●リプレイ本文
●ゴブリンがいっぱい
「‥‥俄かには信じられませんでしたが‥‥やはりこの数は驚きですね」
「ええ、しかしまあ、よくもこれだけ集まったものですね」
ディディエ・ベルナール(eb8703)に答える雀尾嵐淡(ec0843)。
彼らがいる場所は、ゴブリンたちの潜む窪地を見下ろせる木立の中だ。
現在冒険者たちはそれぞれ、独自に行動し情報しているところであった。
見れば見るほど、たくさんいるような気がするのだが。
「ここまで数が揃うというのは大したものですわね」
と、興味心身で見ているのはメアリ・テューダー(eb2205)。
「はたして、数が集まったゴブリンは一体どのような行動を取るのでしょうね」
確かにこれだけ集まるのには何か理由がありそうなものだが、今回の依頼の目的はその探索ではない。
「百匹ゴブリン大行進‥‥でも、なんかもっといるような気がするんだけどにゃー」
ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)の言葉はどこまでも気軽だが。
「何匹いようと切り払うだけだ」
イオタ・ファーレンハイト(ec2055)が重々しく決意を述べる。
そう、今回の目的は、こいつらの殲滅。
見敵必殺、大群撃滅、少数による大軍の撃破が目的である。
「ゴブリン100匹やれんのか!? やれんのか!? やれんのか!?」
シャリオラ・ハイアット(eb5076)の言葉もごもっともであった。
ということで、冒険者たちはまず罠の設置に掛かったようである。
罠作りを主導するのはキール・マーガッヅ(eb5663)。
「こちらの南側の森に罠は集中させよう。囮をする場合はこの中央を抜けてもらうことになるが‥‥」
すでに、足元に張ったロープや輪になったロープをしならせた枝にくくりつけたりと罠の数は着々と増えている。
「なるほど、このルートだけは罠を設置しないんだな。それなら俺は囮役の先導としてここを飛べば良いと」
「ああ、そうすればルイーザ君とイオタ君は罠に掛からないだろう」
嵐淡とキールが作戦をつめているようだが、森には逃げ場が無いほどに罠が張り巡らされていた。
さらに、罠の中には定置式の罠ではなく作動式の罠も作ってあるとかで。
「では、私はこの範囲にフォレストラビリンスをかければ一番効果的ということですね‥‥」
魔法による策も付け足され、その森はほとんど要塞のように強化されていくのであった。
さて、仕掛けは十分。
いよいよ決戦の始まりである。
これからは一つの失敗が、全てを台無しにする可能性がある。
なぜなら、敵は三桁を超える数がいるが、こちらは7人。
果たして結果がどうなるか、それはまったくわからないのであった。
●サーチ&デストロイ!
数日後、空にかかるのは欠けた月。
夜の闇をはっきりと照らすほどではないが、冒険者たちには十分なあかりだ。
キエフの森。
背の高い針葉樹が主に生い茂る深い森は、暗いとはいえ所々から月明かりが。
そんな薄暗闇の中で、冒険者たちは行動を開始するのであった。
森の中からゴブリンたちの前に突如現れた二つの影。
ユニコーンに騎乗したルイーザとウォーホースに騎乗したイオタである。
その2人から遠ざかるように遠ざかっていく影は、嵐淡だ。
2人は囮としてたった二騎でゴブリンたちを挑発するため、嵐淡から陣営の様子を教えてもらったのだ。
この2人の役目は、ゴブリンたちを罠が張り巡らしてある森へと誘導することだ。
非常に危険度の高い任務なのだが‥‥。
「イオ太、遅れるなよー?」
「そっちこそ。‥‥どちらが多く倒せるか、勝負しましょうか」
能天気なルイーザと、不敵に槍を構えるイオタの顔に緊張は無かった。
そして、二騎は馬のいななきとともにときの声をあげ、ゴブリンの集団に突っ込んでいくのだった。
小柄なゴブリンはもとい、いくらかいるホブゴブリンでも騎馬の突進力にはかなわない。
あわてて逃げ惑うやら、決死の覚悟で武器を向けてくるものもいるのだが。
「三匹目だにゃー!」
ルイーザのユニコーンが角でゴブリンを突き上げ弾き飛ばせば。
「こちらは4匹目ですよ」
銀に輝く穂先でゴブリンの棍棒を弾き飛ばし、ゴブリンを突き倒す。
こうして数度、ゴブリンたちの群れの外周を突破し、波状攻撃を繰り返したところで‥‥。
すっと、2人を誘導するように嵐淡が再びフライングブルームに乗って現れた。
「ゴブリンの全体が動き出しました。そろそろ良いはずです」
そして彼はランタンを掲げたまま、罠がたくさん張り巡らしてある森へと率先して飛び込んでいった。
その後ろを追うのはイオタとルイーザ。
そしてさらにそれをゴブリンたちが追うのだが。
先頭を一直線に進んでいく嵐淡の灯り。
それを追う二騎であったが、彼らの間を貫いて、追いかけてきたゴブリンの一軍が吹っ飛ばされる。
彼らの先には森の中で呪文を唱えたディディエの姿が。
グラビティーキャノンで出鼻を挫かれたゴブリンたち。
さらにディディエはバックパックからスクロールを取り出すと、フォレストラビリンスを発動。
ちょうどイオタとルイーザが抜けてきた背後の罠だらけの森が魔力により迷宮と化す。
「‥‥これで少しは時間が稼げますねぇ‥‥」
