舞い踊る剣

■ショートシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月21日〜07月26日

リプレイ公開日:2008年07月31日

●オープニング

 剣という武器は、世界中で広く使われる武器であり、さらにとても象徴的なものとしても用いられている。
 シンプルな構造でありながら、世界各国では独自の形状や素材、鍛え方などに始まり
 それを振るうための技術も磨かれ、まさしく武器の中の武器といえるだろう。
 武力や権力の象徴であり、暴力の権化でありながら正義を体現するというその象徴性。
 ゆえに、剣には不思議な力が備わるものも少なくないのだが。
 その力が、果たして正しいものばかりなのだろうか。

 キエフからすこしはなれた渓流のそば。
 冬になれば、おそらく氷に覆われてしまうのだろうが、現在は夏、水辺独特の涼気が漂っている。
 そこをふらりと訪れた旅人は、偶然渓流沿いの崖に小さな洞窟を見つけた。
 おそらく動物が出入りしているのだろう、小さい洞窟ゆえに熊はいないだろうと辺りをつけたその冒険者は、中に踏み込んでみることにした。
 低い天井に足元は渓流沿いだから、砂が積もっており、しばらく進めば洞窟らしいごつごつとした岩肌が見えてきて。
 だが、しばらく進むと彼は自分の目を疑う光景を目にするのだった。
 足元はいつの間にか歩きやすいようななだらかな岩肌になり。
 壁も天井も、人の手で磨かれたような様相を見せて。
 どうやら、ここにはかなり昔に、何者かが住んでいたようだ。
 川の涼気だけではない、ひんやりとした洞窟の冷気を感じながら、彼はさらに奥へと進む。
 すると、急に視界がぽっかりと開けた。
 松明をかざして、奥へと視線を向けるも、広々とした空洞が広がっているらしく、視界は闇に阻まれ。
 こつこつと足音が反響する感じから見ても、おそらく小屋程度なら丸ごと入るほどの広い空間が広がっているようであった。
 何も無いのかな、とその冒険者がぐるりとその空間を歩くと、丁度円形になったその空間の中央付近にどうやら石で作られた台座のようなものが有り。
 なんとその台座には一本の剣、そしてその周囲にも三本の剣が床に突き立っていた。
 御伽噺で聞くような、いかにもな光景。
 しかし、好奇心を誘うその様子に、彼は一歩台座へと踏み出したそのとたん。

 がきんと音を立てて、中央の剣を除く周囲の三本の剣が宙へと浮かび上がったのだった。
 まるで威嚇するように、ぴたりとその剣先を向けて宙を漂う三本の剣。
 次の瞬間には剣は、彼をめがけて振り下ろされたのだった。
 転げるようにしてその場を逃げるその冒険者、彼は何とか逃げ帰った。
 その結果こうして、ギルドには怪しげな情報としてこの話が伝わったのだった。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec2055 イオタ・ファーレンハイト(33歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085

●リプレイ本文

●それぞれの思い
 冒険とは。危険を伴う事を敢えてする事。
 冒険者とは。冒険を成す事で報酬を得て生活する者。
 私のように本業としている者の他に、副業としているか副業を持っている者が多い。
 そのほとんどがその道だけで生活可能な技術を持っているのだが、彼らは敢えて冒険者としてギルドに登録している。
 今回も確証のない一つの情報にこれだけの人数が集まった。
 一般人とは何か違う何かが確かに彼らにはあるのだろう。
 無論、私もまた同類である―――――ハロルド書記

 これは、今回の冒険に参加したハロルド・ブックマン(ec3272)の手記の一部である。
 まさしくこの通り、今回はあくまで噂でしかないこの情報に対して集まった冒険者たちの物語。
 鬼が出るか蛇が出るか。はたまた悪戯か、デビルの罠か。それは見てのお楽しみ。

