【闇夜の貴族】暗中模索

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月11日

リプレイ公開日:2007年09月11日

●オープニング

 キエフ近郊のシュマールハウゼン領の片隅。
 少し前に領地では領主交代劇があったのだが、それはさておき。
 全国で進む開拓の中で頓挫した村落が一つ、放置されていた。
 その村落は、小領地としてひとり立ちできるほど開拓が進み、領主の館も完成。
 さまざまな準備が進みいよいよこれから、というときにとある事故に見舞われた。
 その村の近くを流れていた大きめの河があった。
 だがそれが上流の大規模な土砂崩れとともに流れるルートを変えたのである。
 ほんのわずかな変化であったのだが、それは村に大打撃をあたえた。
 徐々にだが流域が湿地帯に変化し、村全体が湿地帯になってしまったのである。
 もともと水はけが悪かったもあいまって、非常に住み難くなってしまった村落。
 人はひとり、またひとりと村落から去り、村落は無人となった。
 そして、今はただ、だれも使うことがなかった領主の館と湿地に沈み行く村があるのみ。
 そこは、交易路も周囲を迂回して進むため、村落はただ忘れ去られるのであった。

 ある日、旅人がシュマールハウゼン領の領主へ聞いて欲しいことがあるとやってきた。
 聞けば、その忘れられた村落で領主の館があった場所に、城が建っているということである。
 突然城が出来る。にわかには信じられない話である。
 しかし、旅人は確かに見たのだという。
 そこで、領主パヴェルは領地の騎士から数名を探索に向かわせた。
 すると、やはり城がにわかに出来ていたのである。
 それほど大きな城でもなく、単に領主の館を中心に堀と壁、そして簡素な塔を築いたものであった。
 まだ壁は木製なのだが、驚くことに石壁が作られ始めていた。
 ということは、誰かが築城を急いでいるということである。

 人の領内で許可無く城を築くなんてことは、通常ありえない。
 なので、勿論騎士たちは、何の目的があって人のいないこの場所に城を建てるのかを問いに城に近づいた。
 しかし、彼らはさらに予想を裏切られることになった。
 彼らを出迎えたのは、ところどころが湿地になってしまった村落から現れた大量のアンデッドである。
 そして、そのアンデッドを指揮する影。
 透き通るほど青白い肌に、炯々と光る真紅の瞳、唇から飛び出しているのは鋭い犬歯。
 そう、アンデッドの中のアンデッド。闇に生きる死の貴族、バンパイアであった。
 アンデッドの襲撃から命からがら逃げ帰った騎士たちは、これを領主に報告。
 これにより領主は対応に迫られたのであった。

 領主交代劇からまだ日の浅いシュマールハウゼン領。
 現在領地では、領主パヴェルとその息子、そして小規模な騎士団が形成されている段階だ。
 明らかにアンデッドの大群と、バンパイアに対応するには手勢が足りない。
 そこで、領主パヴェルは冒険者を持ってこの事態に対応することを決定した。

 まず最初に冒険者たちに科せられた使命は、現状の把握。
 築城まで時間はないが、現時点で湿地の小村落にはどの程度アンデッドが潜み、どれだけの戦力があるのか。
 また、周囲の状況やアンデッドの出現はどの程度まで及ぶのか。
 これらのことを調査することが求められている。
 もちろんその中途では、敵との交戦が発生する可能性は高い。
 その障害も排除しつつの威力偵察、それが冒険者たちの仕事である。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb7699 奥羽 晶(32歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 eb7887 エマニュエル・ウォード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2700 フローネ・ラングフォード(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●暗雲
 威力偵察という任務。
 それは非常に危険の伴う作戦である。
 通常、威力偵察は戦闘力の高い精鋭が当たる場合が多い。
 それはなぜなら、敵戦力の多寡が不明なため、戦力的に不足していれば全滅の憂き目を見る可能性があるからだ。
 こちらに十分な戦力がある場合、威力偵察に望む戦力を増やせば事足りる。
 しかし、今回の依頼主は領主争いの混乱からいまだ立ち直らぬシュマールハウゼン領。
 騎士団の準備も不十分であり、それゆえに戦闘力において優れた冒険者の協力を求めたのである。

