●リプレイ本文
●無謀と勇気
意気揚々と冒険者を待っている様子の巨漢が、ギルドの片隅に1人。
彼は勿論今回の依頼主の無謀騎士、アレクセイである。
彼は遍歴の騎士として、冒険者の1人なので、もちろん他の冒険者の噂は耳に入る。
しかし一つ、勘違いがあった。
どうやら彼は、自分のような豪腕熱血タイプが来るような気がしているようなので。
五名の冒険者が依頼を受理して、彼の前にやってきたとき、思わずきょとんとしてしまった。
女性が4人と少年が1人、そういう風に彼には見えてしまったのである。
だが、彼の不安と心配は、道中で氷解することになる。
なぜなら集まった冒険者たちはそれぞれに、死線をくぐった一流であったからだ。
さて、場面はかわって道中。
簡単な自己紹介なんかをしてからとりあえずは現状確認をしていたりするのだが。
「とすると、そのミノタウロス1体だけの退治が依頼でそれを受けたということですか?」
「うむ、なかなか決着がつかなくてな。最終的にはこちらが優勢だったのだが、卑怯にもあの牛は逃げたのだよ」
セシリア・ティレット(eb4721)がアレクセイに今までの経緯を尋ねるとどうやらそういうことのようで。
「では、その逃げた先にそのオーガやオークがいて、そいつらを手下にした、という感じですか?」
「そのとおりだ。もしミノタウロスがそのまま、元の依頼の場所に戻れば街道や近隣の村に被害が及ぶやも、と思って急遽貴殿らに助力を頼んだのだ」
次に尋ねたのはテッド・クラウス(ea8988)だ。
最初はテッドを少年と見ていたアレクセイだが、かなりの剣の腕を持つ一流の騎士としってからは、口調も改まったとか。
だが、テッドも変わったスタイルを持つアレクセイにたいして興味があるらしく。
同じ騎士とは思えないほど対極的な2人だったが、なにやらいろんな話に花が咲いているようであった。
●主役と敵役
だが、道中。話が紛糾することもあった。
それは勿論、戦場での作戦だ。
「む、戦場では一番手こそが勇ましくもっとも騎士らしいのではないかっ!」
とはアレクセイの弁。彼は冒険者に助力を頼んだところで思考力は使い果たしたようで、暴れたいらしいのだが。
やはり冒険者たちはこれを宥めにかかるのだった。
「‥‥でもね、主役は最後に出てくるものだから、1対1の体勢が整うまで後ろにいたほうがいいかもしれないよ?」
リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)が言ってみると、どうやらセクシーな女性が苦手な様子のアレクセイは、むぅと口をつぐんでしまい。
「そうですよ。主役は前座の戦いを見て士気を高めるとか。雑魚は任せてください」
ユリア・サフィーナ(ec0298)の言葉では、士気を高めるとかにぴくりと反応するアレクセイ。
セシリアには。
「再戦するために来たのですから、本命さんにきちんとご自分の思いをぶつけてくださいね」
と釘を刺された上に。
「そうそう。そもそも露払いを頼んでるんだから、自分でそれを忘れてつっこんじゃダメじゃないの」
青龍華(ea3665)が、ずばりと核心を突いてみたり。
これには皆がうんうんと頷いて。
「‥‥じゃ、これで決まり。約束を守れない様なら今後会う度に一生家名で呼び続けるわよ」
とにっこりな龍華。これにはアレクセイも白旗で降参なのであった。
「あの‥‥オーラテレパスで一騎打ちに応じてもらえないか試してみますので‥‥」
女性陣相手の舌戦では完敗したアレクセイの肩をぽむっと叩いて励ますのはテッド。
アレクセイは、テッド殿かたじけない、なんて言ってるので、おそらくなにか友情でも芽生えたようであった。
さてはて、ともかく作戦は決まった。
そして一行はなんの障害も無くミノタウロスたちがいるはずの場所へとやってくるのであった。
●冒険者とモンスター
さて、ミノタウロスといえば、かなり凶悪なモンスターである。
だが頭はあまり良くない。
そしてどうやら手下のように、オーガやらオークを支配しているようだが。
そのオーガとオークたちも頭は良くない。
ということで、奴らは捕まえた野生動物か何かを食べているかのようで、隙だらけであった。
だがしかし、今回の面子は遠距離から一方的に攻撃する手段はそれほどないので、結局は対決する必要があるのだが。
冒険者側は万全の準備を整えてから対決にあたることになった。
ペットはまず離れた街道沿いに繋ぎ。
装備を整え、必要の無いものは置いてきて、強化の魔法やアイテムを活用する。
さて、いよいよ準備万端。
まずは、戦闘前の交渉であった。
6名の冒険者にやっとのことで気付いたミノ軍団は、ばたばたしているようで。
その隙を突いてテッドはオーラテレパスを使ってミノタウロスに話しかけた。
『当方は、一騎打ちにて決着を‥‥』
『ぶもーぶもー、人間来たコロスー!!!』
『‥‥お、応じるならばこちらの持ってきた食料を‥‥』
『ぶもーぶもぶもー、女が5人もー、女以外コロスー!』
ミノタウロス、頭の中身は猿並みなうえに、好戦的。さらにテッドを女に間違えたりと踏んだりけったりで。
ちょっと狂化しそうになりつつも、テッドは交渉が無理なことを仲間に伝えた。
ということで結局作戦通りに。
陣形は三人が前衛。その後ろにユリアとリュシエンヌ。さらに後ろに腕組みして仁王立ちのアレクセイだ。
いよいよ、戦闘開始である。
●決戦と決着
どうやら敵の総大将、ミノタウロスも様子伺いのようで、まずは冒険者対オーガ・オークの手下部隊。
だがしかし、こちらの前衛三人は、魔法使いの補助を受けつつ、一気に敵陣に切り込んでいく!
