物言わぬ死者の示す真実

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:02月13日〜02月20日

リプレイ公開日:2007年02月22日

●オープニング

 キエフ郊外にひっそりとたたずむ小さな修道院があった。
 雪深いキエフの冬の朝、静かにバリトンの鐘の音が響き渡り。
 降り積もった雪に祈りの言葉が吸い込まれていく、そんな静かな修道院である。
 そこで事件がおきた。

 とある朝、修道院の静かな朝は悲鳴で破られた。
 絹を裂くような叫びを上げたのはまだ若い修道女のマリーアだ。
 彼女が立ち尽くしているのは、修道院の老院長の部屋の前。
 腰を抜かしたように廊下に座り込んで蒼白になっているマリーアが指を差す先には人影が2人。
 一人は部屋のベッド、もう一人はそのベッドの横に。
 ベッドに横たわるのは修道院長、すでにその魂は神の御許に召されているのは明白だった。
 なぜなら、その胸に突き立った1本のナイフ。
 そしてそのわきに青年は、虚ろな視線をそのナイフに向けていた。
 叫びを聞きつけてやってきたのは、この修道院の修道士たち。
 部屋の状況を見て声を荒げる修道士。しかし、青年は彼の目の前で突然どさりと倒れる。
 修道士が慌てて青年に駆け寄り抱き起こすのだが、なんと青年は事切れていた。

 こうして、不可解な事件がおきてから数日。
 このことに関してキエフの最高司祭であるニコラ・ブラジェンヌイのもとに報告がもたらされる。
 そしてニコラ最高司祭が下した決定は、捜査を冒険者に任せるということであった。
 これは内部の捜査だけでは、真相を解き明かせない可能性があるという考えの元の決定である。
 こうして、冒険者に向けて依頼が出されたのであった。

 そして以下が、その依頼に関して分かっている情報の纏めである。

 ・被害者は修道院長の老クレリック。最近は病気で臥せっていた。
 ・犯人と目されている青年は、修道院で下働きをしていた近隣の村の青年。
  トーリャという青年は、無口だが真面目な青年で、何故犯行を犯したのかは不明。
  修道士が彼を確認した時には、なぜか彼は事切れていた。
 ・修道院では誰からでも話が聞けるが、主要な情報提供者は3名。
 ・第一発見者である若い修道女マリーア。
  彼女は何かの物音を聞きつけて、起きだしてこの現場に遭遇したらしい。
 ・修道院のナンバー2であった壮年のクレリック、オレグ。
  誰に対しても厳しい人物で、修道士からは嫌われている。
  修道院長が死んだ事で、次期院長となる可能性が高く、少々疑われている。
 ・修道院の若手で、老修道院長の信望もあつかったコースチャ。
  彼が事件前、最期にトーリャに会ったと言っている。
  神聖魔法の使い手で他の修道士のリーダー格。オレグが怪しいとはっきりと言っている。

 これだけの情報は事前に伝えられている。
 冒険者たちはニコラ司祭から派遣された一人の神聖騎士と共に、修道院へとおもむくことになっている。
 そして事件の真相を解き明かすのが目的である。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8367 キラ・リスティス(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ラルフ・ローランド(eb1111)/ 稲生 琢(eb3680)/ エイリア・ガブリエーレ(eb5616)/ エマニュエル・ウォード(eb7887)/ 瀬崎 鐶(ec0097

●リプレイ本文

●事件と修道院
 深夜の修道院にて、トーリャは緊張していた。
 このような時間に呼び出される覚えのない相手からの呼び出しだったというのが理由の一つ。
 そしてその相手がどうしても信用できない相手だったからだ。
 そんな不安を胸の奥に押し込めて、トーリャは深夜の修道院の廊下を歩いていく。
 約束の場所、ひとけの無い地下階段の踊場で、相手は静かに待っていたのだった。
 唇に指を当てて、静かにと示す相手。そして彼の手招きに呼ばれるように近寄るトーリャ。
 そしてトーリャは彼にむかって近寄り耳を傾けると相手は静かに囁いた。。
「何の恨みも無いが‥‥私はもっと高みに登るのだ。私のために死んでくれ」
 最後に見えたのはこちらに向けられた彼の手とかすかに弧を描く唇、そして彼の意識は闇に落ちた。

