高額なペットについての話を聞き込んでいる。
少々目立ったのか、やはり食いついてくる者がいたようである。
「いえね、お兄さんもどうやら冒険者みたいですが‥‥金さえ糸目をつけなけりゃいろいろ手に入る噂を聞きましてね」
桜耶が奢った酒もあってか、ぺらぺらと喋りだす。
「私はあるお屋敷の庭師をやってるんですがね‥‥」
聞けば、その庭師は主人から直々に犬を買う予定なので、いろいろと庭に手を入れろと指示があったとか。
「他の貴族様がペットを買ったって自慢しに来るんですよ。そのせいでご主人様も急にはりきっちまいまして‥‥」
「なるほど、貴族間でペットの売り買いがあるわけか」
「ええ、なので貴族様からならそういうペットも買えると思いますぜ」
「‥‥ありがとう、その話を聞けて助かりましたよ」
とりあえず一つの裏づけを桜耶は得たようであった。
「‥‥ペット達とは大切な家族。それを連れ去るなどとは‥‥やはり犯人達を鉄拳制裁するしか有るまい」
「全くだ。少年の友人を取り返すためにも頑張らねば」
会話するエイリア・ガブリエーレ(eb5616)とエマニュエル・ウォード(eb7887)。
依頼人の少年の屋敷を辞した2人は周辺の聞き込みをしていた。
依頼人の家人から許可を得て、屋敷の周囲を巡りながらの探索。
探しているのはペットをどう運んだのか。その方法である。
「このザーフトラも然り、成長した犬というのはなかなか大きいものだ。一人で運ぶのは辛いだろう」
「ああ、おそらくはエイリア殿が言うように、荷車やなにかで運んだのかもしれないな」
「うむ、流石に魔法の箒や臼は目立ちすぎるからなぁ‥‥」
目撃証言を探して足が棒になるほど歩き回る二人。
そしてそろそろ夕暮れ、人影もまばらになってくきた時間に一人の職人からエマニュエルが気になる話を聞いたのだった。
「その職人が言うには、その夜、酒場からの帰りに道に迷ってあの屋敷の周辺にいたらしいんだが‥‥」
「ふむ、ちょうどニールが盗まれた日だな」
「ああ、その時、真夜中に馬車を見たらしい。深夜に走るなんて珍しいから幽霊かと思ったそうだ」
「たしかに珍しいな。しかし馬車か‥‥もしかすると、偉いやつが黒幕なのかもしれないな‥‥で、他には?」
「あとは‥‥ああそうだ、馬車には赤地に鳥と塔の模様がついていた、なんて言っていたんだが。これだけで分かるか?」
「赤地に鳥‥‥それだけじゃ候補が多すぎるな。とりあえず戻ろうか」
こうして、エイリアとエマニュエルも貴重な情報を得たようであった。
「では、わかった事を整理しますと‥‥」
シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)は集まった冒険者一同から聞いた話を纏めておずおずと言った。
「一つは、売り手と買い手。貴族同士で高級な犬猫の売り買いの流通があるということです」
頷くのは桜耶。
「そして、二つ目。いくつも仕入先を分けて餌を仕入れている怪しい貴族がいることでした」
頷くアッシュとオリガ。
「そして、その家の名前はスタロイプツェフ家というらしいのですが‥‥この家の紋章はご存知ですか?」
「ああ、たしか赤地に鷲、そして塔の紋章のハーフだ。ここは確実に黒だな」
答えたのは貴族として紋章学を知るエイリアだ。
こうして行動は決まったようだ。
●決着
「さて、調べはついてるんだ。邪魔はしないでもらおうか」
一行は真っ向からスタロイプツェフ家に乗り込んだ。
そして、一行を制止しようとした屋敷の守衛が居たのだが‥‥
「ちょっと眠っていてもらおうか」
拳一閃、下っ端の護衛はアッシュの拳で地を這うのだった。
そして屋敷のホールにやって来た一行、そこで出迎えたのは当主。
猜疑心の強そうな眼差しに灰色の髪。怒りに燃えた目で冒険者たちを見やる中年の男だ。
「‥‥最近色々と嗅ぎまわっているようだな‥‥貴様ら、なんの義理があってこんな仕事をするのだ?」
じろりと見下ろすスタロイプツェフ。見ればぞろぞろと金で雇われたと思しき手下が集まってくる。
「貴様らは依頼を受けてるだけだろう? ならばそれ以上の金を出すので、何も言わずに立ち去ってはくれないか?」
あくまでも見下したその言葉、しかし冒険者たちは応える。
「ペットとは家族も同然‥‥それに軽々しく手をだすことを、私は許すことは出来ませんね」
オリガがにべも無く跳ね除ければ、
「窃盗は罪、罪は裁かれるべきだ、人の家族を盗むなどは裁かれて然るべきだ」
メイスを構えるエマニュエル。そして、
「連れ去られたペットたちを待つ家族がいるのだ。金が目的ではない、待っている人の下へ連れて帰るのが我々の目的だ」
エマニュエルの言葉とともに、冒険者たちはそれぞれの武器を抜く。
「‥‥所詮は冒険者風情か。構わん、殺せ」
怒号と足音、冒険者と手下たちが正面からぶつかっていく!
