●リプレイ本文
●冒険者たちの作戦
冒険者たちに向けて出される依頼は数多く、依頼人は冒険者を選ぶことは出来ない。
時には、実力不足や考えの浅い冒険者のせいで依頼が失敗してしまうこともあるのだ。
だが、逆に実力十分の優秀な冒険者が依頼を受けてくれるという場合もある。
さて、今回はどうだったのだろうか。
村へとやってきた冒険者たち、軍馬などにまたがってやってきた一行の姿を見て村の人々は喜びの声を上げた。
これで何とか助かるかもしれない、と。
しかし、一部の村人は不安げな表情を浮かべたのも確かである。
一行の中で一見して頼りになりそうなのはたった2人、しかしその2人は見るからに異国人。
そして2人は見るからに少年少女といった年若き冒険者に、シフールが2人。
それゆえに、村の集会所で一行が語った作戦について、はじめは難色を示すものも多かったのである。
冒険者が提案した作戦は、村の内側に引き入れて一網打尽にするという作戦だ。
被害が出ないようにバリケードを作り、村人たちは避難して貰うということに抵抗を覚えるものも多かったのである。
それもそのはずだ、冒険者にとって村は依頼における場所でしかない。
しかし、そこで住まうものにとっては唯一の安住の地である。
せっかく長い時間をかけて作り上げたその防壁の内に敵を入れるのは非常に抵抗を感じることであった。
作戦としての利があることは分かる、だがしかし、彼らの唯一の安住の地であるその防壁のうちを戦場にすることは、予想より強い抵抗を受けることとなってしまったのである。
が、しかし。
冒険者たちが提案した作戦に対してなかなか同意を見せられない村人たちと、それ以外の作戦では、人数や装備の関係で不利であることを説明して何とか了承してもらおうとする冒険者たちの議論を見つめていた村の長である老人の一声で結局冒険者たちの意見が受け入れられることとなった。
その理由は単純であった。
「‥‥聞けばここにおられる冒険者の方々は、高名でありその実力を高く買われている方々だ」
村長の声は静かに響いた。
「ここは、彼らを信じて従うとしようじゃないか」
開拓の村といえども、キエフの都市とも交流はあるし、商人や芸人、吟遊詩人だってくる。
行商人や、吟遊詩人の語る冒険者たちの活躍の話に登場する半ば伝説の人物たち。
今回は、たまたま冒険者たちの名が、その作戦を後押しすることになったようであった。
さて、作戦は決まったし、一度受け入れることになれば村の人々も親切だ。
だが、これからが正念場であった。
●村での行動
そもそも開拓の村であるから、資材だけは豊富にあった。
それにこれから冬を迎えるこの時期、古くなった材木から薪にいたるまで木材には事欠かないようで。
「ほえにひへも、はうがわはらないほ‥‥」
「口にロープくわえてると、何を言ってるか分からんぞ」
「お? ああ、すまんすまん。あー、それにしても、数が分からないと不安だな って言いたかったんだよ」
ロープを口でくわえつつ、大工仕事にせいを出しているのは、冒険者の男連中だ。
手馴れた様子で作業をこなしているのは氷川玲(ea2988)、応えたのは壬生天矢(ea0841)。
天矢も篝火用に薪を積みつつ、話題はどうやらオーガの数について。
「ああ、10体以上は確実らしいが、全部でどれだけいるかは分からないからな」
「ま、何匹来ようがぶち倒すだけだがな‥‥っと」
玲の言葉は力強い、実力に裏打ちされた言葉であり、天矢もそれには頷いている。
そしてそこにぱたぱたと飛んできたのはアルフレッド・アーツ(ea2100)だ。
「‥‥オーガは‥‥あちらの方からくるそうです‥‥」
彼はどうやら、猟師から情報を集めていたようである。
その言葉に、天矢と玲は了解したと頷き、
「とすると、誘導するときはあちらからだな。あ、これ作っておいたぞ」
「‥‥ありがとう‥‥ございます」
天矢はアルフレッドに小さな松明を渡す。
「‥‥あの、二本‥‥ありますけど‥‥」
「ああ、そっちはリノに渡しておいてくれ」
「‥‥了解‥‥しました‥‥」
といってアルフレッドはぱたぱたと飛んでいくのだった。
そして、門を中心にバリケードを築いたり、柵の補強を続ける二人。
そこに今度はシュテルケ・フェストゥング(eb4341)が。
彼は、猟師の人々から聞いて、あと一日二日は襲撃がないと確信したようで、それを天矢と玲に告げて。
「ああ、ついでに今までずっと気を張ってたみたいだし、猟師さんたちには休んでもらえるように言っておいたよ」
