●リプレイ本文
●道
キエフから目的地へと続く街道を急ぐ一行。
彼らの行く手には真っ白い景色が、雪がぱらぱらと降り街道を白く染め上げていたのだった。
季節はもう冬、まだ豪雪という時期ではないが、景色は白へと変貌している。
一行の進みは速い。ある者は馬で、またある者は魔法のブーツで、街道を急ぎ走る。
まだ雪がそれほど深くないため、街道を進むのに支障は無い。
そして、人が通らなくなって久しいであろう街道をひた走ると、緩やかな丘の先。
駆けること一昼夜、冒険者たちは遠くの丘陵にうち捨てられた開拓地の跡を見出した。
数百メートルの距離を置いて、冒険者たちは丘の影の木立にて野営地を作る。
雪を除けて、枯れ木を集め、テントを建てて、馬を繋ぐ。
雪が残す足跡に、この近くまでやってきているものは無いが、警戒は必須。
見張り番を立て、到着したその日の夜。冒険者たちはひと時の休息を取る。
次の日から、休む事を知らぬ使者たちとの戦いが始まることが分かっているからだ‥‥。
その日の夜半、月明かりが皓々と周囲を照らす夜。雲ひとつなく、空には満天の星空が。
「そういえば、アンデッドは初めてだな‥‥」
ぽつりと呟いたのは所所楽柳(eb2918)。彼女の顔を、かすかな焚き火の明かりが照らす。
その呟きに答えたのはもう一人の見張り当番。
「あいつらしぶといから厄介なんだよな〜‥‥でも、被害広がる前に仕留めておかないとな」
武器の手入れをしながらブレイン・レオフォード(ea9508)が言う。
動く影も無い深夜の見張り。会話は自ずとアンデッドについてだった。
柳がアンデッドの聴覚について聞けば、ズゥンビは生前の五感で生者を感知しているのではという話になったり。
そして、遠くの稜線からわずかに明るい光が溢れ、空が白み始める時刻。
鳥の羽ばたきと太陽の光、朝の訪れと共に、冒険者たちは村跡へと歩を進める。
「アンデッドの駆逐‥‥駆け出しの頃を思い出しますね」
燐光を放つ小太刀はオーラパワーの力を宿し。
ウォルター・バイエルライン(ea9344)は、慣れた様子で行く先を見据えて。
「この剣を持ち出すのは2度目だな‥‥頼むぞフューナラル!」
葬送の名を持つ魔法の剣を抜き払ったのはブレイン。
「さて、あとは実地で覚えるしかないんだろう‥‥」
焔を宿す小太刀を手に進むのは柳。
「ミーの腕が鳴るで御座るな」
魔力の篭った木剣を振るって磧箭(eb5634)は呟く。
「真冬を前にグール退治ですか‥‥キエフはこういう話題に事欠きませんねぇ」
オリガ・アルトゥール(eb5706)が言えば、
「まったく‥‥死人は死人らしく、大人しくしていられないのかしら?」
と、アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)が同意して。
「‥‥たしかに厄介な奴らだが‥‥まあいい、残らず斬り捨ててやる」
輝く魔剣を手にロイ・ファクト(eb5887)が鋭い視線を先に送る。そこにはうごめく幾つかの影が。
そして、一行は獲物を手に、アンデッドたちに真っ向から向き合い。
「‥‥灰は灰に、土は土に。クルースニクの名に掛けて、哀れなる亡者たちに魂の救済を」
アシュレイ・クルースニク(eb5288)の冷厳たる葬送の宣告をもって戦いの火蓋が落とされる。
●争
「なぁロイ! 良い機会だ、どっちの実力が上か‥‥勝負しようじゃないか」
「いいだろう。ガキの頃はただのお遊び程度だったが、お前とは一度はっきりとした形でけりをつけておきたいと思っていたんだ」
「よぅし、ならあいつらを多く仕留めた方が勝ちってのはどうだ!」
「‥‥ああ、望むところだ!」
ブレインとロイはぞろぞろとやってくるズゥンビの一団を前に言葉を交わし次の瞬間、矢のように飛び出した!
