【死者たちの夜】 始まりは闇の中
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月23日〜07月29日
リプレイ公開日:2007年08月03日
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●オープニング
夏のキエフ。本来ならば過ごしやすい季節の夜。
キエフの路地裏にて‥‥。
「‥‥‥」
路地を進む女性、彼女は悔いていた。
友達とついつい話し込んでしまい、もう深夜も近いこの時刻。
人間は未だに夜の闇を支配することは出来ず、闇は恐怖の源であった。
いつもなら何の不安も覚えない、いつもの道を進むのだが。
どこかから自分を見つめる視線、誰かの気配。
彼女にとっては手に持った明かりが形作る影の揺らめきすら恐ろしく思えていた。
そのとき。
「どうかしましたか?」
ひっ、と思わず息を呑む女性。だが、いつの間にか眼前に立っていた男の影にほっと安堵する。
その男は、聖職者の衣装を身に着けていたのだった。
「こんな夜遅くに女性の一人歩きとは感心しませんね‥‥なにがあるかわかりませんよ?」
人のよさそうなそのクレリックの笑顔はどこか彼女を安心させる。
だが次の瞬間、彼女は魂まで凍りついた。
「‥‥だって、僕みたいなのがいるかもしれないじゃないですか」
ぬっと男が突き出した手には古い血が染みとなった無骨なナイフが。
あわてて逃げようとする彼女、しかしなぜか指先どころか声すら出ない。
恐怖に怯えた表情で彫像のように固まる女性、彼女の首にゆっくりと刃が近づいて‥‥。
「おぞましい事件だ‥‥しかも、犯人は身内とな。神に召された者の魂に救いを‥‥」
重々しい呟きと祈りの文句を呟くのは、キエフ最高司祭のニコラ・ブラジェンヌイ。
彼は報告書を前に眉をしかめていた。
夜半、一人で行動している女性を狙った連続殺人事件。
すでに4件が続けざまに発生していた。
共通点は、女性がすべて未婚で若い女性であること。
そして全員が栗色の髪をしていることだった。
さらに、なぜ犯人が身内だとわかったのかというと、目撃者が居たのだ。
3件目が発生したとき、たまたま影になる位置で酔漢がその現場を一部始終見ていた。
彼は夢かと思ったようだったが、次の日現場で殺人があったと聞いて、あわてて名乗り出たという。
しかし、目撃者の話によれば見えたのは衣装だけ。
そして衣装からわかったことは、まだ若い男の聖職者であるということだけだった。
「‥‥ニコラ様! ご報告が!!」
「‥どうしました? 確か貴方は調査の連絡に‥‥」
この事態を重く見たニコラ最高司祭は、急遽神聖騎士による調査隊を編成した。
事件発生時の行動、普段の言動などを考慮して、秘密裏に調査を進めていたとのことだが‥‥。
「そ、それが‥‥調査隊が、アンデッドの群れに襲われて全滅しました!!」
「な‥‥なんと‥‥」
それはあまりに唐突な報告であった。
ことを荒立てないために、少数で調査に当たっていたのだ。
だが調査隊がとある修道院からの帰路に彼らは突然の襲撃にあって、全滅したという。
一人だけからくも逃げ延びたのは、調査隊の道案内をしていた修道院の修道士見習いの少年。
「‥‥こうなれば、冒険者に頼るほかないようだな」
冒険者はモンスター戦闘のエキスパートであり秘密を守り調査をするにはうってつけの集団。
彼らに依頼を出すため、ニコラ司祭はペンを取るのだった。
●リプレイ本文
●手がかりを求めて
「女性が被害者とあっては、放っておく事は出来んからな」
女性聖職者に冗談めかせて言いつつにっこりと笑みを浮かべているのは真幌葉京士郎(ea3190)。
彼をはじめとする冒険者4名は、ひとまずキエフで事件の調査の中心をなす教会へきていた。
そこでは秘密裏にだが、今回の事件に関する資料をまとめてある。
こうしてやってきた冒険者一行は、男性一名と女性三名という顔ぶれだ。
「それにしても、全員が未婚で髪の色に共通点か‥‥何らかの執着があるのか、それとも」
「やっぱり、未婚の女の子限定、ってのが引っかかるのよねー。嫌な方向に‥‥」
京士郎の言葉を引き継ぐかのように、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)が言葉をつなぎ。