 そして今回の場合、冒険者の戦力はたったの8名である。
 敵がアンデッドである以上、和解は不可能だ。だからこそ威力偵察という武力を主とする作戦を取った。
 しかし、敵戦力の意図が不明であるがゆえのこの少数精鋭である。
 大きな行動を起こすのは向こうの意図が見えてから。
 そういった意味合いも込めての依頼である。
 さて、そんな状況の下で、冒険者たちはどういう行動を取ろうとしたのだろうか。

 ‥‥昼なお薄暗く、どんよりと雲が低く垂れ込めている。
 湿地に沈んだ村の跡地へとあと少しの山間、木々の間から透かし見て冒険者たちはその景色に眉をしかめた。
 ところどころが沼地のようにどんよりとよどんだ湿地。
 環境が変化したせいだろう、枯れて倒れた木々がところどころに見受けられる。
 その合間にぽつりぽつりと石や木で作られた人家跡が。
 そして、さらに遠くの小高い丘の上、そこに今回の発端である建造中の城がぽつんと。
 ここから見下ろす限り、特に人影‥‥いや、死人の影は見えなかった。
 それは、曇り空とは言え今が昼だからなのか、それともなにか理由があるのか‥‥。

「騎士団の人からあまり情報をいただけなかったのは残念ですね」
 馬をとめてこれからいよいよ探索行という予定の一行。呟いたのはフローネ・ラングフォード(ec2700)だ。
「‥‥この昔の地図を信じるとすれば、まっすぐ行けばいいのか。とりあえず近づかないと始まらないしね」
 香月睦美(eb6447)が地図をためつすがめつ。
 この村はおそらく近くを流れていた川の南側に広がるように作られたのだろう。
 城影の見える丘を迂回する形で川の跡があり、丘のふもとから始まるように家並みがぽつぽつと見える。
 しかし、今はすでにところどころが湿地と化しているようだ。
 一行は村へとは、だいぶ離れた場所に馬を集めてとめて徒歩での進入を行うことにしていた。
 全員が騎乗動物を連れているわけでもない。
 さらに、いくら優れているとしても通常の馬は戦場では役に立たない。
 一行は足並みをそろえるためにも、徒歩での行軍を選択したのであった。
 ちなみに、馬をとめた場所近くの安全は一応は確保されている。
 ウェンディ・ナイツ(eb1133)が惑いのしゃれこうべを使って周囲にアンデッドがいないことを確認しているからだ。

 ちなみに冒険者たちは班分けして進むことになっていた。
 城の様子を調べる徒歩のグループと馬を使って周囲の様子を探るグループだ。
 徒歩のグループはいよいよ踏み込むことになり。
「やはりこれだけの大規模な行動は単なるヴァンパイアに成し遂げられることでは無いように思います」
 城を構えようなどとは、下級のバンパイアにできることとは思えません、とアシュレイ・クルースニク(eb5288)。
 そう、ヴァンパイアは有名であるが、その有名なのには理由がある。
 人々にとって、脅威だからだ。
 しかし、たとえ脅威であったとしても冒険者はしり込みすることは出来ない。
「‥‥んじゃ、行くかい」
 剣を抜き払ったイリューシャ・グリフ(ec1876)はにやりと笑みを浮かべ、一行を促す。
 こうして、一行は危険な作戦を開始したのだった。

