蟻の大群退治
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■ショートシナリオ
担当:雪端為成
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:8 G 68 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月05日〜10月12日
リプレイ公開日:2007年10月15日
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●オープニング
開拓が進むキエフ近郊。
しかし、いくら進むとは言ってもまだまだ広大な土地と森林が広がっており、その開拓には終わりは見えない。
そして、開拓というのは時にさまざまな弊害を生むことがある。
基本的に開拓というものは、未踏の森林を切り開くことから始まる。
勿論、開けた草地や川の近くなど住みやすい場所を選び、道が出来て家が出来て、と開拓は進んでいくのだが。
その開拓のさなかに障害として立ちはだかるものはたくさんある。
たとえば気候、キエフの冬は寒くその土地は氷雪に閉ざされてしまう。
また自然、峻険な山や深い森、荒れる河川は人を拒む。
そして、もちろんモンスターの類、冒険者たちの手を借りて人は何とかその目的を達成していくのである。
そしてこの場所でもまたしてもトラブルが持ち上がった。
キエフから一日の距離にある小さな開拓地。
ここは最近開拓が軌道に乗り始めたのだが、そんなちょっとしたトラブルが発生した。
数日降り続いた雨で土砂崩れがおきたのである。
土砂崩れのおきた斜面は最近、建材として伐採が進んだ場所であり、それが原因だと思われた。
しかし、特に近くに人家があったわけでもなく、さらに人的被害も一切なかったので、ちょっとした事件でそれは終わると思われたのだが‥‥。
それは単なるきっかけに過ぎなかったのである。
ある日、その山に踏み込んだ開拓地の人間は巨大な影を見た。
それは日常的に見かけるアリだったのだが、その大きさが尋常ではない。
冒険者なら知っているものや戦ったことのあるものもいるだろう。
その影はラージアントとして知られている、昆虫系のモンスターであった。
しかし、話はそれで終わらない。
数が数匹ならば、特に問題はないだろう。
ただ、その数が尋常ではないのであった。
そのラージアントたちは、土砂崩れの場所を中心にぞろぞろと姿を現した。
その後、数回さらなる土砂崩れがあったため、ラージアントたちが出てきた穴はふさがったようで。
ラージアントたちがどこからやってきたのかを知るすべはないし、その巣がどれほどの広さで地下に広がっているのかはわからない。
モンスターたちの生態はいまだわからないことが多いのだ。
それはともかく、そのとき一時的にごっそりと現れたラージアントたちはそのままその山に散らばってしまったのである。
その数およそ100体とか。
もちろん数えた人間はいないので詳しい数はわからないが。
近くの山からその山を見れば、山のところどころでごそごそとうごめく黒い影をみることだ出来るほどである。
現在それほど実害があるというわけではない。
しかし、そのラージアントたちが、いつ何時山から離れて人のいる場所を襲うのかわからない。
ということで、先手を打って近隣の開拓地から資金を出し合ってそのラージアントを退治するための冒険者を募集することになったのであった。
冒険者は、一番近くの開拓地を拠点に、山全体に散らばったラージアントをなるべく多く退治することが求められている。
さて、どうする?
●リプレイ本文
●敵は黒
彼らは焦っていた。
普段なら彼らが帰るべき場所を示す道しるべは途切れ、彼らは孤立したのだ。
周囲には多くの同輩がいるようだが、拠点の場所が分からねばどうしようもない。
それに気温、刻一刻と気温は下がっているようだ。
この国の冬は長く厳しい。
それに対してなんの備えの出来ない彼らが、雪の中に孤立してしまえば。
待っているのは緩慢な死、だけなのである。
しかし、どうすることも出来ない彼らは、まず食料の確保に乗り出した。
彼らの発達した感覚は、森の中の他の生物たちを感知し、集団で襲い掛かる。
足場を選ばず、疲れを知らず、ただ黒い波のように殺到する彼らは瞬く間に山中の獲物を駆りつくしていくのだった。
その結果、あっという間に獲物は尽き果て、彼らは再び飢えの恐怖と戦わねばならなくなった。
このままでは全滅してしまう。
そんな時、自ら彼らの領域に踏み込んでくる者たちの気配を感じたのだった。
わずかな地面の振動、空気に混じるわずかな匂い。
獲物たちは、彼らのみならず大量の食料をつんでやってきているようだ。
彼らを食わねば、待っているのは飢えのみ。
気付いた個体は、我先に獲物たちへと殺到するのだった。
押し寄せてくるラージアントの大群、それに冒険者たちはまだ、気付いていなかった。
「うーむ、村ではろくに情報を手に入れられなかったなぁ」
