遺跡の邪魔者退治
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月09日〜01月15日
リプレイ公開日:2007年01月17日
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●オープニング
キエフに程近いとある領地。
秋も深まり寒さも厳しくなってきたロシアの景色の中、どっしりとした威容を見せ付ける古城があった。
その古城の持ち主は、リボフ公国を一世紀に渡って支配してきたイーゴリ大公。
そして今、その老獪な大公の別荘である古城に一人の客人が居る。
名はアラン・スネイブル。イギリスはケンブリッジの魔法学校の教師にして魔法戦闘のエキスパートである。
そんな彼がここにいる理由、それは‥‥。
「我輩は遺跡の発掘にも携わり、薬草学の研究もしている。その腕を買われて招聘されたのだ」
つまりイーゴリ大公に魔術師として協力するためである。
現在イーゴリ大公もキエフに滞在し、彼も時にはイーゴリ大公に協力し活動していたのだが、とある懸案が。
それは別荘のある小領地にて、新たな遺跡が発見されたのだということだ。
以前、アラン先生は冒険者を伴い発見された墳墓を調査、障害であったガヴィッドウッドを排除した経験がある。
今回もその腕を見越して、アラン先生にその采配を求めるものだったのだが‥‥。
発見されたのは地下に作られた祭壇らしき場所。
特に遺物は発見されず、今は枯れた地下水脈の跡と思しき場所に幾つか祭壇らしきものがあるという場所であった。
その洞窟は入り口もなかなかの広さを備えており、内部にも大きな空洞があった。
発見者は冬の初めに雪で立ち往生した猟人。
彼が洞窟に迷い込んだ時に発見され、その報告が最近領主のイーゴリ大公に届けられたのである。
ところが、先行調査に赴いた家臣の一団は困った事態に遭遇した。
なんとその洞窟、この雪の季節のせいで結構な数のゴブリンたちがその洞窟をねぐらとしているようなのである。
先行調査の面々はすごすごと引き返してきたのだが、その報告によればなぜか巨大なトロルの姿もあったとか。
とにもかくにも、こういった事情でアラン先生の手にこの遺跡の調査が回ってきたのである。
「調査がおもな目的だが‥‥障害は排除せねばならぬな」
冷静にアラン先生が言う。
「おそらくリーダー格のトロルを退治すれば他は逃げるに違いない」
そして、
「もちろん調査の後には、保護することも依頼のうちだ」
とのことである。
さて、どうする?
●リプレイ本文
●雪の中の行軍
キエフの冬は寒い。
一行は、それぞれの愛馬や徒歩で雪深いキエフの森を進んでいた。
天候は快晴、吹く風は冷たいものの遠くに山の美しく見えなかなかの景色だ。
アラン先生を筆頭に5名の冒険者たちは、ゆっくりと目的地までの道のりを消化していくのだった。
ちなみに旅程はキエフからアラン先生が逗留しているイーゴリ大公の別荘近くまでとりあえず移動。
そしてそこで資材を積んだソリと合流してから、目的地の遺跡まで移動という予定であった。
さて、そんな時一行はどんな事をしているのかというと‥‥。
「‥‥やはり連れて来られなかった残念です‥‥」
はぁとため息ついて空を見上げ。思いを馳せるはメイユ・ブリッド(eb5422)だ。
途中までそのペットである巨大蛇を連れてこようとしたのだが‥‥寒い冬、蛇は冬眠の季節だ。
そして馬やソリに乗せて運ぼうもその巨体、重さのために諦めざるを得なかったのである。
ちなみにペットの巨大蛇、ピン玉2はキエフのギルドでお預かり中らしい。
「‥‥ああ、あの子は元気でしょうか‥‥」
再びはぁとため息一つ。心配する気も分かるが、静かに冬眠させてあげた方がいい気もする。
「まぁ、そんなに気落ちなさらずに」
にっこりと笑みを浮かべてメイユを励ましたのはキルト・マーガッヅ(eb1118)。
手にはアラン先生から借りた薬草の覚書が、それを眺めていたのだがメイユのため息が聞こえたのだろう。
「それにしてもアラン先生は‥‥植物学者で遺跡の研究とは幅広くいろいろやってらっしゃるんですね」
「この国には手付かずの遺跡も多いみたいですし、やはり研究者がいるのは僥倖ですね」
