●リプレイ本文
●騎士の誇り
現在は身を隠している老騎士パヴェル。
彼の身を守り、敵の尻尾を掴むという今回の依頼に向けて、冒険者たちはそれぞれ準備を進めていた。
例えば情報収集、敵であるマラト候についての話を聞きに行っているのは緋野総兼(ea2965)だ。
「では、マラト候にまつわる噂はやはり確実と‥‥」
「ああ、たしかに最近剣呑な噂を幾度か聞いたな。まだこの国は纏まりに欠けているからな、ありうる話ではあるな」
「ふーむ‥‥そういえば、キリーロ殿はラスプーチン王室顧問について聞いたことは?」
総兼が話を聞きにきたのは、一応貴族のキリーロ・ガブリロフ。依頼の内容には触れずに話を聞きにきたようだ。
「あの御仁か‥‥私は直接お目にかかったことはないが、随分と不思議な御仁のようだな」
そして話もそこそこ、総兼が去ろうというときに。
「‥‥そういえば、たしかマラト候には家を出た兄がいたとかいう話を聞いた覚えがあるな。自ら家を継ぐ事を放棄したとか‥‥」
その言葉を噛み締めながら、総兼は他の冒険者たちの元へと向かうのだった。
一方、老騎士パヴェルに疑問を覚える冒険者も。
「やはり何が何でも殺そうと言うのはあまりにも乱暴且つどことなく不自然な成り行きではないか?」
「たしかに。手紙を手に入れただけが要因なのだろうか? ‥‥リボフ公の元にいたことと関係があるのだろうか」
エマニュエル・ウォード(eb7887)とエイリア・ガブリエーレ(eb5616)である。
この2人は篭城場所として郊外の風車を借りた帰りだ。この雪の季節、快く幾許かのお金で石造りの風車塔は借りられた。
「疑問は残るが‥‥己が悪事を知られたがために人の命を狙うなどとは言語道断。パヴェル殿の御身は必ずや守りきって見せよう」
「そうだな、我々にできることは守りの盾となることだ‥‥上手くなるといいんだが」
そして彼らは行動に移る。
準備が整い次第、隠れていた老騎士パヴェルを護衛しつつ移動。向かう先は郊外の風車塔。そこで篭城をする予定だ。
そしてそこで情報を流し、刺客を集めて返り討ちにする予定なのだ。
謀反をしようとしている貴族、そのマラト候が放つ刺客には余剰兵力なぞありうるはずも無い。
つまり刺客の数は集められた最大数が襲ってくるはずである。
ましてやここはマラト候にとって領地でもないキエフ、金を使って集めた戦力以外の手ごまは少ないはず。
こうしてパヴェル老人と話し合った結果、作戦は無事行動に移されることになったのだ。
そして同時にもう一つの策が。動くのはルシー・ルシール(eb6615)だ。
他のシフール仲間に無差別に情報をばら撒くことは流石に止められたものの、彼女は方々で目立つ行動を行う。
ある老人から依頼を受けてて、という情報。そして雇われ者を警戒しているような情報収集。
どれも、パヴェル老人を狙う刺客たちへの餌、これに気付いたものならこっそりとルシーを追うだろうという選択だ。
「パヴェルさんに何か用事ですか? 今向かうところなので、何か渡したいものがあったら一緒に届けますよ」
ルシーは、釣竿についた針、彼女が冒険者たちの待ち構える風車へと誘導するのだ。
これにて、布石は全て整ったのである。
そして移動中。
「ふむ、キエフの宿に隠れておるのはそろそろまずいと思っとったんじゃ。さすがに宿で迎え撃つのは怖いしのう」
エイリアが手渡した蠍のブローチを手でいじりながら、毒も怖いしのう、とパヴェル。
「しかし外部との連携手段がない状況での篭城は長引くほどに不利でしょう? 周囲に人目が無ければ徒党も組んで攻め込めますし」
