●リプレイ本文
●はじまり
さて、冒険者はどうやって依頼を受けて、冒険に赴くのだろうか。
冒険者たちはほとんどの者たちが、それぞれ相応の生業を持って生活している。
職業と強く結びつく修道女や、騎士たちに始まり、持てる特殊技能を生かして学者や薬師などさまざまである。
そんな彼らは、ギルドに赴いて依頼を探す。
たとえば今回は、シスターマルーシャがギルドを通じて冒険者たちを集めていたのであるが。
こうした呼びかけによって集まった彼らは、数度の話し合いを経た後、実際の冒険へと赴くのである。
それぞれの冒険者たちは、仕事の合間を縫って、武具を手入れしたり準備を整えたり。
もちろん、事前に数度顔をあわせて後の話し合いを詰めておく。これが冒険者たちのシステムである。
さて、いよいよ冒険に赴く朝。
ギルドの依頼書に提示されていた待ち合わせの場所と時間通りにシスター・マルーシャは現れた。
どうやら普段自分が暮らしている修道院からやってきたようで、馬とロバを一頭ずつ連れていて。
「皆さん! よろしくおねがいしますねっ!」
元気な笑顔とともに告げられる言葉。数日の短い冒険だが一期一会の旅がはじまるのであった。
「へー、初めてなんだ〜」
「うん、あたし、初めての依頼なの‥‥すっごい緊張する‥‥」
いきなりマルーシャと打ち解けているのはパルル・フルート(ec5305)。
なんと12歳の少女、パラゆえになおさら小柄に見える彼女は初依頼に緊張気味らしい。
しかし、パルルはマルーシャの乗るロバに一緒に乗りつつ、決意も新たに。
「でも‥‥お兄ちゃんお姉ちゃん達に頑張って付いてくよ!」
とのこと、この健気な決意には、マルーシャも妹ができたとばかりにわしわし頭をなでてやるのであった。
今回、自分の馬を持っているものもいたのだが、移動手段としてマルーシャは一頭の馬を借りてきたようで。
目的地への旅路は比較的楽に進みそうであった。
ただ、騎乗の旅といえども、旅なれぬ場合はつらいもので、けっこうな数の休憩を挟みつつである。
そんな最中では、やっぱり会話が弾むもので。
「キエフの教会からとなると黒の宗派の方でしょうね?」
宗派が違えども協力するのは吝かではありませんよ、といってマルーシャに改めて挨拶しているのはマリナ・レクシュトゥム(ec4664)だ。
腰には柄頭に十字をあしらった剣、そして神聖騎士がまとう外套を羽織った彼女はどこからどうみても凛々しい聖騎士のいでたちで。
「ではマルーシャ様。あらためて、どうぞよろしくお願い致します」
と握手を求める姿は頼りになる様子であった。
また、もう1人、教会に属する冒険者の姿も。
「まずは、ご依頼下さった主の僕たる姉妹にご挨拶致しませんと。はじめまして、わたくしはコンスタンツェと申しまして‥‥」
こちらは、先ほどの無口なマリアとは対照的なコンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)。
手入れの良く行き届いた髪、白い肌。エルフらしい神秘的な容貌とあいまってとてもお嬢様風である。
きらきらと純粋な瞳でマルーシャを見つめ、礼儀正しく挨拶をした後にコンスタンツェは。
「修道女になるなんて、素晴らしいご決意ですわ! ご両親は、主が急ぎ御許に召されたいほど善き方々だったのでしょう。その結果マルーシャさんが主の僕となられたのも、わたくし達とお知り合いになられたのも、全ては主の思し召しですわ!」
とがっしり手を掴んで、熱烈に弁を振るって。
マルーシャも面食らったようだが、コンスタンツェの純粋な言葉はうれしいようで。
「同じ主の僕として仲良くして下さると嬉しいですわ!」
「ええ、私こそよろしくお願いしますね。いろいろとおしえていただきませんと」
とまぁ、なんだかちょっと長めの休憩はそのままお昼ご飯になったようで、まだキエフから程近いこの街道沿いの草原で。
それぞれ、保存の効くパンやらチーズやらを齧りつつ。
「‥‥お兄ちゃんなの? お姉ちゃんなの?」
「あら、パルルちゃん。あたしはこーみえても中身は正常な男子なのよ☆」
はてなマークを浮かべてるパルル、誰に対しての問いかといえば、パルルに諸々の世話を焼いていたマティア・ブラックウェル(ec0866)に向けてである。
パルルの気持ちも分からないではない。
マルーシャに対しても、
「地のウィザードのマティア・ブラックウェルよ♪ よろしくね☆」
などと挨拶していたようだが、そのときからパルルとマルーシャの頭の上にはハテナマークがでていたようで。
しかし、見た目は多少不思議だったのだろうが、その頭脳は頼りになるようで。