こちらはオリガ・アルトゥール(eb5706)、彼女はアラン先生が前回探索した遺跡の覚書を見ていたようだ。
そして当のアラン先生はというと。
「あの、アラン先生? こちらのスクロールの方がきっとトロルには効き目がありますよね。でしたら、こちらを優先して‥‥」
アラン先生の近くでくるくると忙しく働いているのがキラ・リスティス(ea8367)。
愛弟子にしてなんと恋人という献身的なお弟子さんである。
目をキラキラ輝かせてアラン先生のお役に立ちますと働くキラ、アラン先生もどことなく満足げに見えないことも無い。
とそんなアラン先生をみて、にっこりと笑みを浮かべたイリーナ・リピンスキー(ea9740)が小さな声で。
「女子というものは好きな人と共に居られるだけで嬉しく思うもの。心に置き留めます様‥‥」
くすくすと笑ってそういったイリーナに対して、分かっているとばかりに眉を跳ね上げるアラン先生。
そんなアラン先生をキラが不思議そうに眺めたりするのだった。
そんなこんなで一行は目的地の洞窟に迷うことなく到着、一同は洞窟が遠くに見通せる木陰に身を潜めたのだった。
●洞窟にて
「さて、作戦はすでに決まっているようだが‥‥魔法の威力や使い道を考えるに外で迎え撃つべきだろう」
木々の陰にソリと馬たちを繋ぎ、一行はそれぞれの装備を手にとって戦闘の準備を進めていた。
そしてイリーナが取り出したのは肉の塊だ。愛犬のセルゲイがくれるの、とばかりに肉を見やるが。
「これは作戦に使うのだ。お前はここでソリの番をしていておくれ」
頭を撫でながらイリーナが言うとセルゲイは承知したとばかりに尻尾を一振り。
「ショーン、クリストファー‥‥手伝ってもらうけれど怪我はしないようにね」
キラの愛犬である2匹のボルゾイも静かにキラにしたがって洞窟の入り口を見やる。
そして準備が整い、アラン先生の静かな号令とともに作戦が開始されるのだった。
まず最初はこっそりとイリーナが洞窟の近くの岩肌で火のついた薪の中に肉の塊をほうった。
雪が積もってはいるものの、肉が火にあぶられて香ばしい香りが当りに漂う中、冒険者たちは少しはなれて洞窟の入り口を伺った。
すると、ぎゃいぎゃい叫ぶ声が聞こえると共にぞろぞろ出てきたのはゴブリンたちだ。
おいしそうなにおいに引かれて思わず出てきたようだが、寒そうに身を震わせている。
どうやら洞窟内部のトロルも怖いが、外の寒さも怖いと入り口付近に固まっていたようだ。
そこでぞろぞろ出てきたゴブリン、半焼けの肉の塊を見つけて大騒ぎ。
「なんだか、あれだけ喜んでいると可哀想な気もしますね」
ブレスセンサーで周囲を警戒しながら、キルトは言うが。
「でも、野放しにすれば人に迷惑をかけるでしょうし、ここは割り切らないといけませんよね」
とオリガが言えば、一同は頷く。そして一行は同時に詠唱に入ったのだった。
戦闘の開始を告げたのはオリガの一撃。
「アイスブリザード!!」
轟と吹きすさぶ風雪の嵐、達人の域に達したオリガの魔法が呼び起こした氷雪は尋常のものではなかった。
小さな山小屋ならなぎ倒されそうな強烈な風と雪のつぶてが容赦なくゴブリンをなぎ倒す。
そして氷雪を凌いだゴブリンたちや洞窟から新たに出てきた数匹のゴブリンたちには第二段が待ち受ける。
「ウィンドスラッシュ!」「ヘブンリィライトニング!!」
風の刃と落雷の一撃。 キルトとキラの魔法が、それぞれゴブリンを軽々と吹き飛ばせば。
「それ以上は近寄らせませんよ、コアギュレイト!」
接近してきたゴブリンはメイユが金縛り、イリーナの一撃がそれをほふる。
こうしてあっという間にゴブリンが全滅、そしていよいよ本当の戦いの始まりであった。
外の騒ぎが気になったのか洞窟の入り口にようやくのっそりとやってきたのはトロルだ。
身の丈は3メートルちかく、見あげんばかりの巨体だ。
しかしここで臆す彼女たちではなかった。それぞれ距離をとり、一斉に呪文を唱えだす。
そして接近するのはイリーナ、そしてキラの愛犬のショーンとクリストファーだ。
手にもった粗末な棍棒をふりかざしてつっこんでくるトロル、その周囲で気を引く犬と正面に立ちはだかるイリーナ。
そこで第一の罠が発動、キラがスクロールで唱えてあったファイヤートラップが火を噴く!