「たしかにそうかもしれんが、マラト候にとってはここキエフは敵地。今いる刺客を全て返り討ちにすれば他にはもうおらんじゃろ」
イリーナ・スルチコフ(eb9570)の言葉にも一理あるのだが、どうやら老騎士はどこまでも他人に迷惑をかけないつもりのようだ。
「それに、関係ない者を巻き込んでしまうのも嫌じゃしの。おぬしたちにとっては辛い選択だったかもしれんが‥‥」
パヴェルはすまなそうに冒険者を見やるのだが。
「いえ、パヴェル殿の行いは騎士として尊敬に値します。故にこうして少しでもお手伝いを、と思いまして」
レイヴァン・テノール(eb5724)がそういえば、パヴェルはにこりと笑みを浮かべるのだった。
そして一行は、借り受けた風車へと辿りつく。
先行していたクロエ・アズナヴール(eb9405)が。
「とりあえず安全なようです。雪に足跡も残っていませんでしたし」
「ありがとう、クロエ殿。さて、これで一休みできそうじゃな‥‥やっぱり年を取ると行軍はつらいもんじゃ」
彼らの前にはこれから暫く篭ることになる風車が。
冬場、羽は固定されているがその土台の石造りの塔は人が入るには十分。
連れてきた愛馬やペットたちと共に、冒険者たちは塔の中に。
そしてドアは閉ざされ焚き火がともり、彼らはひと時だけ心と体を休めるのだった。
●騎士の剣
「ふむ‥‥雪が降ってきたようだな」
レイブン・シュルト(eb5584)は見張り。手袋に包まれた手をごしごしこすって暖めながら、風車から遠くをみやる。
一階部分、踏み固められた土の上でぱちぱちと焚き火がはぜ、そこからはなにやらいい香りが。
「んー、まだまだ要精進だなぁ。でも、そこそこ美味しく出来たかと♪」
「むぅ、逃亡生活の最中に、のんびりできるとはおもわなんだな」
くつくつと笑いながら総兼の作った料理を貰い受けるパヴェル。
エイリアが薪を足しながら見あげれば、見張りはレイブンからエマニュエルとクロエが引き継いでるところだったり。
中天には月が。ちらちらと降ってきた雪を月明かりが照らし出している。
「夜の見張りと‥‥さて、そろそろだな」
「ええ、明日にはばら撒いた情報を元に刺客たちが来るころでしょうし」
見つめる先はおそらく刺客たちが使うであろう街道筋。こうして最後の平穏な夜も過ぎていくのだった。
そして次の日、きんと冷えた早朝の空気の中を一人のシフールが。
文字通り飛んできたルシーである。
「お疲れ様でしたルシーさん。首尾はどうでしたか?」
「詳しくはわからないけど、ミーの後をつけてるみたいな一団がいたから、ちゃんと上手くいったと思うわ」
ルシーを労うイリーナ。どうやら作戦は上手く行ったようだ。
「‥‥これからが正念場ですね。‥‥苦しい状況ですが罪ありと神が認めるならば、道は開けることでしょう」
イリーナは静かに十字をきって祈りをささげるのだった。
そして数刻後。イリーナの魔法の反応によれば、ちらほらと刺客が周りに集まっているようだ。
その数は14人、およそ冒険者たちの数の二倍だ。
閉じこもっているままでは袋のネズミ。一行は風車を背に刺客たちと向かい合う。
戦闘力を持たないイリーナとパヴェルはそのまま風車の中に。
そしてのこる7名が刺客たちと対峙するのだった。
刺客たちの中央、他の敵対者がみな傭兵やごろつきと言った様子の者が多い中に騎士然とした格好の者たちが。
騎士らしき姿は3名。その中央、一番年かさの男が口を開く。
「‥‥言うだけ無駄だと思うが、貴殿らが守っている人物をこちらに渡すつもりはないか?」
「無論だ。彼を連れて行きたくば、我々を倒してからにしていただこう」
前衛のエイリアは槍を構えて。その言葉を契機に、刺客たちが一斉に襲い掛かってくるのだった!
