●リプレイ本文
●森への道
キエフを旅立つ冒険者の一行、それぞれの愛馬や借り馬に荷物を積み分け未開拓の地へと出発したのは一日前であった。
テテュス・アディエールや鷹碕 渉の見送りを背に街道を急ぐこと一日。
冒険者たちはやっと目的の場所までたどり着いたのである。
途中の街道では襲撃は幸運にも無かった。
これも開拓の賜物であり、今回の冒険者への依頼も開拓の礎となる仕事である。
その思いを胸に未開の土地を前にし冒険者たちは気を引き締めるのであった。
ちなみに、幸いにも、偶然、たまたま近くに親切な開拓村があったので、一部の荷物は預かってもらえることに。
ようやく準備は整った。冒険者たちは心置きなく森へと踏み込んでいくのだった。
非常ににぎやかな一行である。
卵を抱えている者や、トカゲを抱えている者。
中には一抱え以上あるトカゲを背嚢に潜ませている冒険者も居るようだが、それもペット愛ゆえだろう。
しかし荷物は重いがあせる必要は無い。彼らは全神経を集中し、一歩また一歩と森を進んでいくのであった。
四月に入り他国では春真っ盛りであろう。しかし、キエフはまだ防寒着を手放せない季節である。
そのキエフの森。遠くの尾根にちらほらと残る白い雪と、まだ命を芽吹かせる前の植物たち。
わずかに湿った土を踏みしめる冒険者、彼らの進行を妨げるほどの植物は茂っていない。
大型の木が生い茂っているために、低い木がほとんど無いのである。
長い冬が終わりに差し掛かり、春を迎えようとする植物たちがまだ眠りについている季節。
しかし、春を迎えて目覚めるのは植物たちだけではないのである。
長い冬を越えて、目を覚ました凶暴なモンスターたち、冒険者はその脅威を肌で知ることになるのであった。
●森での夜
「今日もなかなか新鮮な体験でしたわ‥‥」
エレノア・バーレン(eb5618)が火を見つめながら言う。
森での一日目の探索を終えた一行は、森の中の乾いた土地で野営していた。
明かりは一行の中央で赤々と燃える焚き火だけ。少し焚き火から離れればそこには闇がわだかまっている。
「うむ、自然に触れるのも悪くないが‥‥あまりああいった類の自然ばかりだと少々遠慮願いたいな」
所所楽柳(eb2918)は苦笑を浮かべて。
おそらく昼間遭遇したラージアントの群れの話だろう。
一行の戦闘力はなかなかのものであり、その襲撃にはびくともしなかった。
しかし、唯一問題だったのは数だ。
「うんうん、たくさんいたからね〜。結局スタミナ切れでソルフの実つかっちゃったし」
寝袋に収まってジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が。
ともかく、一向は暖をとりつつ、今日はここで休むよう。
思い思いに木製のカップを持ったり、魔法で生み出した水で簡単なスープなんぞを作っているようで。
幸いなことに家事ができる面子も居たことで、それなりに豪華な晩餐という感じである。
そして保存食として持ち込んだ干し肉を軽くあぶったものをしげしげと見つめているのは理瞳(eb2488)。
「‥‥‥いただきます」
じーっと肉を見つめてから、不意に口元を隠した襟巻きを引っ張り隙間をあけて、そこに肉をぽい。
がきごきめきょべきょばりべりごり‥‥。
とんでもない音にキエフを代表するような冒険者たちも一瞬あっけにとられたようで唖然呆然。
しかし瞳本人は何事も無かったという顔をしているので、とりあえず紳士的にスルーされたようである。
「しかし、こうして森の中を探索してると、これぞレンジャーの本職って感じよねぇ」
いくつか失ったものの回収した矢の鏃を研ぎながらユラ・ティアナ(ea8769)が言えば。
「ああ、久し振りに冒険らしい冒険だと私も思うね」
傍らに置いた剣の鞘を抱くようにして木の根元に腰掛けてヘルヴォール・ルディア(ea0828)も応える。
日が落ちればキエフの森はあっという間に闇に飲まれる。
しかしその中で冒険者たちの心と体を温める火がともれば、冒険者たちも自ずと話が弾む。
そうこうして、徐々に夜も更けて気温が下がり始めれば。
「‥‥あの、それではお先に失礼させていただきますね。皆様にはご迷惑をおかけして」
膝の上で目をこしこしこすって眠そうな月のエレメンタルフェアリーを撫でつつユキ・ヤツシロ(ea9342)が言う。
彼女をはじめ術者は精神力の回復のためにも当直からは外れるというのが今回の当直割のようで。
「当直を免除してもらう分、日中にはがんばらせていただきますね」
同じく術者のシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)もぺこりと頭を下げて恐縮してる。
