禍々しきサーカス

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月13日〜06月18日

リプレイ公開日:2008年06月30日

●オープニング

 開拓の村には、時折旅人が訪れる。
 それは行商人であったり、冒険者であったり。
 だが、その中でも特に喜ばれるのは、旅をして芸を見せる旅芸人である。
 不思議な楽器を爪弾く楽師、滑稽な動きで笑いを誘う道化師。
 力を誇示する拳闘士、役者に曲芸師。
 そして、この開拓村にも小さな旅芸人の一座がやってきたのであった。
 全員が役者にして芸人。
 座長らしき楽師に、ナイフ投げが自慢らしき道化師、怪力自慢の拳闘士に紅一点の曲芸師。
 全員が一切仮面をはずさないことがすこし不気味なものの、全員一流の技を持つ者ばかりで。
 春の陽気に浮かれる開拓の村ではとても歓迎されたのだとか。
 芸人たちは一週ほど滞在するとかで、村の外れに天幕を張り、毎日日暮れ前に村の広場で芸を披露したのである。
 全員出演の演劇は、それぞれの得意芸をちりばめられていてそれは見事だったとか。
 楽師の演奏は堂々としたもので、見たこともないような楽器をいくつも演奏したり。
 道化師のパントマイムとナイフ投げは、子供たちに大人気。
 大人数人がかりでも持ち上がらない岩を軽々と持ち上げる拳闘士の怪力に、村人は目を瞬かせ。
 妖艶かつ鮮やかな曲芸の腕には、皆満足したのであった。

 が、しかし。
 一座が村を離れるその前の晩。
 最後の晩だから、いつもより盛大な芸が見られるのだろうと村人は期待していたその夜。
 期待からか、いつもより観衆も多く、村の大半の人間がその芸を楽しみにしていたのだが‥‥。
 その夜は、村にとって最悪の夜となった。
 楽師のかき鳴らすリュートの音と歌声は、いつもに比べ妙に重々しく。
 その調べで村人たちは次々に眠りに落ちていった。
 勿論、村には眠らないものもいた。それは抵抗力が高い若者たちだったのだが。
 彼らは、道化師の投げナイフと、拳闘士の大剣の餌食となってしまったのである。
 そして、動くもののいなくなったその場を、その一座は後にしたのであった。
 何かを盗んだわけでもなく、ただ無差別に数名の若者の命を奪い。
 村人の心に、深い傷を残していったこの旅芸人の一座。
 果たして何が目的なのだろうか。
 だが、被害はこれだけにとどまらなかったのである。
 開拓村でも、小さな教会ぐらいがある村ばかりが狙われたために、被害にあった村々からキエフの司教の下へ情報があつまった。
 その結果、すでに三つの村でこの一座は災いを巻き起こしたらしい。
 そこでその対処のためキエフ教会最高司祭のニコラ・ブラジェンヌイは、冒険者に依頼を出すことにしたとのこと。
 実は、現在この一座はとある村に姿を見せているとのこと。
 今回は長めの滞在とのこと、おそらく依頼中に最終日を迎えることになるとか。
 どうにかして、この一座の凶行を止めねばならない。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)/ 諫早 似鳥(ea7900)/ シャリン・シャラン(eb3232)/ 御陰 桜(eb4757

●リプレイ本文

●村へ
「やっと良い季節がきたってのに‥‥」
 快晴と夏の陽気の中でも、この地方の風は心地よく。
 イリーナ・リピンスキー(ea9740)はそんな気持ち良い季節の中で、村へと視線をやって呟いていた。
 彼女は、旅人を装い馬に揺られて村へとやってきて、まずは教会へとやってきていた。
 単なる農村であるこの村には宿泊施設は教会か村長の家ぐらい。
 そこで旅人たちが集まるとしたらこの教会なのだが。
 そこには、単なる旅人、トレジャーハンター、旅の情報屋、旅の武芸者、巡回中のシスターが。
 全員が実は冒険者、この時期に偶然旅人が5名重なることはかなり珍しいことなのだが‥‥。