愚痴っているのはジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)だ。
だが、それもそのはず。土砂崩れがあって以降は山にはラージアントがうようよいるのだ。
村の人々は恐れて近づいていないので、もちろん出没場所はほとんど分からなかった。
ただ、土砂崩れの場所は分かったのだが、山は斜面が急ではないものの、あまり開けた場所はないとのこと。
「どうしようかねー」「ねー?」
なんて、ジェシュファはエレメンタルフェアリーと会話してたり。
「まあ、山の大体の地形が分かったので、良かったじゃないか」
と、所所楽柳(eb2918)。
2人を含めた7名の冒険者は今、ラージアントの出没する山へと向かっていた。
開拓地からいくらかの肉やおびき寄せるための食材を買い込んだ一行は、山への道を行くのだが。
まだ決まっていないことが一つあった。
それは戦う場所である。
モンスターとの戦闘においては、地の利というのは非常に重要な要素である。
そのためにも、冒険者たちが有利な場所を選びたいのだが‥‥。
敵が変われば、その有利な場所も変わるし、こちらの戦術が変わっても変わる。
魔法使いは範囲魔法の効果を使うために、広い場所を希望し、剣士は挟撃されないために狭い場所を求む。
さて、結果はどうなるのだろうか。
●山は緑
一行は山のふもとにとりあえずの野営地を設け、山中に踏み入っていた。
目に付くのは人影以外の大きな影だ。
馬や犬をはじめ、巨大なグリフォンの姿も見える。
しかし、そのどれもが恐れを知らない敵にとっては獲物である。
一行はすでに数度、少数で行動しているアリを何度か撃破していた。
山中の拠点や、開拓地からの往復を繰り返し、おびき寄せての小戦闘を繰り返したのである。
だが、ラージアントの総数はかなりの数に及ぶため、まだ半数程度を倒せたというところだろうか。
なので一行は山中の崖近くにあった少々開けた岩場に、おびき寄せることになったようである。
ただし、囲まれることを警戒し、壬生天矢(ea0841)なども周囲が周辺の様子を見極めた。
結果、岩場の奥で木々が密生していない上に浅い洞窟も点在する場所を選んでそこを戦場としたのである。
完全に包囲されたら、こちらは消耗してしまい戦えなくなるに違いない。
範囲魔法での効率と、多数と一度に戦う危険性を天秤にかけた結果の決断である。
全体の数が100ほどならば、残る数は半数といったところだろうか。
一度に対する数が数匹ならば、ラージアントは敵ではなかった。
何せ名前が世界に対しても通用するようなメンバーも混じる冒険者たち一行。
ほとんどが戦闘にも長け、知謀にも優れているのだ。
すでに数度の戦闘で、学習はしていないものの、警戒はしているようだ。
しかし、冒険者たちに科せられた使命は、敵であるラージアントの殲滅。
危険は大きいがその使命は果されなければならないのであった。
いままで何度か繰り返したのと同じように天矢が小動物を火にかざして焼き始める。
果たして、巨大なアリが焼いた肉を好むかどうかは分からないが、上がった煙におびき寄せられているのは確かなようだ。
一行はそれぞれ獲物を準備したりと、体勢を整えるのだが。
「ふん、蟻如きが何匹集まろうとも私に相手ではない」
とはデュラン・ハイアット(ea0042)。
豪奢なマントを背負って、彼は言うが、確かにその魔法の威力で今まではアリたちをなぎ払ってきた実力は本物だ。
しかし、今回は事態が少々違ったようだ。
周辺が開けていたこと、そしてどうやら近くにやつらが固まっている場所があったこと。
その二つが合わさったので。
「‥‥きた。かなりの数だ」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)のブレスセンサーが捕らえた数は、軽く両手の指以上であった。
しかもまだまだ増えて行くらしく、その答えを聞いて、一行は戦闘態勢に。
「‥‥ふむ、今回はますます大変だ。手伝ってもらうぞ、テラ、テイル」
ラザフォード・サークレット(eb0655)が自分のグリフォンたちに言葉をかければ、頼りになる魔獣たちは翼を羽ばたかせて空に舞い上がり、飼い主であるラザフォードを守る体勢に。
そして、出鼻の一発を与える為に、術者たちは詠唱を始め、志士の柳は魔法でその両手に炎を纏う。
「なんにせよ早く退治しましょうか。今度は強烈なのをいっぱいお見舞いしますよ♪」
後はがしがし削るのみです、とガッツポーズはオリガ・アルトゥール(eb5706)。
そして、その最中木々の間から、ぞくぞくと黒いラージアントが姿を現す。
先鋒だけでも十数匹はいるだろう、さらに続々と増えてくるその影に。
「‥‥うじゃうじゃと気持ち悪いもんだな。だが、背中の“女性”を守るのは騎士の務めだな」
大上段に構えた、黒い刃は名剣「ブラヴェイン」。
開戦の一撃は、天矢が放つ重量を乗せた衝撃波。
ソードボンバーの一撃は、多数のアリを巻き込んで吹っ飛ばしたのだった。
●戦いは色とりどり。