 そして数日後、事件解決のための冒険者たちがやってくる日の朝早く。
 浅い眠りからびくっと身体を振るわせて起き上がったのは修道女マリーア。
 あの日、なにかが倒れるような音を聞いた気がして目が覚めてしまった彼女は見てしまったのだ。
 幾度か親しく話した青年、トーリャという心優しそうな彼の面影が不意に思い浮かぶ。
 しかし、だれがどう見てもトーリャが犯人という状況、それを見たのは彼女だった。
 事件が起きてから修道院の空気は妙に張り詰めている。
 事件の解決の主導を握る副院長のオレグ修道士と彼をあからさまに糾弾するコースチャ。
 普段ならば静寂と平安が満ちる修道院は、猜疑心と不安に溢れていた。
 だが、その日々もやっと決着がつくはず。
 副院長オレグからの報告によって、キエフの最高司祭が事件解決のための冒険者を派遣してくれたのだ。
 彼女は不安とほんの少しの希望を胸に、冒険者たちの到着を待ちわびるのだった。

●捜査開始
「気分は名探偵ですね」
 筆記用具と羽ペンを手にマリス・メア・シュタイン(eb0888)は言う。
 冒険者たちが集まっているのは、普段は食堂などとして使われている広めの一室。
 木製の椅子に腰掛けた冒険者たちは、その部屋でどうするかと思案していた。
「私が思うに‥‥」
 切り出したのはイリーナ・リピンスキー(ea9740)。
「最有力の犯人はコースチャだな。最も誰が得をするのかと考えれば、彼が一番怪しい」
 その言葉に他の冒険者たちは異論を挟まない。なぜならそう思っているものも多かったからだ。
 しかし、一番の問題点は、
「あくまでも予測、ですから決め付けはできませんね。未知の黒魔法の使い手や共犯者の存在も否定はできませんし」
 品良く首を傾けてメアリ・テューダー(eb2205)が言う。
 彼女は今回こういった話し合いと情報交換を提案し、一行のまとめ役をしているようだ。
「これから遺体の情報の再確認をしたいと思っていますが、おそらく犯行に使われた魔法は‥‥」
「うむ、クリエイトアンデッドだろうな。さらにデスやメタボリズムの併用も考えられるかなと」
 同じく黒の神聖魔法の使い手である、緋野総兼(ea2965)がそう言い添える。
 そして一行はこれからの動きについて確認すると、それぞれが情報収集に乗り出すのだった。
「ほなメアリさん。通訳してくれへんかな? うち、実はゲルマン語喋れへんねん」
 にっと笑みを浮かべたのは藤村凪(eb3310)。
「私は修道女のマリーアさんのところに行こうかと。では、皆さん頑張りましょうね」
 キラ・リスティス(ea8367)もそういうと静かに部屋を出て行く。
 こうして、冒険者たちそれぞれの情報収集が始まった。

●集まる解決への欠片
 最初の発見者である修道女のマリーア。
 事件後修道院を仕切り、事態の収集に当っている副院長であるオレグ。
 そして、そのオレグと対立するように若手のなかで頭角を現しているコースチャ。
 彼ら3人の重要な情報提供者を初め、修道院にはさらに多くの人が生活している。
 各々の冒険者たちは地道な聞き込みによってさまざまな情報を手に入れることに成功するのだった。
 修道院長に関しては、身の回りの世話をしている修道士から話が聞けた。
 トーリャの普段の出入りは全くなかったこと、このことが判明し操り犯説が濃厚に。
 そして修道院長の部屋の捜索、こちらは成果は挙げられなかった。
 なぜなら院長の部屋の清掃が行われてしまっていたからである。
 血で汚れた部屋はすでに綺麗に清められ、なにも証拠が残っていなかった。
 しかし、トーリャの死体に関してはその埋葬を行った修道士から話が聞けた。 
 その結果、彼の死体には外傷が無く、デスの魔法によって命を断たれたという推理を裏付ける結果となった。