紙一重の攻防、というかいくら魔法とはいえ走れば数秒の距離までしか届かないのが実情だ。
100メートルの範囲で迷宮と化した森に多くのゴブリンたちが飲み込まれていく。
しかし、数の暴力は健在だ。
多くのゴブリンがそこを突っ切ってさらに冒険者たちを追いすがってくるのだった。
しかし、まだまだ冒険者たちの手は残っていた。
ディディエがまばらに抜けてくるゴブリンをペットの巨大な鷲で蹴散らしているところのすぐ近くで。
「‥‥ヨーク、お願い」
地中から突き出した根に足を取られて転ぶゴブリンに襲い掛かる忠犬。
メアリは、徐々に下がりながらプラントコントロールで周囲のゴブリンたちを牽制していた。
自分たちで仕掛けた罠の場所はすでに熟知している。
その間を縫うように進みながら、ゴブリンたちを一匹また一匹と無力化していくのだった。
そして、彼女の頭上を一本の矢が飛びぬけた。
矢が突き刺さった先は、ゴブリンたちの上方に仕掛けられた罠のロープ。
キールが卓越した弓の腕前で、罠を作動させるためのロープを断ち切ったのだ。
ロープが断ち切られると、木の上につるしてあった杭の束がロープで振り子のようにゴブリンの群れに直撃する。
「‥‥よし、またかかった。しかし、これじゃ矢が何本あっても足りないな‥‥」
愛犬を呼び寄せるとその体にくくりつけた矢を手に取り、ゴブリンに射掛けつつ呟くキール。
罠を作動させたり、ゴブリンを射たりと、見る見るうちに減っていく矢数を心配しているのだった。
しかし、減るものもあれば増えるものもあり。
「さて、私はここでハッスルしましょう」
となにやら熱意を燃やしているのはシャリオラだ。
先走って突出してきたゴブリンの一体、すでに罠にはまって虫の息だったのだが。
「‥‥私の戦力になってもらいましょうか」
どすっとナイフで息の根を止めると、そのゴブリンにクリエイトアンデッド。
わずかな間だけ使命とかりそめの命を与えられた哀れなゴブリンは。
「あっちに向かって暴れなさい」
主人の命令に従ってふらふらと元の同胞たちへと帰っていくのであった。
ゴブリンたちも自分の仲間が戻ってきたのでわずかに油断したよう、しかし暴れるゾンビには驚き混乱する。
そこに隙を見たのか突っ込んだのは、イオタだ。
彼は再び馬にまたがったまま、武器を槍から剣に持ち替えて再度突貫である。
混乱している場所にウォーホースの突撃は支えられず、散り散りになるゴブリンの群れ。
その中を突っ切り刃を振るい、ホブゴブリンの斧の一撃を盾ではじいて剣を突きたて。
徐々に徐々に戦闘の趨勢は傾いていくのだった。
「ふっふっふ‥‥血に飢えたコテツの錆になるがいいにゃー♪」
台詞の能天気さとは裏腹に、両の手には名刀長曽弥虎徹と魔力を帯びた小太刀が光る。
その双刀の連撃で孤立したゴブリンたちを次々に屠るルイーザ。
「‥‥せめて安らかにしとめてあげましょうか」
ディテクトライフフォースではぐれたゴブリンたちを探しつつ他の冒険者に伝えているのは嵐淡だが。
その中でも、すでに虫の息のゴブリンにはメタボリズムからデスで静かに息の根を止める。
しかし、まだまだ数は多いようで、潜んでいたゴブリンに襲いかかられた嵐淡。
とっさにオーガたちが嫌う豆を投げつけてその隙に逃げようとして。
その瞬間ゴブリンたちが魔法に巻き込まれて吹き飛ばされる。
途中に立ちはだかる小さな木や草花も同じようになぎ倒した一撃はディディエのグラビティーキャノンだ。
「長丁場になりますね‥‥」
ディディエのその言葉に静かに頷く嵐淡。すでにお互い回復用のアイテムを使い始めていた。
すでに、現状は乱戦になっているが、罠による分断と混乱が効いたようで、ゴブリンたちはまとまることが出来ていない。
その状況で、冒険者の主戦力となりうるイオタやルイーザ、さらにはキールの弓で次々に数を減らされ。
嵐淡の魔法で見つけられたゴブリンたちには奇襲、または魔法の援護やペットの攻撃。
シャリオラのクリエイトアンデッドによるゾンビでの霍乱や、メアリのプラントコントロールによる牽制も効いている。
だが、まだ戦闘は続いている。
冒険者たちは倒しても倒しても沸いてくるように現れるゴブリンたちに疲弊していくのだった。
そして、山々の稜線が明るく染まり、夜明けの刻限となる頃。
やっと冒険者たちは戦闘から解放されるのであった。
嵐淡が魔法で調べても周囲にはゴブリンたちは見つからず。
「‥‥やっと終わりましたか‥‥」
メアリは貴重な魔法薬を使うほどMPを消費し、くったりと思わず愛犬にすがりながら腰を下ろし。
「おお、やれば出来るもんなんだな」
さすがに疲れたのかシャリオラも息をつき。
「んー、何匹倒したのか途中から覚えてないのにゃー」
ルイーザが言えば、イオタも同じくというように肩をすくめ。
冒険者たちはかろうじて、長い一夜を乗り切ったのだった。
数匹のゴブリンであれば、単騎でも蹴散らせるほどの冒険者もこれだけの数の暴力にはかなりの苦戦を強いられたようで。
とにかく持久戦になったために彼らは消費アイテムの多くを失ったようだ。
しかしとりあえず今回これだけの数を打ち倒したことで、しばらくはゴブリンの被害も起きないだろう。
こうして、冒険者たちは依頼を何とか完遂したのであった。