迎え撃つ前衛はエイリアとレイブン、クロエ。まず最初はごろつきらしき金で雇われた刺客たちだ。
「‥‥甘い!」
エイリアは一撃を微動だにせず受けるが剣は鎧に阻まれかすり傷すらエイリアには届かない。そして返す一撃が刺客へ。
「遅いな」
冷静に呟くレイブン。盾で剣を払うとカウンターからの連撃で刺客は地に伏せる。
「ここは通しませんよ」
クロエは盾で一撃を受けつつ。その重装甲は生半可な一撃では敗れずこちらも反撃で倒される。
しかし刺客たちは剣だけではないようだ、見れば呪文を唱え始めるものと手にダーツを構えるものが。
それぞれに向かってかけていくのはエマニュエルと総兼だ。
手に持ったダーツを放つ刺客。それを迎え撃つのは総兼。
総兼、飛来するダーツに向けてなんと魔法の輝き! 高速詠唱で放たれたディストロイだ。
「残念! わたくしが無謀に走ってきたとお思いかな?」
空中で砕け散るダーツ。そのまま総兼は刺客へと近づくと接近戦に。
そのころ途中一人に邪魔されてエマニュエルは魔法の発動を防げなかった。
そのため魔法使いはそのまま魔法を放つ。それはなんとファイヤーボム!
エマニュエルと剣を交えていた刺客を巻き込む一撃がエマニュエルに直撃。
しかし、焔にまかれて倒れるのは刺客だけ、エマニュエルは平然と傷一つ負っていなかった。
「火の魔法とは厄介な。悪いが潰させてもらおう」
エマニュエルの体を包むのはレジストマジックの防御魔法、そのままエマニュエルはウィザードを一撃で倒す。
そしてルシーはスリープを刺客へ放ち、レイヴァンはオーラショットを放ち牽制してから接近戦で倒す。
あっという間に8名の刺客が倒れ、残るは6名。数では冒険者が優勢に。
続く攻防、クロエが一撃を受けた隙にレイバンが傭兵らしき刺客の武器を弾き飛ばし。
槍を持った傭兵らしき刺客の一撃を受けたのはクロエ、ガードでがっしりと攻撃を受けて凌いだ隙にこっちもレイバンの武器弾き。
総兼とレイヴァンの高速詠唱のディストロイとオーラショットが連続できまったところにスリープが決まり。
のこる三人の騎士はそれぞれエイリア、エマニュエル、クロエが切り結ぶ。
2人の若い騎士は援護もあってすぐに倒れ、残るは壮年の騎士一人。
エイリアはその攻撃を鎧で受けて凌ぐと、返す一撃で槍を首元に突きつけた。
「‥‥そこまででよいじゃろう」
そこで響いた声は老騎士パヴェル。刺客の長と思しき騎士は愕然としてがらんと剣を落とすと静かに膝をつくのだった。
●騎士の想い
「‥‥貴公はおそらくマラトの直接の部下じゃな?」
「はっ、その通りです‥‥」
好々爺といった普段の様子からは程遠い鋭い視線のパヴェルは静かに騎士を問い詰めていた。
そして幾つかの事実が判明。謀反の事実はやはり間違いないようなのようなのだが。
「‥‥同時期に頻発する謀反計画に、領主たちの突然の豹変‥‥やはりなんかもっと大きな影がありそうじゃの」
キエフに垂れ込める暗雲、なにか大きなものが動いているような気配である。
そしてパヴェルとその騎士の様子を見ていた冒険者たちはあることに気付いた。
なぜか騎士が目上の者に対する礼儀を取るのか、そして。
「‥‥そうか、マラト候の兄がいると聞いたが‥‥」
呟いたのは総兼。それを聞いてエイリアとエマニュエルをはじめ冒険者たちは気付いた。
「ハーフエルフの兄弟がハーフエルフである必要はない‥‥異母兄ということか」
エマニュエルは呟いてふとパヴェル老人を見やり、そしてエイリアが言う。
「ではご老人、貴殿はパヴェル・シュマールハウゼン殿ということだな」
するとパヴェル老人、にこりと笑みを浮かべると腰に下げた古びた長剣を抜く。
そこには予想通りシュマールハウゼン家の家紋があるのだった。
「ふむ、やはりこの手で弟をどうにかせんといかんのかのぅ‥‥」
すこし寂しげにパヴェル老人、いやマラト候の兄、騎士パヴェルはそういうのだった。
「ともかく、急いでキエフに帰りましょうか。刺客は倒したとはいっても、まだ危険なのは変わりないですから」
パヴェル老人には再び隠れてもらうことになるのだが、これにて依頼は終了。
また何か、パヴェル老人とマラト候の領地に関して動きがあれば依頼がでるだろう。
そのときまで、老人と冒険者たちは一時の休息を得たのだった。