「んー、どうも聞く話によると、サスカッチっぽいわねえ。はぁ〜、そうじゃないと良いと思ってたんだけど」
一同は、今度は依頼の目標でもある猿についての相談を行っていた。
一応詳しいことを聞いていたマルーシャが大柄な人ほどの体格やその白っぽい毛について言及すると、モンスターに関する知識のあるマティアは気付いたようで。
「なるほど、普通の猿じゃなくてれっきとしたモンスターなわけだな」
と劉志雄(ea6725)も。
今回、女性ばっかりの冒険者の中(女性っぽい人も含めて)で涼しげな姿のれっきとした男子である。
「普通の猿ならちょっと脅かしゃビビって寄りつかなくなるかもしんねーけど、モンスターだと案外懲りなかったりするからさ」
まぁ臨機応変に行こうや、と志雄は告げて。
そんな感じで、お昼は終了。一行は依頼の町までと、のんびり進むのだった。
●洞窟へ
お昼も過ぎてしばらくいって、そろそろ日が沈み始める頃、彼らは予定通り村へとたどり着いた。
さすがに今日はそれ以上、何をすることも出来ないので、一同は一夜の宿をとることにしたのであった。
冒険者たちは、村での交渉やらをマルーシャに任せて待機しているのだが。
「あら、マルーシャさん。おかえりなさい。どうなりました?」
自分の馬を指定された場所につなぎ終えたコンスタンツェが夕日に染まる景色の中、戻ってくるマルーシャに尋ねる。
「ええ、今夜は村の集会所を自由に使って良いとのことです。一応泊る場所もあるとのことですし」
「‥‥ん、それじゃ皆でお泊り?」
「そうみたいね〜、良かった。やっぱり寝袋じゃゆっくり休めないものね☆」
パルルはどこか嬉しそうに聞けば、マティアも嬉しそうで。
「じゃ、今日はそこで寝るんだな。そういえば頼んでたものもらえそうか?」
と志雄。なにやら頼んでたものがあるようで。
「ええ、村長さんが、自由に使って良いと教えてくれましたので、いくつか藁束を確保しておきましたよ」
「よっし、それならあの作戦がつかえるな〜」
さて、いざ洞窟に行くのは明日の朝ということで、一行は宿泊場所の村の集会所で夜を明かして。
いよいよ、冒険は目的のサスカッチとの対決である。
「そういえば、あたし。前にもサスカッチ退治したことあるのよね。もしかしてあのときの残党かしら?」
「わ、マティアお兄ちゃん、すごいね〜」
マティアはパルルの背中の矢筒を直してあげたりしながら、一行は洞窟へと向って。
「まぁ、蝙蝠はどうも普通の蝙蝠っぽいのが救いだけど、猿のほうはサスカッチっぽいからなぁ‥‥」
退治は避けられないんじゃないか? と志雄が問えば。
「ええ、主は地の獣を統べる権利をヒトに与え賜いました。お猿さんがそれを冒すならば罰せねばなりません」
と、コンスタンツェ。いくら慈悲の心があるといえども、マルーシャも覚悟を決めたようで。
「そうですね。人が生きていく中では、越えねばならないもの、征服せねばいけないものもあるのですしね」
見ればその手には、立派なメイスが。どうやらマルーシャも戦う気満々な様である。
そして一行の戦闘をマルーシャとともに歩いていたマリナが、一同を手で制して。
「‥‥洞窟が見えてきましたよ。そろそろ準備しましょう」
いよいよ、作戦決行、ごくりとパルルが息を呑む音が響くのであった。
さて、まず先行して周囲の様子を調べるのは志雄。
洞窟の周辺にサスカッチたちの姿は無い様で、彼は作戦通り煙でいぶりだすことに。
前衛担当の志雄、マリナ。その後ろに後衛の三名を守るように立つマルーシャ。
後衛は、弓を構えるパルル。緊張もあるのか、少し震えているようで。
その頭にぽんと手を載せて、大丈夫よ☆ とウィンクするのはマティア。
そして、静かに祈りをささげているコンスタンツェである。
ぱちぱちと洞窟入り口で藁束が火を上げ、その煙が中に流れ込んですぐに飛び出してきたのはこうもりたちだ。
そしてその後から、咆哮しつつ飛び出してくる三頭のサスカッチ。どうやらこれで全部のようだが。
「やっぱり怒ってんな。しかも、たっぷりこっちを威嚇してるし」
大丈夫か? とばかりに志雄が隣に立つマリナに目をやれば。
「‥‥三匹ならば、追い散らすことも不可能ではなさそうですね。無益な殺生はわたくしが仕える母の望むところではありませんし」
と剣を腰からはずして傍らに放り、マティアに尋ねるように視線を向ければ。
「そうね。ボスがいるようにも見えないし、もっと人の居ない森の奥に追い払えば良いと思うわ。ちょっと痛い目を見せればね」
と、マティアも笑みを浮かべて。
作戦は決まった、するとその瞬間にサスカッチたちもこちらに向って飛び掛ってきたのだった!