「オーガとかが相手だと、単純でいいわね」
と、オーガにイリュージョンをかましているのはリュシエンヌ。
いきなりオーガの二匹ほどがお互いに殴り合いを始めたりしている。
「やっぱり仕方ありません‥‥討ちます」
と、浮き足立つ敵集団に向けて、今度はテッドがソードボンバー一発。
ノーマルソードでも、身体に比べると大きな感じがするが、そんな彼が放つ巨大な一撃にオーガたちもびびったのだが。
そこに突っ込む1人の影。
「本職としては負けてられないしね。私の技をとくと見せてやるわーーーー!!」
威勢良く飛び出したのは龍華、身軽な動きでソードボンバーの余波で浮き足立つオーガたちに接近して、拳の一撃!
オーラの力+拳の威力はなかなかのもので、横っ面に一撃くらったオーガはたたらを踏んで膝をつき。
横合いから突進してきた豚頭のオークの一撃をひらりとかわしてから、こんどはそのオークに拳!
「ほらほら、かかってきなさい〜。そんな攻撃じゃ当たらないよ?」
挑発が効いたのか、龍華はひらひらと攻撃をかわしながら戦場を縦横無尽に動き回るのだった。
そして、それ以外のが何処に行ったのかというと。
「ここは通しませんよ。コアギュレイト!」
その魔法でぴたりと動きを止められてしまったオーガの一匹。
そしてオーガの眼前に立ちはだかるのは、セシリアだ。
彼女の手に握られているのはその小柄な体躯に似つかわしくない豪快なメイス。
彼女はその鉄塊を振りかざすとコアギュレイトで動けないオーガに対して、重さを十分に生かして一撃!
こうしてほとんどのオーガ・オークたちは討ち取られていった。
そのとき、まだ息の合ったオーガが、手に持っていた粗末な棍棒をなんとリュシエンヌとユリアへと投げつけたのだが。
それを空中にしゃぼんだまのように広がる透明な障壁が受け止める。
ユリアのホーリーフィールドがあらかじめ張り巡らしてあったのだ。
そしてとうとう最後の一匹が倒れた。
残されたのはミノタウロスと、冒険者たちである。
この状況、ミノタウロスにとっては不利なのだろうが、すでにこの猛牛は周りが見えなくなっているようで。
また、同時にいよいよ決戦がやってきた、アレクセイも臨戦態勢だった。
「そら、約束どおり露払いはしたぞ。必ずミノタウロスは‥‥叩き潰せ!」
龍華の激励とともに冒険者たちが場所を譲るように周りに避けると、ついに最後の激突が始まった。
チャージングを活用したミノタウロスの突進。それをなんとアレクセイは真っ向から受け止めた。
ジャイアント並みの体格を持つアレクセイだが、それでもミノタウロスの方が頭一つ大きい。
しかし、何とかアレクセイはそれを受け止めると、角をつかんで頭に拳の一撃!
まるで本当の牛を倒すかのように、重々しい打撃がミノタウロスを打ち据えるが、それでは倒れない。
今度はミノタウロスはその手にした斧をアレクセイに叩きつける。
アレクセイはこれにより、オーラの防護で何とか重傷は避けたものの軽い怪我を負う。
だが、アレクセイはひるまず、牽制の一撃から渾身の一撃、そしてそこからなんとミノタウロスの首を抱え込む。
そのままぎりぎりと力比べの体勢‥‥。
勿論体格でも、突進力でも勝るミノタウロスが優勢なのは一目瞭然だ。
だが、なんとアレクセイは角をがっしりつかんだまま、ミノタウロスを投げ飛ばした!
丁度、荒地の岩肌に叩きつけられるミノタウロス、その角は折れ飛び満身創痍。
そこに飛び掛る傷だらけのアレクセイは、こんどは締め上げにかかった。
格闘すること数秒、ついにミノタウロスはぐったりとその場に崩れ落ちたのだった。
こうして、本当にその無謀な言葉どおりに、1人でミノタウロスをしとめてしまったアレクセイ。
テッドをはじめ、皆一様に凄いものを見たという表情の中、リュシエンヌは呟く。
「うーん、本当に無謀騎士ね‥‥、よし、良い歌の題材になるわ」
この言葉に、冒険者たちは納得するのだった。
こうして、全てのモンスターに止めを刺して退治した冒険者たちは、上機嫌のアレクセイを交えて凱旋したのだった。
依頼は成功、アレクセイも大満足だったとか。