 一方、別行動を取っている周囲の様子を探っている2人はひたすら馬を駆っていた。
 まず威力偵察の目的は、敵戦力との接触を通して敵戦力をはかることである。
 しかし、さらにその先を見越しての別行動をするのはエマニュエル・ウォード(eb7887)とエイリア・ガブリエーレ(eb5616)であった。
「‥‥追ってくる気配は無いな。やはり一定のエリアに侵入しない限り、攻撃を仕掛けては来ないというわけか」
 愛馬イルーランから降りたエマニュエルは手にした剣を払うと鞘に収める。
 先行し、馬からすでに下りているエイリアも同じように足を止め、武器をぬぐっていた。
 2人は騎乗したまま外部から村の内部へと何度か突入し、アンデッドたちをひきつけては退却を繰り返していた。
 その意図は、死人たちがどこまでの行動範囲を持っているのかを知ること。
「ふむ、外部へ意識が向いていないところを見ると‥‥まだ外部へと侵攻するつもりは無いようだな」
「ああ、だが特になにかを守っているという感じもしなかったな」
 と首をかしげるエマニュエル。
「ところでエイリア殿、アンデッドたちの種類に関してなにかわかったことは?」
「ああ、自分が見たところ強力なのはいなかったように思う。ほとんどがいわゆるズゥンビだ」
 なるほど、と頷くエマニュエル。そしてしばらく、馬を休ませた2人は。
「さて、そろそろ戻って一度報告せねばな。エム殿」
「ああ、そうしようか。‥‥パヴェル殿は、領民へと害が及ばないか心を痛めているであろうな」
「うむ、そうであろうな。その憂いを取り除くためにも、パヴェル殿のため全力でいかせていただこう」
 そう頷き合うと、2人は愛馬にひらりとまたがると一気に駆け出していくのであった。

●遭遇
「‥‥うわ、さすがに気持ち悪いな、これは‥‥」
 ズゥンビを投げ飛ばした奥羽晶(eb7699)は眉をしかめると、のそのそと起き上がる死人を再び見つめた。
 エマニュエルとエイリアを除く他の6名は、領内を偵察しつつ、立ちはだかる死人たちを蹴散らしていた。
 さすがはヴァンパイアの名を聞いても恐れなかった冒険者たち、たんなるズゥンビごときには遅れを取ってはいないようだ。
 しかしぞくぞくとよってくる死人たち。
 彼らはすでに思考能力は愚か、視覚聴覚は無いように思える。
 彼らは頭を落とされても動き追ってくる。彼らの恐ろしさはタフさと怪力にあるのだが‥‥。
「もうすぐでお城ですから、なんとか矢は持ちそうですね」
 ウェンディの持つ矢から放たれた矢は的確に動きの遅い死人を射抜き。
「いくら怪力だと言っても、当たらなければ意味が無いな」
 ひらりと攻撃を避けて睦美はスマッシュを叩き込む。
「なるほど、村落跡に残っていた資材を崩して使ってるんだな‥‥」
 周囲の観察にも余念が内容でイリューシャは、崩された家の資材が転がっていないことからそう判断したよう。
 もちろん、時折襲い掛かってくるアンデッドはその名剣の錆びにしているようであるが。
 そして堂々とした城が近くに見える場所まで一行はやってきた。
 まだ作っている途中であるようだが、規模はあまり大きくないらしい。
 周囲をぐるりと簡素な石壁が出来かけており、さらには石組みの搭を建てようとしているようであった。
 今はまだ、木製の簡素な柵などが作られているよう。
 それを一行は確認してさて、どうしようというとき。地図を見つつ進んでいるフローネが提案した。
「‥‥一度戻りましょうか。撤退時は罠をいくつか仕掛けられると良いんですけど」
 そろそろ夜に差し掛かってきていますし、と付け加えれば一同は頷き。
 晶が簡素なロープによる罠を仕掛けながら一行は、もと来た道を引き返していった。
 どうやら、吸血鬼は村を解体して、アンデッドたちに資材を運ばせ、城を建てようとしている。
 しかし、何のために?
 何度か調査を繰り返せばわかるものだろうか、と一行は考えながら道を戻っていく。

