●リプレイ本文
●賊なんて
大きな荷馬車。ごとごとと街道を進む馬車は荷物を満載して進む。
そんな荷馬車。詰まれた食材の類には布が掛けられ、そのまわりの空きスペースや御者席に冒険者の姿が。
手綱を取っているのはエイリア・ガブリエーレ(eb5616)、そしてその隣に緋野総兼(ea2965)だ。
「エイリア殿、この国は寒いのだなぁ」
「うむ、もうすぐ雪も降るだろうし‥‥江戸では雪は降らないのか?」
かじかんだ掌をごしごしこすりながら言う総兼に答えるエイリア。
雪のちらつく季節になったキエフ、それぞれが防寒対策をしつつも寒いものは寒いのだ。
「それにしても寒いわね‥‥やっぱり防寒具も必要かしら」
こちらはアーデルハイト・シュトラウス(eb5856)。ユニコーンの背の上で空を見上げて。
そしてふと横を向けば、馬車に腰掛けてちぢこまっている仲間の姿が。
「シャリオラさん、大丈夫かしら?」
アーデルハイトが問いかけた相手はシャリオラ・ハイアット(eb5076)。
ふわふわの手袋をしつつも寒そうだったので思わず声をかけたのだが。
「え、ええ、大丈夫です。ただ外へ出ても邪魔になるだけでしょうから。べ、別に寒いからじゃありませんよ?」
馬車の横をてこてこついて来る愛犬のイゴールも少々心配そうだが、まぁ本人がそういうなら仕方ない。
そして少し先行していた香月睦美(eb6447)が戻ってくると。
「もうそろそろで、被害が続出しているあたりに差し掛かる。警戒を怠らないようにせねばな」
「了解した、ならば俺も前方の警戒にまわろう」
馬上のレイブン・シュルト(eb5584)がそう答えて前に馬を進める。
そして、しばらくして。シャリオラの愛犬イゴールが顔を上げるのとほぼ同時に、森の中から矢が。
「来たぞっ! 矢に警戒を!」
ひょろひょろと飛んできた矢を籠手で弾き飛ばしたのはエマニュエル・ウォード(eb7887)。
そして、わらわらと左右の森から飛び出してきた盗賊どもに対してエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)が。
「荷物には触らせませんよ!」
飛び出す盗賊に驚いた馬。それを宥めるエイリア。そしてその背にせまる凶刃。
しかし彼女は襲ってくる男に冷静に向き直るとその刃を体で受ける。厚い鎧に阻まれる凶刃。
そしてその隙に飛び降りてきた総兼がダガーの柄で脳天を強打、エイリアが男を蹴飛ばす。
馬車に近づく男に矢のように飛び掛る影はイゴール。打ち込まれるブラックホーリーは飼い主シャリオラの援護。
次々に武器をはたき落としているのはレイブン。一歩も近寄らせないという威圧感。
ユニコーンの姿だけで盗賊を圧倒しながらアーデルハルトは突進、蹴散らされる盗賊。
若駒の上で日本刀を振るう睦美。名刀が風を切るたびに盗賊たちは逃げ惑う。
白銀に輝く魔剣を携えたエリヴィラが馬車の盾となって動けば手も足も出ない盗賊たち。
エマニュエルが剣を殴ったまま盗賊の一人を殴り飛ばせば、盗賊たちはほうほうの体で逃げ出すのだった。
かかった時間はおよそ3分。見事盗賊返り討ち。
こうして無事に、冒険者たちは晩餐会へと前向きに進んでいく。
目的があるとき、人は強くなれるのだ。
●賑やかなる宴の始まり
礼儀作法にうるさくない主催者のキリーロ。しかもいかに貴族といえど、やはりキリーロは若輩者である。
ゆえに集まるほかの貴族の面々も若手や、それほど大きな実権を握っているとは言いがたい血族の者であった。
しかし貴族は貴族、連綿と連なる家系とその文化を誇る支配者たちである。
そして今回の客人扱いとして招かれたるは冒険者。
ある者は好意的に、ある者はかすかな嘲笑、そして多くの好奇心に満ちた顔。
そんななか、冒険者たちはキリーロの屋敷にやってきていた。
「キリーロ殿、厨房の見学までさせていただいて貴重な経験をさせてもらった、感謝する」
「いえいえ、お安い御用で。さぁ、異国の話を聞きたいと思っている客人も多いことでしょうし、どうぞ中へ」