「近隣の村が観光客集めの為に行なったヤラセ、という可能性はないだろうか」
 ゼロス・フェンウィック(ec2843)は予想の一つとしてヤラセ説をあげたりしつつ。
 彼ら冒険者は、すでに情報にあった洞窟の入り口付近までやってきていた。
 川原からすこし昇った場所のがけの中腹の洞窟、とりあえず危険は無いようだが。
 罠を警戒するゼロスや、他の侵入者を警戒するハロルドは、他の冒険者にもそれを伝えて調査をするも。
 やはり未だに侵入者は、情報提供者の冒険者程度しかいないようで。
「ま、幻覚やら、嘘のヤラセやらの可能性もあるが、とりあえずいってみようじゃねえか」
 と、灯りを二つ用意した馬若飛(ec3237)、その言葉に他の面々も頷いて。
「うむ。慎重に行けば問題はないだろう」
「剣〜剣があたしを呼んでいる〜♪」
 イオタ・ファーレンハイト(ec2055)とルイーザ・ベルディーニ(ec0854)もそう言って、答えて。
 とりあえず一行、7名は洞窟を進むことになったのである。

●洞窟の中で
 ランタンを掲げつつ、近接戦闘と得意とする冒険者が前後を守って洞窟を進む一行。
 洞窟は、自然にできたものを利用しつつも、手が加えられているようで。
「とりあえず行ってみないと分からないとは言うものの‥‥こう、暗いと不安になりますね」
 狂化条件のせいもあるのかフォン・イエツェラー(eb7693)は先の方をランタンを掲げつつ進み。
「でも、洞窟の中は涼しくていいよねー」
 キエフの夏は涼しいけど、それでもーとシュテルケ・フェストゥング(eb4341)がいって。
 確かに洞窟の内部は外気よりもさらに涼しく。
 ひんやりと少々肌寒い気温に、薄着の冒険者たちは肌をさすっていたりして。
 そしてさらに冒険者は進む。
 ハロルドのスクロールによるクレバスセンサーや、ゼロスのブレスセンサーの二段構えで調査をするのだが。
 特に何も引っかかってくるものは無く。
 罠も、冒険者たちを除く生物の姿は全くないといって良いようであった。
 そしてついに報告のあった広間に到着、まずは安全そうな外周を調査しようと提案したのはイオタであった。
 その提案に従い、冒険者たちは広間の周囲を調査し、灯りを置いていくことにしたようだ。
 暗闇で戦うのはそれだけで不利であり、また罠やそのほかの準備のためにも冒険者たちは慎重であった。
「ふーむ、どうやら糸ってワケでも無さそうだなぁ。となると、あれだ、ポータプルガストだっけ?」
 と若飛が言えば、
 と、それをいうならポルターガイスト、とハロルドが心中でつっこんだりしつつ。
「やはりブレスセンサーで反応はないようだし、アンデッドが襲ってくるようでもなさそうだな」
 と、ゼロス。うんうんと頷いてうずうずしてるのはルイーザで、
「それじゃ、いよいよお宝とご対面かな? もっと近づいても平気かな?」
「ふむ、そろそろか。ルイーザは俺とチームだな」
 と腐れ縁らしいイオタとルイーザはチームを組んで。
 同じようにフォンと飛若もチーム、シュテルケは諸般の事情で単独で。
 冒険者たちは、ゆっくりと、地面に置いたいくつかの灯りに照らされて浮かび上がる台座へと近づいていって。
 話の通りゆっくりと剣が勝手に動いて冒険者たちへと向き直るのを目にするのであった。

●決戦
「ねーイオ太、やっぱりこれってリビングソードの類かな?」
「ふむ、どうやらそうみたいだな。操ってる魔物がいるようにも見えないし‥‥」
 ルイーザとイオタはゆっくりとこっちに向き直る剣を見据えながらそんな会話をして。
「それなら倒さないとダメっぽいね。しっかり受け止めてあげるにゃー」
 にやりとしながら、両手の短剣を構えるルイーザ、
「洞窟は新しいもののようだったし‥‥デビルの罠みたいなものかもしれないな」
 魔力を帯びた盾と剣を構えるイオタ、

