●リプレイ本文
●掃除は心?!
「マジカルシードの先生の私室に入るのは初めてです。前から少し興味はあったのですが。良い勉強になりますし‥‥」
そう言って、珍しそうにアラン先生の部屋を見回しているのはエルフィーナ・モードレット(ea5996)である。
フォレスト・オブ・ローズ騎士訓練校に在籍する彼女にとってはウィザードの先生との縁はなかなか無いものだ。
今回の依頼はなかなかに貴重な体験となるだろう。
「先生、このハーブの束は何処に‥‥」
「ふむ、それは良くつかうローズマリーだから、小分けにして吊るしておいてくれ」
「この容器には何がはいってるのですか?」
「それは確か‥‥」
アラン先生に細かく聞きながらてきぱきと整理をこなすエルフィーナ。棚や引き出しの掃除と一緒に手際よく片づけをこなしていく。
植物に対する知識がある彼女はハーブごとに色違いの紐でくくるなど分かりやすいようにまとめ、丁寧に行動する。
ハーブと薬類は彼女の手によって綺麗に整理整頓され、アラン先生も表情は変えないまでも満足げであった。
「手伝いが必要というなら仕方ないわね」
内心どう思っているかは分からないが、そういいながら作業するはナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)。
年に似合わぬ高飛車で偉そうな物言いに、同じく生徒であるキラ・リスティス(ea8367)は苦い表情である。
「尊敬すべき先生の仕事を手伝うのにそんな言い方は‥‥」
キラがそう言っても、傲然とした態度を崩さずに片づけを続けるナスターシャ。
たった一人で一つだけ木箱を借りてきた木箱に毛布を敷いて、散らばっている小物を入れていくのだった。
たくさん木箱を借りて来ようにも、一人で運べるのは女の細腕では一つ程度が限界。
幸いあまり小物の数が多くなかったようで木箱が足りたのだが、素直に人の手を借りた方がよかったのかもしれない。
「そこのあなた、自分に見合ったことをしなさい」
一度にたくさんの本を運ぼうと持ち上げたキラにそう言うナスターシャ。
まだ年若いのになかなか高慢な物言いをするナスターシャの様子を、アラン先生は片方の眉を跳ね上げて見やるのだった。
「‥‥っ! お仕事として引き受けたのですから、一生懸命頑張らないと‥‥」
じーっと先生を目で追っていたキラは、はっとして手元の羊皮紙の整理を再開する。
「あ、あの、アラン先生! 片付けた羊皮紙なんですけど‥‥」
どこにどんな覚書等をしまったかを、心なしか頬を染めながら説明するキラ、アラン先生もご苦労様とばかりに頷く。
本棚の整理に、埃払い。貴重品の本はことさら丁寧に掃除をしていくキラ。
「先生、この作者の写本はここにまとめておきますから」
「ああ、ご苦労。この本もそこにしまって置いてくれ」
先生と並んでキラは嬉しそうに笑顔を浮かべて作業を続ける。
自分の受け持つ生徒でもあるキラが、くるくると忙しげに働く様をアラン先生は心なしか楽しそうに見ているのであった。
●掃除はテクニック?!
「この時期から片付け物をすると、年末が楽になるんですよね」
今回唯一の男手であるマカール・レオーノフ(ea8870)が、家具を運び出しながらアラン先生に話しかける。
大きな机に毛布を巻いてロープで縛って総出で運び出す。傷を防ぐためにわざわざ持参するあたりになかなか気が利くようだ。
引き出しをあらかじめ抜いて運んだり、丁寧に机を布で拭いているのだが、お坊ちゃまの生まれらしからぬ気がしないでもない。
鼻歌を歌いながら窓や扉の隙間の埃を掃き出したり、木枠を磨いたりするマカール。もしかすると家事が好きなのかも知れない。
「頑張って綺麗な部屋で先生が新年を迎えられるようにしたいですね」
にこやかに笑顔を浮かべて、他の冒険者に話しかけるマカール。
すぐ近くで植物の運び出しをしていたエレナ・レイシス(ea8877)は、何度か依頼で一緒になったことのあるマカールの言葉に微笑を浮かべて頷くのだった。
ここケンブリッジではハーフエルフだからと言って差別するような人間はあまり居ない。
アラン先生も、良く気の利くマカールの行動を頼もしげに思うのだった。
「先生、この鉢植えはこっちでいいのでしょうか?」
物静かで上品なエレナは、丁寧に鉢植えの葉の一枚一枚の埃をはらいながらマイペースに片づけを続ける。
落ち着いて陶器の植木鉢を運び、植物を思いやるように丁寧に働くエレナ。
「ああ、その鉢植えにはあとで水を上げておいてくれ」
植物の知識をもつ彼女にはアラン先生も安心して自分の大切な鉢植えを任せることが出来るのだろう。