一番最初に他の客人に顔を見せたのは、一足先に厨房での料理を見学していたのは睦美だった。
続いてぞくぞくと冒険者たちもサロンへとやってくる。
マントに騎士然とした様子でやってきたのはレイブン。黒を基調とした衣装がどっしりと存在感を。
ドレス姿の女性二人連れはシャリオラとエリヴィラだ。
エリヴィラは純白のドレスに銀の冠、かなり豪奢な出で立ちに早くも注目があつまる。
その後ろ、ロイヤルキルト姿はアーデルハルト。数日前にはユニコーンで突貫していたのもなんのその。
「アーデルハイト・シュトラウスと申します、以後お見知りおきを」
今日の姿は、どこからどうみても楚々として令嬢。銀糸の髪に黒の礼服が良く映えている。
挨拶をしてきたほかの貴族にそつなく挨拶を返している様子であった。
「今日は招いて頂いてとても楽しみにしていたのだ。特に料理が楽しみで♪」
楽しそうにキリーロに語りかけているのは総兼。
美男子というよりは美人な総兼は気さくにハウスメイドたちにも声をかけているようでちょっとした人気者のよう。
そして最後に入ってきたのは一組の男女だ。
「この度の招待、ありがたく応じさせていただいた」
黒衣の紳士、イギリス出身のエマニュエルは剣を佩きステッキを手に持った姿でまさしく紳士。
そして彼にエスコートされているのはエイリア。
こちらも軍装、剣を下げ凛々しく胸を張っての登場である。
2人の姿には招かれた女性陣の感嘆の声が、エイリアに熱い視線を送る貴族のお嬢様方もちらほら。
そして、エイリアはキリーロへの挨拶を終えると、なにやら家政頭へと荷物を渡してなにかを言っている。
そんなこんなで、全員が集まりキリーロが声を上げた。
「それでは皆様、食事の用意が整いました! 食堂の方に案内いたしましょう!」
●晩餐
男女セットで座ることにたいして、シャリオラがエリヴィラに近寄る軽薄そうな男を追い払ったり。
総兼が男性貴族にエスコートされそうになったり、と一悶着あったものの一同は席に。
今回はむずかしい約束事はなし、儀典官も材料の献上も抜きで賑やかに宴席は始まった。
次々に運ばれてくる料理、無事到着した材料は存分に腕を振るわれてさまざまな料理へと昇華していた。
「この国は酒の豊富で嬉しい限り‥‥あ、次はこちらのをお願いしよう♪」
銀の杯を色とりどりに満たす酒・酒・酒。
次々にいろいろな果実酒を楽しみながら特製の肉・魚抜きのメニューに舌鼓をうつ総兼。キノコ料理がお気に入りとか。
「こう、体が温まる物はこの時期、いいですよね?」
「そ、そうだね。そうだ、寒いといえば、この前キエフに霧が立ち込める事件があったんだけど‥‥」
シャリオラとエリヴィラ。冒険の話に華が咲いているようで。
「エマ殿、イギリスでのお話を聞かせていただきたいのだがいかがだろうか?」
エイリアが言えば、なにやらエイリアを気に入ったのか周囲の年若いお嬢様方もエマニュエルに懇願。
「ふむ、それでは一つ。私の祖父の代ですが、一人の騎士が女性のために百の決闘を行ったという話などを‥‥」
異国渡来の冒険者たちの話は人気で、エマニュエルの話に回りも耳を傾けて。
「あちらでもわが祖国の話をしているようだな。ならば、こんな話はいかがだろう?」
レイブンも語り、キリーロもその様子を楽しげに見ているのだった。そんなキリーロに睦美が尋ねる。
「ところでキリーロ殿。何故人脈にはなりそうも無い冒険者を招待したのだ? 物珍しさはあると思うが‥‥」
ストレートな質問にキリーロは笑みを浮かべて。
「たしかにこうした場では物珍しいですが、それで呼んだのでは吟遊詩人と変わりません」
ぐるりと他の冒険者を見やるキリーロ。
「冒険者の方々はたしかに低く見られがちです。しかし、しっかりした家系の方も多いですし、貴族が雇うのではなく、協力してもらえるような間柄になれれば、と思いましてね」
こうして、晩餐会は更けてゆく。
そして一同、食堂を辞して、サロンへと。
暖炉のぬくもりに明るい照明、振舞われる酒と食後のデザートの時間であった。
●宴は続く
響く音楽、数は少ないながら数人の楽士が奏でる軽快な音楽にあわせて踊るものも。