「はっ、本当にあれ種もしかけも無しに飛んでるみてぇだな」
「ええ、不思議ですね。上に飛んで逃げられたら手が出ませんが」
 若飛とフォンは、こちらへゆっくりとやってくる剣を見つつそんな会話を
「なぁに、そんときゃこれで絡めて引っ張り落すさ」
 と、若飛は手にした縄ひょうを示して。
「それのお世話にならないように、最善を尽くさせてもらいましょう」
 やわらかく笑みを浮かべて、優美な騎士は剣と盾を手にして一歩前に出て。

「あれ、飛んでくるのつかめないかな?」
 小柄なシュテルケは、身軽にステップを踏みながら後衛の魔法使い2人に問えば、
「どうだろうか。どうも、ゴーレムやその類の勝手に動く魔法によるクリーチャーのようだし、つかんでも危険かもしれないが‥‥」
 と、答えるゼロスに、そうだろうと隣のハロルドも呪文の準備をしつつ、同意して。
「それじゃ、倒すつもりでいっていいんだね?」
 とのシュテルケの問いに、ハロルドはしかたあるまいと首肯して。
「なら、先手必勝!」
 と、シュテルケはソニックブーム一閃! 戦闘開始である。

 冒険者たちの装備は、かなりのものであった。
 人に寄れば、全身を貴重な魔力を帯びる装備品でよろい、能力を補助する魔法のアイテムを随所に装備して。
 さらには武器も強力なものをそろえていたのだが。
「うわっ! こいつら固いにゃ〜」
「くっ、ゴーレムの類で、しかも刀剣の硬度とは、厄介だな」
 ルイーザとイオタのコンビは磐石の防御を誇るイオタと縦横無尽に両手の短剣を振るうルイーザが終始優勢に飛ぶ剣相手に立ちまわっているのだが。
 剣の動きは、なかなかのもの。だが、最もやりにくいのはその倒すべき対象が剣だということである。
「なるほどな。こいつぁ面倒だ。動きを止めようにもこいつら飛びやがるからなっ!」
「これなら、ハンマー使いでもいればよかったかもしれませんね‥‥ふっ!」
 若飛がシールドで弾き飛ばした飛ぶ剣をフォンが思いっきり横合いから切り払うも、相手も剣。
 金属同士のぶつかり合う激しい音がして
「‥‥いたた、手がしびれますね」
「だろうな。次は俺の番だな、おりゃっ!」
 縄ひょうでの攻撃は不利とみて、今度は弾き飛ばされて地面に一度叩きつけられてまた浮かび上がろうとする剣を、
「これならどうだ?」
 とハードシールドソードを叩きつける若飛。武器の重さをのせたスマッシュを叩き込むと、ようやく剣の金属にかすかにゆがみや欠けが生じて。
「‥‥こりゃ長丁場になりそうだな」
 と、ため息をつく若飛であった。
「うーん、これじゃつかむのは無理そうか」
 まっすぐに突く形で飛来した剣をぎりぎりで避けて、ライトソードを叩きつけるシュテルケ。
 がきんと金属同士が火花を上げて、くるくると飛び上がる剣が体勢を立て直すも、そこにはシュテルケのソニックブームと、後衛のゼロスが放ったウインドスラッシュが命中するが。
「やはり効いてないな。ゴーレムと同じようなもので鉄の硬度か‥‥」
 クリエイトゴーレムを習得しているゼロスはその厄介さにつぶやいて。
 そのときに、ハロルドの魔法が完成。青い輝きとともに放たれるアイスコフィンだったが。
「‥‥抵抗力が結構高いみたいだな。‥‥よっと!」
 と、抵抗に成功したようで再び攻撃を仕掛けてくる剣とそれを剣で受けて払うするシュテルケ。
 シュテルケのよけの技能だと、回避はぎりぎりになってしまうようだが、飛行剣の剣技においては、シュテルケに劣るようで。
「これぐらいなら、なんとかしのげるけど、これじゃジリ貧だな‥‥」
 と、どの冒険者も苦戦はしないものの、強度に阻まれてなかなか攻め手に欠けている現状。
 シュテルケの目には、台座に突き刺さる剣が目に付いたようで。
 剣を何度も払いつつ、ゆっくりと台座へと近づいていって。
「あ、おい! 罠とかあるかもしれないし剣を抜くんだったら、調べてからのほうが‥‥」
「そいつが一番怪しいし、危ぶむなかれ行けば分かるさ〜!!」
 注意を促す若飛の声にかぶさるようにして告げられたのはルイーザの声。
 じゃ、お言葉に甘えて、とルイーザがシュテルケの剣にスタッキングで接近して隙を稼いだ瞬間剣を抜くが。
「‥‥なにも、かわりませんね」
 水晶の盾で、がつんと剣を受けてオーラの付与された一撃を反撃で入れるフォン。
「だな、地道に、こいつら潰さないとどうやら生かして返してくれないみたいだな」
 ここで逃げちゃまずいし、と若飛は罠が無かったことに胸をなでおろし、がつんがつんと隙を見てはスマッシュを叩きこんで。
「ダメだったか。それに、これはちょっと重いな」
 と、シュテルケも手にした剣を放り出して、再び飛行剣に自分の剣を向けて。
 再び冒険者たちは、ただただ機械的に冒険者たちを攻撃してくる武器との戦いに戻るのだった。

