猫が手を借りたい?!

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月12日〜08月17日

リプレイ公開日:2007年08月21日

●オープニング

 ギルドに集う多くの冒険者たち。
 彼らにはその道に踏み出したきっかけがそれぞれあるだろう。
 幼いころに命を救われたことがある者は、剣を取って人を守る冒険者に。
 昔語りに心を奪われ、遺跡や秘法に思いをはせる者は、宝を探す冒険者に。
 騎士の家に生まれたが、冒険者としての行き方を選ぶ者もいるだろう。
 そしてここにも、新たに冒険者への道を選択した少年が一人。

 少年の名前はレーフ。どうやら新米バードのよう。
 背中には古ぼけたリュートを背負ってる。
 そして彼の足元に付き従うように一匹の白猫。
 肩に担いだ皮袋から、重そうな黒ぶち猫が顔を覗かせている。
 彼は数年前、命の危機をあるものに救われたのだ。
 そのことを胸に冒険者の道を志したのだが‥‥。

 数年前のある日の昼下がり。
 道を行くレーフはなんと道端で大きな野犬に遭遇。
 当時10にも満たないレーフは、その大きな牙と獰猛なうなり声に腰を抜かしてしまった。
 ゆっくりと歩いてくる野犬、ああ神様助けてと祈るしかないレーフだったが‥‥。
 ひらりと彼の前に躍り出たのは、体の大きな黒猫。
 漆黒の毛並みがきらりと日の光を跳ね返すような美麗な一匹の猫であった。
 しかしいくら体の大きな猫だとは言っても、猫は猫。犬との体格さは歴然。
 だが黒猫は一歩も引かず野犬を前に背中の毛を逆立てて、威嚇したのだった。
 永遠にも感じる一瞬が過ぎ、野犬はくるりと背を向けて走り去る。
 そして腰を抜かしたままのレーフにたいして黒猫はちらりと金の目を向けて振り向くと。
 にゃぉと一言声をかけて、気をつけろよ坊主、といった風情で颯爽と去っていくのだった。
 この日以来、レーフにとってこの黒猫はヒーローとなった。
 そして猫は彼の最大の友人となり、彼は猫たちを救う冒険者となることを決意したのだった。

 さて、そんなレーフ君、今日が初依頼なのだが。
 どうやら協力者を探しているようだ。
 依頼の内容は単純。
 キエフの郊外にあるこじんまりとしたお屋敷に一人のおばあさんが住んでいる。
 そしてそのおばあさんは十数匹の猫を飼う猫好きであった。
 屋敷自体は小さいが、広い庭と快適な木陰がたくさんで猫にとっては過ごしやすい屋敷なのである。
 しかし、その楽園に闖入者が。
 おばあさんは足が悪くて、あまり外出をしなかったのだが、ある日ごろつきがその屋敷の一角を占領してしまった。
 おばあさんが動けないことを知ってますます我が物顔のごろつきたち。
 猫たちは邪魔だとばかりに扱われ、蹴飛ばされそうになったりと乱暴狼藉のごろつきどもに猫たちも怒り心頭であった。
 そこで、こっそりと出された依頼は、このごろつきたちの排除。
 猫の守護者たれと決意しているレーフ君は、猫好きのおばあさんを救うため。
 さらには猫たちのためにもこの依頼を成功させる決意をしたのであった。

 さてどうする?

●今回の参加者

 eb5812 トーマス・ブラウン(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7887 エマニュエル・ウォード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2700 フローネ・ラングフォード(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec3057 李 将寿(38歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ec3285 流 瑠(25歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec3579 マツ・サイス(18歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

セフィナ・プランティエ(ea8539

●リプレイ本文

●なにごとも準備が大切
「‥‥お客さん、こんなにたくさんお買い上げになって宴会ですか?」
 酒を取り扱う商店にて、購入した酒や持ってきた酒を台に積む冒険者を前に店員がそう尋ねた。
 自分の馬に車を引かせて、その荷台に酒を載せている冒険者はトーマス・ブラウン(eb5812)だ。
 荷台にてんこ盛りにされた樽やら小さな容器やら。それを前に。
「うむ、少々必要なのでゴザルよ」
 ということで、トーマスもといキャプテントーマスは酒を運んで行ったとか。