踊らないものは部屋の隅の椅子に腰掛けて会話を楽しむ。
そんな中で。
「総兼殿、少々時間をもらっていいかな?」
「おお、エイリア殿! このピロシキにはジャムが入っていてまたほっこりと美味しいのだが‥‥ん?」
そこでエイリア、手をこしこし拭っている総兼にどさっと渡したのは、今まで預けていたエンジェルドレス。
総兼はきょとん? と首を傾げるのだが、エイリアはぱむぱむと手を打ち鳴らすと家政頭がすすっと寄ってきて。
「ソウケン様、あちらで御召変えを‥‥」
「お、おめしかえ? ドレスに着替えるのはエイリア殿では? あ、ちょっとまってー!!」
メイドさんや執事さんにがっしりつかまって、総兼の声は隣の部屋に消えて行ったとか。
「ノルマンのステップだとこう、前、前、横‥‥と」
「ええ、しばらく離れていますが、私がいた頃にはそのようなステップが流行でしたわ」
ユニコーンを駆る戦乙女のアーデルハルトも今日は楚々とダンスを踊っていたり。
ダンスで挨拶を交わす若い貴族の子弟たちの名前は大体頭に入ったアーデルハルト。
しかし役に立つのはいつの日か分からないが、ともかくノルマンの神聖騎士の名を知るものは増えただろう。
こちらは、壁際の長椅子で二人並んで座る令嬢。寄ってくるナンパそうなのは全てシャリオラが撃退済みである。
「なんかさっきから男の人が来るけど‥‥」
「別になんでもないんですよ。気にしない気にしない」
「そう? でも、やっぱり剣を振ってるほうが気が楽かも‥‥なんか失敗しちゃいそうで怖いんだもの。あたし場違いじゃないかな?」
「そんなこと無いと思いますよ、とてもドレスも似合ってますし」
と、そこへまた一人、茶の髪の青年が。もちろん突っぱねるシャリオラだが。
「ダンス? そんなの駄目ですよ‥‥。へ? 私とですか? ま、まあ、そこまで言うのであれば踊ってあげなくもないですよ」
と、なんだか説得されて連れて行かれるシャリオラ。
それをみてエリヴィラは、なるほどたくさんダンスの申し込みがあって断ってたんだー、と合点している様子だったり。
そして他の緊張しているような貴族のお嬢様方と話が弾んでいるエリヴィラ。そんなエリヴィラをダンスしながら見やるシャリオラだった。
「なあ、エム殿。やはり主賓にパートナーがいないのは寂しいと思わないか?」
「む、たしかに主賓のキリーロ殿にもパートナーがいれば華やかになるでしょうが、だれか相応しい方がいたでしょうか?」
「うむ、ということで私が急遽“用意した”のだが、見てみようではないか」
視線でエイリアが指す先、そこには銀の髪と緑の目をした美女が。
その赤らめた頬すら愛らしく、エキゾチックな魅力が漂う異国の美女、唯一惜しむらくはキリーロと並ぶその背の高さだ。
「そ、総兼殿?!」
蜂蜜酒を噴出しそうになってふと思い返すエマニュエル。
そういえば先ほどメイドさんたちの声が隣の部屋から聞こえたとき。
やっぱり異国の方の髪質は綺麗、とか、胸にする詰め物は、とか肌が滑らかで、とか。
そんなことが聞こえたような、と思い返しながら見事に化けさせられた総兼を見やるエマニュエルであった。
呆然とするエマニュエルや、気付いてすらいない貴族たち、そして吃驚している冒険者の面々。
そんな客たちの顔を見やってくつくつと笑うエイリアなのであった。
ちなみに、本気で親しくなりたいと言い出した貴族の青年(しかも複数)に対して、
「お、お断りさせていただきます!」
と総兼が息も絶え絶えで逃げたとか。
こうして、幻の美女の噂が貴族たちの間で語られるように‥‥なるかもしれない。
そんなこんなで、主催のキリーロも謎の美女が現れたりして大いに喜びながらも、宴は続く。
「もし良ければ、また此処に来ても構わぬだろうか? 調理や礼法など、学びたい事が沢山あるのでな」
睦美の言葉に、キリーロは酒杯を掲げて。
「ええ、もちろん歓迎いたしますよ。これからも冒険者の方々を招けるような依頼も増やしたいと思っていますし。よろしくおねがいいたしますよ」。
宴は続く、さて次はどんな宴が開かれるのだろうか