「‥‥生贄、っぽくない?」
小声で話しかけるリュシエンヌ、それに答えて頷くのは所所楽柳(eb2918)だ。
「ええ、確かに。被害者の通っていた教会にも共通点はないし、現場に関しても特に無し」
そして、柳もまた声を潜めて。
「唯一の共通点がこの髪の色と、未婚女性だということ‥‥」
そして、柳の視線の先に立つのは、最後の冒険者。
栗色の髪の楚々とした女性である。
‥‥もちろんその姿は仮のもの、以心伝助(ea4744)が術で変化した姿である。
彼、もといアンリという名のその女性は、冒険者と少しはなれたところに座って知らない顔。
アンリは、リュシエンヌの連れという形で触れ込んであるのだ。
冒険者たちはさらに聞き込みを続けるのだがその他、教会ではろくな情報は手に入らなかった。
衣装は手に入らないものではないし、それなりの生地が手に入れば似たようなものを作ることは出来ること。
さらに、最近白に転向した聖職者や、明確な犯人候補は存在しないことがわかった程度だ。
「さて、これ以上の資料はなさそうだし、もう一つの方を先に調べてみようか」
京士郎の言葉に、一行は頷くと次なる目的地に向けて動き出した。
●集まる断片
次に彼らが赴いたのは、襲撃事件があった時に調査隊が調べに来ていた修道院である。
彼らはさまざまに聞き込みをするのだったが‥‥。
「それじゃ、襲ってきたアンデッドは、どれもズゥンビだったの?」
「‥‥はい、おそらくは。先輩に教えてもらったとおりですし間違いないかと」
リュシエンヌの言葉に、一人生き残った聖職者見習いに少年は答える。
その様子を静かに見据える栗色髪の女性に変装した伝助だが、犯人としてはあまりにも幼すぎるようだ。
その少年はまだ10歳少しといった感じで、殺人事件の犯人とは結びつきそうに無かった。
「それじゃ、ズゥンビが魔法で動いていたかどうかはわかる?」
「そこまでは‥‥僕はまだそこまでの魔法は使えないので」
その答えにはむぅと困った顔をする柳、だが彼女は少年の次の言葉に驚きの表情。
「‥‥あ、でも‥‥僕が生き残ったのは、なぜか狙われなかったからなんですけど‥‥」
そのときのことを思い出したのか、青白い顔で告げる少年。
「だとすると何らかの命令に従っていたってことかもしれないってことね‥‥」
「ええ、これはやっぱり裏で糸を引いてるのがいそうですね」
柳の言葉にうなずくリュシエンヌであった。
しかし彼らもこれ以上の情報を手に入れることは出来ずに、修道院を後にする。
殺人事件とそれがなんらかの意図に基づくものにあること。
そして、殺人事件の調査を邪魔したズゥンビたちの黒幕。
冒険者たちは更なる情報のため危険な手段に望みを託し、一路キエフへ。
だが冒険者たちを、修道院から見送る人影、その視線にひとつだけ異質なものが‥‥。
冒険者たちはその視線の主と遭遇するのはもう少し後のことであった。
●キエフの闇にて
こつこつと足音を立てて、夜の闇を進む女性。
穏やかな夏の風、しかし日が落ちてからのキエフはまだまだ肌寒い。
アンリという名のその女性は、知り合いと酒場で別れてから、一路薄暗い路地裏を進んでいた。
もちろん彼女は伝助が変化した姿であり、この囮作戦も数日目だ。
もしかしたらこの策には乗ってこないのではないか、そんな思いが伝助の脳裏に浮かぶのだが。
そのとき、不意に暗がりからゆっくりと歩みだす影が。
「どうかしましたか?」
足を止めるアンリ。話に聞いたとおりの展開であった。
伝助は声に出さずに話しかける、おそらく犯人と接触したと。
それに答えるのはテレパシーで伝助と連絡を取っていたリュシエンヌだ。
リュシエンヌと一緒に伝助を影ながら追っていた2人の冒険者も犯人を捕らえるために飛び出す。
果たして、三人は間に合うのか‥‥。
そしてそのとき、伝助は聖職者姿の男の目前にて。
『‥‥動くな‥‥』
姿無き第三者の声を聞いていた。
その瞬間、身動き一つ出来なくなる伝助。
声は明らかに眼前の男とは違う。しかも男は今日はフードをかぶって顔を隠している。
なんとしてもその顔を見なければと思った伝助は、かろうじて体を縛る言霊の力に逆らい、隠し持った刃を振るった!