高く構えた剣の重さを乗せて、一気に叩っ斬るブレイン。魔力を帯びた剣も威力を発揮し一撃で動かなくなるズゥンビ。
一方ロイ、ズゥンビの爪の一撃を鉄の手袋で弾き、返す刀で鋭い斬撃。こちらも一撃でズゥンビは倒れる。
見る見るうちにズゥンビたちをなぎ倒していく2人。
「‥‥5匹目! どうだロイ!」
「‥‥こっちは6匹目だ。ふん、この調子なら俺の勝ちは確実だな‥‥」
両者、再びズゥンビたちへと挑みかかるのであった。
アンデッドたちは基本的に鈍重。攻撃を避けようともせず、真っ直ぐにただ愚直に生者へと向かってくる。
故にズゥンビ程度なら彼らほどの技量の冒険者が作戦や装備を十分に備えた場合、それほど脅威ではないのだ。
しかし、今回の場合、驚異的なのはその数。幾ら倒しても、次の場所に行けばそこにはまた大量にズゥンビが。
しかし冒険者たちはいつ終わるとも知れない戦いを続けるしかないのであった。
「アイスブリザード!!」
轟々と吹き荒れる氷雪の嵐。固まってやってきた十数体のズゥンビを巻き込んでオリガの魔法が発動。
身を切る寒さや、雪氷の乱舞でダメージを追うズゥンビたち。そこに他の冒険者が駆け寄る!
オーラパワーによって強化された武器はアンデッドに対して強力な威力を発揮する。
その特性を利用して次々にズゥンビを斬っていくのは騎士ウォルターだ。
「そのような攻撃ならば当りません」
振るわれるズゥンビたちの腕を軽やかに回避、的確に屠っていく。
「遅い!」
その後を追いながら、手負いのズゥンビたちを切り払っていくのは柳。
焔を纏った小太刀が雪上で弧を描くたびに一匹、また一匹とズゥンビが崩れ落ちていく。
彼女の脚には白いブーツ。雪の上で脚をとられることなく進む彼女は、ズゥンビより優位で戦闘を進めているのだった。
「おぬしの相手はミーで御座るよ」
ふらふらとやって来た一匹のズゥンビを木剣で殴り倒したのは箭。
二発三発と連続して叩き込まれれば、ズゥンビはがしゃりと崩れ落ち動かなくなり。
「一体一体倒していきましょう。囲まれなければそれほど脅威ではありませんからね」
するするとズゥンビの爪を回避しながら、的確に斬りつけているのはアーデルハイト。
回避力の高い彼女には、動きの鈍いズゥンビの爪はあたらない。
一体をひきつけながら何度も斬りつけて倒す、これを繰り返して着実にズゥンビはその数を減らしているようだ。
数はいるが、それほど脅威ではないズゥンビたち。このまま押し切れるのではないかと思ったその時。
ウィザードのオリガの近く。崩れかけていた建物の影から突然躍りだしたのは一体のズゥンビだ!
「コアギュレイト!」
ピンチかと思われた瞬間、響いた声はアシュレイ。
動けなくなって転がったズゥンビ、そのズゥンビに向かってホーリーメイスの一撃。
守りも磐石、こうして冒険者たちは次々にズゥンビたちを駆逐していくのだった。
しかし体力には限りがあり、現在は気温も低く足場も悪い。
そのような条件下で長時間の戦闘は不可能。冒険者は深追いせずに幾度かに分けて進攻。
急げば数時間で回れるほどの広さしかない開拓村跡地を地道に探索していくのだった。
そしてほとんど怪我もなく一行は進み、打ち倒したズゥンビの数の数を数えるのが面倒になったころ。
彼らは最大の脅威と遭遇するのだった。
●終
「‥‥右前方に、どうも少々違うのがいるようです。気をつけてください」
ウォルターの警句。聴覚と視覚で捕えたのはズゥンビより遥かに凶悪そうな様子の動く死者。
オーラパワーを仲間にも付与して待ち構えたその瞬間。
「‥‥っ、上にも一匹います!!」
現れたのはグール。右前方の一体、廃屋の屋根の上の一体、そして。
「ち、こっちにもか‥‥なぁ、ロイ。何匹倒した? 俺は12体だぞ」
「‥‥ちっ、俺もお前と同じ数だ。‥‥決着がつかないなら、あのグールを仕留めた方、ってのはどうだ?」
「よし、望むところだ!」
最後の一体は回り込むように左後方。それを迎え撃つのはロイとブレイン。