 またコースチャから直接情報を聞いた冒険者もいた。彼は自信満々にオレグが怪しいと冒険者に話しかける。
 曰く、凶器の短剣を保管しているのも怪しい。証拠を隠滅するつもりじゃないか。
 曰く、実はマリーアも怪しい。トーリャと親しかったのだから、などというのである。
 これらの証言の正当性は後に確かめられるのだが‥‥。

 そして情報収集の中で見えてきたもの、それはこの修道院内での人間関係である。
 レイブン・シュルト(eb5584)が中心となり調べを進めたのだが特筆すべきは、コースチャだった。
 彼は非常に高い才能を示し、若手の中では飛びぬけて信頼されていた。
 行える奇跡の精度、実力共に若手ではトップ。そのためか信奉者も多くリーダー格に収まっていたのだ。
 しかし、彼を知る一部の修道士たち、とくに年齢が高い修道士たちは言う。
 彼はあまりにも功名心が高すぎる、と。
 上昇志向というのは大いなる父を信奉するものとして間違っている考えではない。
 だが活躍場所を求めすぎるという性向に苦言を漏らす修道士たちが多かったのも事実であった。
 そして、幾つか解決への糸口へとなる情報収集を行った者たちも。

「‥‥大丈夫ですから、落ち着いてください。私たちは事件を解決するためにきたんですから」
 静かにマリーア修道女の手を握って話しかけているのはキラだ。
 不安げに目を伏せるマリーアは初め、おどおどとしたまま怯えていた。
 しかし、キラが彼女の隣で静かに話しかけ、手を握って諭すと彼女はぽつぽつとその日の事を語りだした。
 彼女は、第一発見者としてこの修道院内でも疑われる立場にあったのだ。
 しかしその疑いは、表立っての事では無くあくまで影で。そしてそれに拍車をかけた事実があった。それは、
「実は‥‥私は、トーリャと親しかったんです。同じ村の生まれで‥‥」
 恋仲というわけではなく、あくまで友人としてだが2人は親しく話をする間柄とのこと。
 マリーアは周囲の無言の悪意の中で怯えていた。だからこそ彼女はキラに心を開いたのであった。
 人の手は心を落ち着ける、まさにその通りなのである。そして彼女は語る。
「実は彼は幼いころから大切にしていた短剣を持っていて‥‥」
 キラは彼女からトーリャの持っている短剣について話を聞いた。そして夜中に聞いた物音は何かが倒れる音。つまり
「‥‥人が倒れるような音、ですね‥‥有り難うございました。トーリャさんのためにも、この事件は必ず‥‥」
 そう言って静かにマリーアの部屋を辞そうとしたキラに向かって、マリーアは自分の聖書を開くと。
「あの、この四つ葉のクローバーを‥‥。お守りにしてください」
 その言葉に、キラは柔らかく微笑み返し、部屋を出るのであった。

「なるほどな。なら、凶器の出所はわからんと、おそらく誰かの私物っちゅうことやな‥‥」
 冒険者たち数名がいるのは、修道院にある質素な応接室。対しているのはオレグだ。
 総兼が早期の解決のために、と説得したためオレグは冒険者たちに対応している。
 そして凪が質問しているのは凶器についてだ。凶器の保管はオレグ本人が行っているのである。
「では、私からも‥‥当時事件現場に踏み込んで凶器の詳細について知ってる人物は何名ほどいるのだろう?」
 事件解決にどう繋がるのか分からない質問に、オレグは一瞬不思議そうな顔を浮かべるも。
「ふむ‥‥この件はやはり事態が事態だけにな。現場には一部の人間しか入っていないし、様々な後始末も一部の人間だけで行ったからそれはこちらで把握している」
 マリーアの悲鳴を聞きつけてやって来た修道士が一人。そしてその後、その修道士が事態の重大さを判断し、だれもその場に近づけないようにしたため、この場所に入った人間は、年かさの修道院2名だけだということだった。
 つまりマリーアと、オレグ。そして壮年の修道士2名と駆けつけた修道士のみということである。
 こうして事件の解決に向けてピースが集まり、冒険者たちは最後の打ち合わせを行い解決に向かって動き出すのであった。

