●リプレイ本文
●船上にて
冒険者の資質。それはなんだろう?
冒険心? 義侠心? はたまた戦闘の技か、魔法の術か。
だがしかし、この依頼で必要なのは違う資質だろう。
あくなきグルメへの欲求、これに尽きるのだ。
果たして冒険者たちは、珍味を味わうことは出来るのであろうか?
さて、今回の狙いであるチョウザメ。
まだまだ貴族たちの口にも新しい珍品。
というか、まだほとんどだれも知らないと言っても過言ではないだろう。
こうした珍品というのは、まず手に入らないからこそ珍品といわれるのだが。
それ以前に、手に入らなければ、どう調理するかという問題も生じるのが道理である。
つまり発展途上というわけで、保存、輸送、調理にと、多くの問題を抱えてるのが現状であった。
キエフの商人たちもそこに苦心しているわけである。
ということで、前途多難な珍味の未来なのだが、今回はさらに問題が追加されていた。
その、問題である巨大鮫を退治するため、冒険者が呼ばれたのであるが‥‥。
輸送に使われている大き目の船に揺られている冒険者は5名。
とりあえず船酔いも無く、天気も良いのでのんびりとした船旅のようである。
が‥‥。
「でも、やっぱり心配ですわね。とくに接近戦をするのですし」
「仕方ないのですよ。誰かが危険に身を晒さねばならないのですから」
と、のんびり作戦を立てつつ夫婦で会話しているのは、カーシャ・ライヴェン(eb5662)とレドゥーク・ライヴェン(eb5617)。
小さな村の領主をやっていながらに冒険者という変り種で、名前からわかるように夫婦である。
2人はほとんど一緒に依頼を受けるようで、今回も2人一緒での参加だ。
「私もまだ食べたことが無いですからね。こういう機会があることに感謝しなくては」
「ええ、どんな味がするんでしょうね? とても楽しみだわ」
珍味中の珍味でありまだ知るものも少ない今回のチョウザメの卵。
いくら領主とは言え、小村の領主などにはとても手の届かないようで、2人は珍味に対して非常に前向きなようである。
ちなみにいくつか合う酒を持ってきたようだが、そちらは依頼主の商人たちの好意で珍味に良く合う物を貰ったとか。
ちなみに他の冒険者たちはといえば。
「確か鮫は血のにおいに敏感だといいますよね?」
「ええ、血の匂いにおびき寄せられるといいますし、今回はそれを利用してみようかと」
カーシャの質問に答えているのはモンスター知識に関しては自信ありのシーナ・オレアリス(eb7143)。
船に乗る前に、依頼人と掛け合って新鮮な家畜の血を用意してもらったとか。
「でも、やっぱり鮫さんも美味しいものが好きなのでしょうか?」
シーナはまだ見ぬ珍味に思いをはせたりしているようであった。
そして、普段とはちょっと勝手の違う船の上ではおとなしく座っているシフールが2人。
というか、川を下る船の上で羽ばたいて飛んでいようものならあっという間に風に煽られておいていかれてしまうのである。
ということで、2人のシフールはおとなしく甲板にあったロープを結ぶ台の一つに腰掛けて。
「じゃあ、アイスブリザードの魔法はやめた方が良いのかな?」
「うーん、わしら船乗りにゃ魔法のことはわからねぇが、そいつぁ吹雪を起こす魔法だろう? だったら、他の魚も迷惑しそうだしなぁ‥‥」
ケリー・レッドフォレスト(eb5286)が話しているのは船乗りたちだ。
依頼人たちの部下である船乗りたちは普段は漁を行なって暮らしているとかで、作戦に関していろいろと異論があるよう。
そんな話をしつつ、そろそろ漁場なのだが‥‥。
「もう、結構近くに鮫がいるみたいだよ〜」
声の主はシャリン・シャラン(eb3232)、どうやら魔法で鮫の位置を探っていたようで。
大きな船は漁場から少し離れたところに錨を下ろし、河岸にとまり、小船を下ろし始める。
いよいよ、冒険者たちによる、鮫退治である。
このときはまだ、あんな結果になるとはだれも思いもしなかったのであった‥‥。
●鮫退治!