「そのほうがいいだろうな、これからは俺たちが交代で見張りをすれば良い」
「だな。でにとりあえず今日は日が沈むまでは作業を突貫で続けなきゃならないし‥‥腹減ったな」
と、玲の言えば、ちょうどよく良い香りが漂ってきて。
見れば空に立ち上るいく筋かの煙、どうやら御飯の用意が出来たようである。
ご飯を用意してるのは誰かといえば、ユキ・ヤツシロ(ea9342)とリノルディア・カインハーツ(eb0862)だ。
大目に持ち込んだ食料と村からの歓迎の材料をあわせて、なかなか盛大な料理が用意されているようである。
2人とも料理は得意なようで、特にリノルディアは達人級の腕前の調理の腕が冴えているよう。
小さな体で器用に鍋をかき混ぜているところであった。
久々に、村の人々も安心したのか、盛大に煙を上げて焼かれるたくさんのパン。
あまり多くは無いものの肉までも振舞われたりして、村人たちの顔に笑顔が浮かぶ。
「さあ、何事も腹ごしらえをしませんとね。これから数日は私たちが頑張りますけど、皆さん疲れているでしょうし」
ユキがそういって皆にスープを振舞えば、隣で一抱えもあるパンをちぎって食べているのはリノルディア。
「もきゅもきゅ‥‥ごくん。ええ、それに村の方々には協力してもらってるわけですしね。お手伝いしませんと」
こうして、冒険者の平穏な日々は過ぎていくのであった。
さて、それからオーガたちの襲撃は二日間、音沙汰無かった。
もしかすると、冒険者たちに気付いたのかもしれない、彼らも警戒したのだろう。
だがしかし、オーガたちの飢えは限界だ、それに今は少しだろうが獲物も増えたし、餌になる馬もどっと増えたようだ。
オーグラは、今度が最後とばかりに、森の中で大きく咆哮する。
そしてその声に応えたオーガの数は、予想していたよりも大分多いよう。
いよいよ冒険者はオーグラ率いるオーガの大群と戦うことになるのであった。
●決戦は闇の中
夜、見張りに立っていた冒険者たちは、闇夜に響く咆哮と駆ける音に気がついた。
冒険者たちは交代で警戒に当たっていたため全員が臨戦態勢だ。
そして、村人たちはほとんどが村の中央部にある倉庫や集会所で集まって休んでいるので、ほとんど混乱は起きなかった。
猟師たちはほぼ全員が集会所や倉庫の護衛に当たっているために、鬼どもと戦うのは冒険者たちだけ。
いよいよ作戦が始まった。
赤々と篝火がともされているのは正面、門の場所だけであった。
そして、村の今までの戦いで始めて、その門が敵の攻撃にも関わらず内側から開かれていた。
同時に、空を舞う5つの影があった。
シフールの2人、アルフレッドとリノルディアは片手に松明を持ち、先頭を飛ぶ。
その後ろにつきしたがっているのは、エレメンタルフェアリーたちだ。
オーガたちがぞろぞろと群れる柵、しかしここ数日でこちら側の柵は強化されているのでそう簡単には壊れない。
その頭上に突如として、光って飛ぶ小さい奴らが飛んできたのである。
オーガたちは、シフールとフェアリーたちに目を奪われた。
ぱたぱたと静かに飛ぶアルフレッドと、目を引くように大きく飛ぶリノルディア。
フェアリーたちも2人の真似を一生懸命しているようで、きらきらと光が舞い散る。
そして、十分視線をひきつけたところで、5人の影は正面の門へと一直線に飛んでいった。
それを追うオーガたちの大群、リーダーのオーグラといえども、あまり頭はよくないので一緒に追っかけているようで。
それを柵の内側から見守るのは他の4名の冒険者、だがしかし予想よりオーガの数が多い。
「ぱっと見て‥‥20匹いるかも?」
「ああ、それぐらいいやがるな。まぁいいさ、全部コワせばいいだけだ‥‥」
門の脇に控えるシュテルケが言えば、にやりと応えたのは正面の玲。
そして、壬生は後ろで控えるユキに合図をする。
「‥‥リノとアルフレッドたちが門を通過したら明かりをあげてくれ」
「はい‥‥‥‥いまですっ」
ぱっと光る清浄な明かり。ユキのホーリーライトの光の下、リノとアルフレッドはオーガたちを引き寄せながら門を通過。
同時に、まだ火をつけていなかった残りの篝火に松明を投げ入れれば、さらに周囲は明かりがともる。
ユキのフェアリーであるリリーがあわててユキの懐に収まったようにフェアリーたちはそれぞれ戦闘から離脱し。
そしてその明かりに照らされたのは、3名の戦士だった。
「チャンス!」
ひらりとオーガたちの正面に躍り出たのはシュテルケだ。
体格差なら大人と子供どころか、それ以上。しかしシュテルケは怯えずソードボンバー!
