白門屋敷殺人事件

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2007年03月22日

●オープニング

 キエフのはずれに建つ大きなお屋敷、その名も白門屋敷。
 その名の通り、真っ白に塗られた大きな門が特徴であり、その屋敷はとある商人の持ち物であった。
 それなりの財を成し、貴族の屋敷を買い取って改修したその屋敷はその主人の自慢。
 ところが、ある冬の寒い日。その屋敷にて事件がおきた。

 屋敷の主であり、一族の長である商人ワドムが殺されたのである。
 凶器は屋敷で薪割りに使われていた鉈、その背の部分で頭を一撃したようであった。
 しかし事件はそれだけではなかった。
 屋敷の中で働いていた面々からの情報を集めたところ、不思議なことが分かったのだ。
 夜半、どたばたとだれかが争う声を聞いたと複数の雇われ人が証言していた。
 そしてその音に耳を済ませていると、次に聞こえてきたのは何かが割れる音。
 陶器が割れる大きな音がしてからさらに2人の人物が争う声が聞こえていたとか。
 そのあまりの音に古株の部下が主人の部屋を見に行くと、そこには変わり果てた主人の姿が。
 そして、そこでどうにも不可解だったことが一つあった。
 どたばたと争う音の最中に割れたのは主人の部屋にあったどうやら大きな水差し。
 その破片が部屋の入り口にはばらばらと散らばっていた。
 そう、水と粉々に散らばった陶器の欠片。しかし、そこに足跡一つ残されていなかったのだ。
 主人と争っていたのは一体誰? そして跡を一切残すことなく部屋からどうやって去ったのか。
 魔法が使われたことに対する警戒などから事件の解決は冒険者たちの手にゆだねられることになったのだ。

 証言者・容疑者は以下の人物。

 ・ワドムの息子セルデム
 すでに商人として働き始め、その素行には特に問題がなかったらしい。
 唯一の悩みはまだ結婚していないこと。その事で幾度か父親と衝突していたとか。

 ・ワドムの妻アリーニ
 かなりけちな事で有名で、常々もっと贅沢がしたいと漏らしていたとか。
 夫が死んでからは泣き暮らしているという話。

 ・ワドムの専属であった侍女マルカ
 美人だが大人しい侍女で小さな失敗を怒られているのが良く見かけられていた。
 唯一庇ってくれたのはセルデムだとか。

 ・部下で一番古株のコンドラト
 商人としてのワドムを助ける壮年の男で、腕利きの商人。誠実な人物だといわれている。
 ワドムが死んだ今、商人としての実権は全て彼が握っていて多忙なようである。

 情報としてすでに知っているのは以下。

 ・凶器の鉈は女性が持つには少々重いが、持てなくもない。
 ・深夜、誰か2人が言い争う声が聞こえたと住み込みの侍女など多くの人物が証言。
 ・水差しの破片と水が散らばっているのは部屋の入り口付近に広範囲にわたって。
 ・内側から外に向かって歩いた場合、廊下に水で足跡が残るはずなので、有る意味密室であった。
 ・主人はベッドに入った状態で死んでいた。
 ・凶器があったのは、屋敷の裏手。水差しは普段侍女たちが行き来する厨房から運ばれていた。

 これらの情報を元に冒険者たちは事件を解決せねばならない。
 さて、どうする。

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3338 フェノセリア・ローアリノス(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9726 ウィルシス・ブラックウェル(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ 稲生 琢(eb3680)/ リン・シュトラウス(eb7758)/ パシクル(ec1000

●リプレイ本文

●過去の真実
「‥‥やるしかないのよ」
「そうだけど‥‥でも、でも‥‥」
 暗闇に響く声。深夜、屋敷の廊下には密やかな会話が行われていた。
 男の手には不似合いな鉈。男はそれを手袋を嵌めた手で不安そうに握り締めて。
 女は美人と言える顔立ちだが、その瞳には濁った輝き。
 2人は、静かにとある部屋までやってくる。その場所は館の主、ワドムの寝室。
 静かにその扉を開けると、男は女に無言でなんども促されて‥‥
 その手に持った鉈をワドムの頭に振り下ろした。
「!! ‥‥なんで鉈の背で? ちゃんと刃を使えばいいのに‥‥」
「でも、それはあまりにも酷すぎやしないかい‥‥」
「‥‥いくじなし」
 そして女は、打ち合わせ通りに、と男に指示すると、どたどたと足音を立てる。
 声色を変えて、あんたがしっかりしてないから、などと適当な言葉を言いながら部屋の入り口へと向かう。
 男も、きょろきょろと不安そうにしながら、ワドムの口調を真似て声を口にして。
 そして女は、あらかじめ室内にあった水差しを手に取ると、“部屋の外”から部屋に投げ入れる。
 がしゃんと割れて水が広がる。
 そして2人は、最後に一度だけ騒ぐと、そのまま足音を忍ばせて急いで姿を消したのだった。
 そして彼らはその後、がやがやと集まってきた屋敷の者たちに後から加わっていた。
 怯えた男はそのまま、ワドムに近づく。
「‥‥セルデム様」
 コンドラトが男に声をかける。悲痛さを押し殺すかのように。
 ワドムの息子、セルデムは父親の亡骸に近寄りつつ、一瞬だけすがるような視線を向ける。
 その視線を顔を伏せるようにしながらマルカが受ける。その目には冷徹な光が‥‥。