 さて、その少し前。
 冒険者たちは作戦を相談していたのだが、とりあえずメインはトーマスの酒差し入れ作戦で決定とか。
 その中で、老婦人の知り合いである本来の依頼人に話を聞いている冒険者たちが2人。
 エマニュエル・ウォード(eb7887)とアフリディ・イントレピッド(ec1997)だ。
 アフリディはその依頼人から屋敷の様子を特に細かく聞いて、老婦人の救出計画を立てていた。
 彼女はどうやら老婦人の救出担当のようだ。
 一方、協力者である猫冒険者のレーフ少年はエマニュエルと猫の救出計画を立てていた。
「ふむ、猫の守護者たろうとするレーフ殿の決意、ごろつきどもに見習わせたいものだな」
「そ、そんな猫の守護者だなんて‥‥」
 と、先輩冒険者から褒められたりしているレーフ少年、照れつつ猫たちと一緒に準備万端のようであった。
 そしてフローネ・ラングフォード(ec2700)は粛々と。
「彼らには‥‥神の教えとしかるべき罰を与えましょう」

 そして冒険者たちは行動に移るのだった。

●でも、雑魚は所詮雑魚
「ぁあん? なんだこの樽は!」
 どこからどうみても下っ端な台詞のごろつきは酒を持ってきたトーマス相手にすごんでいた。
 さすがに正面からたずねたら、出てきたのはごろつきだったようで。
 すでに我が家のように大きな顔をしているのであった。
 しかし、トーマスはいつものゴザル口調もなんのその。
「お届けものですので、どうぞお納めください。すでに料金はいただいてますんで」
 それに大してごろつきどもは、さっくり信じたようで。
「お前頼んだ?」「いや、頼んでねぇけどよ」「じゃ、この前シメたやつか?」「じゃね?」
 となかなか素敵にお馬鹿な会話。
 ごろごろと樽やら酒瓶を中に持って入ったようである。
 ということで、取り残されたキャプテントーマス。
「ふむ、予想以上にアホでゴザルな。では酒が回るまでしばし待つとするでゴザル」

 さて、一方その頃。
 依頼人から話を聞いて裏口から進入する2人+1人&2匹の冒険者たちがいた。
 勝手口をそっと開けてなかに近くにだれもいないのを確認したエマニュエル。
 彼が、平気そうだ、と頷いて手招きすれば、アフリディとレーフ少年もてくてくとやってくる。
「では、私は老婦人の確保に回る。猫はよろしく」
「ああ、任せてもらおう。レーフ殿がいれば心強いものだがな」
 レーフ少年は、頼りにされてくすぐったそうな顔でぶんぶんと頷いていたり。
 ということで、宴会が始まったらしきごろつきたち。彼らに気づかれないよう冒険者たちは屋敷内を暗躍するのだった。

「ご婦人、依頼を受け助けに来た冒険者だ。安心なされよ」
 突然現れたアフリディにびっくりして声を上げそうになった老婦人を制して彼女は言う。
「‥‥た、助けに? 確かに乱暴な人たちには困っていたんですが‥‥」
「ふむ、心配なさるな。あの者たちはここから叩き出す程度にするつもりだ」
「そうですか。それでその、猫たちは‥‥」
「そちらも他の冒険者が安全の確保に回っている。きっと猫たちも大丈夫だ」
 ということで、老婦人は部屋にはいって中につっかえをし、その前にアフリディが立ちはだかることに。