 さて、それはさておき。
 それぞれの冒険者たちは、教会に自然と集まることとなった。
 その途中では、もちろん村をさりげなく通過することになるのだが、その途中で村はずれの天幕がいやがおうでも目に付いた。
 何も知らない村人にとっては、楽しみなものなのかもしれない。
 だが、過去の惨劇を知る冒険者たちからすれば、それは不吉なものであった。
 では、冒険者たちはどう、この不吉な一団に対処するのであろうか。

●それぞれの暗闘
「たしか‥‥ニバス、だったかしらね」
 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)が一同に告げたのは、イリーナに問われたとある懸念についてだった。
 道化師姿の悪魔、という問いに対して、仲間が持ってきていた写本を見ながらの答えだったのだが、さすがに細かい能力まではわからずに。
 単に道化師の姿をとる悪魔がいるということが分かっただけであった。
「でも今回のそれが悪魔かどうかも判別はできないわね‥‥」
 とリュシエンヌは呟く。ちなみに冒険者たちは、ひっそりと村の小さな教会を情報交換の場としているのだが。
 あくまでも秘密裏に、それぞれは無関係の他人を装っているようだった。
「それでは、俺が確認してこよう。デビルかどうか、だけは分かると思うからな」
 手にした指輪、石の中の蝶を示したのはゴールド・ストーム(ea3785)だ。
 筆談を交えつつ、こっそりと相談しつつも、こうしてそれぞれは自分の作戦を展開していくのだった。

「特に教会があることってぇので共通点は無いみたいだしなぁ」
 と、呟くゴールド。一応キエフを発つ時に、依頼人を通じて調べはつけてきたのだ。
 教会がある村を狙うのはなぜか、だがそれは非常に単純な理由だった。
 たまたま、この地方では教会がある村が多いとのことであった。
 ある程度人が集まるような大き目の開拓村では、教会も勿論進出するのが道理。
 一定以上の規模と歴史を持っている開拓村には大体教会がある、というのがことの真実のようだ。
 イリーナは、村々の位置関係を元に、儀式などの可能性も疑っただが、特になにかをつかむことは無く。
「ま、相手がデビルだとしたら、ただただ混乱をもたらしたいだけかもしれないしな‥‥」
 と、ゴールドは呟くのであった。
 そしてゴールドは、天幕が見える場所までやってきていた。
 距離はもうすぐ指輪が反応する場所。天幕の内側に、旅芸人たちは潜んでいるようで動きは無い。しかし
「‥‥やっぱりな」
 指輪の蝶はひっそりと羽ばたいていた。どうやら天幕のうちにいる旅芸人たちは、デビルにかかわりがあるのは間違いないようであった。

 村の広場で踊る旅芸人たち。その芸は確かに一流のものであったが。
「‥‥やはりどこか不気味なものですね」
 口の中で呟いたのは見物人を装って、一座を見ていた雨宮零(ea9527)だ。
 彼は村の広場の片隅から視線を向け、一座の芸をみているのだった。
 まだ、移動前の最終日では無いので、村人の集まりもそれほどじゃないのだが、それでも芸は人気のようで。
「急がないといけませんね」
 そう零が呟いたのには理由があった。冒険者の中で対応が定まりきらなかったのである。
 最初、イリーナは各家を回って、危険性を説こうとしたのだが、それには以心伝助(ea4744)が異を唱えた。
「事前に村中に伝えて相手の耳に届いてしまう、観客が減るなどの異変で気付かれる、みたいな事はなるだけ避けたいんす」
 もし、事前に漏れることがあれば、反応が不自然になってしまうだろう。
 というか、もし危険性を告げれば、たとえ最終日まで大丈夫だと言ったとしても、そんな危険を冒そうとする村人はいなくなるだろう。
 その点では、伝助が危惧したのは正解であっただろう。
 だが、村人を守るという点で、再び問題が起きた。
 リュシエンヌの案では、最終日はなるべく観客を減らしてもらうという案。
 だが、伝助の考えは参加者は減らさないまでも、なるべく寝てもらうという案。
 しかし、これらの案を村長や司祭とこっそり相談をしたところ、やはり危険性が高いのに参加したがる者は居なくなるだろうということだった。
 つまり、村人にこの旅芸人が危険であるということを伝えるならば、ほぼ最終日は村人は参加しなくなってしまう。
 逆に、もし参加してもらいたい場合は、村人に一切事前連絡が出来ない。
 こうなったときに、村を守りたいと考える村長と司祭ならどういう手をとるか。
 それは、たとえその一座が逃げてしまったとしても、村が無事ならかまわない、という選択であった。
「‥‥それはしかたないっすね」
 伝助は歯噛みしたが、それは仕方ないのであった。
 危険だけど、寝たふりをすれば多分大丈夫。そういわれても、身を守るすべのある冒険者と違って、村人たちは怖気づいてしまうのは仕方ない。
 結局、冒険者たちの意見を入れて、村に伝えられるのは最終日の日中まで待ってもらえたのだが、さすがに最終日は、一部の勇気ある若者以外は観客は皆無になってしまうようであった。
 幸いにして一座はほとんど天幕から日中は外出することは無いようで、芸がいざ始まるまでは気付かれないかもしれない。
 だが、最終日の夕方になれば気付かれるのは必定。
「しかたがありませんね。こうなれば先手をとってうって出るしか‥‥」
 槍の偽装をとき装備を準備するイリーナ。それに他の冒険者もこたえ。
「人の感情をあざ笑うかのような所業‥‥赦すわけにはいかない」
 と零は呟き。
「ま、やるしかねぇな‥‥」
 ゴールドはひとりごちるのであった。

