【死者たちの夜】 よみがえる者たち

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月22日

リプレイ公開日:2007年10月26日

●オープニング

 キエフから少しはなれた開拓地。
 そこでは他の開拓地と同じく、厳しいながら長閑な生活が続いていた。
 しかし、その開拓地をある危機が見舞ったのは数週間前のこと。
 なんと、近くにミノタウロスと呼ばれる強力なオーガの一種が現れたのだ。
 あわてて、開拓地の人々は冒険者を呼び退治してもらおうとした。
 そして、依頼を受けた冒険者がその場所に急行したところ、そこには予想もつかない光景が広がっていた。
 すでに、村は壊滅していたのである。

 その冒険者の一行は、その村落をあわてて探査した。
 依頼の話ではミノタウロスが一頭のみという話であったので、ここまでの破壊を行えるはずはない。
 なにせ、建物までが蹴散らされ、しかも複数の足跡が残っているのだ。
 その足跡は大型のオーガ類のものなのだが、なぜか種類が入り混じっており判別は不能だったのである。
 別種のオーガ同士が協力し合うようなことはめったに見られない。
 このまま、何もわからずに終わってしまうのかと思われたのだが‥‥。
 最後にこの街を訪れた行商人が、近くの開拓地に滞在していて、その行商人から気になる情報が得られた。
 それは、何者かが冒険者たちよりも先に来て、なんとミノタウロスを退治したとのこと。
 開拓村落は、そのことでちょっとしたお祭り騒ぎだったという。
 ただし、その行商人はさらに気になるものを見たという。
 彼がお祭り騒ぎの村から離れ次の場所に移動しようというとき、街道を移動しているときのことだった。
 丘の頂で彼があたりを見回していると、なにか大きなものが視界の隅に移ったのである。
 それは、倒されたミノタウロスであった。
 死体とはいっても気味が悪い、とその行商人は立ち去ろうとしたのだが、そこで初めて彼はミノタウロスの近くに人影があるのに気付いた。
 その姿は、剣を背負ったジャイアントの戦士と、ローブ姿でフードを目深にかぶった聖職者の2人組であった。
 距離があるため細かくはわからなかったが、村の人たちから聞いた話では、ミノタウロスを退治したのは、戦士と聖職者の2人組だったとか。
 ならば、おそらく倒したモンスターの確認にきたのだろう、と納得して行商人はその場を離れようとおもった。
 しかしそのとき、驚くべきことが起きたのだった。
 ミノタウロスがゆくりと起き上がると、2人組と連れ立って、森の奥へと消えていったのだ。
 何が起きたんだろう、といぶかしんでいる間に、三つの影は消えていく。
 しかし、考えていてもわからないのは仕方ない、と行商人は次なる目的地へと向かったのだという。

 実際は、何が起きたのだろうか。
 依頼を果すことが出来ないまま、キエフへと帰還し、全てをギルドに報告した。
 そこでギルドはあることに気がついた。
 2人組は以前、冒険者たちと敵対する者として、ギルドの報告書に記されていたのだ。
 その聖職者は、黒の神聖魔法を使う修道士であったが、堕落。なんと悪魔とともにキエフを離れたというものである。
 そしてその聖職者が得意としたのは死者を下僕として使役する魔法、クリエイトアンデッド。
 こうした情報から、ギルドは最悪の事態を想定し、そのクレリックをなんとしても撃退するために動きだす。

 巨漢の戦士は、ダバと呼ばれる高位のデビル。
 そのデビルに操られたクレリックが強力なモンスターをアンデッドとして使役するとなればその被害は甚大となろう。
 腕利きの冒険者たちには、それをなんとしても止めてもらわねばならないのだ。

 さて、どうする?


 ‥‥‥とある山中。
『なぁ、悪魔よ。ひとつ聞きたいことがある。お前、敵がドラゴンでも倒せるか?』
『‥‥ドラゴンごとき、たいした敵ではない‥‥』
『ふぅん‥‥‥それは楽しみだ‥‥』

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●村にて
 キエフの開拓地、そこの人々は待っていた。
 風が冷たくなり始め、遠くに見える高山には白い雪がちらほら。
 一日一日と寒くなる季節にあって、村人たちの顔色は暗い。
 開拓村へは街道につながる道があるのだが、それは非常に細い生命線。
 キエフや他の開拓村への交通はあるものの、雪が降りその道が閉ざされることもある。
 開拓地の人々にとっては、いまだつながる街道だけが唯一の希望のように見えているのだ。
 近くの森に潜む何者かの影。
 それを退けることが出来るのは、冒険者たちだけだ。
 開拓地の人々は、冒険者を待っているのである。

 やってきたのは四人の冒険者だった。
 すでに、噂で壊滅した開拓村の話を聞いているその開拓地の人々は怯えた日々を送っていたのだ。
 村に程近い森を行く巨体を見た者や、何者かの咆哮を聞いた者。
 彼らの証言は、確実にこの近くに冒険者の追っている者たちが潜むことを示していた。

