●リプレイ本文
●個性派の冒険者たち
キエフから出発する商人の荷馬車。
今回の依頼に参加するために冒険者たちは、初日の早朝出発を控えた荷馬車の近くで初めて顔をあわせた。
集まった冒険者は5人。
冒険者の仕事としてあまり華は無い護衛の仕事だが、こういう仕事こそ冒険者の実力が生きるのである。
だが、集まった冒険者たちを見て、依頼人の商人はどこか不安そう。
逆にその娘さんは、きらきらと目を輝かせている。それはなぜかというと、個性的な冒険者が集まったからのようである。
「貰えるもんは何でも貰う、落ちてる金には素早く反応。さわやかな守銭奴ペリオン参上ー」
さっそく依頼人と握手しているこの明るい青年はペリオン・レック(ec4098)だ。
荷馬車に山と詰まれた商品の山に、目を輝かせているような気がしないではない。
そして彼の後ろには彼とよく似た姿の女性が。
「私はコティーナよ。そこのペリオンのお姉さんなの」
依頼人の娘、リリィ嬢に話しかけているのは、その言葉のとおりペリオンの姉、コティーナ・レック(ec4148)。
この姉弟はどうやら駆け出しの冒険者のよう、あまり汚れの無い装備品がきらきらと冬の日の光を照り返しているのだった。
さて、他の冒険者はどうかというと、これまた個性的なのが幾人か。
いかにも魔法使い然としたローブに豪奢な毛皮の外套を身につけた金髪の麗人。
エルフ独特の線の細さが絵になる青年はウィザードのマティア・ブラックウェル(ec0866)。
だが、彼の印象は彼が口を開くとがらっとかわるのだ。
「地のウィザードのマティア・ブラックウェルよ☆ よろしくね♪」
ぱちんとウィンク一つ。なかなか艶やかなしぐさである。すると“彼”に興味を示したリリィ嬢。
「おにいちゃんは、おねえちゃんなの? 話し方がおねえちゃんなの」
「おにいちゃんは、れっきとしたおにいちゃんよ♪ リリィちゃん」
「おねえちゃんじゃなくておにいちゃんなの?」
「ええ、話し方はおねえちゃんかもしれないけど、おにいちゃんなのよ♪」
リリィ嬢、頭の上に大きなはてなを浮かべてる御様子である。
そして外見で目立つといえばもう一人。
「こちらの冬は寒いのねぇ。普段の服はやっぱりお預けかしら?」
防寒具の襟を合わせて早朝の冷たい空気を追い出すように身震いしてるのは東雲魅憑(eb2011)だ。
遠く東の国から来たこのジャパン人、防寒具の下は露出度の高い衣装のようで、防寒具からときおりちらちらと肌が見える。
なかなか眼福な光景なのかもしれないが、やはり寒そうであった。
彼女も、リリィ嬢とお話しているようで。
「あら可愛い娘。私は魅憑よ☆ 貴方のお名前はなんていうのかしら?」
「あたし、リリィ。おねえちゃんはおねえちゃんなのー」
こちらは見て分かったようで、リリィ嬢も安心の様子。でもどうやらめったに見ない異国人の様子にわくわくしている様子だ。
そして、最後の1人は、ちゃくちゃくと準備を進めていた。
愛馬に荷馬車を引かせる手伝いをさせるようで、そのための馬具や荷物の整理をしているようであった。
ロープで荷物をしっかりと固定して、布で覆いをかける。
ひとしきり早朝の寒空の下、作業をみんなで続けてから、依頼人に準備が出来ましたと頷くリーダー格の冒険者はルース・エヴァンジェリス(ea7981)だ。
「‥‥さて、それでは出発しましょうか」
徐々に日の光もぬくもりを帯びて、そこかしこに積もっている雪をきらきらと照らす。
こうして冒険者たちは、手伝いの以心伝助らに見送られて、ゆっくりと出発していくのであった。
●道中はのんびりと
さて、今回の敵は行商人を狙うサスカッチららしいが、あまり詳しいことを知っているものはいなかった。
マティアがモンスターに関する知識で、知っていた範囲は、大きな白い猿だという程度で。
ただ、すでに依頼人はその出没しそうな場所については同業者から聞いていたよう。
まだそこにつくまでは一日はかかるとのことで、冒険者たちは周囲に気を配りつつ、のんびりと街道を進んでいくのであった。
ちなみに彼らを冒険者たちは荷馬車の上の空きスペースや、御者台に座ってのんびりと進んでいた。
依頼人が渡してくれた干した果物なんかをかじりつつ一行は進むのであった。
そんな中での姉弟の会話。
「いつ猿が襲ってくるかドキドキする〜」
と、周りを見渡しながら姉、コティーナが言えば。
「でも、姉さん。依頼人さんが言うには襲撃場所に差し掛かるのは明日になるらしいっすよ」
傾いた毛皮の帽子を直しつつ応える弟のペリオン。
「そうなんだ。それならまだしばらくはのんびりしてられそうね」
そういうと、ちらりと視線を他の冒険者に向けるコティーナ。
「でも、素敵なお姉さんや綺麗なお兄さんが一緒だから、違う意味でもドキドキかもー♪」
ミーハーに、マティアや魅憑の横顔を眺めて身をくねらせるコティーナだが。
「ん? なぁに、ペリオンちゃん、呼んだかしら♪」
ペリオンに呼ばれたマティアの口調に、コティーナがびっくりしていみたり。
「あら、素敵だなんて嬉しいこと言ってくれるわねぇ。わたくしに興味がおありかしら☆」