 鉄の硬度の敵を砕くには、よほど上手く命中するか、大ダメージを与える攻撃を叩き込む他無くて。
 バーストアタックと呼ばれる物質破壊の武芸を持っていればもっと楽だったのかもしれないが。
 残念ながら今回の一行には、その技の持ち主はいなくて。
 技量では勝る冒険者たちは、何度も攻撃を繰り返すことで、何とか三本の剣をへし折って行動停止にさせることに成功するのだった。

●最後の報告
「うーん、これはお宝みたいだけど、結局この洞窟はなんだったんだろうにゃー?」
「デビルの罠、とか。俺たちは今回平気だったけど、もっと駆け出しがここに来てたら‥‥」
 ルイーザの疑問にイオタは答える。
 一行は、洞窟から破壊した三本の飛行剣と、一本の剣を持ち帰り。
 大怪我をしたものはいなかったものの、かすり傷程度なら大量に追ったようで、その手当てをしながら、語り合っていた。
「ふむ。なんか封印が解けたって感じでもなさそうだしなぁ」
 と、ぐるぐる鍋をかき混ぜつつ若飛。と、夜も遅くなったので一日だけ野営をして彼らは戻ることにしたようで。
 そして丁度そのとき、ウィザードの2人が中の調査をして戻ってきたようで。
「収穫は、特に無しだ。台座にもなにも掘られていないようだし‥‥せいぜい、いくつか白骨が見つかった程度だな」
 どうやら、前に迷い込んだのか剣を狙った者のもののようで、とゼロスが告げて。
 とりあえずハロルドの記した手記や、報告書とともにギルドへ、飛行する剣の残骸は渡されることになったとか。
 こうして、ギルドでも珍しいモンスターの情報が集まっていくのであろう。
「まぁ、こうして片付いたし、明日の朝は水浴びでもして帰るって所だな」
 と、若飛が作った晩御飯をよそいつつ、シュテルケがいったりしつつ。
 ゆっくりと冒険者たちの夜は過ぎていくのだった。

 結果として、なにも深い真相は無かったようで。
 ギルドとしても、デビルによるものか古代に作られた罠の一種だろうという反応で。
 冒険者たちが、罠を強引に叩き潰したということで、今回の依頼は一応の決着をみたのである。