 彼ら冒険者が村にやってきてしたことは、まず彼らの目的の説明。
 そして
「なるべく家から外に出ないようにしてくれ」
 村の指導者たちにそう継げたのは壬生天矢(ea0841)だ。
 まだ村で行方不明者は出ていないようだが、油断は禁物。
 そして、村はずれの小屋を拠点に、彼らは周囲の調査を開始し始めたのだった。

●調査
「‥‥これはおそらくアンデッドの進んだ跡ですね。でも‥‥」
 アシュレイ・クルースニク(eb5288)は頼りになる愛犬とともに、森を調査していた。
 その中で見つけたのはいくつかの足跡。
 やわらかい土にしっかりと残った足跡を見つけたらしいのだが。
「ん? なにかおかしなところでもあるの?」
 尋ねたのは、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)だ。
 アシュレイの顔が曇っているのを見て、聞いたのだが、返って来た言葉は一行にとっても厳しいものだった。
「小型の足跡がいくつかあるのと‥‥大型の足跡が一つだけではないようなのです」
「ふむ、ということは、敵の抱えてるアンデッドはミノタウロスと雑魚だけじゃなく、他にも大物がいそうだってことだな」
 カイザード・フォーリア(ea3693)が眉根を曇らせてそういえば、アシュレイもうなづく。
「ダバだけでも強敵なのに、まったくやっかいだな」
 しかし、そういうもののカイザードはどこか不敵に見える。それは我が身を鍛える場としうるからだろうか。
 ともかく、再び冒険者一行は、森の奥へと足跡を追っていくことにした。
「んー、待ち伏せは出来ないかな? 火の魔法を使えるような場所があればいいんだけど」
「それは難しいだろうな。時間を置けば敵クレリックは移動してしまうかもしれんし。時間が惜しい」
 ジェシュファのような魔法使いとしては、襲撃戦よりは待ち伏せの方が楽なのは確かだろう。
 しかし、天矢の言うように事態は一刻を争うものなのだ。
 そして足跡を追ってしばらく行けば、森の果てに朽ちた廃小屋が一つ。
 おそらくは、以前狩りや炭焼きの拠点に使われたのだろうが、遠めにもぼろぼろに見える小屋が見えてきた。

 天矢が取り出したのは古びたしゃれこうべ。
 アンデッドを感知する魔法のアイテムだが、天矢が念じてしゃれこうべを手にすれば、それはカタカタと歯を鳴らした。
 しかもその歯鳴りは徐々に強まっている。それはつまり
「向こうもこちらに気付いているようだな‥‥敵がクレリックなら奇襲は無理か」
「ええ、生命力を感知する魔法がありますもの」
 すらりと刀を抜く天矢に杖とナイフを構えて小屋を見据えるアシュレイ。
「‥‥土は土に、塵は塵に。哀れなる死者達に、安らかなる眠りを」
 アシュレイの静かな祈りに答えるかのように、彼ら四人の眼前には次々にアンデッドが姿を現した。
 そして、小屋の影から姿を現す騎士と聖職者姿の男、さらにミノタウロスとオーグラの姿があった。
 どの影も生気を失い、命の灯の消えた瞳はうつろに冒険者たちを見据えている。
 周囲に姿を現したアンデッドたちは、そのほとんどが異形である。
「ちっ、ゴブリンや野生動物をアンデッドにしてるってわけか‥‥」
「死者を鞭打ち戦わせるとは‥‥」
 黒の騎士カイザードと白い騎士のアシュレイが言うように、その光景はあまりにも凄惨であった。
「お前達の目的は何だ‥‥」
「‥‥貴様らが死ねば、その目的のために貴様らも使ってやろう。それでは不服か?」
 悪魔と手を組み堕落した聖職者は、天矢の問いをあざ笑うかのようにそう応えた。
 そして、無表情に。
「やれ。後で再利用できるように、形は残して置けよ」
 とアンデッドたちに指示を出せば、死者たちはいっせいに冒険者へと殺到するのだった。
 死者の軍勢は、叫び声も無くただ静かに冒険者へと向かってくる。
 静かな戦いの始まりであった。

●戦い
 前衛は2人。
 堂々たる体格と磐石の実力を備えた2人の騎士は、殺到するアンデッドの軍勢を前にどっしりと立ちふさがった。
 オーラにおいても卓越した実力をもつカイザードは、そのオーラで全身をよろい武器を強化するのだが。
 優れたオーラの使い手の実力、その脅威をすぐにアンデッドたちは知ることになった。
 黒衣に身を包んだカイザードの剣はオーラを纏い。
 その一撃はつぎつぎに近寄ってくるアンデッドたちを切り倒していた。
 また天矢もオーラパワーを付与してもらい、自らのオーラの力で精神を高揚させている。
「雑魚が‥‥出しゃばるな」
 遅い歩みでぞろぞろと集ってくるゴブリンなどのゾンビに向かって天矢は刀を高く掲げると大上段からの衝撃波一閃!
 『天壬示現流−乱舞』という技だとか。
 本能でうごめき回避する能の無いゾンビたちはまともに食らい、ほとんどが一撃で崩れおちた。
 しかし、数十の死体が起き上がり、ぞろぞろと寄ってくる上に、その背後からは巨大な影が。
 いくら倒しても倒しても、どこからか増えてくる死者たちなのであった。