「おお、やるねえ。私も負けていられないな」
すいっと、魔法で飛び上がるデュラン。
空中から密集地帯を狙ったライトニングサンダーボルトが炸裂する。
しかし、さすがに全力の魔法ばかりでは精神力が続かないので、威力を抑えた雷撃なのだが。
それでも、アリたちをひるませるのには十分なようだ。
さらにそこに叩き込まれるのは。
「‥‥落ちろ‥‥!」
突如、地面から逆落としに宙へと放り上げられるラージアントたち。
ラザフォードのローリンググラビティだ。
近づいてくるアリを片端から宙に放り投げて、地に叩きつける。
地面が強固な岩場であったことも災いして、重なって叩きつけられたラージアントたちにはかなりのダメージのようだ。
その反対側では、あらかじめジェシュファが設置していたファイヤートラップがつぎつぎと発動。
「やった! でも、まだまだこれからだよ」
と続けざまにアイスブリザードで攻撃。
すでに凶器である氷雪の嵐に巻き込まれたアリたちは、間接をきしませながら次々に動かなくなる。
しかし、アリたちはその強固な外皮と体力が特徴だ。
まだまだとばかりに同輩の屍を越えて殺到するのだが。
突如巻き起こる氷雪はジェシュファのものに比べて、さらに激しく強烈であった。
一瞬で身をいてつかせる冷気と、混じる氷雪のつぶてが範囲のものを瞬く間に切り裂き叩き潰す。
アリの奥の森の木々まで一瞬に凍らせ、その葉を吹き散らせる吹雪を作り出したのはオリガだ。
さすがにこれほど強力な魔法を使うのは何度も出来るわけではない。
しかし、その一撃で前線に躍り出てきていた数十匹はかなりのダメージを受け行動不能に。
そして凍りついたアリたちを粉砕して放たれたのは。
「‥‥薙ぎ払え‥‥!」
グラヴティーキャノンの一撃は折り重なったアリの屍ごと後続のアリを吹き飛ばす。
そして、そこに二匹のグリフォンが撹乱しつつ爪の一撃を加えるのだが。
「くっ、数が多いな! 少し引こう! がけ際の洞窟を背にすれば、後ろからは教われない!」
天矢が、前線に立ってアリたちを薙ぎ払いながら、一行に指示を出すと冒険者たちはじりじりと移動を開始。
「こちらはまだ数が多くない。ここから退こう」
エルンストは周囲を二匹の犬に守らせながら、ブレスセンサーで警戒。
そして眼前に躍り出てきたアリには強烈な風の刃、ウィンドスラッシュで一刀両断。
じりじりと冒険者たちはアリの数を減らしながら、有利な場所へと移動するのだが。
いかんせん、術者が多いためその攻撃には波が生じる。
詠唱をし、敵の集まっているところを狙う魔法は、タイムラグを生じるのだが、そこを埋める前衛が少ない。
天矢は盾でアリの突進を軽々と受け止め、返す刃で触角を切り、何とか接近を防いでいた。
重さを乗せた一撃にはさすがのアリたちも一撃粉砕。
しかし、数の暴力がわずかな均衡を破り、一匹のアリがジェシュファの元へ。
「ちぃ‥‥抜かれた!」
天矢の叫びも遅く、あわやジェシュファがラージアントの大きな顎にかかるかと思われた時。
「‥‥甘いね」
舞うようにひらりと飛び出したのは柳だった。
術者へ近寄るラージアントからの護衛を専門にしていたので、間に合った彼女。
その右手の笛と左の拳は赤々と燃える炎に包まれていた。
バーニングソードで強化された両手の攻撃が、ラージアントをぶちのめす。
「やっかいな統率者がいないからね。これぐらいなら、まだ‥‥」
くるりと炎を纏った笛を携えて再び迫りくるアリたちに対峙する柳は、さらに一匹のラージアントへと立ち向かっていった。
こうして、一行は何とかアリたちを引き連れて移動していった。
その場所は、左右が岩場に挟まれて狭くなった場所である。
壁を足場にできるラージアントとて、この場所では戦いにくい。
壁に張り付こうが、魔法で巻き込める範囲に、集まってしまうこの場所。
すでに100近い数を倒しているはずなのに、まだまだいるラージアント。
しかし、どうやらこの集団が最後の一団のようだ。
「いよいよ、正念場か。ここまでくれば全部巻き込めるかな」
壁を伝って近づいてきた一匹に柳が笛で一撃すれば、それに天矢がとどめの一撃。
術者への接近を警戒して、柳と天矢がアリたちの突進を引きうけて。
そして2人の背後で、ウィザードたちは次々に魔法を完成させた。
高速詠唱で唱えられたエルンストのウィンドスラッシュは壁を張り付いて迂回しようとしていた一匹を一撃し。
ラザフォードのグラビティーキャノンがアリたちのど真ん中に叩き込まれ。
ジェシュファとオリガのアイスブリザードが次々にラージアントたちを弱らせていき。
最高の威力で放たれたデュランのライトニングサンダーボルトが炸裂する。
切り裂く轟風の刃に、地を揺るがす衝撃波。
凍える氷雪の嵐に、全てを貫く雷光の一撃。
この連続攻撃にはほとんど全てのアリたちが倒れ、わずかな残党も刃と笛の攻撃で次々に打ち倒されていった。
最後の戦いが終わったあと、森には再び音が戻ってきていた。
逃げ去っていた鳥たちが戻ってきたのだろう。
冒険者たちは何とか、依頼を達成し、この大群を撃破したのであった。