 一方猫相手のエマニュエルとレーフ少年は。
「た、助けに来たのだが‥‥」
 にゃーにゃーなごなご、猫に擦り寄られてるエマニュエルとレーフ少年。
 さすがにごろつきとは違った匂いを感じたのか、エマニュエルなどは猫まみれだ。
 だが、予想以上の数がいた猫たち、さらに屋敷内を移動すればますます増える猫たち。
 さて、どうやって助け出したものか、とエマニュエルが思案していると。
「‥‥ウォードさん。僕に任せて、実は僕、猫たちと話が出来るんだ」
 そういってレーフ少年はリュートを取り出し、小さな音で爪弾き始める。
 銀の淡い光、月の精霊魔法テレパシーの発動だ。
 そしてレーフ少年は、猫たちを見つめながら一緒に逃げようね、と声を出して話しかける。
 すると猫たちが、にゃご? とたずねる。
 思念で会話してるので、本人(本猫?)たちの間では会話は成立しているようだ。
「ごろつきさんたちをたたき出すから、一緒にちょっとの間避難しないといけないんだ」
「なごにゃごぅ(あの人たち乱暴なんで好きじゃないにゃ)」
「もしまだここにいない仲間がいるなら呼んできて欲しいな」
「にゃごにゃご(了解したにゃ、みんなで手分けしてよんでくるにゃー)」
 ということで、猫たちに命令をするレーフ少年。
「‥‥ふむ、便利なものだな。猫たちと話ができるのか」
「うん、まだこの魔法しか使えないんだけどね。でも、猫たちと仲良くなれて‥‥」
 感心するエマニュエルだったが、そのとき廊下の向こう側から人の気配が。
「さっき音が聞こえた気がしたんだがなぁ‥‥だれかもぐりこんでんのか?」
 のっそりと扉を開けて現れたのは、粗末な鎧兜を身に着けた大柄な男。
 ごろつきの1人がどうやらリュートの音を聞きつけてやってきたようだ。
 それを見てレーフ少年は硬直し、猫たちもどうしようと逃げ腰だが。
「‥‥では、レーフ殿。猫たちの説得と誘導は任せる。その代わり、この男は私に任せてもらおうか‥‥」
 武器を構えて男を見据えれば、男もエマニュエルとレーフ少年に気づいたよう。
 雄たけびを上げて男は、襲い掛かってきたのだった!

●ごろつき殲滅
 さて、同じ頃。
 屋敷の正面から乗り込むふたつの影があった。
 フローネとトーマスなのだが、2人はそのまま中にどんどん入ると、宴会中のごろつきと遭遇。
 ごろつきたちは、屋敷一階の応接室で、ドンちゃん騒ぎの最中だったようで。
「おぅ誰だお前ら! 何勝手に入ってきてんだよ!」
 偉く身勝手な物言いのごろつき。それを前にして啖呵を切る冒険者2人。
「猫たちと老婆を苦しめた上に、この乱暴狼藉!」
 びしりとごろつきどもを指差すのはトーマス。
「おぬしらの様な悪漢どもは、このキャプテントーマスが成敗してくれるでゴザル!!」
 そしてその横のフローネは。
「ですが、悔い改め反省すれば神は許して下さいますよ」
 たおやかに述べるフローネに毒気を抜かれたような顔のごろつきだが。
「なので、とりあえず。この屋敷から出て行け、ですよ」
 天国から地獄への急降下。ということで、ぶっちり切れたごろつきと、冒険者の戦端は開かれたのだった。