「なっ!! この女‥‥罠か!」
『‥‥どうやら偽者のようだ‥‥まんまと罠にはまったようだな』
とっさに避けた聖職者服の男、そのフードを切り裂くように閃く伝助の刃。
フードがすぽりと脱げ、月明かりの下で男の顔が露になり‥‥。
その瞬間、男は顔を隠して冒険者たちから逃げるようにして駆け出した!
とっさに追おうとする伝助、そしてそこに合流する冒険者たち。
その眼前に立ちはだかったのは、突如現れた剣を持った男であった。
ジャイアント並みの背丈に手には無骨な両手剣。ここは通さぬとばかりに両手を広げて。
『‥‥ここらが潮時ということか‥‥敵前逃亡は趣味ではないが、一度退かせて頂こう!』
そういうと、冒険者たちに向かって炎のブレスを噴出した!!
轟々と燃え盛る火炎の吐息にとっさに冒険者たちは身構える、がしかしその猛火は彼らを焼くことは無かった。
牽制で放たれたブレスの炎が治まった後、冒険者の視界に移ったのは、馬を駆り逃げる殺人犯。
冒険者たちは、それぞれの移動手段を準備すると急いで、後を追うのだった。
彼らには、殺人犯の行く末がわかっていた。
「‥‥確かに、あっしが見た殺人犯の顔は、前に修道院にいた男の一人でやす!」
犯人は修道院で、話を聞いたときに、若い修道士の中にいた男だったよう。
冒険者たちは、一路修道院へと急ぐのであった。
●結末
夜道を急ぐこと数刻、やっと修道院へと到着した一行は、修道院の中に踏み込む。
夜遅くまで祈りをささげていたのだろう、幾人かの修道士が飛び出してきた。
しかし、冒険者たちが武器を構えてしかも真剣な表情とあっては、巻き込まれてはたまらんと逃げ去っていく。
そんな大混乱の中、修道士を捕まえて、犯人らしき男の部屋の場所を聞き、踏み込んでみるのがもぬけの殻。
荷物も綺麗さっぱり持ち去られているところを見ると、一足先に帰り着いて、ここから逃げ出したよう。
そして、そんな中修道院の裏口が開いているのに一人の修道士が気づいた。
山の稜線がかすかに明るく光る夜明け前。
そんな薄明かりに照らされた修道院の裏手に飛び出した冒険者たち。
彼らはすでに戦闘体制なのだが‥‥。
「‥‥こうも簡単に見つかってしまうとは、残念ですね。焦るべきではありませんでした」
すでに顔を隠すのもやめたのか、修道士の青年は肩をすくめると軽く言い放った。
そんな余裕のある犯人に対して、リュシエンヌが言う。
「ずいぶんな余裕ね。それなら一つ聞きたいんだけど‥‥貴方のその栗色の髪と、狙った女性に関連は?」
「‥‥ああ、そのことですか。そんなこと、貴方には関係ありませんよ‥‥」
しかし、犯人の顔がぎりとゆがんでいた。そのことが、関連を如実に示しているのは明白である。
「‥‥言いたくないんだったら、倒してから聞くことにするから‥‥」
すと刃を構える柳、しかしそれに対して犯人は。
「おお、怖い。では、僕は逃げるとしましょうか‥‥」
そのとき、冒険者は犯人の後ろの暗がりに潜む影に気づいた。
ちょうど光が当たらない場所だったのだが、徐々に強くなる薄明かりに照らされたその場所には。
数十体のズゥンビがずらりと並んで指示を待っていた。
「‥‥死者たちよ、こいつらを殺せ!!」
そして逃げようとする犯人、しかしそれを許す冒険者ではなかった!