●解決編
「人間関係から考えると、俺も怪しいのはコースチャだと思うな。彼にはどこか歪んだものを感じる」
 冒険者たちが集まる一室で、レイブンが言う。
「マリーアさんが怪しいかとも思ったんやけど‥‥なんや違うかもしれんなぁ?」
 凪は首をかしげながら思案して。
「トーリャさんについて話が聞けたのですが、やはり倒れたときにはすでに冷たくなっていたようで‥‥予想通りクリエイトアンデッドが使用されているということで確定でしょう」
 メアリが纏める中、集まった情報から一つの新事実が浮かび上がった。
 短剣に関してだった。
「短剣の話が出ていましたが、その短剣は端に革紐で狼の飾りがついていませんでしたか?」
 キラがマリーアから聞いた、トーリャの短剣。それが凶器の特徴と一致したのだ。
 つまり、凶器について知っている人間は、現場に踏み込んだ人間と唯一犯人のみが知っているということ。
 そして、今まで凶器について言及した人間は‥‥。

 そうして彼らが辿りついた回答を確かめるため、冒険者たちはコースチャの元へ。
「逆説的に考えると、だけどオレグ氏が犯人だとするならば、本当に彼は得をするのかしら?」
「‥‥院長が消えれば副院長はそのまま昇進じゃないか」
 なぜ自分が尋問されなければならないのだとばかりに不機嫌そうに返すコースチャ。
「そうかしら? 彼はすでに副院長なのだから焦る必要はないんじゃないはずよ」
「うむ、放っておけばいずれ消える灯火なのだしな」
 多少不遜な物言いだが、イリーナも同じく言い募る。
「それに、もとよりマリーアが一番アリバイが無い、という風に言われていたが彼女には動機が無い」
 そういってイリーナがコースチャを見据える。
 まずは動機に関する揺さぶりだ。そして次はキラが。
「マリーアさんと話しましたが‥‥彼女は本当にこの事件に心を痛めていました」
 そしてコースチャを真正面から見やり顔を顰め。
「それに何の確証も無く、オレグさんを怪しいというのは少し‥‥」
「ふん、なんと言おうと、あやしいには変わりないではないか。それにマリーアのが演技かもしれん」
 せせら笑うコースチャ。しかしあからさまに犯人扱いされていい気がしていないのであろう。
 目つきはとげとげしくなり、その言動には地が出てきていた。
「それに、貴方は実力があるそうなので、犯行に使われたと思われるクリエイトアンデッドもつかるのでは?」
「そや、マリーアさんの話によれば、聞こえた物音は倒れる音だけ。つまりは魔法で静かにトーリャさんを殺して使役したのとちがうか?」
 メアリと凪が言うと、ますます顔を歪ませるコースチャ。そしてだんと机を叩き。
「ふん! なんと言おうと私は関係ないな。大体アリバイもあるといっただろうが!」
「貴方の仲間の言うアリバイなんて信用なら無いわよ」
 さらっとマリスに言われて、コースチャは。
「大体、魔法がどうのというが、トーリャがたんに殺しただけかもしれないだろうが! あの凶器はトーリャのものだろう!」
 その言葉をきいて、ふっと笑みを浮かべたのは総兼だった。
「‥‥功名心ばかり高くとも、自制が効かないとは程度の低い‥‥コースチャ殿、あなたは今自分で犯人だと証言したようなものだ」
 冷笑を浮かべて総兼がぽつりと言う。
「何故、あなたが凶器の詳細を知っている?」

 その瞬間、がたんと椅子を蹴倒して立ち上がろうとするコースチャ、彼は完全に逆上している。
 しかし、そのコースチャに向けて、すぐさま剣を抜いて構えていたのはレイブン。
「‥‥下手なことはしないほうがいい‥‥」
 身動きの取れなくなったコースチャ、彼は膝をついてうずくまるのだった。

 功名心の塊のような性格であったコースチャ、彼は活躍する場所として、もっと高みを目指そうとしたのだろう。
 その方法が院長を殺してその後の采配で働きを見せることだったのだ。
 しかし、彼の思惑は結局成功しなかった。
 こうして無事に事件は解決し、修道院から彼ら冒険者にそれぞれに礼の品が渡されたのだった。