●冒険者たちの到着
 依頼を解決しに集まった冒険者たちは6名。
 それぞれがそれぞれの思惑の元に、独自の調査を開始した。
「不可解な部分が多い事件ですね」
 ウォルター・ガーラント(ec1051)の視線の先には凶器と特定された鉈があった。
 なぜならその鉈は、ワドムが死んだときにその枕元に落ちており、そして血に染まっていたからだ。
 鉈についての調査は済んだ。彼が次に話を聞いたのは侍女たちだった。
「奥方について聞きたいのですが‥‥だれか適任はいないでしょうか?」
「えっと、私は奥様のお世話をさせていただいていますが‥‥」
「では、最近の様子を聞かせてもらえないでしょうか?」
 落ち着いた様子のウォルター、彼に引き出されるようにしてその侍女が語る。
 しかしその内容にウォルターは首を捻った。
「‥‥最近は食事が喉を通らないせいか、いくぶんお痩せになられまして‥‥」
「なるほど。やはり夫を亡くしたのが相当堪えているということですか‥‥‥ふむ」
(素振りだけだと思っていたのですが、どうも違うようですね‥‥もしするとセルデムとマルカの方が怪しいのかも‥‥)
 侍女たちから話を聞きながらウォルターは静かに考えをめぐらすのであった。

「水差しが割れていたそうですが、あれはどなたが部屋に?」
「ああ、あれはマルカがいつも運んでいたやつだよ」
 ふんと、中年の侍女が眉をしかめていうのは水差しの情報。
 ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)は水差しの情報を主に集めているようだ。
 聞けば水差しは部屋の入り口付近の机に置かれていたようで。
 そして気になるのはマルカが他の侍女から嫌われている事だ。
 仕事も余り出来ないのに、顔がいいだけで長くワドム専属の侍女として働いているかららしいのだが‥‥。
「まぁ、僕自身は集めた情報から推理する事が非常に苦手ですからね」
 ということで、彼はいろいろと聞き出した情報を知り合いの2人に伝えているようだ。
 その2人はどうしているかというと。
「今後は、商店はどうなさるつもりで?」
 コンドラトに対してマリエッタ・ミモザ(ec1110)が情報収集をしていた。
 ちなみに現場検証は空振りで終わっている。
 現場に不審なものは殆どなく、切り札のステインエアワードでも情報が聞きだせなかったからだ。
 空気と会話が出来ると言う事で、部屋の淀んだ空気ならば質問さえ正しければ情報が聞き出せたかもしれない。
 しかし、その質問がしっかりと決まっていない限り、魔法はなかなか融通が効かないものなのである。
 ということで、彼女はコンドラトへ聞き込みをしているのだった。
「今後‥‥ワドムさまは一代で店を盛り立てましたから‥‥」
 憔悴した様子でコンドラトは言う。
「商店というのは信用の商売です。私が継ぐわけには行かないですし、やはりセルデム様に頑張っていただいて‥‥」
 つまり、主人が死んでしまったことは商店としてはかなりの大打撃ということだ。
 コンドラトは様々な仕事の処理に忙殺されているようで、その言葉に嘘は無さそうであった。
 そしてマリエッタと一緒に行動していたリン・シュトラウス(eb7760)の提案で2人は次なる所へ。
「‥‥するとマルカとセルダムさんは‥‥」
「ええ、その通りよ。ワドムさまに雇っていただいてるのに若様に媚を売って‥‥」
 リンが聞く所によると、どうやら息子のセルダムと侍女のマルカは良い仲だったよう。
 侍女たちが言うには、マルカの方が積極的だったとか。
 その他手に入った情報は、争っていた声は聞き覚えが無かったこと。
 犬の嗅覚では鉈の持ち主は追えなかったこと。
 マルカ自身にカマをかけたが、水差しは午前中に部屋に運ぶのが日課だったことが分かっただけだった。
「とりあえずいろいろと相談しませんと‥‥」
 こうしてリンとマリエッタ、そしてウィルシスは相談を交わすのだった。
 場所は客間が用意されているのにも関わらず何故か持ち込んだテントにて。
 屋敷の者には良い顔はされなかったが、犯人の行動に警戒しているだろう。