「この距離なら届くね。アイスコフィン!」
 アイスブリザードでアンデッドたちを牽制していた、ジェシュファだったが、後ろのミノタウロスが近づいてきたのにあわせて、切り札の魔法を一撃。
 見事に魔法が決まり、見る見るうちに凍りつくかに見えたのだが。
「‥‥ニュートラルマジック」
 ぱしんと手を合わせてクレリックが唱えた魔法はその氷を瞬時に無に帰した。
 アイスコフィンを解呪されたのだ。これにはさすがに打つ手が無いようで。
「うーん、コフィンは無理か‥‥ちょっと精神力が持つかわからないけど、ブリザードで攻めるしかないか」
「ええ、無駄打ちはやめておきましょう。討ちもらしは私が‥‥」
 アシュレイが魔法の吹雪を抜けてきた一体のアンデッドに向けてピュアリファイを唱えると吹雪で、ダメージを受けていたアンデッドはその一撃がとどめとなってで崩れ落ちる。
「こうして、塵に帰しますから」
 アシュレイはジェシュファと連携しつつ、後衛から援護していた。
 そして、前衛の2人は氷の魔法を受けても凍らなかった二体の強力なアンデッドと対峙した。
 手に粗末な武器を持ったアンデッドミノタウロス。
 対するは死人殺しの刀を手にした天矢、軽やかな身のこなしでミノタウロスの一撃を避けながら機をうかがう。
 両手の爪を振りかざし、豪腕を振るう凶悪なアンデッドオーグラ。
 対するは黒衣の騎士カイザード、悪魔殺しの聖剣を手にオーラの鎧でオーグラの攻撃を受けとめ反撃を重ねる。
 死者の特性は、その柔軟性とすばやさを犠牲にしたタフさだ。
 すでに命が尽きている死者たちは、その体が粉砕されるまで攻撃をやめないのである。
 だが、陣形をきっちりと守り、範囲攻撃でダメージを与え、浄化魔法で止めを刺すジェシュファとアシュレイのコンビネーションに助けられ、前衛の2人は全力でこの大物と戦えていた。

 ミノタウロスが右手に掲げた錆びた大斧の一撃が頭上を通過。
 その下をくぐりながら天矢はカウンターで腕を切り飛ばす。
 斧を失いつつも叩きつけるように放たれた左の拳を、天矢は体をひねって回避。
 その伸び切った腕を上段から切り下ろす。
 両腕を失った怪物は角で貫けとばかりの強烈な突進。
 これを天矢は、敵の背を踏み台に跳躍し足下に流し。
「‥‥これで終わりだ」
 無防備な背を晒したミノタウロスに一閃。
 ミノタウロスが倒れるのを待たずに、天矢は刀を払って納刀、くるりと背を向ければ。
 その背後で、ずるりとミノタウロスの首を横一文字に走る刀傷。
 そしてゆっくりとミノタウロスは崩れ落ちるのだった。

 オーグラの一撃をがっしりと受け止めるほどの防御の技術を駆使するカイザードは、未だに一筋の傷も受けていなかった。
 そして、オーグラの攻撃に合わせたカウンターの一撃は、対にオーガの頭を狙う。
 体格では一回り以上小さいカイザードは真っ向からオーグラの豪腕を受け止め、腕ごと剣で強引な一撃。
 オーラの力は、やすやすとオーガの腕を砕き、その頭を一撃するのであった。
 倒れるオーグラ、倒したと見たカイザードは、すぐさまダバへと向かうため駆け出した。
 しかし、頭を砕かれてもなお、オーグラは起き上がり腕を伸ばす。
 その先には、カイザードの無防備な背中があったのだが。
 そこに叩き込まれたのはアシュレイのピュアリファイだ。
 浄化の魔法で止めを刺されてはさすがのオーグラも塵と化した。
 そして舞い上がった巨体の塵が晴れたとき、そこには巨大な竜と姿を変えているダバとその背に乗った死人使いが。
「まだ、ここで倒れるわけには行かないからな」
 その声で、竜の姿のダバは羽ばたく。
 しかし、ダバの視線は2人の騎士へと向いていた。
 それは、デビル随一の剣使いであるダバの好奇心か、それとも強力な敵へと向ける敬意なのか。

 冒険者にダバたちを追う方法は無いため、あきらめざるを得ない状況であった。
 しかし、脅威であった2人組は遠くに去ったので、当面ここに危機は無いだろう。
 依頼は無事に成功したのだが、原因を根絶することは出来なかったことは、わずかに冒険者たちの心に引っかかった。
 だが、冒険者に休みは無く、いつの日かまたこの敵と再会することもあるかもしれない。