●決着
 夕刻、怯える村人たちは各々の家に閉じこもり観客はほとんど居なかった。
 まだ夕日が赤々と見える時刻だが、ぼんやりと暗くなり始める空に浮かぶ月が不気味で。
 そこに響くのは軽快な楽の音だ。
 いつもと変わらず、いや今までよりもにぎやかに四人の芸人たちが村の広場へとやってくる。
 だが、彼らもすぐに気付いたようだ、そこには冒険者たちが待っていることに。
 しかし広場に来たところで、ぴたりと芸人たちは足を止める。
 その隙に冒険者たちは、先手必勝とばかり一気に距離を詰めた。
 5名の冒険者に対して、4名の芸人一座。
 冒険者はみな一流の冒険者であり、即座に最適な距離をとって敵と対峙する。
 前衛が三名、零、伝助、イリーナが前に出て、射撃武器を構えるゴールドと魔法に備えるリュシエンヌ。
 対する敵の一座は、前に出るのは1人だけ、大きな剣を持った怪力の拳闘士風の男だけであった。
 ひらりと、後ろに下がる道化師は、楽師と曲芸の女と並んで。
 その状態で道化師は両手に持ったナイフを投げつけてくる。
 一方は零、一方はイリーナに。
 それを零は回避、イリーナは盾で弾き落す。
 そこで一歩対応の遅れた二人の合間を縫って、男に肉薄するのは伝助だ。
 しかし、その瞬間、男の背後の三名、楽師と道化師、曲芸の女がするりと影へともぐっていってしまった。
「‥‥っ! ムーンシャドゥね!」
「逃がすかっ!」
 同じ月の精霊魔法を使うリュシエンヌがいち早く気付き、とっさにゴールドがダガーを放つもすでに遅く、三人の影は影へと消えて。
 残されたのは仮面で顔を隠した大剣使いのみ。
 何を考えているか分からないその男は、そのまま5名に対峙し。
 リュシエンヌのムーンアロー、ゴールドの対デビル用飛び道具ヴァジュラナーヴァを食らって体勢を崩したところを、伝助のダブルアタック、零の一撃、そしてイリーナの槍の連携で止めをさされてしまうのであった。
 倒されたその男の身体はすぐさま崩れ去り。
「‥‥デビノマニ、だったようだわね」
 リュシエンヌが言えば、残ったこの男に対してもゴールドの指輪が反応していたことを告げるのだった。

「‥‥逃がしちまったな」
「ここは村人に被害が出なかったことで良しとしないと」
 ゴールドが悔しげに言えば、イリーナは様子を伺いに出てきた司祭にもう平気だと告げて。
 依頼の目的を達することは出来なかったが、最悪の事態は避けられたうえに、1人は倒せたこの結果。
 冒険者の胸には、忸怩たる想いが残ったようだが、村人は安堵できたようであった。

 だがこの一座は、またいつか冒険者の前に姿を現すことだろう。