「はっ!」
幻惑する刃の閃き。フェイント交じりで放たれる桜耶の剣が浅く手下の脚を切りつければ、
「アイスコフィン!」
シシルフィアリスの声が飛び、膝を突きかけた手下はそのまま氷の中へ。
そして、敵の放つ剣戟を桜耶は軍配で跳ね返し、磐石の構えである。
「お、お前さんはけっこう出来るみたいだな」
アッシュの前には巨躯の戦士。手に巨大なハンマーをもったジャイアントのファイターだ。
大きく振りかぶって振り下ろされる鉄槌。しかしすでにそこにはアッシュはいない。
「こっちだ、でくのぼう!」
アッシュが大上段に振りかぶった刃は黒い残像と共に、ジャイアントへと。
重さを乗せた強力な一撃に、ジャイアントは倒れ伏す。
しかしそこに飛び込んできたのは、
「い、犬かっ!」
厚い装備によってなんとか守られたアッシュ、しかし流石に攻めあぐねていると、
「なら、これで! アイスコフィン!!」
ぱきんと一瞬で氷に包まれる犬。黒幕自らが飼いならしていた犬は、これにて沈黙。
そして、一直線にスタロイプツェフへと向かう二人。
「先にいけ、エム!」
後続の手下を引き受けたのはエイリア。二人の手下の剣戟をなんとその体で受ける!
しかし、
「‥‥来るのがわかっていれば受けるのはたやすいこと。しかし刃を向けた報いは受けてもらおう!」
振るわれる槍は着実に手下たちを打ち据える。
そしてエマニュエルは、一直線に黒幕へと向かうのだが、
「ふん‥‥それ以上近寄るな」
後ろに引く当主、すると入れ替わるようにすべりでたローブの男は詠唱もなしに銀の光を放ち、魔法を発動。
放たれたのはスリープ、それも連続で放たれるのだが、
「な、効かない!?」
長い廊下を走るエマニュエル、彼の体を包むのはレジストマジックの魔法だ。
そしてそのままローブの男に近づくと、メイス一閃。これでローブの男は昏倒。
さらにそのままエマニュエルは走ると、逃げようとしている当主に追いつき‥‥当主の真横にある棚を一撃!
舞い散る木っ端、腰を抜かせてへたり込む当主。
「さて、悪事を全て白状してもらおう‥‥今度は手が滑らないとも限らない。正直に喋ったほうがいいと忠告しておこう」
メイスを掲げて言うエマニュエル。こうして、戦闘は終わったのだった。
ペットたちは屋敷の裏手にある倉にまとめて入れられていたようで、冒険者たちが訪れると一様に尻尾を振ってすりよってきた。
どの子もしっかりと世話をされていたようで、怪我も無いようである。
「こ、こんなに沢山‥‥」
唖然とする桜耶。ペットたちにまみれておおわらわの様子。
「えっと、この子はどこの子だ。‥‥こっちは‥‥わぁぁ、引っ張るなって」
なにやら裾を噛み付かれてころんでいたり。
「これでこの当主がしっかり裁かれるといいのですが‥‥あとは被害者の皆様がいいようにしてくれるでしょう」
元の飼い主たちに連絡をしたシシルフィアリスは、縛り上げた当主と手下たちを見やって。
「みんな家族の下に帰れるぞ。よかったな」
足元にすりついてきた犬を撫でて、エマニュエルが言えば。
「この子達もよろこんでいるみたいですね」
オリガは、迎えに来た家族たちにペットを手渡し。
「ま、無事に済んでよかった。なぁセレネ」
アッシュがその相棒セレネに言えば、同意するようにセレネも尻尾を一振り。
「ふむ、なんだか我が家のペットたちにも早くあいたくなったな」
エイリアが足元の黒猫を抱き上げながらそういえば、冒険者たちはみな一様に頷いて笑みを浮かべるのだった。