「てめぇ、さっき酒を運んできた店員だな。いったい何のつもぶはぁっ!」
「ごろつきに説明する理由などないでゴザル」
 店員姿のままで拳を構えて、とりあえず飛び掛ってきたごろつき1人を拳で殴り飛ばしたのはトーマス。
 拳に纏ったのはオーラの輝き。
 ごろつきがちらつかせるナイフに冷や汗一つ浮かべず、拳を構えたファイティングポーズである。
 ごろつきたちは、トーマスを強敵と見たのかフローネに視線を移す。
 フローネはどこから見ても、たおやかなお嬢様風だ。これならば楽勝と思ったのか、1人がナイフを構えて突進する。
 しかし。
「仕方ありませんね。言葉が届かないならば」
 とフローネはホーリーダガーを構え、ごろつきの攻撃をサイドステップで軽やかに回避。
 予想外の身のこなしにたたらを踏んだごろつき、そこにダガーの柄で鼻っ柱をごっすり。
 鼻血を噴いて悶絶するごろつき相手に油断無くフローネはダガーを構えるのだった。
「こ、こいつらやべぇ! おい、婆を人質に取って来いっ!!」
 一番腕の立つごろつきはさっき、見回りに行っちまったし、とごろつきのリーダー格が命令する。
 すると2人ほどがあわてて廊下を駆けて、老婆がいる部屋へと向かうのだが。
「ぐぇ!」「ぐはっ!」
 もんどりうってひっくり返るごろつき2人、どうやら部屋の前で待機していたアフリディが魔剣で殴り飛ばしたらしい。
「‥‥まだやるか? 次は容赦しないが」
 赤銅色の魔剣をぴたりと突きつけるアフリディ。それにはごろつきたちもぶんぶんと首を振るのだった。

 そして猫たちに見守られつつ、エマニュエルは大柄なごろつきと切り結んでいた。
 猫たちは集合完了し勝手口の近くでいつでも逃げられるように待機しながら、2人の戦いを見ている。
 ごろつきの中では腕がたつようで、エマニュエルを押しているように見える剛剣。
 しかし、その連打をエマニュエルはことごとく篭手ではじいていた。
 そして、右手のハンマーを振りかぶると、重さを乗せて。
「しばらく、反省するのだな」
 鉄兜の上から、ごっつんと振り下ろした。
 十字架状のハンマーが鉄兜を打てば、ごーんと鐘を打ったかのごとき音が響き。
 ゆっくりと男は前のめりに倒れるとぴくぴく震えるのだった。

●猫たちを愛でれ!
 このたびは本当にありがとうございました、という老婆の言葉を聴いているのはフローネ。
 いいえ、冒険者としての職務を果したのですよ。と、老婆の手を握ってやる姿は心洗うものがあった。

 さっくりと殲滅されたごろつきたちはその後、しかるべきところに突き出されて、全員しょっぴかれたとか。
 おそらく余罪がごろごろあるのだろう。
 そして冒険者たちは猫屋敷で、心づくしのもてなしを受けていた。

「ふむ、いろいろ荒れているようでゴザルが、片付ければなんとかなりそうでゴザルな」
 キャプテントーマスは、一番荒れ放題な応接室を見つつ。
 だが足元には猫が、なにしてるの? とばかりによってきたので。
「‥‥撫でて欲しいのでござるか? ほれ、にくきゅう握手〜」
 にくきゅうをむにむに、猫と不思議な交流をするトーマスであった。

「友人から預かってきたのだが、気に入ってもらえたようだな」
 アフリディはセフィナ・プランティエから預かってきた猫用ご飯を猫たちに振舞っていた。
 おなかいっぱいになったのか、猫たちの中には、アフリディに近寄って膝で丸くなるやつも。
「む、困った。これでは動けぬな‥‥」
 アフリディは、食いしん坊猫たちに囲まれてしばし長閑な時間を過ごしたとか。

 そして、レーフから猫話を聞いているのはエマニュエル。
「ふむ、するとその大猫に助けられたからレーフ殿は猫が好きなのだな」
「うん、恩も感じてるし、今度は僕が助けてあげようと思ってるんだ」
 そして彼らの周りにも猫がたくさんいるのだが。
 エマニュエルの膝の上にずーっと陣取っている猫が一匹。
 真っ白な毛並みの美人さんであるが、他の猫が来るとぐるぐるうなって威嚇中である。
「‥‥レーフ殿、なぜこの猫はここにずっといるのだろうか」
「えーっと‥‥かっこよかったから惚れたのにゃー、だって‥‥」
「ふむ‥‥悪い気はしないが‥‥うーむ」
 にゃぅにゃぅと膝で丸くなる猫を撫でつつ、複雑な思いのエマニュエルであったとか。

 以上にて、一件落着。
 冒険者たちは猫の毛にまみれて依頼を完遂したようであった。