大きな川であり、最近は天気も良かったので流れが穏やかなドニエプル川。
その河中を進む数艘の小船の姿があった。
まぁ、小船と言っても屈強な船乗りが舵を取り、冒険者が乗っている小船以外にも何艘か補助がいるようで。
そしてその先頭で、槍を構えているのはレドゥークだ。
すでに、手分けして周囲に血を撒いている。
あとはよってきた鮫を撃退するだけなのだが‥‥。
ちなみに、カーシャは後方に控えた小船に乗り、シャリンは本船で応援だとか。
鮫が集まる場所への誘導がシャリンの仕事であったようで、すでに彼女は応援モードである。
そして、矢面に立っているのはウィザードの2人、ケリーとシーナ。そしてレドゥーク。
だが、敵は彼らが別れて乗っている小船に勝るとも劣らない巨大な鮫。
もし体当たりでも食らおうもんなら、小船はたちまちのうちに転覆するだろう。
そして、川に投げ出された場合、待っているのは鮫の巨大な口だ。
それに真っ向から向かい合う覚悟はさすがの冒険者なのだが。
しかし、結果はだれも予測しないものだった。
相性、というものがある。
たとえ強力な魔法や武器を持っていても相性の悪い相手には一切効果が無いこともある。
そして逆に、たまたま偶然、非常に相性が良いという可能性だってあるのだ。
今回参加した二人のウィザードが習得していた魔法。
それは敵を氷の塊に閉じ込める魔法だ。
さて、氷は水に浮くことは周知の事実であり、川には流れがある。
鮫は大きく、ゆっくりと接近してくるのだが、魔法を持つ二人のウィザードが使う魔法に捕らえられると‥‥。
「‥‥あれは、海まで行くんでしょうか‥‥」
「水温はあまり高くないし、行くんじゃないでしょうかね‥‥」
海へと流れていったのであった。
一発で魔法に捕らえられなかった鮫はレドゥークが攻撃を加え、注意を引いて。
そこに小回りの聞くシフールのケリーか船上のシーナが放つアイスコフィン。
こうして、目に付く範囲の大きな鮫は全て氷漬けにされて、川をどんぶらこ。
‥‥とりあえず、依頼人にとっては一件落着だったとか‥‥。
●宴席は踊る
「みんな〜、手拍子お願いね♪」
と、俄かに始まった船上の宴会。
声の主は、シャリンだ。小さい体ながら情熱的に踊っているようで。
商人たちは鼻の下を伸ばしながらやんやの喝采のようである。
手拍子に合わせてくるくると軽やかに踊り、最後には艶やかな笑みとともに。
「ねぇ、あたいの踊りどうだった?」
とウィンク一つ。麗しき薔薇というアイテムで、薔薇吹雪の幻影まで付いた豪華な踊り。
これには、依頼人たちも大喜びである。
そして、やっと調理もすんだようで、取れたての珍味を含む料理の数々が宴席を飾る。
本来ならば保存のため、味を犠牲にして塩を多めに使うこの魚卵の塩漬け。
取れたてならばということで、ちょうど良い塩加減で、宴会に届けられた。
メニューは現在試行錯誤の途中のようだが、まずは一番簡単に。
キエフで一般的な薄焼きのパンケーキ、ブリヌイとサワークリームにあわせて頂くと。
「‥‥こ、これがチョウザメの卵の味‥‥美味しさに感動ですわ〜」
「ふむ、なかなか繊細な味ですね」
カーシャとレドゥークの2人は感動しているようで。
酒とも良くあうのか食も進む。
「あら、他の料理とあわせてもなかなか美味しいですね」
シーナは、一緒に釣れた白身魚をフライしたものとあわせて食べているようで。
「うーん、楽しみにしてたかいがあったなぁ。もう一つもらえるかな?」
小さい体ながら、おいしそうに食べているケリーとか。
取れたての卵は、こってりと脂が乗っていながらも、さわやかさの残る味わいで。
魚卵ならではの味わいと癖がありつつ、今まで食べたどの味とも異なる旨さであったとか。
この味わいが人々の口に広がるまではもうしばらくかかりそうだが、今日の経験は冒険者の思い出を彩る良いものになったのではないだろうか。
「うーん、踊ったらまたおなかがすいちゃった♪ もう一枚頂戴〜」
シャリンの言葉に笑いがおきつつ、宴会は賑々しく続いていく。
とりあえず、鮫の退治は出来なかったけど、戻ってくるまでにしばらくかかるはずで。
依頼は一応の成功のうちに幕を閉じるのであった。