夜を徹して交代で当直に当たる非魔法使いの冒険者たちは気にするなとばかりに笑みを浮かべて、手をふり。
エレノアとジェシュファも同じように寝袋にもぐりこむとテントの中で眠りへと落ちていくのだった。
ぱちぱちとはぜる火の音と、当直たちの静かな会話。こうしてキエフの森の中での夜は更けていくのであった。
●森との戦い
「ずいぶんと堅いね! これならどうだいっ!?」
ルディアは剣を斧に持ち替えて、豪快に振るってうごめく枝をぶった切る。
探索も終盤に差し掛かり、今日はルートの途中に人食いの樹、ガヴィッドウッドと遭遇したのである。
「水とはいえ凶器になるんですよ」
シシルフィアリスはウォーターボムを叩き込めば、ぎしぎしと大きな枝がきしみ。
地中からがしがしと突き出した根の攻撃で、軽く顔を怪我した柳に対して。
「‥‥これなら傷は残らないと思います‥‥」
リカバーで即座に癒しつつユキが気遣い。
「今からグラビティーキャノンを放ちますので、気をつけてくださいね!」
一声かけたエレノアの魔法の一撃は雪や枯葉を巻き込んで吹き飛ばし、そのうごめく樹をあらわにしていく。
こうした連携で次々と障害たるモンスターは排除されていくのだ。
また別の日別の時間。
「‥‥これだけ大きければと音でわかる。警戒しておけば恐るるに足らずだ」
片手には魔力を帯びた手袋、もう一方の手には武器となる楽器・鉄笛を手にしているのは柳。
対するのはごそごそと木々の間から出てきたジャイアントマンティスだ。
「仲間を呼ばれたら面倒だし、一気に片付けよう!」
一瞬の淡い赤の光と共に柳は駆け出す。フレイムエリベイションを使い士気を高めての速攻だ。
彼女を追うように矢が雨あられ。ダブルシューティングEXによって一度に放たれた矢はなんと3本。
胸の継ぎ目と目、脚に一撃した矢はそれぞれ巨大なカマキリの装甲の隙間を貫いている。
ルディアの剣と瞳の斧がそれぞれカマキリの鎌を受け止め、そこに滑り込んだ柳。
鉄笛の殴打であっさりと蟷螂は崩れ落ちるのだった。
「‥‥あまり食事にはなりそうにありませんね‥‥」
ぱらりと手に巻いた布を解く瞳。その下には必殺の毒手が隠されていた。
対するは巨大な熊、おそらくは冬眠明けで気が立っているのだろう。
咆哮をあげ木々をびりびりと震わせながら、一気に突っ込んでくる!
そこに突き刺さるのは術者たちの魔法だ。
エレノアが足場を崩し、枯れ木をへし折って巻き込もうとするが熊は意に介さず。
ジェシュファとシシルフィアリスのアイスブリザード二重奏はその分厚い毛皮に阻まれ。
後衛を守るために飛び出しルディアが真っ向から立ち向かうがその体当たりに対してカウンターの構え。
しかしカウンターを狙ったため、よけそこない弾き飛ばされる。
そこにルディアの救護のために割り込んだのはユキ。
フロストウルフのスノゥが立ちはだかり飼い主を守るために咆哮と共に強烈な吹雪の吐息を吐き出す。
そして機をうかがっていた瞳が動く。
一瞬の隙を突いて樹を足場に熊の背後に回りこみ熊の首に鋭い抜き手を放つ。
熊に与えた傷はわずか。しかし、その傷から入り込んだのは必殺の麻痺毒だ。
一歩二歩とよろめいた熊はぐるりと振り返り、瞳に前足を振り上げ‥‥そのままどさりと倒れるのだった。
●森との別れ
連日続く戦闘と調査に冒険者たちは疲弊する。
しかし彼らの作った道、地図、記録がこれから先の開拓へとつながるのだ。
「‥‥ゴブリンの小団体と接触‥‥と。ふむ、幸か不幸か洞窟や集落は無かったな」
報告書用にまとめを作っているルディア。
「そうですね‥‥今回のルートはあまり山が無いですから、もしかしたら山側にはあるのかもしれませんね」
シシルフィアリスはジェシュファに、熊のマーキングの位置を再確認しながら地図に記入していき。
「スノゥ、私たちを守ってくれてありがとうね。お家に帰ったらご褒美に美味しいお肉いっぱい買ってきてあげるからね」
ユキがペットのスノゥを撫でればスノゥも尻尾をぱたりと振って返事をしつつ。
こうして長い長い探索は終わりに近づいていく。
報告に無い小さな小競り合いはさらにたくさん発生したのは言うまでも無い。
しかし冒険者たちは、お互いに協力しその苦難を乗り越えた。
そして契約どおり、約束の日。
未開の土地から街道沿いまで戻ってきた一行を迎える彼らの愛馬たちだった。
柳の音々をはじめ、冒険者たちはお互いに分乗したりでやっとキエフへの帰路に着くのだった。
「‥‥開拓が上手くいったら‥‥また行ってみるのも良いかもね」
それぞれが馬にゆられ、遠くへと遠ざかる未開の森。
ディアのつぶやきは風に溶け、その言葉に冒険者たちはそっと笑みを浮かべて頷くのだった。