 一行が、馬をとめてある場所の近くまで戻るとき。
「‥‥わが領地で何をこそこそとしている?」
 ウェンディがとっさに惑いのしゃれこうべを叩けば、しゃれこうべはかたかたと近くにアンデッドのいることを教える。
 冒険者一同はあわてて武器を構えて、周囲に視線を向ける。
 永劫かとも思える数分がゆっくりと過ぎ。
 ‥‥ゆっくりと夕日は曇り空の向こうの稜線に消え、静かに夕闇がやってきた。
 そして、姿を現したのは壮年の男だった。
 典雅な衣装、きっちりと調えられた口髭の凛々しい偉丈夫。
 しかし、その雰囲気は優雅ではなく、ただただまがまがしい。
「くっ‥‥」
 思わず息を呑むアシュレイ。上位のヴァンパイアがいる可能性は考えていたが、さすがに圧倒されたのであろう。
 しかし、物怖じせずに声を上げたものもいた。
「で、あんたは何処の貴族様よ?」
 にやりと笑みを浮かべたイリューシャが問えば、興味なさそうな視線を向けて言った。
「‥‥下らん。なぜそんな質問に答えねばならんのだ?」
 その視線は、自分と同格のものを見る視線ではなく、格下を見る視線。
 まるで家畜を見るかのような酷薄なものだった。
「あ、貴方の目的はなんなのですか? なぜ死者を冒涜するようなことを!」
 フローラの一声に、男は始めて笑みを浮かべ、
「‥‥死者? 貴様らは自分の餌である生物の死を冒涜だと思うのかね?」
「‥‥え、さ‥‥?」
「ああ、餌だ。さしずめ貴様らにとっての豚か鳥といったところか‥‥下らんね。実に下らん」
 赤光が点る瞳で冒険者たちを眺める吸血鬼、そして彼はもう一度言った。
「ではもう一度聞こう‥‥餌ごときがわが領地で何をしているのだ?」

 その次の瞬間、状況は一気に動いた。
 冒険者のうち、接近戦に優れた睦美とイリューシャは一気に距離を詰めて吸血鬼に切りつける!
 同時に、弓を引き絞ったウェンディは狙い定めて矢を放った。
 だが次の瞬間。
 ウェンディの矢は空中で内側から破壊され。
 睦美とイリューシャは、吸血鬼が攻撃をよけざまに放ったカウンターの一撃で地に膝をついていた。
『‥‥動くな』
 冷え冷えと響くヴァンパイアの言葉。
 高位のモンスターが持つ言霊の力で抵抗力に劣った幾人かは動けなくなる。
 まず次に視線を向けたのはフローネに対して。
「‥‥アンデッドスレイヤーか。厄介なものを」
 わずかに表情に怒気をにじませ刃を一閃、地に倒れ付すフローネ。
 続いて他のものを守るために前に一歩踏み出したアシュレイも、ヴァンパイアの剣技の前に倒れ。
 絶体絶命かと思われたとき。
 その場に一直線にかけてくる姿が2つ。
 駆け込みざまに槍の一撃を放つエイリア。その穂先に乗るのはオーラの力。
 その一撃で、肩口を浅く切りつけられた吸血鬼。
 反撃とばかりに吸血鬼は、先ほど矢を消し飛ばした魔法を放つが。
 エイリアを吸血鬼の視界からさえぎるように前に出たエマニュエル。
 そのエマニュエルに魔法が炸裂するかに見えたが、魔法はかき消され。
「‥‥ちぃ、レジストマジックにオーラ使いか‥‥下らん、小細工を弄しおって‥‥」
 鋭く伸びた犬歯をぎりりとかみ締める吸血鬼。
 一太刀を与え、勢い込んで攻めようとする冒険者たちだったが。
 見る見るうちに吸血鬼の傷がふさがっていく。再生能力である。
 その様子に、攻めあぐねる冒険者だったが、エイリアとエムは毅然と武器を取って対峙し。
 後ろでは晶やウェンディが必至で斬られた仲間たちにポーションやアイテムを使って治療を行っていた。
「‥‥ふん、貴様らならしもべにする価値はありそうだな」
 急ににやりと笑みを浮かべる吸血鬼。そして
「興をそがれた、我の名はヴァシーリー‥‥王族に連なりし者の名だ、覚えておけ!」
 そういうと、巨大なこうもりと化して、暗闇を城へと消えていったのだった。

 こうして、初めての邂逅は大きな犠牲とともに始まった。
 幸いにも、死に至ったものはひとりもいなかった。
 これは幸運か、それとも吸血鬼にとっては単なる暇つぶしだったのだろうか。
 ともかく、吸血鬼の目的はわからないまでも現状の把握という目的だけは達成できた。
 そしてもう一つ。吸血鬼と人は、絶対に相容れないということも。