●追求の果てに‥‥
「ふーむ、情報だけでの推理なら色々できるが‥‥ま、情報を聞いて裏づけをしないとな」
「ええ、何が原因でこの事件がおきてしまったのか分かりませんが、なんとか解決して差し上げませんと」
 緋野総兼(ea2965)とフェノセリア・ローアリノス(eb3338)も情報収集中である。
「やはりどこか計画的な感じがしますね」
 現場にて、フェノセリアは静かに祈りの言葉を呟き、その後視線をさまよわせながら総兼と相談していた。
「事件発生前に、ちょうど誰もこの近辺には人影が無かったということで、目撃証言は皆無だそうですが‥‥」
「すると、犯人は誰も来ないのが分かっていてやったんだろうな」
 総兼は鉈がおいてあったのだと思しき、血の染みが残るベッドを見やり。
「鉈の管理は庭師らしいが、この時期は屋敷の裏手にしまわれていたそうだ」
「では、それが手に入る人物はそれなりに絞られると‥‥」
「うむ、女性が触れるには怪しい場所だ。聞けばそこには息子殿の馬具の類もしまわれていたとか」
 そう言ってにやりと総兼は人の悪い笑みを浮かべて。
「それではもう一度話を聞きに行こうか。セルダム殿は何かを隠しているようしなぁ」
 それにはこっくりとフェノセリアも頷くのだった。

「さて、セルダム殿。少々お聞きしたいことがあるのだが」
 そう切り出した総兼。手に嵌めた手甲を何故か目立つように撫でながらにっこりと笑みを浮かべる。
 口元には笑みが浮かんでいるが、目はちっとも笑っていない。
 その様子にセルダムはたじたじと冷や汗を浮かべていた。
 そして彼が語りだしたのは、総兼とフェノセリアの作り上げた推論。
 集まった情報から導き出した推理をそのままセルダムにぶつけてみたようである。
「‥‥というわけで、こうすれば貴方が犯人になれるわけだが?」
「‥‥あ、あくまでもそれは可能なだけであって、私が犯人というしょ、証拠には‥‥」
 今回、冒険者たちがあまり考慮しなかったこと、それは容疑者たちの本当の性格である。
 依頼書に書かれていたことに嘘は無かった。しかし、書かれていないことは多かったのだ。
 そう、被害者の息子、セルダムは真面目だが非常に気弱な青年だった。
「‥‥マルカ嬢に誑しこまれたというところか。父を手にかけて、これ以上嘘を塗り固めるのは見苦しいと思うが」
 その言葉に、セルダムは言葉を無くして。
 犯人でも、単に真実を突きつけられただけで諦めるものもいる。
 そして一方では、力ずくで押さえつけねば逃亡を企てるような犯人もいるのだが。
「‥‥大変です! 侍女のマルカの姿が見えません!!」
 総兼たちのところに走ってきたのはウォルター。
 それを聞いて、セルダムは顔を覆って椅子に力なく座り込む。
「そんな!! 全部マルカのためにやったのに‥‥」
「‥‥これも、僅かなすれ違いから生まれた悲劇なのですね‥‥あなたが、犯人です」
 悲しげに呟く洗脳探偵気味なフェアセリアだった。

 調べれば分かったのだが、主人が死んで利点は確かにそれぞれある。しかし、同時に欠点も多いのだ。
 主人が死ねば、妻であるアリーニを養うのは誰が?
 父が死ねば、息子であるセルダムは後ろ盾を失うのでは?
 上司が死んでも一時的には実権を握れるだろうが店を継げるわけでは無いのでは?
 マルカは雇い主を失うのだが、すでにセルダムの信頼は得ているのだ。
 主人が死ねば、あとはセルダムが遺産を相続する。
 だが、主人が生きていれば彼女はいつまでたっても美味しい思いをできないのだ。
 マルカが自由に操れたのはただ、セルダムだけ。彼女の身勝手が今回のセルダムの暴走を生んだのだった。

 そして、姿を消したマルカ。ただ足跡だけが屋敷から遠ざかっているのが見つかった。
 自分を常に監視していなかった冒険者たちをあざ笑うかのように、屋敷から離れたところに立てられたテントに火をつけて。
 冒険者たちは、確かに犯人を当てることはできた。
 しかし、真犯人を捕えることはできなかったのである。