「はい先生。責任をもってやらせて頂きます」
エレナは口数は少ないが、着々と仕事をこなしていくのであった。
「聖夜といっても、私には予定もないのですし、一人でいるよりは皆と一緒に、人のお役に立てた方が楽しいわ」
ニコニコと微笑んでそう言うのはシャルティナ・ルクスリーヴェ(ea7224)。
楽士としての普段の衣装から、今日は動きやすい服に着替えて掃除の準備は万端のようだ。
マカールが家具を、エレナが鉢植えを、ナスターシャが小物を運び出したあとに床をとりあえず箒で掃く。
床板の隙間の埃を針で掻き出して、布で床を水拭き。乾くまで待ってから、食堂からの借り物を取り出す。
「ふふふ、雑学をかじっているものだから、妙な知識があったりするのよ」
取り出したのはミルク。乾いた床にすこしずつ垂らしながら床磨きを数人で始める。
「最後の仕上げで乾拭きをすれば、ぴっかぴかよ。匂いもさほど気にならないわ」
自慢げに言って、率先して床をごしごしと乾拭きするシャルティナ。
何をするのかと心配げなアラン先生も本を片付けながら、納得した様子である。
笑顔を浮かべて楽しそうに床に伏せて掃除をする様子は、なかなかに献身的。朗らかな彼女の人柄が出ているようである。
こうして、皆で手分けして片付けは手際よく終了する。数日に分けて徹底的に片づけたかいもあって部屋は見違えるほど綺麗になった。
「ふむ、ご苦労だったな。‥‥まぁ、賃金を支払って終りというのも味気ない。聖夜のパーティの場所だけなら提供しよう」
堅苦しい表情を崩さないアラン先生。そしてこう続ける。
「私も参加するが‥‥準備も自分たちの手でするように」
心なしかアラン先生も楽しそうだったのは‥‥きっと誰にも分からなかっただろう。
●パーティの準備
「あの、食堂から買ってきました!」
アラン先生から渡されたお金で食堂から料理を調達するキラ。荷物を運ぶためにエレナも一緒である。
「‥‥ローストチキンはそっち。飲み物はこっちに纏めて置いて」
テーブルの準備をさくさくと済ませて、指示を出しているのはナスターシャだ。
これまた高圧的な物言いだが、的確に指示を済ますとさっさとアラン先生に近寄って、準備を尻目に話しかける。
「先生、先生の部屋に置いてあった薬草の効能についてなんですけど‥‥」
「ああ、あの薬草は‥‥」
準備の様子を眺めるのを止めてナスターシャに答えるアラン先生は的確に質問を重ねる彼女に、感心するように目を細める。
そういう思考しかできず硬い話になってしまってしまうのだが、ナスターシャはなかなかに楽しそうに会話しているのだった。
「なかなか上出来です」
自前でケーキを焼いてきたのはマカール、家事に長けた彼にはお手の物。専門級の出来とはいかないまでも、おいしそうなケーキを持ってくる。
「日持ちがしますから、残ったとしたらお茶菓子にでもどうぞ」
酒漬けにしたフルーツをつかったフルーツケーキを先生に示しながら説明するマカール。
やはり最後まで気が利いているのであった。
●やっとパーティー
「先生♪ 賑やかなのは苦手かもしれないけど、演奏させて頂くわ♪」
しぶしぶとアラン先生が頷くのを確認して、明るい曲を吹き始めたのはシャルティナだ。
シャルティナの笛はかなりの腕前。普段は会議室として使われているのかもしれない広々とした空間に笛の音が響く。
「学生さんはダンスなんかどう? 次の曲は明るい曲よ〜」
先生の手前大人しくしている生徒たちに対して明るくそう言うシャルティナ。
「ふむ、それではお相手をお願いできますか?」
にっこり笑顔を浮かべて、マカールがそう問いかけたのは、同じ学校の生徒のエルフィーナ。
「ええ、構いませんよ。宜しくお願いしますね」
騎士としてお互いダンスはお手の物。エルフィーナも笑顔を浮かべて応じるのだった。
一方アラン先生と話を続けているのはナスターシャ。準備のときからかなり長い時間話し込んでいるようで嬉しそうである。
その様子をすこしだけ寂しげに見つめているのはハニーミルクを持ったキラ。
それに気づいたアラン先生は軽くナスターシャに断りを入れて、キラに対して話しかける。
「ふむ‥‥楽しんでるかね?」
「あ、はい! もちろんです‥‥」
視線の先には躍る2人の姿。それに気づいたアラン先生。
「踊りが気になるのかね。 ‥‥ならばお相手しようか? 私でよければだがね」
単純に働いてくれた生徒に対して労う気持ちで言葉をかけたアラン先生なのだが‥‥
「‥‥はい! 喜んで!!」
それに対して心底嬉しそうにキラは答えたのだった。