と、魅憑ににじり寄られてみたり、なかなかににぎやかな様子であった。
そして御者台で、ルースはリリィ嬢と依頼人と静かに語らいが。
「ふむ、やはり多少なりとも雪があると静かですね」
「ええ、ですがその分怖いこともありますけどね」
「ねーねー、お姉ちゃん。この剣凄いねー。ぴかぴかしてるー」
どうやらリリィ嬢は銀製の柄をもつルースの愛剣に興味があるようで。
一行は、昼の休憩を挟んで、夜までは何事もなく行程を消化していった。
夜は、依頼人のような行商人たちが使う街道沿いの野営地のような場所で足を止めることに。
開けた土地にいくつか建築途中でほったらかしになった資材などが積んであり、焚き火をしたり休むのにちょうど良いようで。
もちろん晩御飯は依頼人が持ってきた食材をつかって多少は豪華に。
おなかも満ちて、リリィがペリオンと世間話をしたり、
「あら、明日も良い天気らしいわね。それにリリィちゃん。このお仕事が終わったらなにか良いことがあるかも、って出たわよ」
こう見えても私、占いだけはちょっと自信があるのよ、という魅憑の占いに皆で盛り上がったり。
そうこうして夜は更けていき、冒険者たちは交代で見張りを立てつつ、夜を明かすのだった。
次の日、幸いにも夜間は何事も無かったようで、晴れた空のもの朝日を眺める冒険者たち。
だが、今日は襲撃が警戒される場所を通るようで、いよいよ正念場である。
●襲撃は突然に
左右に木々が茂る丘をいくつか迂回しつつの隘路にて。
その音に気付いたのは2人、マティアとペリオンだった。
ばさりと木から雪が落ちる音、だが連続するその音が示すことは、木々の枝葉を揺らす何者かの存在だ。
「右後方っ!」
警戒の声を上げる二人。すぐさま冒険者たちは警戒の構えだ。
そして視力に一番優れるルースが一番最初にその姿に目を留めた。
「‥‥さて、来たようですね、迎えうちます!」
馬車から飛び降りて荷馬車から離れて前衛となるのはルースとコティーナ。
ウィザード2人は、距離をとって魔法のチャンスをうかがい。
鞭を取り出した魅憑は、一言依頼人とリリィに声をかけて。
「眠ってなさい、その間に怖い物を追い払ってあげる☆」
リリィ嬢にスリープをかけて眠らせる魅憑。
依頼人はリリィ嬢を抱えたまま、危なくなったら一目散に逃げられるようにじりじりとゆっくり馬を進ませるのであった。
主戦場は、荷馬車の後方。
数匹のサスカッチが一直線にこちらへと向かってくるのだが、その中にひときわ大きな姿が一つ。
前衛の2人に襲い掛かる猿たちの群れ、いよいよ戦闘開始だ。
「ふっ!」
鋭い呼気とともに繰り出されるソニックブームの一撃。
魔法の剣とオーラの力で強化された威力はすさまじいに一言。剣術の腕前もあるルースの一撃は、飛び掛ろうとしていた一頭のサスカッチになかなかの深手を負わせる。
その一撃で、わずかにひるんだサスカッチたち。そこを一直線にボス猿へと進むのはコティーナだ。
「グラビティキャノン!」
そのコティーナの露払いとばかりに放たれた一直線の衝撃波。
マティアの魔法は、数匹のサスカッチを巻き込んでふっとばして道を作る。
コティーナはそのままボス猿の一撃を回避して、ボス猿に切りかかるのだった。
コティーナは回避の技能をいかしてなんとかボス猿の一撃を回避し続ける。
その間に、周りをうろつく他のサスカッチたちには、ルースが相手である。
仲間を巻き込まないように放たれるペリオンのアイスブリザードが冷気で一気に多くのサスカッチを巻き込み。
マティアのグラビティキャノンがうまくサスカッチの足場を崩せばそこにルースの刃が。
そして、その連携から抜けて荷馬車を狙おうとするようなサスカッチには。
「そっちはダメよ、お猿さん!」
鋭い鞭の一撃は、残念ながら当たらなかったものの、それを牽制としてチャームで援護。
チームワークを駆使して、見る見るうちにサスカッチの数は減っていくのだった。
そして、ボス猿が苦戦を感じて、逃げ出そうとしたときにはすでに無傷のサスカッチは一匹もいなく。
のこるサスカッチもわずかであった。
このままではまずい、そうボスのサスカッチも思ったのだろう、逃げようと一旦コティーナから距離をとるボス。
そこに飛んできたのはペリオンとマティアの魔法だ。
思わずひるむボス猿、さらに追い討ちをかけたのはルースのソニックブームの一撃。
足を深々と切られてぐらりと倒れかけたところに待っていたのは飛び込んでいったコティーナだ!
「これでっ、おわりっ!!」
コティーナの一撃で見事、ボスのサスカッチを倒されたのであった。
●仕事は続く
全部のサスカッチを倒すことは出来なかったようであるが、ボスを失ったサスカッチたちは、再びあそこで人を襲うことはなくなるはず。
こうして冒険者たちは、無事依頼を解決したのだった。
だが、まだ行程は残っており、冒険者たちは行商人とその娘と親交を深めつつ進むのであった。
依頼のあとの、ちょっとした息抜き。
そんな雰囲気の中で、寒さが厳しくなりつつあるキエフの空の下一行は行く。
冒険者たちの話し声と、リリィの笑い声。雪の中に残る荷馬車はわだちと楽しげな声をキエフの街道に残して、ゆっくりと目的地まで進むのだった。