まずは二匹、一匹は様子を伺っているようだ。
いよいよ、戦闘開始である。
飛び込んでくる二匹の大猿、サスカッチ。手に持っている粗末な棒や拳での攻撃は拙いものである。
しかし、猿ゆえの身のこなしはなかなかのもの、なかなか志雄は攻撃を当てることが出来ない。
「くっ! すばしっこいな」
志雄の拳足の攻撃をかわす白猿、しかし志雄も猿の一撃を軽やかに回避して。
一方、無言で対峙したマリナとサスカッチ、武器を手放したかに見えるマリナだったが。
数度猿の棍棒の一撃を避けた後、その一撃を手で受ける!
がつんと硬い音、左手のガントレットで攻撃を受け止めたのである。
そしてその瞬間、猿も予測していない反撃にマリナが出る。
不用意に攻撃していたサスカッチの腕を掴んで投げ飛ばしたのであった!
どんと硬い地面に叩きつけられてぎゃっと吼えるサスカッチ、そこにすかさず蹴りの一撃。
流れるようなその一連の連打で、サスカッチもひるんだのか、じたばたと暴れ、逃げようとするだけで。
だが、猿は猿なりに頭が良いようで、後方に控えていた一匹が、いつの間にか手に大きな石を持って、それをマリナに向けて投げようとしているのだった。
それに一番最初に気付いたのは、パルルだった。
「っ! 危ない、マリナお姉ちゃん!!」
引き絞った矢、まだ若いというより幼い彼女だが、その弓の技術はなかなかのもので。
見事、石をもった腕を狙い過たず貫いて。そしてパルルの一撃に呼応するように。
「なかなかやるわね。あたしも負けてられないわね☆」
と、今度はマティア。グラビティーキャノンを発動!
一直線に進む衝撃の砲撃。後衛のサスカッチは重力波の一撃で地面に転げて、満身創痍。
そして最後の一匹、志雄が対していた一匹だったが。
「肉体における静謐を身を以って学ばせるよう慈愛を顕し賜う事を願い‥‥コアギュレイト!」
コンスタンツェの祈りが聞いたのか、一瞬動きを止めたサスカッチ。
それはもしかすると、奇跡の技に抵抗しただけだったのかもしれないが、その隙を逃す志雄ではない。
足払いの後に、拳の連打。最後のサスカッチも怪我を負って叫びながら逃げの体勢である。
そこで、マリナに押さえつけられていたサスカッチが何とか逃げるように飛び出して、村とは真逆の森の中に逃げようとして。
それに釣られるようにして他の二匹も、ぎゃあぎゃあと叫び声をあげながら必死で逃げ出すのだった。
一瞬の攻防、そして残されたのは。
「‥‥活躍の場所がなかったです」
ちょっと残念そうにメイスを構えたシスター・マルーシャであった。
さて、猿たちは必死で逃げていったようで。
「あれだけ痛い目に合わされたら、きっと二度と戻ってこないわよ。ボスがいたりするとまた違うかもしれないけど、あのサスカッチははぐれっぽかったしね☆」
「そうだと良いですね。今回は無益な殺生もしないですみましたし、やはり神のお導きでしょうか?」
依頼が終わって、マティアとコンスタンツェはのんびり休憩していたり。
なんでかというと、洞窟をある程度ふさいでしまおう、という話になったからである。
「ま、こうしてしっかり塞いどけば、変なモンはよりつかないだろ」
と、玄人はだしの大工っぷりは志雄。集めてきた粗末な木材を器用にロープでつないだりして、洞窟の前に簡単な障害物を作っていって。
「手伝うよ、劉お兄ちゃん。これをどうしたらいいのかな?」
とパルルも手伝っていれば、がやがやと声が聞こえて。
「‥‥つれてきましたよ。とりあえず劉様が簡単に基礎は作ってくださっているようですし、皆で協力すればすぐでしょうね」
とマリナは村の人々と材料を持ってきたようで、柵作りが始まったようである。
下のほうをしっかりと塞ぐ頑丈な柵がみるみるうちに完成していくのだが、しばらくすると最初に煙で驚いて逃げたこうもりたちが徐々に戻ってくる様子が見えて。
「あ、蝙蝠たちは戻ってきたんだ」
「良かったね、パルルちゃん」
パルルはその様子を見て、嬉しそうに目を瞬かせると、シスター・マルーシャはその様子を嬉しそうに見やるのであった。
作戦勝ちの今回の依頼、初依頼の若き冒険者を助け、駆け出しのシスターを手伝いも完遂。
英雄譚でもなければ、吟遊詩人が語るような冒険ではない。
だが、人々の助けとなり、成長の糧となり、出会いがあった。
これもまた冒険の一つである。