雪の中突如噴出した炎にまかれるトロル、流石に体力のあるトロルはそれしきのことで倒れはしないが、傷は浅くない。
アイスコフィンが通用しないと見たオリガはウォーターボム。
キルトはウィンドスラッシュで続けざまに傷を与えていく。
トロルは火以外の怪我は再生してしまうのだが、再生を上回るような速度で傷が増えていく。
同時にイリーナが盾で棍棒を受け凌ぎ囮となりながらも、返す刀で武器弾きを狙う。
そしてついに、犬のショーンとクリストファーが背後からトロルの足に噛み付いた瞬間、イリーナのディザームが決まる。
棍棒を弾き飛ばされたトロル、その隙にコアギュレイトが発動、漸くトロルの動きが止まる。
そこに次々叩き込まれる魔法の嵐、止めとばかりにキラが放った落雷でトロルの体が傾ぐ。
そこにイリーナはメイスをたたきつけ、ウィンドスラッシュとウォーターボムが命中。トロルは息絶えたのだった。
「我輩が手を貸さずとも全て仕留めたか‥‥ふむ、まあ上出来だろう」
渋々アラン先生も認め、戦いは無事終了するのだった。
モンスターたちの亡骸はアラン先生がウォールホールで掘り下げた穴に放り込んで埋め、次はいよいよ祭壇へと舞台は移るのだった。
●祭壇
「わぁー‥‥綺麗な祭壇ですね。悪いものじゃないといいのですが‥‥」
祭壇にて、キラは早速祭壇近くに毛皮の敷物を敷いて刻まれた古代魔法語の模写と解読に取り掛かった。
洞窟内では炎で暖を取ることができないために毛皮のマントや敷物に包まりながらの調査。
しかしキラは楽しそうであった。
「首尾はどうかね? その面が終わったらこちらの壁に刻まれてる文字を写しておいて欲しいのだが‥‥」
「あ、アラン先生! もうすぐ終わりますので、すぐに取り掛かりますね♪」
「ふむ‥‥どうやら悪しき物では無いようだな。これも精霊信仰の類か、なんらかの強力なモンスターへの畏敬‥‥」
「ええ、自然が厳しい土地柄らしく、自然への畏敬を示すような言葉もでてきてますね」
洞窟の奥、遠くから水の滴る音が聞こえるだけの静かな空間。静かに両者作業を進めるのだが、
「‥‥そういえば」
珍しくアラン先生が作業中にキラへと声をかける。その声にはどこか戸惑いが。
「なんでしょうか、アラン先生?」
「‥‥いや、随分とキエフはケンブリッジと違うと思うが‥‥こちらでの生活はどうだね?」
無骨で無愛想なアラン先生としては珍しい言葉、それに対してキラはにっこりと微笑を浮かべ答える。
「‥‥キエフに来てからいろんな事が新鮮で楽しいです。それにこうして先生とお話できますし」
するとアラン先生はかすかに、本当にかすかに笑みを浮かべ。
「そうか」
と言ったのであった。
一方、他の冒険者たちは洞窟の入り口で作業中であった。
女性4名で積んできた資材を使ってのバリケード作り。
遺跡の保護のためにこの洞窟に入れないようにするための準備である。
「‥‥やはり、こういうときは男の冒険者も参加して欲しかった、と思うものだな」
冬とは体を動かせば暑くなるもの、イリーナは大きく『立ち入り禁止』と刻み込んだ札を作りながら。
「まったくですね。でも、こうして体を動かすのも‥‥あら、珍しい木が」
キルトは細い丸太をソリから引きずってくる途中、ふと目を留めた木を調べ始めたり。
「とりあえず洞窟は一本道みたいですし、ここを塞げば良さそうですね」
「あら、わたくしにも手伝えることあるでしょうか?」
洞窟内部の調査からオリガとメイユも合流、十字に組んだ丸太で立ち入り禁止の柵をつくっていくのだった。
その合間に祭壇を皆で見学しながら、キラが他の皆に請われて古代魔法語のレクチャーを行ったり。
「これが水という言葉で‥‥こっちは河ですね」
「難しいものだな‥‥で、悪魔信仰といったものではないのだったな?」
「ええ、おそらく以前はこの空間には小さな地下水路があり、それに関する祭壇だと思われます」
イリーナの疑問に答えるキラ、他の者も祭壇周囲の壁や他の場所に何らかの痕跡が残されて無いかと調べたり。
こうして、一行は同時進行で調査と保全用の柵を作り、いよいよ帰りの時間。
「さて、準備は良いかね?」
アラン先生が洞窟入り口に作られた柵と看板なんかを見ながら一同に問えば、一同は準備いいですとばかりに頷き。
オリガがアイスコフィンをかけて柵にかけた布をそのまま氷付けにして壁として作ったりして補強も万全。
一行は洞窟を後にして、帰路に着く。
「キエフ周辺の植生ですが、やはり大分違うものでしょうか?」
「ケンブリッジとも大きく異なるし、キエフ独自の薬草なども‥‥」
キルトはアラン先生に植物学の質問を思う存分尋ねていたり。
「未踏の遺跡にはどんなものが隠されているんでしょうね?」
「神や悪魔を祭ったような遺跡もあるんでしょうか?」
オリガとメイユは遺跡に関する意見交換があったり。
そしてキラはアラン先生が乗った馬の背に一緒に揺られながら次なる遺跡へと思いを馳せるのだった。