「簡単に逃がすと思うのか? 甘く見ないで貰おう!」
京士郎はすでに全身にオーラを纏い、突進していた。
ゆっくりと進路をふさごうとするズゥンビたちを切り伏せ、後一歩で犯人に切りかかれると言うその瞬間。
横合いから不可視の刃が放たれた!
魔力を帯びた防具があったから命があったのだろうか、その一撃にたたらを踏む京士郎。
そこにはいつの間に現れたのか先ほどの巨人剣士が立っていた。
「‥‥かなり強力なデビルね。何かが裏で糸引いてるとは思ったけど、こんなに厄介なのだとは思わなかったわ」
息を呑むリュシエンヌ。しかしデビルは。
「ふむ、ここにもなかなか気骨のある戦士がいるようだが‥‥今回は残念ながら決着はお預けだ」
傷をものともせずに刀を構えた京士郎に対して視線を向けつつ、デビルはそのまま犯人を守るように移動し。
「‥‥それでは、またいずれお会いしよう!」
再びブレスを煙幕として使って次の瞬間には変化。巨大な大鷲へと姿を変えると、犯人をつかんで飛び去ったのだった。
そして残されたのは冒険者たちと何十体ものズゥンビ。
「‥‥やれ、意外なところに強敵がいるものだが‥‥」
傷の具合を確かめながら呟く京士郎は刀を手に。
「そして夏の風物詩か、粋な計らいだが、生憎この土地では不要だ‥‥再び安らかに眠って頂くとしよう」
刀を掲げると、オーラの力を帯びた一撃で広範囲に衝撃波を放つ!
吹き飛ぶ眼前のズゥンビたちの群れ。
さらに、ほかの冒険者たちも、逃げ去った犯人から意識を切り替え、眼前の敵たちへと向かい合う。
「‥‥あっしも手伝いやすが‥‥この姿だと動きにくいでやすね」
そう伝助は呟くと、人遁の術の効果で元の自分の姿へと変化しなおす。
そして小太刀を掲げ。
「まったく、最近、どこもかしこも悪魔が多いっすねぇ」
愚痴りながら、その刃を振るうのだった。
「ここで犯人を逃すとは、失策だった‥‥」
ズゥンビの鈍重な攻撃をリュートベイルで受け止めた柳は、返す刀で手に持った針のような短刀を敵に突き立てる。
そのまま流れるように引き抜くと、ズゥンビは声もなく倒れ元の動かぬ死体へと戻る。
「‥‥ともかく、とりあえずは目前のズゥンビ退治だね‥‥」
そう呟くと彼女は流れるような動作で次々に死者たちを再び眠りに付かせてゆくのだった。
そしてしばらく時間が過ぎ、あっというまに犯人が呼び出したズゥンビたちはすべて倒された。
すでに山の稜線からは太陽がかすかに覗き、山野に明るい光を投げかけ始めていた。
そして最後の一体のアンデッドが地に崩れ、動かなくなり。
やっとこの騒動の一幕は終わりを告げるのだった。
●残された断片
「やっぱり、犯人の修道士はなにかの儀式してたみたいね」
明けて翌日。修道士に関する情報を集めていた冒険者たちは一つの結論に達した。
「どうやら犯人は姉が亡くなったために修道院に入ったみたいでやすが、その姉の髪が栗色だとか」
「だとすると、姉に似た年恰好の女性を狙っていたということだな」
修道士たちの治療もあり回復した京士郎は傷の具合を確かめながら。
そして柳は、彼が唯一部屋に忘れていった一枚の小さな絵を見つめ。
「‥‥犯人は姉を生き返らせることが目的だったのかな‥‥」
その絵には、犯人の姉の生前の姿が。
栗色の髪の女性が柔らかな笑みを浮かべて描かれていたのだった。
死者を生き返らせるためにデビルと手を結んだ修道士の行方は結局わからなくなった。
しかし、殺人事件はぱったりとやんだようで、事件は一応の解決を見せた。
もしかすると、また冒険者の出番が来るのかもしれないが‥‥それはまた別の話。
とりあえず、今回の事件はなぞを残しつつ、幕を下ろすのだった。