「前方のは任せてください!」
とっさに散開、前方を目指して駆け出すアシュレイ、柳とウォルターが続く。
「アイスブリザード!!」
屋根の上に再度魔法を放ったのはオリガ、しかしそれを痛痒ともせず飛び降りてくるグール。
突然の奇襲にも動じず、軽やかに飛びのいてグールに対峙したのは箭とアーデルハイト。
グールの動きはほとんど常人と変わらず、ズゥンビに比べるならかなりの早さであった。
しかもその牙は鋭く、強靭な体力を持っている。
しかし、冒険者たちは恐れず立ち向かう。
「まずはミーの攻撃で御座る! 覚悟するので御座るよ!!」
先手は箭、グールの牙の噛みつきを回避してフェイントを仕掛ける。
そして牽制の一打。背中を打ち据える魔法の木剣。そしてそこに畳み掛けるようにアーデルハイトが。
横っ飛びのステップで攻撃を回避して、連続して切り刻む斬撃。
さすがのこの攻撃にはグールもその体を切り刻まれる。しかし、グールはその動きを全く衰えることなかった。
一度死んだ体、人間ならあるはずの痛みや苦しみは、もうグールにとっては障害とはならないのだ。
しかし、その牙の一撃は虚しく空を切る。
回避に関しては高い能力を持つ二人、そして2人が離れればそこに放たれるオリガの吹雪。
弱い攻撃でも積み重なれば石をも穿つ。ついにはグールは動かなくなった。
一方、前方のグールに対しては、柳が取り出した笛で戦場を誘導していた。
「くっ! 不覚っ」
誘導された先、戦場を開けたところに移して、前衛にはウォルターと柳。そこにグールが飛び掛った。
グールの一撃は思った以上に素早く、ウォルターの肩口に深々と牙が食い込む!
しかしオーラボディがダメージを削り二度目の牙は籠手で弾いた! そしてそこに突貫する柳。
「僕が相手だっ! 炎笛使いの一撃を受けてみろ」
ウォルターのオーラパワーと自前のフレイムウェポンで強化された小太刀の一撃がグールを斬りつける。
その隙に、ウォルターに近づいたのはアシュレイ。リカバーが見る見るうちに傷を癒す。
そして、掴みかかってきたグールを武器で辛うじて受けた柳を助けるように今度はウォルターの一撃!
その2人にグールが飛び掛ろうと構えた瞬間。
「灰は灰に、土は土に。塵より生まれた者は塵へと還りなさい!」
ホーリーメイスの一撃! そこにさらに叩き込まれる柳とウォルターの双撃。
これで2匹目のグールも滅びを迎えるのだった。
そして最後の一匹。
グールとたった2人で向かい合うロイとブレイン。
グールが飛び込んできた瞬間、前に出るロイと飛び退りグールの背後に回りこむブレイン。
ロイは鉄の手袋を盾に使い、牙の一撃をがっしと受け止める。
その隙にブレインは背後へ、高々と剣を掲げ力を込める。
牙の一撃を受け流すロイ、その手でもった刀はカウンターを狙って振るわれ真っ直ぐにグールの胸に。
斬撃に向いた魔剣の刃がグールの横一文字に切り裂き、背後より放たれたブレインの重さを込めた全力の一撃がグールを縦に一撃。
全くの同時に放たれた刃、二つが織り成した攻撃でグールは今度こそ本当の躯にかえったのであった。
「今のは、俺の手柄だよな、ロイ?」
「‥‥お前の目は節穴か? 俺に決まってるだろう、ブレイン」
まだ決着のついていない事柄があるようだが、とりあえず最大の脅威は倒された。
そして、数日かけてすべてのズゥンビを追跡して殲滅が完了。
その後、村の片隅に集められた亡骸を冒険者は埋葬していた。
「彼らの魂が救われるといいのですが‥‥」
呟き十字を切るアシュレイ。そして埋葬を終えた一同、柳が盛り土を見据え。
「‥‥元は人だったのに、こんな最期を迎えるなんて‥‥せめてもの手向け、追悼の曲を‥‥」
荒れ果てた開拓跡地に並ぶのは質素な墓碑。ただ木を差しただけの名も無き墓たち。
そこに流れるのは静かで緩やかな葬送の笛の音。吹きすさぶ雪混じりの風に負けじと響き渡る。
冒険者たちは、それぞれの流儀で死者へと黙祷を捧げ、彼らはキエフへの帰路へとつくのだった。