轟と唸る剣風の衝撃波は4匹のオーガを巻き込む。
致命傷を与えられないようだが、先制の一撃としては十分な戦果だ。
その間を疾風のように駆け走る影は、天矢だ。すれ違い様に長大な名剣でオーガの足を叩ききる。
行動力を奪われたオーガには、シュテルケの追撃や、上空のシフールたちの攻撃が止めを刺していく。
天矢が狙うのは敵のボスであるオーグラだ。
だが、いかんせん数が多い。無傷のまま次々に村中になだれ込もうとするオーガたち。
「援護するよ」「相手は‥‥僕たちがします‥‥」
村の奥へと進もうとするオーガたちを阻むのは風の刃を放つリノと上空から的確に弱点めがけて魔法の投げナイフを放つアルフレッドだ。
そして、村への唯一の道のど真ん中に陣取り、突進してくるオーガたちと向き合う玲。
どのオーガたちも多少の傷を負っているようであった、それは全て仲間たちの援護だ。
だが、オーガたちの特徴はそのタフさ、これしきの怪我ならたいした影響は無い、と思われるのだが。
玲にとっては、その多少の怪我による隙で十分だった。
正面から、突進をひらりとかわし、回避しながら背後に回りこみ、飛び上がっての蹴り一閃。めきりと骨が折れる音。
そこに飛び掛ってくる別のオーガ、蹴り飛ばしたオーガの背を踏み台に飛び上がって眉間の拳。ごきりと骨を砕く音。
倒れつつもまだもがくオーガ、その首をばきりと踏みつけ、玲はオーガの息の根を止める。
「‥‥生存競争ならば負けるつもりはさらさらない、さっさと死にな」
一連の破壊は、全て素手で行われているのであった。
そしてその横を抜けようとする奴は、
「逃がさないよ」
ソニックブーム一閃、シュテルケの放った真空刃がオーガを一刀両断する。
わりぃなと、目で返し、玲は再びオーガたちに立ち向かっていくのであった。
上空からのリノとアルフレッドの援護で、オーガたちが引き寄せられるのは玲とシュテルケへ。
こうしてオーガは見る見る数を減らしていくのであった。
オーガの波を無傷で突破する影は隻眼の剣士だ。
大剣をゆるゆる掲げ、眼前の敵オーグラをねめつけるのは天矢であった。
自分たちのボスの前に立ちはだかる強敵、これを排除しようとけなげにも駆けつけようとするオーガもいた。
だが、そういうオーガたちには、
「邪魔は‥‥させません‥‥」
アルフレッドの放ったダガーは、オーガの目を切り裂き再び手元に戻る。
突然飛来した超人的な投擲の技に反応すら出来なかったオーガ。
さらにもう1体のオーガが視覚を奪われて、右往左往する。それを追撃するリノのスクロール。
こうして天矢は邪魔をされずにオーグラの前に立ちはだかった。
オーグラといえば、鬼族の中では凶悪な種である。
こいつ一匹のために村が壊滅することすらあるのだ。
だがしかし、冒険者たちの実力は、オーガたちの予測をはるかに超えていた!
オーグラの豪腕を恐れず踏み込む天矢。
豪腕は紙一重で天矢の長髪を揺らすだけ、一方天矢の剣は深々とオーグラの腹に深々と突き刺さる。
一瞬の静寂、その中で静かにつむがれたのは天矢の呟き。
「お前だけは確実に逝ってもらうよ」
死の呟きの次の瞬間、天矢の剣は跳ね上がりオーグラは真っ二つになって崩れ落ちたのであった。
その断末魔の響きに恐れおののく生き残りのオーガたち。だがすでにその数は片手の指の数ほどもいなかった。
逃げようとするオーガの足の筋を的確に切りさくアルフレッドのダガー。倒れ伏すオーガにはリノのウィンドスラッシュ。
最後に報いようと襲い掛かるオーガの腕をかわしつつ、腹へ重い蹴りを叩き込んでから、オーガの頭の角をへし折らんばかりの凶悪な蹴りで止めをさす玲。
一目散に逃げようとするオーガに対しては、シュテルケはソニックブーム+ソードボンバーの遠距離衝撃波でとどめ。
こうして、オーガの群れは、完膚なきまでに殲滅されたのであった。
「皆さん、怪我はありませんか?」
オーガの死体を見ないようにしつつ、ユキが問うがどうやら皆怪我はないようで。
「‥‥これで、村の人たちもやっと安心して眠れますね」
さすがに疲れたのか、リノもふわりと篝火の近くに降り立ち、冒険者一同はやっと肩の力を抜くのであった。
今回の結論は唯一つだろう、オーガたちにとっては“相手が悪かった”のだ。
こうして冒険者たちは見事、村を救ったのであった。
しばらくは、後始末に追われたが、冒険者たちの鬼気迫る活躍は、幸か不幸か村人の目に触れることは無く。
村人の感謝の声を背に、冒険者たちは村をあとにすることになるのであった。